二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.29 )
日時: 2012/01/03 15:25
名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。

雷門との試合は幕を閉じ、引き分けで終わった。引き分けと言う事で少し名残惜しく後味悪いが、心は満足感で満ちていた。
ずっと“究極”だけを求め続けて来た私達は、今日、真の意味での“究極”になれた気がする。仲間、というものを実感出来た。今までは自分の実力を上げる為に他のチームメイト達をお互い利用しあいながら自分を究極に近い存在に仕立て上げてきた。
だがこの雷門戦で何かが変わった。確かに。

ゴッドエデンは閉鎖だ。永遠に。少年達は解放され、船に乗っていく。そしてまた何時の日か、この島は自然豊かな島になり、あの建物にも自然の芽が芽生えるだろう。
雷門イレブンも、人質達も、白竜達も船に乗り込んだ。勿論私もだ。
そして軽い気持ちで今日の事を語ろうと、ある人物を探す。

だがその人物は、この船には乗っていなかった。


「ねぇ、白竜。・・・シュウは?」




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Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.30 )
日時: 2012/01/03 15:27
名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。






ッはぁっ、はぁっ。息が途切れる。足が縺れる。私は何時の間にか船を飛び出し、島を駆け回っていた。勿論、その理由はシュウを探す為だ。まだ乗っていないのだ、シュウは。雷門の船にも乗って無かったし、教官達の船にも乗っていなかった。シュウは森を活動の拠点としているからこの島の事は良く知ってる。迷うという事はまず無いだろう。と、なると。
シュウは自ら船へ乗る事を拒んでいるに違いない。どうして。早くしないと船出ちゃう。私もシュウも、この島に置き去りになっちゃうよ。シュウだって、一生を此処で過ごすわけでもないでしょうし。

すると、ある大きな樹の前に薄ら人影が生えているのが見えた。シュウだ。
樹齢は恐らく千年を越すであろうその大木の根元には二つの石像が置いてあった。この島の守り神だという事を此間シュウから聞いたのを覚えている。
シュウは、何処か懐かしい、それでいて切ない様な眼差しで黙ってその石像を見ていた。
まだ私の存在に気がついていない様子。


「———ッ、はぁ、・・・ッシュウ!!」


荒がる息を整え、彼の名を呼んだ。すると彼は肩をビクつかせる事もなく、黙って此方を振り返った。シュウは、微かに微笑んでいた。


「あーあ。見つかっちゃったなぁ、」

「見つかっちゃったなぁ、なんて言ってる場合じゃ無いでしょ!早く船乗ろうよ!出港するでしょ馬鹿!」


すると困った様な顔をして、駄目だと言う。全く、何が駄目なんだ。張り倒すぞ。
そう伝えれば今度は真剣な表情をし、君は早く船まで走れだの、僕はこの島に残るだのほざいて来るからシュウの手首を掴み、無理矢理にでも船まで連れて行くようにする。
だが、ぐっと力を込めたシュウの力には敵わない訳で。当たり前なのだが、女の本気と男の半本気は同じ位だ。それが本気となると、必然的に私は力では圧倒的に負ける。無駄な筋肉の付いていない長い腕は、ユニフォームから見えていて、これの何処にこんな力が有るのだと疑いたくなる位だ。
シュウは、引っ張られていた手を突然引き、私の手を投げ払った。その突然で普段優しい彼からは想像も出来ない乱暴な動きに、泣き虫な私の瞳や揺らぐ。


「僕は、この島に残る。」

「い、嫌だよ。馬鹿言ってないで行こうよ!またあっちでサッカーしよう。もっと強くなって、今度は天馬達に勝とうよ!また二人でボール蹴ろうよ!!」


私の声は、段々大きくなっていき、遂には叫ぶ形となってしまった。
私の脳裏に毎日シュウとボールの蹴りあいをしていた時の事を思い出した。毎日の過酷な特訓を耐えてきた私の、安らぎの一つでもあった。私が晴れてエンシャントダークに入れた時も、チームゼロに入れた時も、毎回シュウとボールを蹴っていた。とても楽しかった。蹴りながら、話をする。シュウが優しく蹴ったボールを私が受け止めて。足裏でボールを少し弄んでから優しく蹴り返す。するとシュウも同じ様に足裏でボールを少し弄んでから優しく蹴り返す。その繰り返し。それが何処と無く穏やかで優しくて、何も言わなくても心が通じ合える。これがサッカーなんだって、実感した。少なくとも私は。その時のシュウはどんなか分かんないけど。
またあっちでもシュウとボールが蹴れると思っていた。だが、それが今は、打ち砕かれようとしている。否、打ち砕かれた。打ち砕ーく!


