二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.72 )
- 日時: 2012/04/13 20:16
- 名前: さくら (ID: te9LMWl4)
「お願いしますお願いしますやめて!ああああ。あの子を殺さないで追い出さないで下さい!!」
「あ、あんな裏切り者ッ、この村には、…ッ!」
「違うんです違うんですよ!!あの子は、只妹を助けたかっただけなんです!お願いします!!私を一人にしないで!」
「…やめて。」
“もう、良いよ”そう呟いて、光の無い目を此方に向けた男の子。名前を、シュウって言うんだったっけ。嗚呼、随分前だったから忘れちゃったなあ。顔も、壊れたテレビの様に顔が丁度モザイクが掛かっていてどんな顔だったかさえ分からない。
忘れてしまったんだ、私は、あの子を。
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ゆらりゆらり、と木漏れ日が眩しい中、彼女はくたりと座っていた。何処か、遠くを見つめながら、ずっとずっと。
この薄暗い森には、時々嘘だという位に明るくて眩しい場所がある。其の一つが此処だ。彼女は体育座りをして動かない。たまに吹く風が、あの時と変わらない綺麗な髪を揺らした。僕は、只懐かしさに浸っていて言葉も出ない状態にあった。
彼女は、僕の昔の友人だ。
名前は、なんだったっけ。もう忘れちゃった。酷いよね、そんなの。ごめんねごめんねごめん、
だけど、きっと僕にとってとても大切な存在だったのだろう。人間は、辛い記憶を残して嬉しい、楽しい、大切と感じた古い記憶を忘れてしまう生き物だ。なんて理不尽なんだろう。どうせなら辛い記憶を忘れる様にしちゃえば良かったのに。辛い記憶は誰だって忘れたい、僕だって同じだ。思い出せば出す程、僕を追い詰める様にあの時の記憶が僕を急き立てる。
僕は、昔妹を殺した。
「やっと、見つけた、」
不意に聞こえた懐かしい声。其れは彼女の上げたものだった。
彼女は僕に精一杯の笑顔を贈る。だけどその瞳に光は一粒も無かったんだ。
其れは、彼女がもう既に故人だと言う事を、意味していた。そう、僕と同じ。
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- Re: 金木犀で創るシャングリラ (inzm/小説集) ( No.73 )
- 日時: 2012/04/13 20:15
- 名前: さくら (ID: te9LMWl4)
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シュウ君。そう、確かそんな名前だった。私の大好きだった、友人。
“僕が、殺した。僕は妹を、殺した”そうぼろぼろと呟きながらシュウ君は此の村を追い出された。シュウ君は兎に角妹が大事だった。村に伝わる玉蹴りで生贄を決めるとなった時、其の生贄候補にシュウ君の妹が選ばれた。シュウ君は如何しても妹を生贄にさせたくなくて、お金を渡して態と負けてくれと頼んだ。勿論その事は村人にバレ、試合は無効に。無条件で妹が生贄にされる事となった。
シュウ君が兎に角妹を大事にしていた様に、私も兎に角シュウ君を大切にしていた。
だってシュウ君は、私の唯一の家族と言えるものだった。親に捨てられて身寄りが無い私にシュウ君は手を差し伸べてくれたんだ。私が苛められている時もシュウ君は身体を張って守ってくれた。でもシュウ君は強かったから、負ける事なんて無かったけれど。
シュウ君まで居なくなってしまったら、私は如何すれば良いんだ。他の村の人達が私を置いてくれるはずがない。優しいシュウ君だったから、妹を説得して家に置いて貰えてた。
勿論、シュウ君が居なくなってからは、私は身寄りが無くなって、此の村を出る事となった。「どうか置いて下さい、何でもします」そう何度も言い願ったけど、土下座までして、お金まで渡したんだけど、「あんな奴の身寄りなんて、」と決して私を家に置いてくれる人達は居なかった。寧ろ、置いて貰おうと外で「すみませーん」と叫んだ時も、居留守を使って戸を開けてくれる人さえ居なかった。
だから、お金と布切れを持って、私は村を出たんだ。と、言っても此の島に村は一つしか無いし、其の村を出たとなれば後は永遠野宿となるが。でも私はちょっぴり嬉しかったんだよね。もしかしたらシュウ君に会えるかもしれない。もし会えたなら、今度は二人で生きて行こう、そう思った。だがシュウ君を一生懸命探すけど、やっぱり見つからない。
心当たりがある所は大抵探したから、何処か高い所から探そうかな。そう思って此の丘に足を踏み入れていた。
ゆらりゆらり、と木漏れ日が眩しい中、私はくたりと座って只管シュウ君を探した。毎日毎日、雨に打たれようが雷が鳴ろうが関係ない。シュウ君もきっと同じ思いをしてる。そう思えば、一秒でも早くシュウ君を見つけて今度は私が手を差し伸べてあげたかった。
あの時の恩返し、果たすのはいまだったのに。
私はもう、死んでいた。
「やっと、見つけた」
