二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 曇天 同じネタは、忘れた頃にやってくる。up ( No.56 )
- 日時: 2008/09/12 22:45
- 名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)
「あーっはっはっは!!おっかしいなァ!あの真選組の奴ら、からかいがいがあるよ」
「姉御のおかげで良い物みれたアル!!」
「多串くんのあの顔は見物だったなァ!」
「あんまり笑ってると舌かみますよ」
真選組の手から逃れた万屋達は、行く当てもなくただ走りながら、みんなで先ほどの真選組達の反応を思い出し、大爆笑していた。
新八も冷静になろうとしているが、よほど面白かったのだろう。笑いをこらえる為に、痙攣する腹部を押さえながら走っていた。
三人とも、久しぶりに大声で笑った気がした。丹波の明るい性格のおかげか、こんな切羽詰まった状況も、なんとなく
しばらくかぶき町の通りを、人の間を縫う様に走っていると、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。四人は慌てて路地裏に飛び込んだ。
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警察だってマナーを通せ、マナーを。
しばらく路地裏に入って、身を潜めているとサイレンの音が遠ざかるのを待っていると、気になる会話が聞こえてきた。
「なんだ?」
銀時たちはトーテムポールの様に重なって、壁から顔を覗かせる。会話をしている膝上丈のミニスカートで目の前を歩く、二人の女子高生に聞き耳を立てた。
「ねぇ、知ってるー?あの指名手配のイケメンいるじゃん?あの人悪いことしたわけじゃないんだって、朝のテレビでやってた」
「へぇー、なに?」
「なんか、真選組のイメージアップの為にどうしてもあの人に入って欲しいんだってェ」「えー、なんか真選組最低ー。でもあの人になら捕まってもいーかなー」
「あ!言えてるー捕まえて欲しいー」
「ハスキーボイスでさァ、耳元で『逮捕する』的なー!」
「やだァ!まじ興奮する!!」
「ユミへんたーい!!」
きゃぁきゃぁ言いながら遠ざかっていく女子高生達に聞き耳を立てていた銀時たちは、眉間にしわを寄せた。
「アイツら、姉御を真選組に入れるつもりだったネ!」
「幻滅だな」
「あんたの鼻血に幻滅ですよ。僕は」
一体何を想像していたのか、銀時のせいでアスファルトは真っ赤な水たまりができていた。
三人がカンカンに怒っているのを少し離れて見ていた桜は、どんどん近付いてくるサイレンの音に気が付いた。
じっと音がする方に目を凝らすと、パトカーがアクセル全開でこっちへ向かってくる。しかもそのパトカーには運転席に沖田、助手席に伊藤、後部座席に近藤と土方が乗っていた。
「丹波ァァァ!」
「に、逃げろォォォォォォ!!」
丹波が大声を張り上げると、銀時たちもそれに気が付いたらしく大声をあげながら全力疾走しだした。銀時は丹波と並ぶと、できるだけ細い路地を選んで誘導していった。
パトカーが入るかは入らないかの路地裏なのにもかかわらず、運転手の沖田はスピードも落とさずに突っ込できた。予想外である。
「うおェェェェ!!!ついにアイツら頭が狂ったか!?」
「銀時ィィィ!前見て走れェェェ!!」
しかし、路地裏もそんなには長くない。四人は予測はしていたが、とうとう行き止まりが見えてきてしまった。新八はさすがに目を見開き、金切り声の様な声を上げる。
「んげェェェェェ!ちょっ、コレあの人達ひく勢いなんですけどォォォ!」
ついに行き止まりで、にっちにもさっちにも行けなくなってしまった。この状況に及んで、銀時は何かをひらめいたようだ。パチンと指を鳴らし、神楽の肩を叩いた。
「神楽!おまッ、傘でバババッて!」
「あー、あの傘修理中アル。こないだラーメンこぼしてショートしたネ」
「お前ェェェェ!肝心なときにィィィィ!!」
銀時が神楽と口論になっている最中、パトカーはパトカーの中で大変なことなっていた。「ちょ!総悟おまっ、ここアブねぇって!!聞いてる!?」