「駄目だ。」


ふざけてる。だが表情は真剣だ。声のトーンも低い。本気なんだ。
だから、私の眼からは大粒の水が毀れでる。あれ、しょっぱいや。何これ。涙?な訳有るか!あれあれ。鼻水まで出てきちゃったよやっべ、超汚い私。え、もしかして私泣いてる?あれあれあれ。


「何で、」

「・・・。、手を、出して?」


シュウが余りにも悲しそうな表情をしているからたじろぎながらも各々と手を出す。
私はシュウから出された手を握り摘もうとするように、動かないシュウの手を掴んだ。否、掴むはずだった。だがそれは、見事に私の手がシュウの手を擦り抜けた。何、これ。まるで幽霊じゃないか。冗談キツイよって、何度も呟いて、自分に言い聞かせながら私は同じ動作を何回も何回も繰り返す。だが私の手はシュウの手を擦り抜けて、決して触れ合う事は出来なかった。
今日は可笑しい事で沢山だ。雷門に負けるし、今まで暮らしてきたゴッドエデンは閉鎖、シュウはこの島に残るっていうし、私はシュウに触れる事が出来ないし、シュウは幽霊、みたいだし。
でも今までは普通にシュウに触れた。頭だって叩けたし、一緒にサッカーもした。悲しい時、シュウは私を優しく抱き止めてくれた。なのに今日だけどうして。
未だに続けるその動作を、シュウはとても悲しい眼で私を見ていた。嫌だ、そんな眼で見ないで。嫌だ。何でシュウに触れられないの。嫌だ、嫌だ、嫌だ。こうしている内に、私は一つの結論に辿り着く。その結論は、今日のシュウの言動全てに、辻褄が合った。

重々しい口を、開いて、問う。


「嘘、だよね・・・?」


私は、只管肯定の答えを待っていた。嘘って言ってよ。今まで見たいに「引っ掛かった!」って、「馬鹿はやっぱり馬鹿なんだね」って、言ってよ!すると1番聞きたくない否定の言葉が返ってきた。


「嘘じゃ、無い。

               ———僕は、この世界の人間じゃ、無い」


すると刹那、何処からか酷い風が吹いてきた。優しいとか、そんなんじゃない。強く、険しい風だ。嵐の様に。
シュウの髪が吹き荒れる。私の髪はぐちゃぐちゃだ。同時に、流れていた私の涙も吹き飛ばされていった。


「もう一度言うよ。君は船に戻るんだ。」

「シュウ、」

「早く!僕は、此処から出られないんだよ、」

「シュウ、」

「まだ、もっと、この世界に留まって居たかったけど、まだ一緒にサッカーしたかったけど、もう、充分だよ」




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Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.31 )
日時: 2012/01/03 15:28
名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。

さっきまでとても泣きそうな顔をしていたのに、今度は微笑むシュウ。何時もニコリニコリしながら毒を吐くシュウとは違う。心の底からの笑みだった。ドラマやアニメなど足元にも及ばない。私の好きな笑みだった。
その笑みを見て、私は気付いたんだと思う。心の何処かに抱いていた、気持ちを。シュウが好きって事を。シュウが何者でも構わない。私はシュウと帰りたい。もしもシュウに、呪いのような物が掛かってるとしたら、その鎖を私が引き千切ってやる。血まみれになっても構わない。私は、シュウが好きなんだ。


「この島で、君に会えて、とても嬉しかった。この地獄での、一握りの希望だった。とても楽しかった。君とサッカー出来て。僕はこの世界に居ちゃいけない存在だ。雷門との戦いで、やっと本当の気持ちが分かったよ。僕はずっと、逃げてただけ。だけど天馬から教えてもらった。戦う強さ、そして、大事なものを守るという思い。僕の大事なものは、君だ。」

「私、シュウが何者でも関係ないよ。私は、シュウで居てくれるなら、それで良いんだよ。私は、シュウが好「待って。・・・それ、僕に言わせてね」


風が止んだ。時が止まってるみたい。このまま時が進まなければ良いのに。
シュウが身体から光を出して、赤い頬を隠す様に俯いた後、何かを決心した様に顔を上げ、真剣な表情で名前を呼ばれたので、慌てて返事をする。


