二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『イナGO』-アドニス〜永久欠番のリベロ〜 ( No.7 )
日時: 2012/11/10 12:10
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)

第一話 『転機』

おれはフランスに住んでいた。
フランスでサッカーをしていた。
両親の離婚を気に、フランスに移り住むことになったからだ。
沖縄に弱虫な弟を置いて、自分一人だけが海外に行くのは、いささか不安だったが、すぐに慣れた。
フランス語も、最初はたどたどしくて、ジェスチャーを交えながら話せば何とか伝わる程度だったが、今は流暢に喋れるようになった。
友達もできて、ライバルもできた。
フランスという国は、自由と平等の国だった。
1789年の"フランス革命"以降、一人一人の権利を守ろうとする考えは今の世にも深く根付いている。
ポジションに縛られず、ディフェンスとオフェンスを両方やりたかったおれにとっては、これ以上ないほど最高の国だった。
一生ここで生きていこうとも思った。

だがある日、転機は起きた。
おれが所属していたサッカークラブの公式戦を、ある人が見に来たことから、運命の歯車は乾いた音を立てて回り始めた。
その人は、青い髪で、紫の目で、ヨーロッパの血が混ざったハーフだった。
黒のテンガロンハットをかぶって、顔には斜がかかっていた。
冷たい銀のピンヒールを履いていた。
白いマキシ丈ワンピースを着て、その上にデニム生地のジャケットを羽織った姿は、隙を感じさせない不思議な魅力があった。
母さん以外に美人を知らなかったおれは、少しだけ驚いて、その人に見とれた。
その人はおれを見て笑った。
大人の、余裕ある笑みだった。

「日本に来てみぬか?」

聞き取りも、喋りも、読み書きもフランス語に慣れきっていたおれは、その人の日本語を—変わった喋り方だったから—理解するのに少し手こずった。

「行かねぇよ。おれはフランスがいい」

美人からのデートの誘いを断るのは気が引けたが、おれはフランスにいたかった。

「左様か。そなたが申すのならば無理強いはせぬ。じゃが、気が向いた時にはここに連絡しておくれ」

その人は、名刺(?)か何かを指先ではじいておれに渡した。
畜生かっけぇな、おい。

「そなた、名は何と申す」
「和藁 尊—かずわら みこと—
和服の"和"に、藁しべ長者の"藁"、尊いって書いて"尊"」
「覚えておく……」

テンガロンハットをかぶり直してその人は去っていく。
なぜか、その後ろ姿から目が離せなくて、おれはその人が地平線に消えるまで後ろ姿をずっと見つめていた。

「連絡くれっつったって。今更日本に戻ってもな……」

おれは頭をガシガシかいた。
黄色の髪が一本切れて指に絡みついた。
日本に戻りたくない、それがおれの本心だった。
フランスがつまらないわけではない。
むしろ楽しい。
フランスの国籍を取って日系フランス人になった。
おれは、今の生活に満足していた。
日本に戻れば小学生の時に別れたっきりの弟に会えるかもしれない。
どうしたものかと思い、あの人がくれた名刺を見た。

『優樹菜・オリビア・プリンス』

「はぁ!!?」

その名前は頭が爆発するほどに知っている。
おれが憧れている最強の盾—DF—の名前だ。

「何であの人の話断ったんだ!!!おれのバカ野郎—————!!!!」

ヨーロッパにおれの絶叫が響き渡った。