二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 曇天 寝る子は育つ。育つッたら育つ。up ( No.85 )
日時: 2008/10/31 20:34
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

 朝。
 開け放された窓から差し込む、青い光に気が付いた奴が一人。うっすらと瞼を開けた。なにかが乗っているかの様に重たい頭を動かして、開ききらないでいる瞼をこすった。
 丹波だった。
 丹波は昨日の夜の記憶が定かでないことに気が付き、また酒を飲んでしまったのだと確信した。それと同時に、目が覚めた。
 鼻をかすめる様に、かすかな煙草の匂いを感じた。視線を上に上げると、黒い前髪が風に揺らいでいる。
「土方」
 頭の中で名前だけが浮かんだ。丹波は起こさない様にそっと膝の上から降りると、三歩ほど後ろに下がって、自分の犠牲者の様子を眺めた。
 胡座をかいて、その身体の全体重を背中の壁に預けて眠りこけている。右手には、火をつけ忘れた煙草が転がっていて、その傍らにはとっくりと猪口と、煙草の吸い殻が盛られた灰皿が無造作においてある。
 ”鬼の副長”などと、良く言った者ものだ。と、丹波は思わず小さく吹き出した。
「どこが鬼だか。」
 丹波は視線を土方から、部屋全体にゆっくりと流した。
 どの顔も、幸せそうに眠っている。
 丹波はその中の、白銀の髪をフワフワと遊ばせ、よだれの筋を頬に描いた銀時を見つける。側により、片膝をついて右手を伸ばす。その白い髪をくしゃくしゃとなでると、赤い顔でかすかに微笑んで、奴は寝返りを打った。
 ”白夜叉”ねぇ。
「夜叉なんて似合わねぇツラしやがって」
 瓜二つじゃねぇか。
 小声で吐き捨てる様に言うと、悲しそうに笑った。
 畳に転がっていた木刀を掴み、丹波は立ち上がる。
 子供達の寝顔を覗く母親の様に部屋を見渡した後、着物の襟と帯をなおして、青い髪の侍はその部屋から姿を消した。


