二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.60 )
- 日時: 2012/04/01 15:37
- 名前: さくら (ID: te9LMWl4)
- 参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/40jpg.html
「ねぇ、陽彩。前から聞きたかったんだけどさ、君と虹彩って如何いう関係なの?」
「“前から”なんて嘘です。昨日もそんな事聞いてた癖に」
「ほら、でもそうやって直ぐに話を逸らすよね、陽彩は。」
天気が良い昼下がり。“失われた理想郷”の3層目中央部。
ロスト・エデンの本部とも言える象徴、“神の楽園”の最上階のだだっ広い部屋で二人は佇んでいた。
縫い包みやレースやフリルが沢山あしらわれた部屋のど真ん中に設置されたベッドには、天蓋とカーテンなどが付いており、所謂お姫様ベッド状態だ。
ソファやその天蓋付きベッドの上にはドレスやらワンピースやらが投げてあり、少々散らかってはいる。大きいシャンデリアは今は昼なので点灯していない。
ピンクや白、赤などで埋め尽くされたこの部屋のイメージは「可愛い」。お姫様でも住んでいそうなこの部屋に、二人は佇む。
甘い蜜色の髪の毛をした少女の瞳は紫色に妖しく輝いている。妖艶、とでも言えば良いのだろうか。見るからに大人しそうな彼女は、何時いかなる時でもその紫に輝く瞳をギンギンと輝かせていた。まるで、獲物でも狩るかの様に。
そして、彼女の第一印象はもう一つある。と、いうか、此方の方が衝撃的過ぎたので此方が第一印象なのかもしれないが。
陽彩———そう呼ばれた彼女は、髪の毛の一本から足爪の先まで全て、激しく虹彩に似ていたのだから。
相違点を探せと言われる方が難易になるのかもしれない。
だが彼女も、激しく“似て”は居るが、“同一人物”では無い事が明らかだ。
虹彩と陽彩。名前もとても似ていて、顔はまさに鏡に映したかの様。だが、二人を「見分ける」方法なら幾つかあった。
一つ目は、瞳の色である。虹彩は淡い桃薔薇色で太陽の光を受ければ煌びやかに輝くが、陽彩の瞳の色は深い紫薔薇色で月光を浴びれば其の分妖艶に輝く。
虹彩は桃色、陽彩は紫色。そう覚えていれば、まあ何とかなるのである。絵にした時カラーになっていれば、瞳の色を見れば直ぐに判る。
だが、もしモノクロだった場合。彩色されていないので、もう見分けが付かないであろう。
其処で。
もう一つ、相違点を見つけるのである。
二つ目は、髪の質。虹彩は綺麗な蜜色ブロンドだが、陽彩は綺麗な蜜色のストレートなのだ。
虹彩はまるで丁寧に巻かれた様に完璧な少々癖ッ毛混じりのブロンドだ。
一方、陽彩は毛根から毛先まで真っ直ぐの、蜜色の柔らかい髪の毛だ。
容姿的には上の二つが上げられる。
内面的には口調や性格などで判るだろう。
「まぁ、別に如何でも良いんだけどさ。僕は今の陽彩で充分だし」
「それは、本心なのですか?…シュウ、」
“シュウ”そう呼ばれたもう一人の少年。
その少年が、虹彩ドッペルゲンガー陽彩と一緒に佇んでいたもう一人の少年の正体である。
黒に近い紺色の柔らかい髪をボブ刈りにし、綺麗な玉飾りで止めていた特長的な前髪一部は、紺から白、白から紅へと染め上げられている。
そして、普段前髪を結っていた玉飾りは紅く変色し、金色の装飾までされている。
一見、不思議な少年。
だが、そのふわふわとした言動や彼が笑顔を見せる度に周りに花が咲くその雰囲気は、周囲に“可愛い”という印象を与えた。
そして、この少年———シュウは、一度この物語に登場している。
「今日は、白竜は来ませんでしたね、」
「うん。戦いが始まっちゃったからさ、今忙しいんだって。」
「シュウは行かなくて良いのですか?」
「僕は…大丈夫。いざと言う時にはちゃんと戦えるし、ちゃんと殺せるから」
「何か違う答えが返って来たかも」
そう、遂に決戦の幕を開けた、あの戦い。
この島には先住民も居るし、送り込まれた住民等も数多く存在する。一見“普通の生活”だ。町や村、森や海、そして宮殿。中には職を持ちながら情報屋として活動する者も居れば、一人で全うに戦いだけを続ける者も居る。
今始まった此の戦いは、この島全体を巻き込んで戦場と化する。普段の穏やかな生活をしながら裏では革命軍が動いていたり。他の魔族達と混じってしまえば、自分達が“戦い”にやって来た魔族だとも判らない。自分にも他の魔族にも何等かの方法で脳内にデータが送り込まれているから、「あれ、こんな人この地域に居たかしら?」などと言う声を上げる魔族も居ない。まるで前から知り合いでも会ったかのように接される。
それが、此の“戦い”へ臨む魔族達へのプレゼントの一つでもある。
より彼らが戦い易い様に、万全の設備を整えてある。
バリエーションは豊か。革命もあれば、勿論、刺客も現れる。それが、例を挙げれば此処に居るシュウや白竜等だったり。刺客には、この“戦い”の主催者側が多い。
一方革命側には、この“戦い”に臨む者が多いのだ。
そして今回第43回魔聖大戦。今までの前代未聞、“革命軍”が招待された事が今回の戦いの味の一つだ。
普段“革命”などという者達は招待される事が無い。もし革命が成功したりでもしたら、命が危うい上にこの戦い自体消滅せざる負えないからだ。
其れが何故今回だけ選ばれたのか、それは謎である。
同時に、前魔聖大戦の王者達も招待された。これも、多分同じ理由にあると思う。なので、何故なのかは判らない。
「今回は、大物揃いだね。流石の僕達も負けちゃうかも」
「…負けませんよ。でも、今回でこの“戦い”に終止符を打つ時が来るのかもしれない」
「其って、やっぱり負けるって事なんじゃないの?其れに、何日前か、白竜と話してたんだけどさ、陽彩はなんで“革命軍”をこの戦いに呼んだのさ。もしかすると“本当に”革命が起きちゃうかもしれないんだよ?円堂守達を呼んだのも気になるんだけど」
「ん、まだ言えません。革命されない様に頑張って下さいね」
「…はぁ、」
紅と白の髪を揺らしながら大胆に溜息を付くシュウ。
それを見て、陽彩がくすっ、笑った。
甘い部屋の外で妙に近くにある雲が、ゆらゆら浮かんでいる。
240308