二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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「一流」と成る
日時: 2010/05/08 01:14
名前: 梶緒 晶 (ID: 4VtwR.3S)

剣の道には、「流派」というものがある。

誰でも最初に一つの流儀を学び、大抵の者はその流れに自らの剣を埋める。

しかし、だ。流派とはただぼつ然として生まれてくるものではない。誰かが、己の剣を磨き、世に唯一つの奥儀を開く、其れが無ければ在ることはない。

「斯くして一刀が極まれり。」
そう後生に伝わる艱難辛苦、一剣客の生涯をかけて辿りつく境地こそ、「一流」、と云う。

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1.平間村の徳五郎 ( No.1 )
日時: 2010/05/08 16:28
名前: 梶緒 晶 (ID: 4VtwR.3S)

(この物語はフィクションです)

上州の南東の端、江戸から今で言う二百キロほど離れた所に平間村という百姓村があった。
村といっても、奥街道がその脇を通るために、世と隔絶した体はみられない。
なるほどその土地はほとんどが田畑山野の景色ではあったが、急ぎでない旅の客が泊まるような旅籠屋敷が二、三と見られた。

その旅籠の一つに「宮苑壺」、というものがあった。
江戸へ向かう旅人が最初に目を留める街道沿いの灯である。
この家の主人は、上州らしい調子のよい男で客が持ってくる珍しいもの新しいものを好む性格だった。
一人の徳五郎という男児が育ったそこは、つまり天下江戸の話が必ず舞い込むところであり、その虚実様々な噂の集まりようは将軍の座敷に勝るとも劣らないまさに城下の帳面板のようであった。
この徳五郎、斯くは言っても所詮は百姓。
学塾に通うことも無く両親の手伝いの合間に近所のボロ道場で荒削りの木刀を振る幼い日月だった。


≫平間村の徳五郎


徳五郎九歳の春であった。
このころになると親譲りの太い眉に、頑固そうな目を上に頂きその鼻っ柱の筋がくっきりとした男の風貌が目立った。
幼い頃から帳場を任されてきただけによく気のつくすばしこい目線に、同様に良く働く頭を持った。
そしてそれ以上にまず見た者に頑丈な印象を与える体格をしていた。
恵まれた星のもとに生まれたと言えるだろう。
当然田舎道場であったが、その中ではメキメキと頭角を現していた天狗坊主であった。

お山の大将といった具合に徳五郎はよく近隣の子供どもを集めては戦ごっこをした。
二十人ばかりを二つに分けて戦国の時代のように打ち合うのだ。
大将が一本取られたら負け。
周りは大将を守り、先に相手から一本、とかけてゆくのだ。
徳五郎が始めたこの遊びはただのばらばらの刀合わせでなかった。
彼は最初から陣を仲間に取らせ、相手の大将の後ろに何人かを回した。
そのくせ加えて彼自身が一つ抜き出て強いものだから、彼の仲間が大抵勝った。

確かに、幼い頃の徳五郎から早くも剣客、いや策謀としても秀逸な素質がみえかくれしていたといえる。

そんなある日だ。
徳五郎がたまに世話を焼いている隣の「瓦屋」の与八が、野犬に噛まれた、と言って片方の足から血をだらだらと流して旅籠に薬を取りに来た。

「その犬、俺が退治してやる。どんなやつだ」

徳五郎は愛用の木刀を腰にひっさげて与八の見舞いに行った。
獰猛ででかくって片耳が垂れた斑のやつだ、
与八は泣きそうな顔で徳五郎に訴えた。
ひどく獰猛なんだ、と何度も繰り返した。
退治すると言った徳五郎の剣幕に最初は押されていたのだろう、がやがて思い出したのか、この気のよい友人だがかなわぬと思ったのだろうしきりに止めるように言い出した。
ふむ、と徳五郎は与八の語る戦々恐々とした野犬の姿を想像した。
その大きさ一尺ほどもある、という。
飛び掛られるとその牙が目の前に容易に達するのだ。





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