 12
 風見鶏はまわる。


 am6:57
 こんな早い時間に起きることは確実にない、銀時が目を覚ます。頬には畳の跡が赤く付き、頬にはよだれの通った道が白く残っていた。白銀の髪に見事な寝癖を蓄えたまま、ゆっくりと体を起こし、奴は頭を掻いた。
 頭が重い。
 二日酔いだとすぐわかった。それのせいでなかなか頭が正常に働こうとしない。ちゃぶ台の上のペットボトルに気が付いた銀時は、重たい腰を持ち上げてそれを手に取った。
 何も考えずにキャップをはずし、中身を口に運ぶ。ただの水の様だ。
 それを一気に飲み終えると、はぁと息を付いた。
 ようやく働きだした脳みそを使って、銀時は辺りを見渡してみる。どうやら、どんちゃん騒ぎした挙げ句、そのまま眠ってしまったらしい。酒臭くはあったが、悪くない光景だった。
 ふと、丹波のことが頭をよぎり、視線を昨夜土方が座っていた辺りへ移動させる。
「桜…?」
 たしかに土方の上で寝ていたはずの丹波が、忽然と姿を消していた。そこにいるのは、ただ一人。煙草を吸いハグって寝ている様にしか見えないマヨラー、ただ一人だけであった。
 銀時は四つん這いになって、赤ん坊の様にハイハイをして土方へ近寄ると、声をかけた。
「おいコラ、多串くーん」
 応答がない。
 それを確認すると、次は身体を揺らしてみた。首が人形の様に傾くだけで、やはり応答がない。銀時は少し、苛立ってきた。
「おいッ、土方起きろコノヤロー」
 声をかけるという動作と、大きく体を揺らすという動作の同時進行を経て、土方はようやくうっすらと目を開けた。
「あ?今日は日曜だろーが。ったく、母ちゃんはおっちょこちょいだなァ」
「おっちょこちょいはテメーだァァァァァ!!おまッ、そんなキャラじゃねーだろォォォォォォォ」
 つい、土方の胸ぐらを掴んで大声を出してしまった。
 周りの隊士達もその声に気が付いて、寝ぼけ眼で起き出してきた。
「旦那ァ、どうしたんです」
「銀さんがこんな時間に起きるなんて、槍降りますよ」
 新八は眼鏡をかけながらヒドいことをさらりと言ってのけた。神楽はまだ鼻提灯を膨らませたり、ひっこませたりしている。
「桜がいねーんだよ。マヨラーの上で寝てた桜がいねーの」
 丹波の名前が出てきた途端だった。土方の手がぴくりと脈を打ち、目を見開いた鬼の副長が跳ね起きた。
「うぎゃぁ!何だよ、脅かすなコノヤロー!!」
 銀時は息なりのことに反射的に後ろへ飛び退いた。近藤達も目を丸くしている。
 土方はしばらく自分の手のひらを見つめた後、銀時に聞いた。
「丹波は」
「今その話をしてたんだよ。馬鹿かテメー」
「いや、テメーが馬鹿だろ」
「いや、お前の方が…」
「いい加減にしろォォォォ!大人かお前らァァァァ」
「で、丹波さんはどこ行ったんでィ」
 声を荒げる新八に対し、冷静に沖田は聞いた。聞かれた二人は、顔を見合わせて黙りこくった。
「好きな女の居場所もわかんないようじゃ、男として失格アル」
「いつから起きてたの、神楽ちゃん」
 お前まだ十四だろ。という意見が全員の頭の中でこだました。
 だが、確かに神楽の言うとおりだ。
 すると、話を聞いているだけだった近藤が、口を開いた。
「でもまぁ、丹波も子供じゃない。コンビニにでも行ったんだろ」
 それを聞いて、全員は少しびっくりした。
 確かに、小さい子供がいなくなったのなら大騒ぎになるのもわかる。だが、丹波はいい大人だ。大人が朝ふと起きてコンビニに行くなんて事は当たり前だろう。なんでこう大騒ぎしてしまったのだ。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。疑問を抱くほどだ。
 しかし、どうも胸が晴れない。コンビニに行っただけならいいが。そう言い聞かせ続けた。
「あ、そろそろお目覚めテレビでィ」
 沖田は時計を見て独り言の様に言うと、テレビの電源を入れた。
 結野アナが映った途端、今まで複雑な顔をしていた銀時が沖田と最前列に並ぶ。
『今日のニュースの時間です。なんと今日は、ゲストでお通ちゃんが来ています』
『おはようございますりむいたトコが膿んじゃったァ!みんなァ朝からテンションあげていくヨウ素液ってイソジンに入ってるの知ってたー!?』
「しってたー!!」
「うっせーアル、オタ眼鏡」
 テレビの最前列に新八も加わり、もう近藤達の位置から画面が見えない状態になってしまった。
 土方は少し呆れた様な素振りを見せて立ち上がると、部屋から気配を消しつつ出た。隊服に着替えるためであった。だがなにより、自分の腕の中で寝ていた丹波が消えてしまったことに、少々不安を抱いていた。
 いま、隊士達はどこかへ出かけたのだろうと予測している。万屋はそうは思っていないはずだ。アイツがあんな顔する事はまずない。自分の部屋に行くまで、部屋には行って隊服に着替え終わるまで、ずっと丹波のことから頭が離れなかった。
 宴会場に戻る途中、隊服に着替えた伊藤と鉢合わせた。しばらく黙って並んで歩いていたが、伊藤がその沈黙の糸を断ち切った。
「丹波さんは、本当に出かけただけなのだろうか」
「…さぁな」
「君も不安なんだろう。あと、万屋の三人もか」
「沖田と、近藤さんもだ」
 土方が言うと、伊藤が聞き返した。
「あの二人が?」
「まーな」
 どいつもこいつも、顔が晴れない。不安まみれだったのだ。
『ただいま入ったニュースです』
 宴会場の中から結野アナの声が聞こえた。
 戸を開けると、先ほどまでの穏やかな光景は無かった。隊士達もテレビに集まり、全神経を耳に使っている状態だった。
 結野アナの元へ一枚の紙が手渡された。誰も喋る者はいない。
『緊急です。たった今、ターミナルで攘夷浪士たちの仕業と思われる爆弾テロが起きました。ターミナルの第二倉庫が爆発し、火災が発生しました。早朝だったため、ほとんどの人が避難しましたが、まだ取り残されている人がいるようです。では、現場の花野アナ!』
『はい、こちら花野です!一時間ほど前、爆発、炎上を繰り返すターミナルに一人の侍が入っていきました!髪は青、麻の着物を着た侍で、西の入り口から入っていったと言うことです。救助隊は取り残された人々の救助を試みますが、火災の振興が激しく、作業は極めて困難になっています』
 花野アナが現場からの中継を終た時にはもう、宴会場には誰もいなかった。
 大量の酒のとっくりと、座布団が乱雑な状態で部屋に取り残された。


 ターミナルの前、幼子がその高い鉄の塔をの足下で泣いていた。鼻を垂らし、目から大粒の涙が溢れてコンクリートの地面に水たまりをつくっている。
 親がターミナルへ行ったらしい。周りの人々はなだめようとも、抱きしめようともせず、気の毒そうに遠くから見ているだけだった。
 そこへ異様な風貌の侍が、幼子に近づく。侍は子の目の高さに合わせて膝を突くと、ただ抱きしめた。
 すると、幼子は泣くのを止め、侍の目を見つめた。侍は鳴き声が止むのがわかると、言葉なく立ち上がり、ただ黙って火を吹く鉄の塔へと向かった。
 風に青い髪を遊ばせながら。

 幼子の目から、侍の背中が離れることがなかった。
 耳には侍の言葉が張り付いていた。

 まってろ、


 ただ、一言。