二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.18 )
- 日時: 2012/01/02 11:41
- 名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
- 参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。
( バダップ/切シリアス/成人 )
※死ネタあり。
※長いです。切り裂く白祈に機械仕掛けのきみは何を想うの、 (バダップ)
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1
“———…行ってきます、”
そう言って私の頭をそっと撫でてくれたのは、何時の日だったか。
** ( 切り裂く白祈に機械仕掛けのきみは何を想うの、 )
此処最近この街は物騒である。その為に王牙はあるのだろうが。だが、隣国が近国との紛争に借り出される王牙の軍人は少なくない。最近は王牙も人数を絶やしている所だ。そして、私もその一人であった。
2年前までは、私の職は軍人だった。それは彼も一緒。私と彼は同じ大地を翔ける軍人だった。彼は並みの軍人は到底し切れない難題を次々とコンプリートして行くという、もはや新米の憧れの上司だった。だがその技術は既に上の者にも認められ、良く紛争に出かけた。私と彼と同じ同志のミストレーネ・カルスにエスカ・バメルも高評価であり、良く紛争に出かけていた。私はと言うと、彼等の様な技術は更々無かったし、女性である事、そして何よりこの国でも高い地位に在る権力者の一人娘として余り紛争には駆り出されなかった。だが私も軍人の身、借り出されるときは主に彼等のサポートとして同じ大地を駆け、彼等と一緒にこの国の旗を立てた。その時は嬉しかった。男女関係無く彼等と抱き合った。戦争は生死の賭けとも言える。少しのヘマで自分の一生の人生を棒に振るかもしれないのだ。そんな中を勝ち抜いた勝利の喜びは大きい。勿論、“勝った”のだから敗北者も犠牲者も居る。私達は只只管に国だけを想って戦わなければいけない。例えそれが、死の道を切り開く事になろうとしても。
軍人たるもの、無駄な感情は一切切り捨て、同時に持ち合わせてはいけない。鈍るからだ。その訳を幾つか出してみよう。例えばA男とB子が居たとする。そして彼等は軍人で、同時に男女の関係だったとしよう。するとどうだ。もしもB子が他国のスパイで、それを偶々知ってしまったA男は、直ぐにB子を始末する事が出来るだろうか。もし最後に戦う事になろうとしても、お互いに殺しあう事が出来るのだろうか。ついには国まで裏切ってしまうかもしれない。そうとなれば国側はとても困る。と、言う訳で、基本中の基本だが軍人に無駄な感情は一切持ち合わせてはいけないという事になる。だが今の時代、時代が変わっているのだろうか、軍人同士のカップルが増加している。勿論、軍人ではないカップルも山の様に居るのだが。恋は何れ愛に変わる。愛は全てを棄てる覚悟までを脅かす。この状況を如何にかせねばと動こうとする上も居るが、全く歯が立たない。
だが、彼は違った。
全ての任務を全うに遂行する完璧なる軍人。彼は国の為ならどんな事でもやって見せた。勿論無駄な感情は一切持ち合わせていない。いつもお馴染みのポーカーフェイス、だが容姿は本当に端麗で、此方も見入ってしまう程だった。必要以下のものは即座に切り捨てる。無駄な動きが一切ない、物凄い堅物。だが、本当は優しいのだ。とっても、とっても優しいのだ。
そんな彼に、私は段々と惹かれて行く。
クラスも同じで、ミストレやエスカバと仲がいい為、彼とも親しくなる事ができた。
そして月日は流れる。
彼に私に対する異性への愛というものは無いけども、私には微かに存在した。所謂片思いと言うやつだ。
私達は師匠と弟子の様に、バダップが私に特訓をする、など月日が流れていく度にもっと一緒に居る時間が長くなる、仲良くなっていった。友達以上恋人未満とは正にこの事を言うのだろう。
「え、嘘、」
「だから、少しの間、お前とは離れる事になる。ミストレやエスカバも俺と一緒に出るので少々一人になるがな。」
「・・・そう、なんだ、」
「だから、お前には、待っていて欲しい」
“必ず、無事に帰ってくるから”
こういう事は何時まで経っても慣れないものだ。彼等は軍人(私もだが)、紛争に出ることも屡ある。だからこそ怖いのだ。もし、彼等が出て行ったまま戻って来なかったら。彼が帰ってこなかったら。「おかえり」って言えなくなったら。
彼等が居ない、彼の居ない夜は長い。毛布の中で、彼等は、彼は大丈夫なのだろうか、震えながら朝を待つ。
「———・・・うん、頑張ってね。絶対、帰って来てね」
「ああ。」
「・・・・・死なないでね」
「、ああ。」
「約束、」
だが彼は、———もう帰っては来なかった。
