二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 曇天 いい女ってのは見た目じゃねェ。ココだ、ココ。up ( No.43 )
日時: 2008/08/23 21:32
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

 お花見事件後の夜。
 土方は、こっそりと自分の部屋を抜け出した。
 少しまだ肌寒い春風が、薄い着物をすり抜ける。今日の丹波の顔を思い出すと、頭に血がのぼって眠れなかった。
 薄暗い廊下を歩き、向かったのは近藤の部屋だった。別に用事もないし、ましてや丹波のことについて話す気なんかさらさらないが、なんとなく近藤の部屋に行きたい期分だった。
 近藤の部屋の前について、戸に手をかけたときだった。自分の手に触れる、他人の手を感じて飛び退いた。
「うァァ!!」
 二人とも同時に声を上げて手を引っ込める。土方の目に映ったのは、沖田だった。
「なんでィ、脅かすな土方コノヤロー」
「こっちの台詞だ」
「おい、何の騒ぎだ?」
 啀み合う二人の間に仲裁にはいる様に、戸が開いて近藤が出てきた。土方と沖田がいるのに気が付き、二人の顔をかわるがわるにのぞき込むと、近藤は全てを悟った様に白い歯を見せて笑った。
「ま、ま。二人とも入れ入れ」
 二人は気まずそうに顔を見合わせると、近藤に肩を引っ張られながら部屋へと招かれた。


 6
 死んだ人も出てきます。ご了承ください。


 近藤はまだ、今日の分の書類整理が終わっていなかったらしく、二人を招き入れると机に向かって腰を下ろした。
 近藤の部屋の外側の戸は開け放されていて、闇の中から涼しい風が吹いて、部屋を通り抜けた。
「近藤さん、寒くねぇのか」
「風呂出たばっかだからな。寒かったら閉めていいぞ」
 土方が寒そうに身を丸め戸を閉めようとしたとき、沖田がそれを阻止するかの様に縁側に腰を下ろした。
「寒いなら部屋に帰るこった」
「誰も、寒ィなんて言ってねぇ」
 土方はムキになって沖田の隣に胡座をかくと、懐から煙草の箱とライターを取り出した。蓋を開け、逆さにして煙草を出そうとする。が、煙草が出てこない。 
「でもなァ、あの侍がまさか女だったとは。名前なんつったっけ?」
「丹波桜でさァ」
 近藤が頬杖をつきながら聞くと、真っ先に沖田が答えた。
 土方は箱の中を覗いて煙草を見つけようとするが、どうやら切らしてしまったらしく、ため息をついて左手で箱を潰した。
「くそっ、煙草切らしてやがった」
「ねぇ、トシ話聞いてる?」
「あん?」
 土方が振り向くと、近藤と沖田はやっぱり聞いていなかったな。という顔でこちらを見つめていた。
「何の話だ?」
「今日のあの青い髪の侍の話だ」
「アイツか…」
 土方は虚空を見つめる様に夜空に視線を投げると、小さくため息をついた。
 丹波と言ったか、アイツの事を考え出すと頭の中がいっぱいになっちまう。原因もわからねェ。アイツと会ったそん時からだった。
「おい、どうした」
「え」
 近藤に声をかけられ、初めて正気に戻る。あまりにも情けない声を上げて近藤の方に身体を向き直る。近藤は少し赤い土方の顔をおもしろそうに見つめていた。
「今日のトシ、おもしろいな。なぁ総悟」
 近藤が沖田に話をふるが、総悟からの応答はない。総悟はボーっとして、目線が一点にとどまらずに宙を浮いていた。さっきの土方の様な状況だった。
「アレ、総悟もトシみてェになってる」
「その言い方はねぇだろ」
 土方と近藤の会話も耳に入っていない様だ。顔は気のせいか、少し赤かった。
 すると、近藤の部屋の戸を叩く音がした。
「局長。失礼します」
「どーぞー」
 近藤が言葉を返すと、静かに戸を開けて、1人の男が入ってきた。
 伊藤鴨太郎だ。  
 土方と、ボーっとしていた沖田がさすがに気が付き、ええええええってなる。近藤はそんなの気づかず伊藤を座らせる。
「アレ、お前。かなり前に死ななかった?」
「作者がオールキャラを目指すと言ってな。再登場だ」
「えええええ!作者の私情のせいであの感動的なシーンがパーだよ」
「読者様が減ったら、アンタのせいですからねィ。先生」
「それは僕じゃなくて、作者に言ってくれ」
 伊藤は眼鏡を手で押し上げながら反論した。伊藤は心なしか少しウキウキしている様で、表情が動乱編と打って変わって軟らかかった。
 しかし、なんでこうも早く伊藤がここに馴染んでいるのかは、全くと言って土方には理解できなかった。
「お前、なんかいい人になってね?」
「根はいい奴なんだ。そう言えば、局長。話があるんです」
「ん?なんだ」
 伊藤は少し、顔を赤らめて言った。
「今日のテロで、あの万屋と一緒にいた人の名が知りたいんですが」
「丹波桜ってんでさァ」
 また沖田が土方の声を掻き消す様に声を張り上げた。伊藤は名前を聞くと、なんか可愛らしい描写をふわふわと取り巻きながら話し出した。
「あんな綺麗な人が真選組いたら、今の悪い評判もなくなると思いませんか」
「おお、さすが先生。一理あるな」
 近藤が目をキラキラさせながら言うと、待ってましたとばかりに伊藤は懐から一枚の紙を取り出して近藤に手渡した。土方と沖田も、近藤の背後に回って髪をのぞき込む。
 紙には赤の目立つインクで《探し人》と書かれ、その下には丹波の写真と、色々な説明書きが記され、最後には真選組の屯所の電話番号が広く場所を取っていた。
「なんか、指名手配書みたいですねィ」
「指名手配では、なにも悪事を働いていない丹波さんに迷惑がかかる。あくまでも真選組が探している人物。と言う柔らかいイメージで一般市民に探してもらうんだ」
 土方は、あまり気乗りはしなかった。それは、丹波が包帯を巻いていた時に指名手配を猛反対していた近藤も同じだと思った。
 が
「おおー、いいね。さすが先生!良い作戦だ!」
「えええええええええ!!!!てめぇ!指名手配とか一番拒否ってたのお前だろ!!」
「だって!今回は悪い意味じゃないよ!ご招待だよ!」
「そうでさァ!」
「てめェ!どっちの見方だァ!!」
 そう言われてしまうと、土方はなにも言えなかった。伊藤は、早速明日から隊士達に配らせる。と言って部屋を出ていってしまった。
 近藤と沖田は妙にご機嫌だった。
 そんな光景をみて、土方は少々複雑な心境だった。
 
    
夜中の11時頃、土方は自分の部屋に戻ってきていた。
 仕事は全て片づき、することは無いが、布団の上に胡座をかいて考えて見た。
「丹波が、真選組にねェ」
 想像がつかないが、悪い物ではないとだけは理解した。
 そして最後には、少しだけ。丹波に真選組へ来て欲しいと思ってしまったのだ。