「は、はいっ!!」


「好きだ」


強い瞳でその言葉を言われた瞬間、止んだと思った風が、吹き荒れるようになった。そして、私の瞳からは大粒の水が零れ落ちて止まらない。風は、先程よりも強く、同時にシュウと私の間から光のような物が溢れ始めた。


「わ、わたっ、」

「知ってる。気持ちは、ちゃんと届いているから。———————……泣かないで」


光は、太陽の光と反射しながら、この薄暗い森に光を生み出した。明るい。綺麗。やがてその光は私達二人を包み込む。
すると動揺して言葉を発せ無かった私に優しく微笑んで、シュウは言葉を発する。


「もう、時間みたい」


彼は、続ける。まるで、もう会えない時の少年と少女の様に。
否、もう会えなくなるのかもしれないけど。二度と。



「生まれ変わったら、また君と、サッカー出来るかな?」



愚図愚図泣いていてもこれから先、後悔するだけだろう。私は、意を決し、満面の笑みで答えた。



「出来るよ。きっと。—————…待ってるから。」



シュウは、幸せそうに微笑み、涙で瞳を潤せる。次第に涙は毀れ、綺麗に日光と光に反射した。
シュウが泣く所は始めてみた。いつもニコニコしてて誤魔化してるから。照れるのも、泣くのも。誤魔化さなくても良いのに。





「有難う。

                   ———………愛してる。」





近づいてきたシュウの唇は、私に触れる事は無かった。
直前で、光が急に倍増し、シュウの身体は消えた。だけどその前に、「またね、」と言ってくれたのには、期待しても良いのだろうか。きっと、また会えるって。





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Re:   金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.32 )
日時: 2012/01/03 15:29
名前: さくら (ID: z2eVRrJA)
参照: 明けましておめでとう御座います。 正月企画。




「あ、れ。」


気が付けば、其処は船の甲板だった。
白竜達が私の名前を呼び、探していた所だった。





  Godeden:( 愛して居たという証など抱き合った冷たい温度だけで十分じゃないか )






あれから四年後。高校ももう少しで卒業だ。真冬の只中、塾からの帰りにグラウンドの傍の道を通った。
するとボールが飛んでくるではないか。どうしよう。今はスカートだし、短パン持っているけど、咄嗟に履いているとそれだけで間に合わないだろうし、あわあわしていると、そのボールはすっぽりと私の手中に収まった。
まるで、私目掛けて飛んできたかのように、。どこぞの苛めだよ。


「すみません、ボール、」

「あ、どうも、」


あどけない感じでボールを渡そうとして顔を上げると星が飛んだ。


「……し、シシシシシュウ…?」

「あれ、何処かで会いましたっけ」


その人は、シュウ特有の黒に近い紺色の髪色で、首を傾げれば肩に付くか付かないかって言う位のボブカットで、少年の時の玉飾りを外し、紺から紅、紅から白に染め上げた特徴的な髪は他の髪よりも少し長く、漆黒の瞳。とても伸びたすらっとした高い背。容姿は変わる所もあるのだが、それはまさにシュウだった。
すると自然にかシュウのあの言葉が蘇る。

“「生まれ変わったら、また君と、サッカー出来るかな?」”

     “「またね、」”

だが目の前の人は多分シュウでは無いのだろう。さっきの受け答えから、名前は「シュウ」なのらしいけど。
嗚呼、目の前に居るのに、何て現実は残酷なのだろう。



「サッカー、やってるんですか?」

「あ、うん。君も?」

「昔、」



何で聞いてしまったのだろう。普通そんな親しくも無い相手に聞かないだろう。私の馬鹿。



「一緒に、サッカーしよっか、」

「え、良いの?」



“「生まれ変わったら、また君と、サッカー出来るかな?」”

更に男らしく、格好良くなったシュウ君に、言われました。
シュウは、とてもサッカー上手で、私の知ってる「シュウ」ととても似たプレーをしていた。時々此方を見て微笑む。まさに、「シュウ」だった。



「あの、まだ名前聞いてない。」

「あ、ごめんなさい。えっと、」



その瞬間、私の名前を口にした彼に目玉が零れ落ちるかって位大きく眼を見開くと、得意げになったシュウに笑われた。



「久しぶり、」



240103
嗚呼なんて超次元。
おまけみたいなシュウ君は、ゴッドエデンのシュウ君です。生まれ変わりました。今度はちゃんと人間にw
年が主人公と同じなのは、この世界が超次元だからd((