二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.45 )
日時: 2012/02/16 17:25
名前: さくら (ID: te9LMWl4)
参照:   バレンタイン企画。        

『ごめん、』


心の中でそう呟かれる。嗚呼、それは今先程起きた現実なのに、随分前の出来事の様。時差ボケだろうか、否、違う。私が現実を受け止めたくないだけだ。
私は今、フラれた。
雨が止まない。ふとそのバケツを引っくり返した様に落ちる雨の雫に手を伸ばす。冷たい。凍てついてしまいそう。雨は、私のこの蟠りを流してくれそうな勢いで、今も降り止まない。


「私、フラれちゃったんだ、ね…」


この日の為に折角作ったチョコレート。綺麗にラッピングされていたはずなのに、雨に濡れ、私に握り締められてもう“それ”は形を成していない。
中身もそうだ。飾りはほぼ取れ、チョコレートは不細工な形になり、無残な姿だ。

思わず、またチョコレートをぎゅっと握り締める。

私の顔は多分今、悲痛で歪んでいるだろう。フラれた悲しみは、此処まで大きいなんて思わなかった。
脳内で、彼を、大好きだった彼を、そして今でも愛している彼を———円堂君を、思い描く。
このチョコレートは、彼の為に作った。そして、バレンタインの今日。外は雨が降っていた。嫌な予感がし、だけど私は円堂君を呼び出し、チョコレートを渡すと共に、この気持ちを暴露した。
彼の丸い瞳が、驚きでかっ開く。頬も紅潮している円堂君を見れて、少し笑いが込み上げて来た。全く、私は何をしているんだろう、今は意地でも緊張しなければいけない場面なのに。
だけど、直ぐに真剣で困った様な表情を浮かべ、


『ごめん。俺、秋とは付き合えない。このチョコレートも、貰えない、』


予想はしていた。だって、円堂君の好きな人、誰よりも分かっているのは私だから。夏美さんだって事、他の誰よりも理解しているの、私だから。
円堂君に相談された時は驚いた。嫉妬もした。夏美さんを酷く妬んだ。私の方が絶対に円堂君の事が好きなのに。
でも円堂君が好きだから、好きな人には幸せになって貰いたいと思う。例え其れが私じゃ無くても。勿論一番の願いは、私と円堂君が結ばれる事。でも、円堂君が大好きだから、円堂君が幸せになってくれれば、私はそれだけで嬉しい。満たされた、気分になる。
だけど、気持ち伝える位はしても、罰は当たらないよね。


『でも俺、秋の事、大好きだから』 


そう言って、円堂君は私にチョコレートを押し付けた。私はどうやらフラれたみたいだ。雷門中学の校舎裏。雨は、まだ降り止まない。


「えへへ、でも何か、スッキリしちゃった」


なーんて。何時までも円堂君円堂君言ってられない。今でも円堂君が好き。でも円堂君の好きな人は夏美さん。私の、中一からの儚い恋は、音を立てて崩れ落ちた様にみえたけども、傷一つ無い、是からまた、新しい恋を積み上げて行こう。

だから今日は、涙を流して目いっぱい泣こう。声を荒げて、叫ぼう、声が枯れるまで。
そして、明日からは目いっぱいの笑顔で円堂君に「おはよう」って言うんだ。それでね、沢山の相談に乗るの。円堂君と、夏美さんの恋、私が一番に応援してあげるの。
円堂君にフラれて初めて、本気で円堂君の幸せを願った。
今が一番、悲しくて辛くてそして、満たされている。

嬉しかったんだ。円堂君が最後に「大好き」って言ってくれた事。もの凄く嬉しかった。もっと円堂君を好きになった。
だから、今までの自分を忘れる。この酷く止まない雨に、“円堂君が好き”っていう気持ちを一緒に流してしまおう。
そうすればきっと、


「でも、やっぱり出来ないよぉッ!!!」


否、無理だ。
今までの自分を忘れるなんて、円堂君への気持ちを抱いていた自分を忘れるなんて、出来ない。
私はそんな自分を、愛していたからだろうか。
如何しよう、涙が止まらない。

この雨も、降り止まない。




 

 Inzm[ たとえるならパーティで泣きながらキスするみたいに、 ]


240216
バレンタイン乗り遅れた。
円秋だけど、夏→←円←秋になっちった。