二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.142 )
- 日時: 2012/06/11 17:11
- 名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)
「Family」
episode 12 「カジノへの道」
「ボス、時間です」
ノックもそこそこにそう言って部屋に入ってきたのは、ユウトだった。
いつものスーツよりも見るからに上質なスーツを着こなし、下に見えているシャツも、いつもの白とは違い、青色。ネクタイは、見るからに上質。首周りにはシルクで出来たストールを、巻かずに掛けている。いつもとは数段違う雰囲気に、ヒョウカは笑いを噛み殺そうとするが、どうしてもクスクスと漏れてしまう。
「……似合っていないのは重々承知です」
「似合ってないわけではないさ。ただ、こうも違うものかと思ってな」
「……ボスも随分と違いますよ。雰囲気はありますけど」
そう言ったのは、ヒョウカのドレス姿のためだろう。薄い水色を主体としたバルーンワンピース。その上に羽織っているのは黒いボレロ。髪は、綺麗な髪留めで高く結われていた。足元にいたっては、彼女らしくないヒールの高い、ベージュのコサージュパンプス。
多分、この服を選んだのはハルナとユンカだろう、とユウトは検討をつけた。ヒョウカは動きにくい服装が大の嫌いで、こんなエレガントな大人しい服なんてもってのほかだ。シンプルで、動きやすいものでもないこれを選ぶのは、このファミリーの中ではあの二人しかいない。その上、ヒョウカはあの二人には弱いのだから。
「おまえは少し貴族に見えるな」
そう言って今度こそ笑いだしたヒョウカに、ユウトが不貞腐れたように少し顔をむくれさせた。
子供っぽいな、と思ったが、それを言えば機嫌を悪くするのが目に見えているので言わないでおこう。
「兎に角、行きますよ。シレジアの車が来ます」
「分かってるさ」
ヒョウカはそう呟き、コツコツと音を立てながら部屋を出ていく。やはり、その後姿にはマフィアのボスの雰囲気がしっかりと漂っていた。
* * *
シレジアの迎えの車に乗り込んだのは、ヒョウカが選抜した精鋭たち。ユウト、レイナ、ユンカである。いつものメンバーではあるのだが、これほど心強いメンバーはないほど、彼らは強い。この人数で、戦闘になっても十分対処できるだろうという、ヒョウカの考えからだ。
「お待たせいたしました。到着です」
丁寧な口調の運転手。その助手席に座っていた男が後部座席のドアを開け、ヒョウカはそこから出た。目の前に広がっていたのは、人通りの少ない煉瓦造りの街だった。
北西、ラインド地区第3番地「サリタ」
バルバラファミリーの領地である、ラインド地区第5番地のすぐそこにあるそこは、昔から治安が悪く、銃の密輸の中継地点として栄えたことのある街であった。
「嫌な雰囲気ですね」
ユンカが、辺りを見渡す。ひびが入ったりした煉瓦、人が少ない街なのだろう、ガラスの割れたところもある。お世辞にも、住みたいとは誰ももわないであろう場所だった。確かに、カジノがあっても分かりにくい、絶好の場所でもありそうだ。
「おいでになりましたか」
低くも、まだ若さの見え隠れする声。振り返れば、そこにいたのは桃色の髪の、女顔の青年だった。
「ランマル……」
レイナの声に、お久しぶりです、と礼儀正しくお辞儀をしたその少年は、シレジアファミリーの首領、タクト・シレジアの秘書という重役を担っているランマル・ラクリアスだ。容姿こそ女々しいが、戦闘能力はシレジアの中でもトップクラスの実力者。彼がここにいると言うことは、
「待っていました。わざわざありがとうございます」
その後ろから出てきたのは、スーツを見事に着こなした、ウェーブのかかった髪の青年、タクト・シレジアだった。
やはりいたな、とヒョウカは内心で笑う。
「早速ですが、行きましょう。先日近くの港に武器を積んだ船が着いたのですが、その武器の一部の行方が分からないんです。きっと、カジノに……」
ランマルの説明に、フィロメラの一行が怪訝な顔をする。
随分と面倒なことなっていそうだな、とこの先に待ちうけることを予想しながら、フィロメラとシレジア精鋭たちはカジノに向かって歩みを進め始めた。
* * *
カジノがあったのは、路地裏を随分と進んだところだった。
バーらしきそこの扉をあければ、酒と煙草の匂いが鼻孔を通っていく。ガヤガヤと賑わうそこにいたのは、見るからにマフィアだった。刺青の入った腕。銃や剣を持ち馴れて、節くれになった指を持つ男たちばかり。心底、気分がいやになる、とヒョウカは怪訝な顔をした。
「おい、おまえ」
店主らしき男にそう話しかけたのは、シレジアファミリーのマサキ・ランベルタだった。店主は、少しばかり焦ったような表情で、なんでしょう、と返してくる。
「ここに、カジノがあるよな?」
卑屈な表情でそう問いかけるマサキ。店主はその一言を聞いて、表情を一変させた。焦った表情は消え去り、明らかに普通のバーの店主ではない顔、明らかに、マフィアの一員の顔をしているのだ。
「……おまえらも、金が欲しいのか?」
「別に。暇つぶしだ」
そのやり取りを聞いていたヒョウカ。ヒョウカは初めてマサキに会い、こういうふうなところを見たのだが、随分とマフィアに向いた奴だな、と笑った。
「いい奴が入ったじゃないか」
タクトにそう耳打ちをする。そうすれば、確かにそうなんですが、とタクトが苦笑いをした。
「こういうときはいいんですが、普通に事務をしている時、なぜかランマルと喧嘩になるんですよ。そこに困っています」
その言葉に、ヒョウカはおかしそうに声を噛み殺しながら笑った。