二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:  風の守護者とプリンと風紀、 / REBORN  ( No.14 )
日時: 2012/05/20 12:02
名前: なゆ汰 ◆TJ9qoWuqvA (ID: 6vo2Rhi6)

.




 標的06 / 即興な世界と幻想




 私と隼人くんは、一緒にピアノを弾くことにした。元の世界では(独学でだが)ピアノを習っていたため、お手の物だ。久しぶりに鍵盤に指を這わせれば、冷たい感触。なんだか凄く懐かしくて、なんとも言えぬ気持ちが込み上げてきた。すると、隼人くんが滑らかな手捌きで鍵盤を叩いた。それと同時に聞きなれた音楽が部屋の中を支配する。ショパンの「幻想即興曲」だ。思わず瞼を伏せて、暫くその音楽に耳を傾けた。流れるようなその曲調に聞き惚れてしまう。



「…ここまでしか、弾けないんだ」



そう呟いて隼人くんは寂しそうにピアノを弾く手を止めた。嗚呼もったいない。先程まで綺麗な音を奏でていた隼人くんの指先を見つめる。続きを聞きたい。聞くにはどうすれば…——そうだ。閃いた。隼人くんの「幻想即興曲」の続きを聞く方法。私はショパンの曲なら大体得意だ。隼人くんに教えてあげたい。こんなに綺麗な音を出せるのは隼人くんくらいしか、いないだろうから。



「教えてあげようか?」
「……いいのか?」
「うん、勿論さ。はやとくんの幻想即興曲、聞きたいしねー」



にっこりと微笑んで、ピアノの鍵盤を叩いた。滑るように鍵盤の上を指が走っていく。頭の中に楽譜が描かれていき、次はどこの音を出せばいいか手に取るようにわかる。いつのまにか目を瞑りながら弾いていた幻想即興曲は、間違えずに最後までいけた。隼人くんがにこにこしながら私を見上げている。



「すげー!」
「ありがと。さ、教えてあげる。まず、この音を…」



実際に弾きながら教えてみる。この方が覚えやすいだろうと思ったからだ。ちなみに音楽用語にはイタリア語が多い。アダージョとかラルゴとか、アンダンテ、ピアニッシモなど。全部イタリア語なのだ。だから用語は全部把握しているはず。それにピアノを扱う人間が音楽用語を知っていて当然だ。だから隼人くんにそういった専門用語を交えて説明する。

まあしかし、元の世界で習っていたことが此処で役に立つとは、ね。





 ***






「ありゃ、いつのまにか夕方だね。今日はここらへんで終わりにしようか」
「うん。サンキュー、ちとせ!」



隼人くんが天使のような微笑みを私に向けた。鼻血がでそうです。あれからずっと練習して、隼人くんは幻想即興曲を全部弾けるようになった。隼人は飲み込みが早いから、教える方も楽だ。あとはもうちょっと練習したら完璧だ。隼人くんは椅子からひょいっと飛び降りると、小さい手で私の手を握った。暖かい。



「へへっ…」
「(きゅん)」



照れくさそうに隼人くんが笑う。この天使のような隼人くんがそうやったら10年後あんな不良になるのだろうか。そんな言葉を飲み込んで、隼人くんの小さな手を握り返した。




.