二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ぬらりひょんの孫〜愛してくれたから〜   コメント募集中!! ( No.5 )
日時: 2011/11/27 19:05
名前: このみ (ID: 1kkgi9CM)



第二幕   心の叫び




「輝夜—!輝夜—!」

満月の夜、輝夜を呼ぶ声が山に響いた。

『人、間…。来ては駄目…』

輝夜は月が見えないように頭から布を被り、部屋に籠っていた。
その時、輝夜の周りだけに、月の光が当たった。
山にいる、街にいる、家の中にいる人間、妖怪、そして輝夜の頭の中に、〈天の声〉が〈語りかけた〉。


『『『『輝夜』』』』

『『『『顔をあげなさい』』』』

『『『『時が来ました』』』』

『『『『さあ、力を…』』』』

『『『『力を出すのです』』』』

『『『『輝夜…』』』』


輝夜は魂が抜けたような虚ろな目をして、顔を上げてしまった。
黒々としたその瞳に、満月が映った。
その瞬間————
輝夜の瞳は縦に割れ、獣耳が生え、尻尾が生えた。

『あ…うぁ…ううううっ!!!!』

輝夜は身体を丸くし、自分の体が変わる痛みに耐えた。

『ううう…。うっ、つ…。はぁ…はぁ…』

痛みが終わると、輝夜は顔を上げ、ニヤリと笑った。

『人…間…!!!!』

そして、寺を出て人間の匂いのする方へと駆けていった。

涙を流しながら————





「またこの声かい!!」
「困ったもんだ」

街の人々は口々に〈声〉に文句を言った。
〈声〉は誰にでも聞こえる。
そう。
誰にでも。
妖でも人でも誰でも。
もちろん、ぬらりひょんも。

「へぇ…今まで気にしとらんかったが、ちゃんと聞いてみるとこの〈声〉とやらが輝夜をおかしくしとるんじゃな」

ぬらりひょんは、この〈声〉が、輝夜を操っていると考えた。
月を見るように。
いくら見たくなくても、操られているのではしょうがない。
どう足掻いても見てしまう。

「輝夜…か」

そう呟くと、ぬらりひょんは強大な妖気に向かって走り出した。





「輝夜が出たぞ————!!!!」
「輝夜だ————!!!!」

輝夜に遭遇した人間は、死ぬ直前、そう叫んだ。
死に顔は、殺されたにもかかわらず〈笑って〉いた。
それほどまでに、美しい。
美しすぎて、死さえも怖くないと思えるほど。
恐怖を上回る、いや、死を上回る美しさ。
畏ろしく、怖ろしく、恐ろしい。
怪しく、妖しく、美しい。
輝夜を見るだけで、酒に酔ったようになる。
その酔いに浸かっているうちに、殺されてしまう。
ぬらりひょんはその美しさに、酔った。
しかし、ここで酔ってしまっては殺される。
そう自分に言い聞かせ、酔いを払った。

「あんたが輝夜かい」

何事もなかったように、いつものように言った。
輝夜はばっと振り向きぬらりひょんに向かって走り出した。
手を伸ばし、長く伸びた爪をぬらりひょんの首に当てようとした。
しかし、その手はぬらりひょんの手によって抑えられた。

『…!!??』
「一直線に向かってくるんじゃあ、こうやって抑えられちまう」

ぬらりひょんはその手を掴んだまま押し倒した。

「戦い方を知らんな」
『………』

輝夜は涙を流したまま、ぬらりひょんを見つめた。

「…なぜ泣いておる」
『……妾は…もう人を殺したくない…。だから…』

殺したくないのに殺してしまう。
大好きなのに、好きになってはいけない。
苦しくて苦しくて。
逆らえない自分が情けなくて。
涙を流すしかない。
心の叫びを涙に変えて。
流すしかない。
その叫びに気付いてくれたものはいない。
みな、死んでしまうから。
でもここに。
妾を捕まえられる、妾に殺されなかった人がいる。
だから…

『妾を…殺してください』