二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.54 )
- 日時: 2012/03/01 15:15
- 名前: さくら (ID: te9LMWl4)
- 参照: 卒業企画。此方にもUPしました。
チカチカ、カーテンの隙間から漏れる光が眩しい。
例え瞼を閉じていても、今の俺にはとても眩し過ぎる光だった、
「———……ッ。」
色んな意味で。
今日は、雷門中学生で居られる、最後の日。
Project [ 卒業の春、君を攫って一生逃げられたら良いのに。]
「卒業証書。授与、」
桜の蕾が芽吹き始める今日この頃。
俺達雷門3年生は、卒業の日を迎えた。
理事長が重々しい言葉を発する。この言葉は悪魔の言葉だ。あの紙切れを貰うと、俺が俺で居られなくなる。———なんて、思ってもいない事を言ってみるのだけれど。
でも、悪魔までは行かないが、俺にとってとても痛々しい言葉だった。「円堂守」そう名前を呼ばれた時に、俺は、此の学校を卒業する。
同時に、仲間達が切り離される。覚悟は出来ていた。こうなる事はちゃんと分かっていた。分かっていたのに、時が迫って来ると、やはり落ち着かないものだ。
豪炎寺は、父の意思を引き継ぎ、卒業したら直ぐドイツに旅立つ。ドイツの医学専門学科へ進み、後に雷門病院を継ぐ準備だという。
鬼道は、雷門を卒業したら高校は帝国に戻り、佐久間や源田達とサッカーや財閥を継ぐ為経済学や帝王学を学ぶらしい。
…じゃあ、俺は?
俺は、何処へ行くんだっけ。何をするんだっけ。
そうだ。サッカーをするんだった。忘れてた。でも今はそんな事より卒業式だ、じゃなくて、豪炎寺や鬼道と会えなくなる事だ。
やっぱり覚悟はしていた。高校なんて自分の勝手。他人が口出せる問題じゃない。
でも如何してだ?二人の進路を聞いたあの日あの時の俺は、何事も無かったかの様にすんなり引き受けて。
「円堂、守」
「はい。」
名前を呼ばれた。
こういうのは、小学校の時に体験した。
卒業証書を受け取った時、自然と涙が一滴証書の上に落ちた。あれ、俺何で泣いてんだろ。
椅子に戻ると、「円堂君、」隣の秋が満面の笑みでこう言った。
「卒業おめでとう」
良く見ると、秋の瞳は赤く腫れていた。泣いていたのかな。
だが今の俺には、その秋の笑顔は余りにも眩し過ぎて、思わず顔を背けた。一瞬秋は驚いた顔をしたが、直ぐにまた笑って、「おめでとう」とだけ言って視線をステージ上に戻す。
俺今、何で秋を真っ直ぐに見れなかった?自分の中で問いかけても、答えは出ない。
只、真っ直ぐに未来を見つめる秋の笑顔が、朝の日光と同じ位俺には眩し過ぎたって事だけは分かった。思わず目も眩む。秋の表情は、今も清々しくて俺が逆に恥ずかしくなってきた。
初めて、秋がとても綺麗だ。そう実感した時だったのかもしれない。
覚悟を決めた、女の顔。過去は思い出にして、今から未来を歩くっていう決心をした、女の顔。俺にはとても、眩しかった。
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- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.55 )
- 日時: 2012/03/01 15:16
- 名前: さくら (ID: te9LMWl4)
- 参照: 卒業の春、君を攫って一生逃げられたら良いのに。
色々な進路。豪炎寺は海外へ、鬼道は帝国に戻り、俺はまだ此の町でサッカーを続ける。サッカーが、俺の生きがいだから。サッカーを失いたくない。初めて愛した、モノだから。
でも、今は。
同じ位に“親友”も失いたくない。
永遠に会えない訳じゃない。豪炎寺とは電話もするし鬼道とは週末遊びに行く約束をすればいい。でもやっぱり、二人と別れたくない、二人を、失いたくないと思った。
「卒業おめでとう、円堂」
豪炎寺が俺に声を掛ける。後ろで鬼道が笑っていた。
二人共とても良い表情をしていた。さっきの秋と同じ位だ。二人はこのままで良いと思っているのだろうか。こんな大切な仲間と離れるなんて、絶対に嫌だ。
サッカーで築いてきた親友だ。勿論仲間が居ないとサッカーだって楽しくないはず。あはは、自然と笑いが込み上げて来た。俺は何て自分勝手なんだろう。二人が自分で決めた道なのに、俺が自分で決めた道なのに、もう卒業しちゃって其処に進むしか無いのに。今更、俺は何て自分勝手なんだろう。
でもやっぱり俺は、この二人を失いたくない。そう思う気持ちが更に強まった。
「円堂、何泣いてんだよ」
「鬼道、お前だって泣いてんじゃないか」
鬼道と豪炎寺が口を揃えて言った。え、泣いてる?そんなバナナ。
絶対泣いてない。泣く訳無いだろバーカ。卒業式の時も泣かなかったんだぜ?サッカーやってる時に教室の硝子割ってめっちゃ怒られた時も泣かなかったじゃん。
今更泣く訳、…………泣いてる?
