二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 曇天 知らない人についていったら駄目。up ( No.30 )
日時: 2008/08/16 23:08
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

 風が吹く方を見たら、指名手配の侍がこっちに向かってきていた。
 まさかと思った。信じられなかった。

「んなわけあるか」

 この風、あの声。
 土方を押さえつけたまんま、そいつは包帯を取った。
 目が合う、吸い込まれそうな青。
 風に遊ばれる青い、短髪。
 間違いなかった。

「いくぞ。銀時」
 アイツは、笑っていた。


 4
 そう、それはまるで大空の様な。   


 物心ついた時、もう俺の側にはアイツがいた。
 何時から一緒だったかは、互いにわからない。
 何故一緒にいるのかも、互いにわからないが、俺もアイツの側にいた。
 アイツは俺の、ただ一人の家族だった。

 俺の中で、一番古いアイツの記憶。
 青い髪に血を浴びて、刀を握っているアイツの姿。
 そのすぐ後だったかもしれない、松陰先生に拾われたのは。
 それからは楽しい日々だった。
 血を見なくていい日々、人を殺さなくていい日々。
 
 しかし、それも長くは続かなかった。

 松陰先生が殺されたあの日から、全員が抱きだした憎悪の念。
 アイツだって、泣きたかったに違いないのに、アイツの涙はみたことがなかった。 
 アイツに憎悪の念なんかなかった。
 黙って刃を握り、腕を振るうだけだった。
 
 
 俺とお前は、いつからか夜叉などと呼ばれていた。
 頭の色に、夜叉くっつけただけの、単純な名前。
 自分でも似合ってると思った。
 お似合いだった。


 空は曇天。
 目の前は敵の山。
 ついにはお天道様まで、俺たちを見離しやがったのか。
 銀時は舌打ちをした。
「どーせ死ぬならよォ。こんな牛どもじゃなくて、若い姉ちゃんに殺されたかった」
「なんだソレ」
 銀時たちの背中にあるのは断崖絶壁。もう後戻りはできない。
 全員で空を仰いだ。
「はぁーぁ。せめてお天道様の下で死にたかったなァ」
 全員でそんな事をぼやいたら。
 アイツはいつもの乾いた声で、高らかと大声をあげて笑った。
「へッ!んなとこでお前らなんかとおっ死ぬなんざ、俺ァ御免被るぜ」
「んだと!?てめェっ」
 アイツは高杉の話を最後まで聞く前に、敵を背にして銀時たちを見つめた。
「死ぬなら一人ずつ、畳の上で笑って死ねや」
 そう言うと、アイツは刀に風纏わせて銀時達を反対側の崖へと吹っ飛ばした。
 次の瞬間、アイツのいた崖が敵と共にがらがらと轟音を建てて崩れていく。
 変な体勢で着地したため、身体の痛みがひどいが、銀時はそんなのお構いなしに、崖に身を乗り出して叫んだ。
 すると、その声を掻き消すように大声が響いた。大声だけが響いた。
「待ってるからなァァァァァァァァァァァ!!!!」
 頬に幾筋もの涙が伝う。
 銀時の身体を支えていた桂も、坂本も、高杉も声が枯れるまで泣いていた。   

 その数日後、坂本が攘夷から脱退した。
 その1週間後、攘夷戦争が幕を閉じた。
 アイツは最後まで美しく生きた。松陰先生も同じなのだと、自分に言い聞かせた。



 あれから幾年経っただろう。
 いつも夢見るだけだったあいつの笑顔が、今目の前で咲いている。
 隣に並んでいる。側にいるのだ。

「帰ったぞ、銀時」

 そう、俺は雲だ。
 お天道様かくしちまう。
 俺が雲なら、お前は空か。
 また、その青い光で、俺を包み込んでくれ。

「遅ェんだよ。バカヤロー」

 俺とお前。
互いに夜叉などと思ってはいなかった。
 例えるなら、

 そう、それはまるで大空の様な。