二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 曇天 誕生日は酒を呑む為の口実である。up ( No.132 )
- 日時: 2009/06/13 23:42
- 名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)
五月六日。
丹波は自室で荷物をまとめて、万屋に移動する準備をしている。大きな風呂敷包みに、寝間着や、着物などをせっせと詰め込んでいる。
隊士達が何度も引き留めようと努力をしてはいたものの、「銀時が心配で」の一点張りで、彼女の心は揺らぐことはなかった。
たった数日ではあったが、あくせくと屯所中を走り回って掃除やらなにやらをしてくれていた丹波の姿は、隊士全員の瞳に映っている。
「どうしても、万屋んとこじゃないといけないんですかィ」
風呂敷を手に持って、玄関を出ようとしている丹波に、沖田が最後の抵抗の如く声を掛けた。丹波は声を聞いて、戸に掛けていた手を離し、見送りで集まっている近藤達や、隊士達の顔を眺める。
寂しそうな男達の顔を一目見た瞬間、くすりと綺麗に笑った。
「家族は一緒にいるもんだろう」
家族、という縁は、血は繋がっていなくても、どんな糸よりも強く繋がっている。一生会えない家族でさえ、何処かで必ず繋がっている。切ろうとしたって、そう簡単に切れる物ではない。皆、そんなことは分かっていたはずなのに、丹波をここに置いておきたくて仕方がない。
たった数日、たった数日であったのに、こんなにも何故深い関係になったのだろう。
しょぼくれたように、うつむき加減の隊士達に、丹波はでも、と再び言葉をつなげた。
「お前等のことも心配だから、ちょいちょい顔出してやるよ」
あっけからんとした声色の声は、隊士達の表情に光を当てた。
そして、からりと乾いた音を立てて、戸は閉まってしまった。
繋がっていた。と、気が付いた。
22
笑顔の裏には何かある。
日に日に日差しはます一方で、梅雨が来る前であるのにもう気温と気候上では夏と言っても過言ではない。そんな暑さであるので、腕まくりをしたり、薄着の格好をしたりと、その暑さを肌に触れる物だけでなく、視覚で思わせる人々が目立つようにもなってきた。
万屋に至ってもそれは同じで、仕事が少ない上に、気温がコレなので、うっとうしくて退屈な日が殆どの割合を占めていたが、雰囲気としてはどこにそんな元気があったのか、相も変わらず賑やかであった。
ただ、いつもと違うのは、ここ二週間ほど前に家族が一人増えたことである。
大きな風呂敷包みを抱えた奴は、日差し以上に明るい笑顔で戸を叩いた。
「おーい、早くしろよ」
玄関の戸を開けた店の主が、廊下をバタバタと駆けてくる従業員二人に声を掛ける。外はやはり、はっきりとした暑さと明るさがあり、外に出るのは少々億劫になるような陽気であった。
はーい!と威勢のいい返事が意識をはっきりさせる。
階段を降りていく間に、大きな白い犬の頭をなで回す、頭の青い侍が目に入った。しかし、やつはもうお馴染みの男物の着物を着てはいなかった。
店の主曰く、キャラ設定が大切らしい。侍が返事をする前に、何時何処で買ったのか、主は綺麗な着物を引っ張り出してきて、侍の前に出した。
侍の趣味に合う様に考慮された、なんともシンプルな着物であった。白地の布に流れるよう空色の波が綺麗に織られている。
どこかで見たことがある。そんな疑問を抱きながら、侍は主を見つめる。
同じ模様が、主の着物にも織られていた。
「これ銀のと同じやつじゃん」
とりあえず、侍は一番大きく、目の前に立ちはだかる疑問をぶつけてみた。
返答は早かった。
「ペアルックじゃん」
もう、これ以上問いつめるのは無理だと瞬時に察した。
さすがに全て主の物を着るのは気が引けたので、侍は銀時たちが吉原に乗り込むときに着ていたタートルネックのアンダーシャツを黙って着込んだ。そして、下にもなにか履けと、風でちらちら見えると、やはり主にしつこく言われた為に、渋々主と同じタイプの物を履いて、ブーツも履いた。
「なんだよ。それ」
階段から降りてきた主は、バイクにエンジンを掛けながら侍の着ているアンダーシャツにさっそく目を付けた。
従業員二人は、大きな白い犬の背中に乗り込む。
「暑くね?それ脱がね?」
「いや、袖切ったから平気」
「え、なに勝手に細工ほどこしてんの」
侍は「暑いから」と返事をすると、ヘルメットも被らずに主と背中合わせになってバイクに乗り込んだ。「そうですかー」と、すねたように主も返事をした。そして、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
結局、主のおかげで身につけている物は殆どがペアルックであった。
本日の仕事先は、吉原桃源郷。人手が足りないと、なぜか万屋が急遽月詠から呼び出されたのであった。銀時達は、遊女達に引き留められながらも、なんとか日輪の営んでいる茶屋に到着した。
