二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 曇天 学校じゃ給食の時間はスターウォーズ。up ( No.76 )
- 日時: 2008/10/23 19:33
- 名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)
pm8:25。
全員の腹は丹波のお手製カレーで満たされ、幸せそうに膨らんでいた。
カレーを12杯たいらげた神楽と沖田の腹に至っては、まるでバランスボールを無理やり服の下に突っ込んだ様な状態になっており、無論、動ける様な状況ではなかった。
「はぁー、やっぱ桜の料理は最高だな」
銀時が腹をさすりながら丹波の肩を抱く。丹波はチラと銀時の顔を見ると、口角吊り上げて湯飲みの茶をすすった。
「昔と同じ味だ」
銀時が言うと、丹波は机に湯飲みを置き、傍らにあった自分の木刀に手をかけた。
「桜?」
急に立ち上がった丹波を銀時が見上げると、丹波は黙って窓を開けた。
隊士達の視線も、自然と丹波の方へ流れる。
丹波は窓枠に片膝立てて腰をかけて、強く木刀を握った。せき止められていた水がいきなり流れ出す様に、窓から風が吹き込んできた。
実に心地よい風、気持ちのいい風だった。
「風はどうだ。昔のままか」
丹波が銀時を見つめながら問いかけると、銀時は穏やかな顔で黙って頷いた。
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寝る子は育つ。育つッたら育つ。
「気持ちいいーアル」
「ほんとに、丹波さんの風ってすごいですね」
新八と神楽は丹波に駆け寄り、窓枠の側にもたれかかった。吹き込んでくる風は部屋中に吹き渡り、原田以外の髪をもてあそんだ。
「お、そうだ。いいモンあるぞ」
近藤は思いついた様な顔をして、台所へすっ飛ぶと、何やら日本酒の入った瓶を何本も抱えてきた。ソレをみた銀時は目を輝かせた。
「おお!?酒じゃねーかッ!ゴリラいいもん持ってきたな、えらい。バナナやるよ」
「つまみにバナナってあわねーだろうが!」
「そこですか、近藤さん。ああー神楽ちゃんはバナナ食べ始めないでよ」
「てやんでィ、酒のつまみは昔からバナナって決まってるアルぜィ」
「え、誰?」
隊士達が酒だ酒だと騒ぎ立てる。
しばらく目をつぶって風を感じていた丹波は、近藤達の話を聞いて目を開いた。
「なんだ?酒飲むのか」
「ん、まぁな」
近藤が「一緒に飲むか」と一升瓶を持ち上げると、丹波はつまみを作ってきてやる。といってフラフラと部屋を出た。
局長から酒の席への変更が連絡された途端、宴会所は一気に盛り上がった。隊士達の会話にも花が咲く。
丹波が出て言ってから五分位しただろうか。その騒ぎに乗じて、銀時は近藤に耳を貸せとジェスチャーをした。近藤は訳もわからず耳を寄せる。
「なんだ?」
「良いこと教えてやるよ」
「良いこと?」
銀時はしっ、と人差し指を口に宛てて辺りを確認した後に続けた。
「丹波の酒癖、教えてやる」
「酒癖?なんだ、酒乱なのか」
「ちげーよ。もっと良いモンだ。あの…」
銀時がソコまで言ったところで、戸が大きな音を立てて揺れた。向こう側から丹波の声が聞こえる。
「誰か開けてくれッ!腕がちぎれるっての!」
その助けを聞いてすかさず伊藤が立ち上がり、戸を開けてやる。丹波の手の中の大皿には山盛りの枝豆が、脇には新八と神楽用のコーラまで抱えていた。
「おまちー」
「待ってましたァァァァ!!」
ムサいおっさんどもが拳を天井に向かって突き上げて、歓声を上げた。
速やかに猪口が配られ、夕食が酒の席へ突入した。が、意外に屯所は酒が入っても、予想以上にまあまあ落ち着いていた。
酒を含みながら枝豆を口に運び、花見開場などでワイワイやっている、ただのおっさんたちにしか見えなくなっていた。
至って平和な宴会場。
だが、そんな大人達が酒に舌鼓を打つ中、丹波だけは一口も酒に口を付けていなく、新八達とコーラを飲みながら話をしていた。
それに銀時が気が付く。
「あ、やっぱ桜酒飲んでねーや」
「やっぱりって、丹波さんは弱いのか?」
伊藤が聞くと、沖田と近藤も話しに加わってきた。
銀時は伊藤の質問に首を振る。
「弱いんじゃねェ、ちょーっと幸せな酒癖を持ってンだ。けどガードが堅くてねェ、なかなか酒のまねーの」
銀時の話を聞いている内に、近藤達はその酒癖を拝見したくてたまらなくなったらしい。どうやって飲ませるかを討議しだした。
「急に飲めって言っても、怪しまれるだけでさァ。丹波さんのコーラに混ぜるってのは?」
「それは一理あるね、いいかもしれない」
銀時はソレを聞くと、はぁとため息をついた。
「丹波はコーラに混ぜた位じゃ酔わねェ」
ただ、と続ける。
「コップ一杯分飲ますだけで良い、一杯飲めば油断して二杯三杯って勝手に酔ってくからな」
なるほど、と全員が腕を組むと真剣な顔をして考え出した。
いつも不真面目なメンツが、そんな姿を見せてはおかしいと思わないワケがない。敏感な土方はそれにただ一人気が付いていて、聞き耳を立てていた。
丹波の酒癖って何だ?
