二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 『イナGO』-アドニス〜永久欠番のリベロ〜 ( No.15 )
日時: 2012/11/14 19:36
名前: 優騎那 (ID: hoeZ6M68)

第六話 『"敗北"への欲求』

紅白試合はおれが振り分けられた紅組の勝利で見納め。
その後は自主練になった。
休憩がてら、おれは太陽の質問に答えることにした。
おれと太陽はベンチに座っている。

「で?何だったっけ?」
「君が"勝利の王子"って呼ばれてるプレイヤーなのかってこと」
「あぁ、それね。確かにそうだ」

勝利の王子。
おれの異名だ。
おれが出たチームはその試合で勝利を約束されることからついた。
正直言って、おれはこの異名をレッテルだと思ってる。

「すごいよ。君がいれば新雲—うち—は最強だね!」
「だろうな。でも……おれは負けたい」
「え?何で……!?」

太陽は目を見開いた。
おれはボトルに口づけ、喉を潤す。

「太陽、お前は負けたことがあるか?」
「うん。そりゃ、誰しも一度は負けるよ」
「だろうな。けど、"勝利の王子"は負けたことがない。つまり、どういうことか分かるか?」
「えっと〜…どういうこと?」
「負けたことがねぇってことは、敗北がどういうものか知らないってことだ。
今でこそ伝説と呼ばれてるイナズマイレブンだって、負けの一度や二度はあったはずだ。
勝利の喜びも、敗北の屈辱も知ってスポーツ選手は一流になる。
負けないままでこのまま突き進んだら、勝つことが当たり前になって、勝利を素直に喜べなくなるんじゃねぇかって…サッカーがつまんなくなるんじゃねぇかって…怖くなる」
「尊………」

おれはベンチにふんぞり返った。
ベンチをおれが占領してしまい、太陽は自然と立ち上がった。
空を仰げば、おれの心理とは裏腹に、雲一つ無い快晴だ。
日差しが眩しい。

「一度でもいいから……誰かおれを負かしてください」

柄にもなくセンチメンタルになっちまった。
勝利なんか、おれが取りに行かなくてもチームメイトが勝手に取りに行くんだ。
おれはパスを出しただけ。
なのに、気づけば勝つことを周りから期待されてるみたいで、心のどこかで"敗北"を求めている。
おれに敗北を教えてくれる奴……どっかにいるんだろ?
隠れてねぇで、出てきやがれ。

「その役、僕に任せてくれない?」
「は?」

太陽はえらく自信満々な顔をおれに向ける。

「僕が尊に勝つ!敗北を知った君は、きっと、もっと強く!尊くなれるはずだよ!」

太陽は堂々と、そして勇猛果敢に言い切った。
やべぇ…にやける。

「おれを負かしてくれるってか?」

おれは左手を挙げた。

「高みで待ってる」
「待っててよ。すぐに追いつくから」

太陽とおれは、パン!!と乾いた音を立ててハイタッチを交わした。
手が痛い、ヒリヒリする。

このかすかな痛みが、おれを敗北へ導くカウントダウンになる。