俺、泣いてる?何で?指が冷たい。溢れ出した冷たい水が、手に落ちた。やっぱり俺、泣いてんのか。
「おれ、ないて」
「ああ。豪炎寺だって泣いてるけどな」
「鬼道、お前もだろ」
俺が泣いてるのにも関わらず、こんな時にも関わらず、もう暫く一緒にサッカー出来なくなるかもしれないのに、こんなにふざけて笑い飛ばしている二人。
やっぱり俺、二人が大好きだ。死ぬほど好きだ。
だから、分かれたくない。何時までも一緒に居たい。今更だって事は分かってる。でも俺、如何しても!!
「お、俺っ!」
「「お、おう。」」
「俺、お前等を失うのゼッテー嫌だ!会えなくなんのも、ゼッテー嫌!」
此処から先、言っても良いのか、少し戸惑ったが、自分の胸の内全てを明かしてしまおうと思った。
「だから、今から俺は誘拐犯になる!暫く一緒にサッカー出来なくなるくれえなら、俺、今から二人を攫って何処までも逃げてやる!」
一緒にサッカー出来なくなるのが嫌。一番嫌。死んでも嫌。そんな俺のワガママは、すっぽり空気の中に消えていった。
「円堂、」重い沈黙の中、豪炎寺が暗い表情で俺の名前を呼んだ。
だけど俺はそれから先の言葉は聞きたくなくて、殆ど衝動的に二人をかつ挙げた。二人の体重よりも今の俺の中にある此のザワツキの方が重かったからなのか、二人を重いなんて事は全く感じなかった。
「円堂、」
「そうだった!攫ってくんだから此れだけ大胆にしないとな!」
今度は鬼道が俺の名前を呼ぶ。
嫌だ。聞きたくない。どうせ言われる事は分かってる。何なら二人の最後の時間、俺にくれよ。
俺が、地球の反対側まで攫ってって逃げてやる。
円堂、円堂、円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂円堂
俺は何回名前を呼ばれただろう、二人に。そして、何回無視して無理に話しを切り出してきたのだろう。
「円堂!」
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- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.56 )
- 日時: 2012/03/01 15:17
- 名前: さくら (ID: te9LMWl4)
- 参照: 卒業の春、君を攫って一生逃げられたら良いのに。
突然、豪炎寺が叫んだ。
それは、こんな状況に呆れてから出た叫びなのか、怒りを含んだ叫びなのか分からない。
俺は突然の言動に吃驚して今までみたいに、
「ご、豪炎寺!今から何やる?サッカー?サッカー?それともサッカー?何やる?暇だよな!んじゃサッカーしよ———」(笑うところ)
「円堂!!」
続けて鬼道までもが叫び声を上げた。
何だよ。そんなに俺と居るのが不満かよ。そう零すとちゃんと聞き取っていてくれていた二人が口を揃えて言った。
「「円堂、俺達はもう卒業したんだ」」
それは、俺にとって重過ぎる言葉だった。重量オーバー重量オーバー。
先程の秋や豪炎寺や鬼道の笑顔より、朝の日光よりも、重くて、そしてとても残酷な言葉だった。
涙が、溢れ出した。それはもう滝の様に、止まらない止まらない止まらない。雨の様にボタボタと大粒の涙が服を揺らす。
“卒業”このワードが耳に入って言った瞬間、吹っ切れた様に頑張って堪えていた涙が溢れ出した。
ポツ、ポツ。そんな俺を覆い隠す様にあんなに晴れていた空は忽ち雨雲で覆いつくされ大粒の雨が降ってきた。
此れは、二人を攫った誘拐犯に対する神様からの罰なのか、贈り物なのかははっきりしていない。
「俺、俺俺俺えっ!!!」
「円堂、」
豪炎寺は相変わらず俺の言葉を聞いて、その返事に「円堂」という言葉をお借りしている。
鬼道は黙ったまま俺の話しを聞いていた。の前に、円堂と呟く豪炎寺を黙らせる。
「俺さ、また、…みんなでサッカーしたいん、だ、よねっ!!」
俺は、幼かった。
歳は年を重ねる毎に一つずつ増えてゆき、現在15だ。もう直ぐ高校生。成人も近く、俺はすっかり「大人」になった気分でいた。
だからあの時、俺は泣いている事を認めなかった。意地でも泣いて幼く見られたくなかった。子ども扱いされたくなかった、と言うのは思春期で良くある事だが、それとは少しばかり違う。
俺は、幼かった。とても、とても。幼稚園児よりも、もっと。
今までサッカーで築いてきた仲間達が離れ離れになって、何かが恐かったんだと思う。その“何か”はまだ詳しく分からない。
独りになる事?それとも、この最高の仲間でサッカーが出来なくなる事?…友達が、変わってしまうかもしれない事?うーん。考えても答えは出てこない。
