二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.109 )
日時: 2012/06/18 19:33
名前: さくら (ID: ZFblzpHM)
参照: http://nanos.jp/10sakura/page/21/

03.



『花城、お前もサッカーやってみないか?』

『え、わ、私・・・っ!?』


此れは…、夢?
ああ、夢だ。何故なら此の情景に私は見覚えがあるからである。此れは、多分、私がサッカーを始めた理由になる会話だった。
「彼」とこういう風にちゃんと話したのは、此れが初めてではないだろうか。私と「彼」は同じクラスだった。だが入学して間も無く私は病気で入院してしまった為、友達が余り出来なかった。

多分、私はサッカーに惹かれたんだと思う。そして、「彼」にも。病室をこっそり抜け出し河川敷の前を歩いていた時に、「彼」と「サッカー」を見つけた。
もう、普段“光”を浴びない私には眩し過ぎたんだと思う。少し眩暈がした。真っ白な病室で大人しく寝ている日常。こっそり抜け出したあの時、私に唯一の「楽しみ」が出来た。

それから毎日の様にこの河川敷へ通う様になった。途中医者にも止められたが、聞かなかった。それだけ私は「彼」と「サッカー」に心酔してしまっていたのだろう。
ほら、今日も彼が自由自在にサッカーボールを操っている。


『サッカー、したいのか?』


「彼」は私の事を「花城」と呼んだ。「花城」は私の氏だ。
多分、覚えていてくれたのだろう。喋った事も無い私の事を。ただ同じクラスになっただけの、私の事を。
だから、あんな綺麗なサッカー。


『私に、…でき、る…?』

『ああっ!!絶対出来るさ!』


彼は満面の笑顔で私にこう言ったのを覚えている。


『お前の瞳、すっげえ綺麗』


“サッカー好きな目だな!”そんな事を本気で言う彼に、私は少し笑ってしまった。
それからは早かった。彼とサッカーをして行く内に忽ち病気は完治し、学校にも行けるようになった。私の事をもう忘れてしまったであろうクラスの皆は、そんな悲しい事は無く、円堂君を中心に駆け寄って来てくれた。大好きになった。サッカーも、クラスも、学校も、円堂君も。

二年に進級する時、やっと、それが恋だという事を知った。
私は、円堂君に恋している。

そしてそれは円堂君も同じだったらしく、正式に円堂君と付き合い始めたのは何ヶ月か前。
とても楽しかった。嬉しくて、愛しかった。
こんな平和な日々が続くと良いのに。


だけど。


『…“アイツ”の好きだったサッカー、俺がぶっ潰す』


円堂は変わってしまった。“代わってしまった”と言った方が此の上正しいのではないか。
私の知っている円堂は、死んだ。代わりに違う人格が円堂を蝕んだ。否、円堂は死んでないんだけれども。
その違う円堂は昔の円堂とは正反対だった。陰と陽。そんな感じだった。大好きだったサッカーを、人を傷つけるだけの道具に使い、仲間も傷つける。みんなみんな、かわってしまった。

何故だ。エイリア石だ。あれは壊れてしまったはずなのに。
そして今の円堂は、昔の円堂を妙に毛嫌いしていた。


“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”


偽円堂が言った、アイツ。多分円堂の事だろう。


“アイツのものだったお前は、必ず俺が奪う”


全ては今日、始まった。
大好きだった貴方の事を大嫌いになった日。

だから、私は円堂のサッカーを取り戻す。すると絶対に皆が元に戻るって、信じているから。
私に出来る事。———それは、サッカーを、皆を護る事だ。


“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”


此の夢の中で、私はどんな事を考えただろうか。


“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”
“アイツの好きだったサッカー、俺がぶっ潰す”







「——い、おいっ、    お前、起きろっ!」


誰?聞き覚えのある声。まさか、円堂?
嫌だ、夢から覚めても円堂なんて考えられない。あはは、こんなんじゃ、本当に護れるのか、先が心配。


「起きろっつってんだろっ!!!」


バチンっ!!!
彼は私に思いっきりビンタした。ちょ、私女の子!

余りにもの痛さに薄ら瞳に涙を浮かべながらも瞳を衝動的にこじ開けた。あ、し ま っ た !

だが目の前に居たのは、円堂、     では無かった。

夢見る前に一度見た、あの紅い髪。頭には花を咲かせていた。
誰・・・?





あ、思い出した。