二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 曇天 たまの怪我だもの、チヤホヤされたい。up ( No.24 )
日時: 2008/08/15 22:30
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

 

土方から思いっきり電話をブチ切られた山崎は、変に思いながらも携帯を懐に収めた。「本当に30秒でくるのかな。副長」
 素朴な疑問から、山崎の中に可愛いお茶目心が生まれた。山崎は周りに人がいないのを確認すると、指を折りながら数を数えだした。
「いーち、にーぃ、さーん、しーぃ、ごー…」


 3
 知らない人にはついていっちゃ駄目。


「山崎ィィィィィィィ!!!」
 後ろからもの凄い声が聞こえたかと思うと、鬼どころじゃない、もの凄い形相をした土方が猛ダッシュでこちらへ向かってくる。後ろには、なんかフワフワした描写を取り巻きながら、近藤達も駆け寄ってくる。
「ぎゃァァァァァ!?30秒どころじゃないじゃないですかァァァァ!!」
「山崎ィ!祭りはどこだ!!お妙さんはどこだ!」
「へ、姉御?」
「山崎、このゴリラは放っておけ」
 土方は汗だくで煙草を取り出し、火をつけてやぐらを見上げた。
 花見客すべてを人質にするくらいのやぐらだ、でかくないわけがないのに、高さも半端なくあった。山崎は根気よく馬鹿三人に今の状況を教えているらしく、あーでもないこーでもない言っている。  
 すると、やぐらに取り付けてあるスピーカーから、男の声が響いてきた。
「はっはっは!幕府の犬ども!!ショータイムだ。今から恐怖に怯えた人質どもの声を聞かせてや…」
「やっほォォォォ!!銀ちゃーん!聞こえるアルかァァァァ」
「あ、チャイナでィ」
 沖田の指を差す方を見ると、攘夷派の男を押しのけて神楽がマイクを握っていた。
「なにやってんだお前ェェェェェェ!!!」
「このおじちゃん達ふりかけいーっぱいくれたネ!!」
「ハーゲンダッツもよォォォォ!」
「銀さァァァァん!!僕は止めましたからね!別にッ、フィギュアなんかにつられてませんからねェェェェェェェ!!!」
「てめェらァァァァァァ!一生人質のほうが幸せなんじゃねぇのォォォォォ!!」
 銀時が大声で叫ぶと、沖田がパトカーからスピーカーを取り出して口にあてた。
「テロリストどもー、チャイナの命を捧げるんでェ!他の人質を解放してくださァァァァい!!」
「てめェェェ!」
「ちょっ!嬢ちゃん危ないからやめて!」
 神楽がやぐらから身を乗り出して、沖田に飛びかかろうとするが、なぜかテロリストの男が数人係で神楽を支えている。どっちがテロリストかわからない。   
 すると、威厳を保ったオーラを振りまき、近藤が沖田からスピーカーをひょいと取り上げた。深く息を吸って、声をぶつける。
「お妙さんはァァァ!お妙さんだけは返してくださァァァァい!!」
「てめェも私情かァァァァ!!」
 土方が近藤に怒りの鉄槌を下す。土方のかかとは見事に近藤の後頭部を粉砕した。
「ちくしょう。どいつもこいつも」
 土方はあきれたように頭を抱えてため息をついた。
 次の瞬間、強かった風が何かに引き寄せられるように、より強く流れた。上着が鳥が羽音をたてるように騒ぎ立て、煙草の火が消えた。
 大声で神楽と喧嘩していた銀時も、沖田も、気絶していた近藤も、妙に強い風に気が付き、風が吹き込む方へ目をやった。
「てめェは…!」
 包帯を顔を隠すように巻き付け、紺で麻の着物。指名手配の写真に乗っていたあの侍だった。
「確保ぉ!!」
「うぉらァァァァァァ!」
 土方のかけ声と共に、刀を抜いた隊士達が一斉に襲いかかった。しかし、切り落とした感触は無く、刃物がぶつかり合う音のみが響いた。
 侍の姿がない。
「消えただと」
「んなわけあるか」
 土方の顔の横を、風と共にあの侍が横切った。
「!!」
 土方は素早く刀を抜き、胴を切り裂く様に振った。手には何かを切った感触が伝わる。しかし、背中に新しい風が福のを感じた時にはもう遅かった。土方の刀と、身体の自由を奪われた。
「はぁぃ、終了」
「てめェ」
 この展開、あん時と同じじゃねぇか。胸クソ悪ィ。
 そんな事を思っていたら、侍は頭の包帯に手をかけた。土方には見えないが、包帯がとれるにつれて、みるみる銀時の表情が変わっていった。
「いくぞ。銀時」
 侍はそういってクククッと喉で笑うと、刀を地面に突き刺して土方を解放した。そして、腰に差していた自分の木刀に手をかけ、やぐらの方へと歩み寄っていった。
 銀時と並んだ時、後ろ姿ではあったが、土方は初めて侍の姿を見た。桜の中に一輪だけ、青い花が咲いたかのような。鮮やかな青い短髪。     
 
 紛れもなく、二人の侍が今。
 刀を抜いた。