前にもあったな。
俺は、まだ幼い。だから此の3人が離れるのが嫌で、とても嫌で、自分のワガママで此処まで攫ってきた。…誘拐犯よりもタチが悪いかもしれない。
俺は幼かったから、先程大粒の涙を零して、雨に隠れて目いっぱい泣いた。
「お前達と別れたくない。お前達と3人でサッカーしたい。でも、俺の我侭でお前達が決めた道を壊したくない。」
最初は、そうするつもりだった。
どうせならこのまま、って。二人が自分で決めた道を壊してまで俺は二人と一緒に居ないといけない、そんな考えが生まれていた。やっぱり俺は、幼い。
そうだ。幼いんだ、俺は。だからこそ、大人にならなければいけない。
早く、大きく、
「…戻ろう、円堂、」
手を差し出してくれたのは豪炎寺だった。
何時でもそうだ。コイツには、俺の考えてる事が手に取る様に分かっている気がする。何時でも、最初に俺に手を差し伸べてくれるのは、豪炎寺だ。
あの日の河川敷でも、今も。豪炎寺との出会いが俺を狂わせた。鬼道に出会い、雷門サッカー部が成長して行き、フットボールフロンティアで優勝して、本当は人間だった癖に宇宙人とかと無駄に言い張る訳の分からんエイリア学園が地球を侵略しようとして来たり、世界に行って色んな世界の変態なサッカープレーヤーと競い合って、世界一になったり。
別れも、コイツか。
「………ッ、ああっ!」
だけど俺は、大きくなる。もっともっと、世界一になって自分に自惚れて、願えば努力すれば何でも叶うと決め付けて。
大きくなって、先へ進み続けるんだ。此処で人生が終わる訳じゃない。こんな所で立ち止まっては居られない。
大切な人と会えないのは、不安だし心配もするし、そして何より、恐い。
でも、会えないからこそ先に進まなければいけない。もう一生会えない訳じゃ無いし、此れはチャンスだ。そう思えば良い。
…俺は、やっぱり幼かったんだな。自分の都合に合わせて駄々捏ねて。何度も言うけど、こんな幼い自分が恥ずかしい。だから、大きくなる、早くおとなになるんだ。
+
何時も部でサッカーをしていたグラウンド。少しボロ臭い部室。大きな稲妻マークのついた綺麗な校舎。
今まで使ってた教室。黒板に落書きをしていた跡は綺麗に消されていて、在校生からのメッセージで装飾されていた。
俺達は、一度学校に戻り、もう式も終わり誰も居ない校内を廻る。
最後に、昼休み皆と一緒に遊んだ校庭に来た。
先程学校に戻って来る前に買ってきた若木を、其処に植えた。
「この木が大木になっている時には俺達は何歳になるんだろうな」
俺は、黙ってその若木を眺める。
まだ若くて弱弱しいが、其処にはしっかりとした葉が生えていた。太陽の様に眩しい。
「9年後…。9年後。また此処に、集まろう」
やっと出た言葉が、それだった。
この小さい木は、俺達が集まる時にはどんなになっているだろうか。大木になってくれてれば心強いが、若しかするともう無くなっているかもしれない。
でもこの若木に、俺は小さい願いを託した。此の二人と再会出来るのは、何時になるか分からない。俺達が24になるまでもう会えないかもしれない。だから、俺は今この若木に小さな願いを託した。
「また、サッカーしような」
酒でも飲み交わしながら、酔っ払って、サッカーしよう。
余りにもの容姿の変わり具合に笑いあったり、懐かしい思い出話をして盛り上がろう。
“またサッカーしよう”。そんな俺の願いを込めた囁きは、青空に消えていった。あ、もう雨が止んでいる。
だが二人はまた、ちゃんと聞き取っていてくれていたらしく、小さく、
「「ああ。」」
と零した。
「俺、お前達に巡り合えた事に、すっげー感謝してる。有難う」
「何を格好良い事言ってるんだ、円堂。それは俺も同じだ」
「そうだぞ円堂。行き成り潮らしい事を、如何した?珍しくシリアスモードか?」
「今まで充分にシリアスモードだったろ」
でも、本当に嬉しいんだ。こんな、攫ってまで一緒に居たいと願った仲間に出会えた事。
俺にとってこいつ等の存在がどれだけ大きいかは、もう言葉にならない位だ。
大好きなんだ。
俺はもっと中身も成長して、此処に帰って来る。
また会おうな、
「24歳の春。また此の木の下で」
(( 何時かまた巡り合える事を、願って。 ))
(9年の月日が流れて季節は春。遂に其の時は、やってくる)
「なんだ円堂、遅いじゃないか!」
「ははっ、ごめんな遅れた!」
240228
卒業企画。
オリキャラは出て来ませんでしたすみません。
嗚呼ブレイク組可愛いよhshs