「ひゃっほォォォォう!!あと30キロくれェだしたら風になれそうでさァ!!」
「いやァァァァァ!この子別の世界の扉開いちゃったァァァァァ!!!」
近藤が助手席の椅子にしがみつきながら沖田に声をかけるが、沖田はまったく話を聞いていない。すると、土方も必至に何かにしがみつこうとしながら声を張った。
「ってか!コイツ免許もってるッけェェェェ!?」
一瞬、ほんの一瞬だけみんなが冷静になって、沈黙になった。
「俺に免許なんかいらねェ!車があれば十分でさァァァァ!!」
「車=免許なんだよォォォォ!二つで一つなんだよォォォォォ!!ってかお前誰ェェェェェェ!!?」
「沖田君!!ブレーキ踏んで!ブレーキ!!」
後部座席の二人は完全にパニくっていて使い物にならないが、伊藤はなんとか冷静に対処しようとして焦りながらも、まともなアドバイスをした。
が、やはり三人は地獄への切符しか持っていない様だった。
「ブレーキって誰?外人?」
「いやァァァァァァァァァァァ!!!!」
外も中も、もう駄目だと頭を抱え、目を見開いた。
そこで、丹波が一歩前へでた。悠然とパトカーの前に立ちはだかると、ゆっくりとパトカーを見つめた。すると、ひどく高い叫び声をパトカーがあげた。沖田はブレーキを知らないはずなのに、タイヤが悲鳴を上げて急ブレーキをかける。
そして、がくんと勢いよく前に突き出すと、丹波にギリギリ触れるか触れないかで、キチッと止まった。
銀時達も、近藤達も、しばらく呆然と丹波を凝視していた。その空気を引き裂く様に、丹波はパトカーの中の近藤達に声をかけた。
怒っているわけでも、呆れているわけでもない、いつもの丹波がパトカーの中をのぞき込んで、声をかけた。
「どうした。はやくパトカーから降りな」
言うことを聞いて、ぞろぞろと四人が出てくる。ふと、土方が銀時に目をやると、アイツは今までに見せたことのない表情で、懐かしそうに丹波を見つめていた。
そこで丹波に目をやると、狭い路地裏から、狭い空を見上げていた。
「やっぱテメェは、風女か」
銀時が言うと、丹波は空を見上げたまま。「おう」と一言だけ答えると、目をつぶった。
すると、細い路地裏の向こうから、風の音が聞こえてきたかと思うと、銀時達を包み込んだ。次々と新しい風が四方八方から吹き抜け、土方達の横をも通り抜け、丹波に吸い込まれる様に、吹き込んだ。
この異様な光景に、銀時以外の全員が息をのんだ。
「まぁ、こんなとこか」
丹波が息を付くと、あんなに吹いていた風がぴたりとやんだ。
それと同時に土方は、自分が丹波に見とれていたのに気が付いて顔を赤くした。しかし、自分の隣を見ると、沖田と伊藤の方が赤い顔をして、熱い視線を丹波に送っていた。
丹波はまた近藤達の方を見ると、白い歯を見せて笑った。
「悪いがな、俺には家族がいるんでね。そんなに真選組に俺をいれてェなら、マナーを通せ。マナーを」
気が付けば、もう夕方になっていた。オレンジ色の光が差し込み、辺り一面オレンジ一色に染められた。すると、神楽の腹時計が音を立てる。
「銀ちゃーん、おなか減ったアル」
「あ、夕飯の買い物してないです」
新八が思い出した様に言うと、銀時はまた何かをひらめいたらしく、わざとらしく大きな声で言った。
「あー、丹波の料理が久しぶりに食べてェなぁー」
「桜、料理できるアルか!?」
「え、まぁ…な」
さっそく神楽が食いつく。銀時の計算通りだ。
「でも冷蔵庫からだなー、我慢しろォ。神楽」
「ええ!そんなん嫌アル!!干物になってしまうヨ!」
「なら、俺たちの屯所の冷蔵庫使え」
近藤がさらりと言うと、銀時は目を光らせた。
「まじ?丹波に屯所の野郎どものも作らせッから」
「ええええええ!?その交換条件、俺しか被害くってないじゃん」
「あー、もしもし。原田さんですかィ?今日は夕飯の準備しないでくださいねィ」
「ちょっとォォォォ」
丹波が必至に訴えようとするが、もうその言葉は誰の耳にも届かず、全員ぞろぞろとパトカーに乗り込もうとしている。
「桜ぁ、はやくのれー」
丹波は浅くため息をつくと、仕方なさそうに口元をつり上げた。
「しかたねぇな」