二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【短編集】True liar【inzm】オリキャラ募集中! ( No.97 )
日時: 2012/05/16 08:56
名前: 海穹 (ID: fQORg6cj)

「Family」

episode 9  「奇妙な音」




フィロメラファミリーの事務所、モルゲンレーテ前での交戦は激化の一途を辿っていた。
しかし、明らかに一方だけが。


何せ、弾の行きかう量がまるで違う。一方的に、フィロメラファミリーからの弾丸が、向こうに飛んでいるのだ。しかし、こうなるのはほぼ必然的だ。事務所と言う、女帝やその護衛がいるところに挑んでいくのはその時点で無謀に近いのに、人員が少なすぎる。こんなの、倒されに来た、と言っていい。

ヒョウカには、それが引っ掛かっていた。
向こうがどんなファミリーなのか分からないが、何処のファミリーであれ、80人程度でフィロメラを壊滅させられるわけが無い。手傷をつけられるかどうかがいいところだ。いくらなんでもそんなことに人員を割くだろうか。

どんな新興マフィアであれ、こんな馬鹿げたともいえることを。


「……嫌な感じだな」

響く銃声の中、ヒョウカの喉を高くも穏やかに響き渡る声が通過し、言葉を紡ぐ。自分に向けられる弾丸はユンカやユウトが完璧にはじくか軌道を変えるかしてくれているから雰囲気はさっきよりはましだ。

はあ、と聞えよがしの溜息の後、ヒョウカはすっと銃を構えた。ひどく馴染んだ動作を視界の隅で確認したユウトはこれまた視界の片隅に入っていた銃を構えこちらを凝視しているらしい男に弾丸を喰らわせる。呆気なく倒れていく男に、こんな手に収まる様なもので壊れるなんて、人間はなんとも脆い生き物なのだろうかと妙なことを思った。その考えを振り払い、剣を振るう。

近くにいる、何とか形勢を逆転させようとあがく奴ら。
しかし、今からではとても無理だ。こちらの女帝はお怒りだし。俺たちもこれだけ暴れられて黙っていろなんてできない。

後ろから剣を振り下ろしてくる二つの影を感じ、その二つの剣を振り返りざま受け止め、ギリギリと少し押し合いをしたところで体重を乗せて振り払う。こちらの力に負け、体勢を崩した二人の胸を、一直線に凪ぎ払う様に剣を通過させれば、辺りに飛び散る生温かい液体。そして弾も矢呆気なく倒れていく二人の最後を視界に入れることなく、次の標的に向かって銃弾を放った、まさにその瞬間、


異様な銃声が、辺りに木霊し、辺りに緊張が走った。


本当に妙な音だった。どちらかと言えば、銃声と言うよりは雷が落ちたようなそれ。


「な、んだ?」

ユンカが鎌を首にかけていた男から目を離し、辺りを素早く確認する。しかし、目に入るものの中に、そんな異様な音を立てそうなものはなく、妙な雰囲気が辺りに張りつめ出した。

フィロメラ側が一瞬怯んだのを見逃すまいと、相手が銃を乱射してきた。妙な銃声に気を取られていたらしい戦闘部隊の隊員の何人かが、ひどく苦痛をにじませた呻きを漏らしながら地面に伏した。

それを見たヒョウカの顔色が変わる。
隊員から目を離し、敵を見据えたその目に浮かんでいたのは表現のしようのない、怒りがはっきりと揺らめいていた。黒い瞳に浮かぶ、怒りの炎は収まるどころかどんどん燃え上っていく。


「……ユンカ、後ろお願い」

ヒョウカはそう、ユンカに声をかけた。

「…、うん、分かった」

ユンカはそうとだけ言って巨大鎌をスッと構え直した。ふわりと、何処からともなく吹いた風が、二人の髪を巻き上げる。薄い紫と、優しい黄色の髪。そして青い目と黒い目が美しいコントラストを作り上げた。


何の音もたてず、ユンカがその場から消えた、と思えば次にいたのは隊員の一人を苦しまぎれに撃った奴の背後だった。その男は後ろにユンカがいるのにも気づかない様子でただただ銃を両手で握りしめている。その指が少し震えて見えるのは、恐怖のためか、それとも一人でも倒せたと言う歓喜のためか、いや、それ以外なのかもしれない。しかし、それはヒョウカにとってもユンカにとってもどうでもいいことだった。
二人にとって重要なのは何があったにせよフィロメラの一員に手を出したと言う事実だけ。


「……可哀想に」

ユンカはそう呟いた瞬間、懐に忍ばせておいたらしいナイフで頸動脈を何の躊躇いもなくかっ切った。どろりと音を立てそうなほど赤黒い液体が首を伝うのと、驚くほど勢い良く吹き出ているもの。対照的ではあるが、それは紛れもなく同じ物質だ。


ユンカは血がつかないように男から素早く離れ、ヒョウカの隣に立っていた。

「……速いねぇ、相も変わらず」
「特技ですから」
「鎌でとどめを刺す必要も無かったみたいだね」
「まあ」

ユンカはそう言って薄く笑う。そして。次は私の番だと言わんばかりにヒョウカが銃を構えた。バンバンと音が聞こえればそれと同じ数の肉を貫通する音。ヒョウカが続けざまに直線を引くように銃を打っていたその時。

カッと、雷光が轟く寸前のような音、その後もさっき聞いた妙な銃声も微量だが、混じって響いた。