あの後、家を出たっきり、私が彼に「おかえり」を言う事が出来なくなってしまった。約束は、果たされなかった。ミストレ達は怪我を負っていたが無事に帰ってきた。それと同時に彼が戦死したと上司から告げられた。敵国に狙われ、射殺されそうになった少女を庇ったそうだ。それを聞いた途端、何故か出て来なかった涙が吹っ切れたように溢れ出した。全く、馬鹿な話だ。彼にとって、最高の笑い話になりそうな死だった。彼が撃たれた事に気がついた同志が相手を斬り、少女は無事守られたが、私には悲と嬉が半々で私の意思がかなり解らなくなって来た。彼が死んでしまい、とても悲しいが、彼の死がこんな優しい死で良かった。その時少女は死んでいた身だったのだろう。彼は死んでしまったけれど、助からないはずの命が、助かった。だがやはり結末に嘘は付けなかった。何で彼は約束を守らなかったんだろう。何故彼は私を置いて死んでしまったのだろう。必ず帰って来るって言ったのに。私の気持ちなんて知らないで。そんな意思が複雑に絡まりあい、縺れる。
それから3日間、私は止まず泣き崩れ、泣き続けた。
「何で、死んじゃったのオ、———バダ、ップウッ!!」
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- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.19 )
- 日時: 2012/01/02 11:41
- 名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
- 参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。
2
月日は流れ、彼の死から今日で丁度2年が経った。私は彼の死をきっかけに、軍人を辞めた。今は普通の女性として、彼が好きだった海の近くに家を建てのんびりと暮らしている。たまに今だ軍人で居るミストレとエスカバも遊びに来たり、珍しく二人が休みを取った時は色々な所に3人で出掛ける。ミストレやエスカバは、もう軍人でない私に、扮装に駆り出された時のエピソードや、王牙での事を楽しく話してくれる。そして、私の前では決してバダップの事は話さなかった。私の気持ちを悟っていたのであろう。勘の鋭い奴等だ。特にミストレに関しては。
そして今日は二年前、バダップが少女を庇い戦死したという命日だ。
私は花を持って、家の近くの海に来ていた。ヒールのある白いサンダルに白いキャミソールのワンピース。白いリボン付きのハット帽を深く被る。髪は軍人を辞めた為ずっと伸ばしている。腰辺りまでの綺麗な髪を風に靡かせ、私は只海の彼方を眺めていた。片手に花を持ちながら。
「あれから2年もするのね、」
「元気にしてる?って、意味分からないよね、・・・私は海の近くに家を建てて、花栽培を始めたの。だから、家の花壇は花が満開よ」
最初は、返事も返って来ない相手に、話し掛ける様に言葉を放った。
だがそれは次第に彼に対する文句、時に暴言へと変化して行く。何故だろう、次々に言葉が溢れてくる。まるでバケツの水を引っくり返した様に次々と次々と、言葉が流れ出てくる。次第に大粒の涙も溢れて来た。何だよ私、周りから見たら只の変質者じゃないか。恥ずかしい。それとバダップ、命日なのに白いワンピースなんて君なら笑いこけるか無言の圧力だよね。ごめんね。バダップを思うと、何故か取って着ていたのは白だったの。ごめんね。
「バダップ必ず帰って来るって言ってたじゃん!約束って、指切り拳万だってやったじゃん!嘘付かないでよね!!私ずっと待ってたんだよ!?ミストレ達は帰って来たのに、って!!もしかしたら帰って来ないのかもっても思ってしまったけど、バダップの言葉を信じたいから、絶対帰って、来る、って、ヒック、って、ヒック、思って待っ、てたヒックんだからっぁ!!」
「私、バダップの事好きだった、好きだったから、今も好き、だけど、本当は行って欲しくなかったのにバダップを信じて「行かないで」の一言も掛けなかった私の気持ちも知ってよね!どうせバダップは友達かそれ以下だったかもしれないけど・・・。信じて約束までしたのに、帰って来たのはバダップじゃなくてバダップの戦死報告だったっていう最悪の結末な私の気持ちを知ってよね!!」
「私は只「おかえり」って言ってあげたいだけなのに、何でそんな簡単な事もさせてくれないの?この馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!!このバカップ!!」
全く、もう命日も糞もあるまいがな。第一「待っ、てたヒックんだからっぁ!!」とは何だ。
だが此処で毒づいても彼が戻って来ないのは知っていた。だから、文句を言うのは此処までにしよう。もしも。彼がもう一度私の前に現れるなんていう奇跡があったら、ある訳無い事は分かっている。だがもしもそんな奇跡があったなら、その時に思いっきり文句を吐いてやればいい。あのバダップの頬に一発お見舞いしてやればいい。
一先ず気を無理矢理に押し殺し、持っていた花を天に仰ぐ。
空は大きかった。私の前に立ちはだかる海も、大きかった。こんな素晴らしい大自然を前に、私達なんてちっぽけに視得て。こんな素晴らしい大自然を前に、最高権力者と庶民を横に並ばせても、視得るのは只の同じ人間で。いかに私達の存在が、悩みが、生死がちっぽけな事だと思い知らされる。そんな大自然が、海が彼は好きだと言っていた。
もう一度意識を花に戻す。この花は「百日草」。花言葉は「亡き友人を忍ぶ」。一年間色んな花を咲かせるこの百日草は、命日に簡単に手に入れる事が出来た。
綺麗にラッピングなどされては居ないが、遠き彼を想い、私の想いが天国の彼に届きますように、と願いを込めて。思いっきり、投げた。投球系は余り得意では無かったが、可也飛んだと思う。
