二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.107 )
日時: 2012/06/18 19:27
名前: さくら (ID: ZFblzpHM)
参照: http://nanos.jp/10sakura/page/21/

01.



『残念!ごめんなさい、名前の頭文字がサ行の方、最下位です。思わぬ出来事が貴方を待っています。大変危険ですので、今日は家から出ないようにしましょう!』


仕度を済ませて家を出る際、何時もは見ていない今日の運勢のTV占いの放送が耳を通った。嗚呼、今日は最下位か。だが、今日は登校日なので学校を休む訳にもいかない。それに、所詮占い。然程気にせず私は家を出た。













「あ。サクラ。はよ」

だが、待っていたのは想像を絶するものだった。私達が使っていた校舎は崩壊し、辺り一面血の海と血の臭いでいっぱいで、所々に満遍なく塵の様に棄てられた人間、友達、クラスメイト達。何より、それを実行していたのが、私と共に戦った仲間だったからだ。

何時もの様に挨拶をして来た円堂。何時もの様に?否、違う。声は確かに何時もどおりだ。表情が違う。眼が違う。円堂は紅い眼なんてしてない。冷め切った表情なんてしていない。付けているバンダナもちょっと違う。ユニフォームも。赤と黒。何より、サッカーボールで人を傷つける。こんな事しない。間違いだ。

「サクラじゃないか。ほら、早く朝練するぞ」

違う。これは朝練なんかじゃない。皆も早く本当の朝練しようよ。それ間違ってる。あ、分かった。皆で私を騙してるんだ。そうだよね?ね?私もう騙されないよ。分かった。分かったから。もう種明かししても良いんだよ。崩壊した校舎も、倒れてる生徒も先生も、枯れ果てた草花も、チラチラ燃えている火も、全部全部ドッキリなんだ。はい、ドッキリ大成功!こういう番組あったよね。私がターゲット?やだなあ私は仕掛け人が良かったよ。恥ずかしいじゃん。ほら、早く言ってよ。ドッキリ大成功!って、言ってよ!もう私分かったから、だから、早くっ、その手を止めてよ。そんな顔しないでよ。血に染まった手で私に近づかないで!!お願いお願いだからああああdfくgヴdzvlvj;ヴ





何でこんな事になってしまったのだろうか。只管走る。走った。一目散に走った。逃げた。逃亡した。現実と顔を合わせたくなかったから?現実逃避した。違う、これは何かの間違いだ。そうだ、これは夢だ、夢なんだ。まだ私起きてなかったんだ。それなら早く起きろ。起きろ起きろ起きろ。、違う。あんなの皆じゃない。違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアア嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。





気が狂った。狂って今にも死んでしまいそう。うん?死ぬ?嫌だ。死にたくない。怖い。同時に、皆にも死んで欲しくない。これは終わってる。このままじゃ皆死んじゃうよ。円堂、豪炎寺鬼道吹雪風丸、みんなみんなみんなあ!死んだら全部終わりだ、終わりなんてやだ。また皆とサッカーしたい。サッカーしたいよ。どうすればいい。どうすれば私と皆を護れる。どうすればサッカー護れる。・・・サッカー護る。護る。私が皆をまもる。出来る?出来ない。出来る?出来る。護れない何て事を考えているから出来ないんだ。


—————“出来ないと思っているから出来ないんだ。”—————


円堂、君が教えてくれた。そうだ、私が皆を護るんだ。サッカーを護るんだ。皆を元に戻すんだ。何て言われても構わない。どうして急にああなってしまったか何て知らない。知ろうとしても何も変わらない。私だけ、私だけでも何かが変わる。現実と向き合う事が出来ない弱い私は心の中の強い私が殺した。あ、殺すなんて、これじゃあ皆と同じじゃないか。でも私は現実と向き合った。強い意志が芽生えた。たとえ私だけだとしても、握り潰せば簡単に崩れて壊れてしまいそうな私だけのちっぽけな存在でも、皆と今まで過ごしてきた思いは変わらない。絶対に皆を元に戻す。それだけを心に残して、邪魔な感情は私の中から消え棄てた。