ちびちびと飲みながら土方は、どう飲ますかを一通り案を出してはみる。しかし、どれも頭の中でボツをくらって消えていくばかり。だんだん考えるのが嫌になり、吹っ切れた様に黙って立ち上がった。
片手に酒の入ったとっくりを二本と、猪口を二つ掴んで、あーでもない、こーでもない。と討議している輩の横を足音立てて通り過ぎ、神楽たちと楽しげに会話をしている丹波の前に腰を降ろした。
「てめェも飲め」
ずいとぶっきらぼうに猪口ととっくりを突き出す。身体が勝手に動いた。いきなりのことに、丹波はそれをびっくりした様に見つめた。
自分の後ろで、銀時達が目を丸くして見ているのが視線でわかる。
少し強引だったか。と土方があきらめた様に顔をしかめると、丹波は白い歯を見せて土方の手からそれらを受け取った。
「どーも。丁度飲みたいと思ってたところだ」
「お、おう」
土方は胸をなで下ろすと、自分のとっくりの酒を丹波の猪口についだ。丹波も土方の猪口に酒をつぐ。つぎ終わると、二方共に目を伏せながら音もなく口に運ぶ。
「うめェ、どこのだ?」
「さァな。俺は酒には詳しくねェが、近藤さんが…」
「それは薩摩の酒だ。いける口だな」
丹波が聞くと、土方の背中から近藤がここぞとばかりに顔を出した。
近藤に続いて沖田達も話しに入ろうと丹波の周りに集まる。
「近藤さんばっかズルイですぜィ」
「僕らもいいかな?」
伊藤が問いかけると、丹波は「悪いワケねェだろ」と笑った。だがそこで、銀時はいつの間にか丹波の隣に座っている神楽の隣を陣取った。軽く土方達を警戒している。
「いーな。私も銀ちゃんのが飲みたいアル」
「ガキは酒飲んじゃいけねーんだ。今ココでしょっぴってやろうか」
「てめェも下の毛生えてねーケツの青いガキだろーが、テメェの首しょっぴくぞ」
「ちょっと、やめてくださいよ」
また二人から変なオーラが出てくる。新八が止めようとするが、それも呆気なく鎮圧される。黒いオーラに。
すると、いきなり丹波が頬を染めた顔で、満面の笑みを浮かべた顔で言った。
「総悟、おすわり」
「へいっ」
沖田はもうほとんど反射的に自分の場所に戻ってキチッと正座をした。なんか顔もりりしくなっている。
あれ、なんかおかしいぞ。
近藤達がそう思い出した途端、銀時は目を光らせた。
すると、心配した新八が丹波の顔を見て言った。
「丹波さん、顔赤いですよ!大丈夫ですか?」
「おぉ。大丈夫だァ」
「えっ!ちょ…」
丹波は赤い顔で新八を抱き寄せると、「お前は良い子だなァ」と言って頭をくしゃくしゃとなで回す。近藤達はいきなりの事に驚きを隠せず、ぽかんと口を開ける。新八の顔も耳まで赤くなる。
けれど、そんなのお構いなしに当の本人は新八を抱きしめたまま、寝の体勢に入ろうとしていた。
「あー、こら桜寝んじゃねーよ」
銀時はうとうとしている丹波の身体を抱きかかえると、自分の胡座の上に乗せた。身長差もかなりあるため、子供の様に見える。それでも丹波の瞼は重たそうに浮き沈みをしていた。
「これは、酒弱いって言うんじゃないの」
近藤が汗を掻きながら聞くと、銀時は首を振る。
「飲むまでが大変なのさ。なー、桜」
「なー」
なんだかわかって返事をしているのか。と問いかけたくなる様な適当な返事。
だが、なんか小動物みたいだ。
「この酒飲んでる時のが一番素直なんだ」
銀時が丹波にほおずりをしながら言うと、近藤がなんかうずうずしだした。父性本能というものだろうか。
「なんだ?ゴリさん」
「俺もいいか?」
「えー、しかたねぇな」
銀時は渋々丹波を明け渡す、近藤は嬉しそうに優しく受け取った。抱きなおして自分の胡座の上にすっぽりと座らせると、丹波は周りの様子が変わったのに気が付いたらしく、もそもそと動いて言った。
「匂いが、違う」