「いらっしゃい。急に呼び出して悪かったね」
「ウチは暇なんで、気にしないでください」
車椅子に乗った彼女は綺麗に笑うと、盆に茶を乗せてきた。
「あら、一人今日は多いね。新人さんかい?晴太ぁ、お茶煎れてきれくれるかい」
「はーい」
日輪は丹波の前までくると、まるで太陽を見上げるように丹波の顔を見た。
「随分と綺麗な顔をしてるね。女の子だね?あんた」
「あ、はい。一応女です」
丹波が驚いたように日輪を見下ろすと、晴太がお茶を持ってきらきらとした表情で駆け寄ってきた。
「あんた、銀さんのなんだ?彼女か?」
「え、いや」
「おう、俺の嫁だ」
「ふざけんなお前」
丹波は表情を変えずに、銀時が肩に回してきた手を払う。すると、神楽が酢昆布をしゃぶりながら銀時の背後に近寄った。
「汚ねぇ手で桜に触んなヨ。天パ」
「んだと、いつからテメーのモンになりました」
「ちょ、ちょっと!こんな所で喧嘩しないでくださいよ」
新八の止めも空しく、銀時と神楽は口喧嘩を始めてしまった。丹波が汗をかきながら、それを遠目に見ていると、日輪はくすりと笑った。
「ほんとに愛されてるんだね」
「ええ、運がいいですよ。俺ぁ」
苦笑いを浮かべながら丹波は目を伏せる。その表情は少し照れているようにも、少し悲しそうにも見えた。
「よし!決めた」
日輪が息なり、ぱんっと手のひらを叩いた。その音に驚いて、つかみ合いの喧嘩を始めていた銀時達も、日輪の方を見た。
「あんたら、しばらくバイトきな!」
「は?しばらくって、なんだいきなり」
「どーせ仕事なんてありゃしないんだろう。ギャラならきっちり四人分だすよ」
「まじでか。宜しくお願いします。日輪様」
「意志弱っ」
きりっとした顔をした銀時は、膝をついて日輪の手をとった。丹波が腕を組んで呆れたように鼻で笑う。
すると、新八が日輪にきいた。
「そう言えば、仕事を依頼した月詠さんは?」
「最近、やたら客がおおくて、百華のやつらにも仕事出て貰わないと間に合わなくてね。月詠も仕事にでてるのさ。でも、百華みんな遊女の方に回すと、何か起きたときに手が回らない。そこで、あんたらに遊女の方を肩代わりしてほしいのさ」
「ええええ!!!そこ遊女のほうですか!?普通百華のほうでしょ!」
「百華の面子は捨てられた遊女や、逃げ出してきた遊女ばかり。見つかったらなにされるかわからないんだよ。変な仕事はさせない。酒をついだり、話しをしたりするだけさ。それで金がもらえるんだ。これに越したことはないだろう?」
四人は顔を見合わせて、首を縦に振るしかなかった。
「どーもー、万屋でーす」
太夫の着物に身を包み、やる気のない声で銀時達は月詠のいる店のある部屋に通されていた。すると、少し呆れたような顔をして百華の頭は言った。
「なんじゃ、ぬしら気持ちの入ってない声は」
「るせーな、今日は上玉連れてきてやったんだ。ありがたく思えよコノヤロー」
銀時が親指でさす方を見ると、慣れない女物の着物と、黒い髪のかつらにカチコチに緊張した丹波が青い顔で座っていた。
「しっかりするネ!桜太夫」
「…どちらさん?」
「俺の嫁」
「違うっつってんだろバカ」
二度目の似たような会話に、さすがの丹波も反応が早くなってきた。
「万屋の新人か、名は?」
「丹波桜です。宜しくお願いします」
緊張した面もちで丹波が頭を下げると、ころりと髪の毛がとれた。かつらなのだが、息なりのことに流石の月詠も身体を跳ねさせた。そして、またぱっと顔をあげた丹波の顔を見て、更に驚いた。
「おおお男か!あれ、女か?」
「すんません。女です、一応」
ただただ汗を流して、丹波は慌ててかつらをはめ直した。かつらを被った途端、髪が短かったときのイメージは真っ白になり、女としか見えなくなった。月詠は丹波の顔をまじまじと見つめ、感心したような表情をみせる。
「はぁ、接客は全然いけるな。うん、桜は接客決定」
「ええええ!まじすか」
普段あまり大きい声を出す方じゃない丹波は、珍しく悲鳴にも似た叫び声をあげた。月詠はそんなのお構いなしに、何か名簿のような物に書き込んでいる。
「ここは吉原のなかで、唯一遊女のいない場所。どちらかと言えばキャバクラに近い所。目立たない店だから、お偉いさんがお忍びでわんさかくる。幕府の者から、裏の者まで」 部屋に、さっきまではなかったぴりっとした緊張感が漂う。月詠はぽんと音を立てて名簿を閉めると、落としていた視線を吊り上げた。
「最近、この店に出入りする者が極端に増えた。裏の者か、表の者か、よくはわからんが何かがあるはずなのは確か。だからわっちはぬしらを呼び寄せたんじゃ」
ギャラが高くつく理由も、しばらくバイトで来いといった理由も、いまここではっきりした。日輪の笑顔の裏には、やはり危険な仕事が隠れていたのだ。
そのうちに、他の三人まで顔が青ざめてきた。
「もしかして、しょ…将軍様とかも?」
いきを呑んで、銀時は震える唇をおさえながら恐る恐るきいた。すると、月詠はあまりにあっさりした顔で
「あのお方は常連じゃ、多いときは週2ペースか?」
銀時達は撃墜された。