「こりゃ笑いものだ。戦うってか」

「どうしてこうなったのか何て問わないから。絶対、あんた達は私が元に戻す」

「どうして?」

「理由なんてもう色んな思考が混ざってどれが何だか分からなくなった」

「殺すかも」

「戦ってみせる」

「戦うってのはなァ、どちらかが死ぬんだよ」

「今のあんた達なら死んでもいい」

「護るんじゃなかったのかよ」

「護るよ?前のあんた達をね」

「・・・そっか、楽しみにしてるぜ」

「何処が」


眼を逸らした瞬間、目の前の偽円堂に肩と腕を掴まれ、壁に投げられ背中をぶつける。痛い。何、これ。何処か、いや、確実に強くなった。円堂。軽々しく私を投げた。背中を摩りながら立ち上がる。すると今度は手首を掴まれ再度壁に背中をぶつける。痛い。本当に痛い。彼は手加減と言うものを知らないのだろうか。知ってる訳ないか。あんな事してたし。


「ちょっと、痛っ・・・・・!?」


駄目だ。これじゃあ色んな意味で危なくて身動きが取れない。くそっ、初っ端からこれかよ。私の両端は円堂の腕で目の前には円堂、背中には壁。円堂はこんな大胆な事する人じゃ無かったよね。変わった。確実に変わったよ色んな意味で!

ぐいっと顔を近づける円堂。鼻と鼻がくっつく。お互いの吐息が吐息と混ざる。良く見れば、円堂のふっくらした頬が無くなってる。無くなってるというと変だな。豪炎寺や鬼道みたいに綺麗な形をしていた。普通なら、この状況に格好良い、色っぽいなどの感情を持ち合わせる。普通なら。今の円堂じゃ全然少しもこれっぽっちもドキドキなんてしない。


「サクラ、好きだ。」

「何企んでるの」

「愛してる」

「無視すんな。やめろその告白。」

「エロい事。」

「嘘付け」

「ははっ冗談だぜ。驚いたか?」

「全然。寧ろこれもお芝居だったら良いのにって思った位。ってか早く退いてっ!」

「馬鹿か。好きでやってるんだ。まずお前口出し出来るような立場じゃねぇだろ」


円堂が怖い。円堂に恐怖心を描いたのは初めてだった。感情の無い紅い瞳にちょっと乱暴で前と変わった口調。こんないかにも危険人物の様な行動。下手に動くと捕って喰うぞという意味だろうか。


「おお!せーかい!お前は俺達からも特別扱いされてんだから、自覚持てよな」

「自覚なんて持ってたら生きていけん」

「だけど、余り俺達の邪魔するんなら、本当に喰うぞ」


更にまた冷め切った表情と声のトーンが低くなった円堂。本当に、こんなの円堂じゃない。どうしたのだろうか。円堂が段々近づいて・・・。そのまま私の首元に顔を埋める円堂。

かぷり。がぢっ。私の首元に噛み付いた円堂を殴る。


「馬鹿だなお前。まさか此処まで力が無かったとは。そんなに殺されたいのか?」

「人の首に傷付けといて何様よ!?これ以上やられたら私の身が危ないだろ!」

「其処までしねぇよ。何?まさか、ヤられたかった?」

「うっさい!」


首の肉を少しばかり持ってかれ、其処からは血が流れる。傷を押さえると、手が真っ赤に染まるのが分かった。


「やれるもんならやってみろ。だが、さっきも言った通り、邪魔になるんならお前を殺すかもしれないな」

「私は死なない!!アンタ達を元に戻すまでは!!」


そう叫ぶと円堂は私を背中にニヤリと笑ってこの場から離れた。何処からか降ってきた雨が、辺りの火を消し、私の流れ出た血と涙を滲ませ、消した。

傷口は、今もじんじんと沁みていた。



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