投げた花束は、チャポンと可愛らしい音を立てて、一度沈み浮き上がり、自由気ままに流されて行く。この花は何時かは何処か遠い国の岸に辿り着くのだろうか。もしその花が枯れていたとしても、此花に託した私の思いは変わらない。この思いが天国に居る彼に届くと良いな、希望を持って。
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- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.20 )
- 日時: 2012/01/02 11:43
- 名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
- 参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。
3
今は亡き彼を思えば、私の想い人、バダップ・スリードは幼い少女を庇い戦死した。という事実が今や世の中に出回っている。だが、通常の彼と関わりの無かった人はもうとっくに忘れているだろう。もう二年だ。仕方が無い。彼が死んでしまった事は、私の中に大きな穴がぽっかり開いた様だった。それ程大きかったのだ。彼の存在は。だが、今思えば彼も私以上に辛く人生の幕を閉じたのかもしれない。「必ず帰って来る」と自分で言い、約束までしたのにそれを果たせなかった。信じて待ってくれている人が居るのに、一人にしてしまう。少女を庇って撃たれた時は、無我夢中でその少女を助ける事で頭がいっぱいだったが、自分には自分を待ってくれている人が居る。信じてくれている人が居るのに、今此処で死んだらきっと彼女を悲しませてしまう。約束したのに、と泣かれてしまう。自分も今此処で死にたくない。無事に帰って彼女に「ただいま」と言って安心させてあげたい。だがそれが出来そうにも無い。死を仕事と結びつけるのは好ましくないが、任務を果たせなかった時と同じではないだろうか。彼は、バダップは、使命感が人一倍強い。それは、軍人にとっては良い事なのかもしれないけれど。自分の所為で足を引っ張ったり、渡された任務がコンプリート出来なかったりした時は凄く反省していた姿が脳裏に蘇る。彼にとって、任務を、約束を果たせないまま死ぬなんて、死んでも死に切れない程屈辱だろう。私もそうだ。軍人たるもの、誰でもそうだと想う。第一、私は軍人の欠片にしか過ぎないが。
「バダップぅ、・・・、」
もう一度彼の名前を呟くと、もしかしたら彼が帰って来て私の頭をまた撫でてくれるのでは無いか、と微かな希望が沸き、後ろを振り向くが其処に人は居なかった。
仕方が無い、それは分かっていた。もう二年も連絡が無いんだ。彼がこの世界に生きて居る訳が無い。だがやはり希望は捨てがたいものだった。こんなに現実と向き合おうとしていても、もしかしたら何処かで生きているのではないか。そう心の何処かで思ってしまう。だから、何時の日か決めたんだ。信じてみよう、と。彼は“必ず”何処かで無事に生きている。「この世界は、絶望だけじゃ生きていけない」そう彼が言ったのを覚えている。だからこそ、希望は捨てない。ちゃんと前を向いて、彼は必ず帰ってくるから、彼が帰って来た時に髪を伸ばして、飛びっきり綺麗になって驚かせてやれば良い。もっともっと勉強して、軍の人間では無くなったものの、格闘の練習も怠らない、もっともっともっと強くなって驚かせてやれば良い。バダップは、必ず帰って来るから。
「うん。私、頑張ってる。だから、バダップも、」
「花に込めた願いが、何時の日か貴方に伝わりますように、」
互いの手の指を絡ませ、胸の前まで持ってくる。瞳を閉じるとまっくらになった。
瞳を開けると、この上ないと言う程の光が一番に眼に届いた。眩し過ぎる日光だ。だが、この光が遠い彼にも届いているのだと想うと、途端に有難くなった。
花はどんどん流されて行く。全身の力を抜き切って、全てを波に任せて。ゆらゆら、ゆらり。ゆっくりと流れていくあの花は、何時か何処かに辿り着くだろう。だが、波に揺られていく内に花弁は落ち、茎だけになっているかもしれない。枯れ果てているかもしれない。だが、私の此花に込めた強い思いは変わらない。何時かの遠い何処かの国の誰かが、私と同じ思いをしている人が拾ってくれる事を、そして、その人にも私の想いが、希望を持って、相手を信じて、という想いが届くように。もしも彼がこの世界に生きていると言うならば、その彼が此花を見つけて、彼にも私の想いが届きますように。
冷徹で堅物で無口で一見近寄りがたい彼だけど、誰よりも、この地球の誰よりも優しい心を持つ彼がちゃんと無事に生きていて、これ以上の我侭を言うならば、私の元に戻ってきて欲しい。ちゃんと彼に「おかえり」を言いたい。また優しく頭を撫でて貰いたい。彼の温もりを、もう一度、感じたい。そんな想いを宿し、花はゆらゆら流れていく。
花は、もう肉眼では見えなくなっていた。
「 」
(( 遠き彼に花を捧ぐ ))
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・・・ふぅ、
久しぶりに長いの書いた。
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