「え、」
近藤が反応する前に丹波は身体の向きを変えて、近藤の胸に顔を埋めて抱きついた。近藤の顔もガラになく耳まで赤くなる。
「うお、コレは…」
近藤は丹波の髪を手でとかしながら銀時と目を合わせ、親指を立てる。
「いいな」
「だろ」
今日の近藤と銀時は妙に気が合い、ニマニマしている。
すると、だんだんと近藤のまなざしが優しくなり、猫をなでる様に頭をなでた。
「あー、でもどうしよう。俺にはお妙さんが」
「誰がゴリラにやるっつった。俺の嫁を」
「いつのまにアンタの嫁になったんでィ」
銀時と沖田の言い合いが始まった。それを待ってましたとばかりに、伊藤が近藤に言った。
「近藤さん、いいですか。僕も」
「ほいほい」
近藤は丹波を優しく伊藤の膝に乗せる。丹波は移動させられた途端、すんすんと鼻を鳴らして、緊張して堅くなった伊藤の首に抱きついた。
「うわっ」
首からぶら下がる様になっている丹波を慌てて抱え込むと、丹波はでろんと人形の様に力が抜けてしまった。
「丹波さん?丹波さん!」
「あー、今回はアンタか」
伊藤があわてて呼びかけると、銀時が残念そうに笑った。他の連中は何がなんだがわからない。
「桜は酒飲むと、好きな匂いの奴にしがみついて寝るんだ。朝までそのまんまだぜ」
日によって好きな匂いは変わるけどな。と後付けすると、銀時は丹波が飲んでいた酒に口を付ける。
「朝まで…」
伊藤は自分の膝の上で寝ている丹波をのぞき込んだ。かなり気持ちよさそうに寝ている。思わず顔が熱くなる。
土方はソレを見ていて、あまりいい気分はしなかった。
アイツの好きな匂いは、伊藤の匂いだった。と言う事実が、どうしても自分を苛立たせる。
そんな自分がすごく嫌だった。ヤキモチをやいた女みたいで。
土方は思わず窓辺に移動し、煙草に火をつけた。苛立ちから逃げるには、これしか方法がなかった。
闇に自分の気持ちを、誰にもわからない様に煙と溶かしたつもりだった。
うっかり、知らずに煙が一筋部屋にはいると、伊藤の胡座の中でおとなしくしていた丹波が鼻をすんすんとならし、青い瞳をみせた。
「あれ、丹波さん起きましたよ」
「なに!?珍しいな」
銀時が手を広げて「おいでおいで」とするが、丹波は盛大にそれを無視して伊藤の膝から降りた。そして煙草を吸っている土方を見つけると、すすすっと横について着物の裾を引っ張った。
「あ?」
土方が視線をそっちへ流すと、寝ぼけ眼の丹波が自分を見上げている。驚いて思わずからだが跳ねた。
丹波は黙って床を手のひらで叩く。青い目が「ここに座れ」と訴えていた。
土方が煙草を片手に、言われるがままにその場に胡座をかくと、丹波は満足そうにその中へすっぽりと収まった。
「あー、ほら。肺ガンになるから、ニコチンの側にいかないの!」
「人をガン扱いすんな!焼くぞ」
銀時と土方が思わず喧嘩しそうになると、即座に新八と神楽が止めに入った。
「やめるネ、大人げない」
「丹波さん寝てるんですからね」
銀時と土方がそっと丹波に視線を向けると、すでに丹波は寝息を立てていた。
「っかしーな。一回寝たら起きねぇはずなのに」
よりによってニコチンかよ。と舌打ちをして頭を掻くと、土方は悪かったな。と言って煙草をふかした。
土方の腕に抱かれた青い奴は、呼吸をするだけで、ぴくりとも動かない。無論、寝返りさえ打とうとしない。
ただ、近藤や、伊藤と寝ていたのとは少し体勢が違う。今までの課程をみると、土方は猫の様に丸まって寝るものだと思っていたが、なぜか自分の時だけ、妙に態度がでかいというか。土方を座椅子の様にして、丹波は足を投げだして、座る様にして寝ていた。
神楽と新八は、それを幸せそうに覗く。
丹波が寝た後も、宴は夜更けまで続いた。
風は窓から、絶えず吹き続ける。