私の後ろにはシュウ君が居た。笑ったけど笑えてない。嬉しいけど嬉しくない。悲しいけど悲しくない。何やら複雑な意思が私を操る。
でも、ずっと今までシュウ君だけを探して来た、その時が来た。叶ったんだ。其れだけ達成感は凄い。ずっとずっと大好きだったシュウ君に会えた。でも何だろう、涙が止まらない。表情は笑ったまま固まっている。そして涙が滝の様に出て来た。何だろう、すっごい気持ち悪い私。
だけどシュウ君はそんな汚い私を見て、微笑むから、愛しそうに私を見るから、もう如何でも良いや、そう思った。
「ずっと、探してくれてたんだよね」
「あ、当たり前だよっ。私、ずっと、ずっと、シュウが居なくて、一人ぼっちでっ」
「ごめんね。そして勝手に死んでごめん」
ごめん、ごめんね、ごめん。滝の様に流れ出る謝罪の言葉。シュウ君は俯き只管謝っていた。下を向いている所為でどんな表情をしているかは分からないけど。
そんな言葉を待ち望んでいた訳では無くて、自然的に手を耳に当てて叫んでいた。
「ああああ謝らないで、違う違う違うの、私シュウくんに謝って欲しくない、のっ」
「本当、ごめん」
「嫌だ嫌だいやあああああああ」
複雑な気持ちからか、シュウ君を見つけた嬉しさからかは分かんないけど、意識が混乱空回りして狂う。叫び続ける私、何で急に。あまりにもヒステリック過ぎた。
段々落ち着いて来たらまた止まっていた涙が流れ出した。
あんなにも待った。軽く千年は越しているだろう、千年越しのシュウ君に涙した。
ずっとずっと待ち続けて、もう立てなくなる位待ち続けた私に、シュウ君はふわりと笑い掛ける。
シュウ君は流れる様な動作で私の横に腰掛けた。
「僕は、多分、ずっと過去に囚われていたんだと思う。確かに妹は僕が殺った、その呪縛にずっと囚われて、死んでも死んだと分からずにずっとずっと逃げて、強さだけを求めて。…待ってくれる人が居る事に、気が付いてあげられなかった」
「それは、私も同じだよ。きっと見つかる、私の居場所はシュウしか居ないからって。あの子が死んだ今でも、私達が死んだ今でも、現実から逃げてばっかりで、臆病で」
そう。結局は、自分の為だったんだ。
全て、シュウは悪く無い、皆酷いなんて、一番酷いのは私じゃないか。自分の為にシュウを利用して、一人になるのが怖いからって、本当酷くて、ウソツキだ。
「馬鹿。本当に馬鹿だよ。そんなの全部僕の為じゃないか。君は昔から優しい奴だったから、君の事を良く知ってる僕になら分かるよ。君は、そう言って僕の痛みを少しでも和らげようとしてる」
「そんな事、」
「してるよ。でも、僕は良いんだ。やっと、本当の僕が分かったから。」
爽やかな風が私達の髪の毛を揺らす。
本当の僕?意味が分からない。だけど、“本当の僕を知る事が出来た”そう言った時のシュウ君の表情は、凄く優しくて暖かいものだった。まるで、事件が起きる前のシュウ君の様に。
「シュウ君は、強いね」
「強い、か。そう言えば、つい最近まで強さばかり求めていたな。“サッカーは楽しいものなんかじゃない。人の価値を決めるもの”なんだって。」
「サッカー?」
「あーうん。あの事件の時に使った玉蹴りを、此の時代ではサッカーって言うんだ。」
「サッカー、か。ふふっ、良い名前だね」
ずっと此処から動けないで、ずっと前だけを見つめていた私にとって、くすりと笑うシュウ君は懐かしいそのものだった。
「ずっと君と同じ様に此の島に縛られていて、つい此の間、ある人達とサッカーをしたんだ」
シュウ君の話を聞くと、その人達が凄い可笑しな人達だったらしい。自分の事を弱いと言ったりする、本当に可笑しい子。名前を天馬というらしい。
その言葉が、シュウ君にとても響いた。強さにばかり拘っていたシュウ君を、解放してあげる事が出来た、凄い奴。本当に凄い奴だ。
私も、見習わなければな。
「僕ね、弱くても良いんだって。強く無くても良いんだって。まさか、あの子とサッカーにそんな大事な事を教わるなんて思わなかった」
「…、」
「だから、今度は君の番」
「……、うん」
「ごめんね。僕にとって大切な何かが分かったんだ。あの時、妹を失って、自分にとって大事な物が分からなくなってたんだ。」
君を村に残して、勝手に死んでごめんね。そう言うや否や、シュウ君は私を抱き寄せ囁いた。
「君を迎えに来るのが遅くなっちゃった。待っててくれて、ありがとう」
本当に、千年越しなんてもう遅過ぎる。スケールが違う。
でも、一瞬だけ感じたシュウ君の温もりに、自然と笑みが毀れた。ふふっと笑ってシュウ君の身体に擦り寄る。既に冷たいシュウ君と私の身体は、夕日に照らされて半透明に透けていた。とっても綺麗。
「ありがとう、本当に」
「ふふっ、私こそ」
刹那、風が舞い花弁が散った。私達の身体は、もう空気に融けていた。
そうだ、私達は随分昔に、死んでいたんだ。
(( まるで自分が君の音世界に溶けてしまったかのような、 ))
240413
今日は友人の誕生日です。あープレゼント買ってねえ。
シュウ短篇は如何してもこんなに感動系になってしまうのだろうか。でもシュウ切なくて大好き。
まさに目からブラックアッシュ。