二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師 *amuの旅* ( No.33 )
日時: 2009/12/28 10:55
名前: 瑠美可 ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)
参照: エド「俺の銀時計はどうした?」 あむ「バルドの話までまってってさ」

 神殿の中はかなり涼しかった。さっき階段を下ったから、どうやら地下に来たらしい。あむは足元がスースーして思わず身震いをした。
 普段人は通らないのか、明かりは天井につけられた裸電球だけだ。それでもきちんと整備はされているらしく、明かりが切れていている電球はない。

「しっかし……本当にこっちでいいのかな」

 あむは立ち止まり、遠くを見ながら言った。
 今歩いている場所は、どこかへ続く通路だ。地下だから窓などない。あるのは観光用のプレートだけ。プレートは直進しろ、と言っているからそれに従って歩いているのだ。

「大丈夫だよ! あ、ほらほら! 扉が見えてきたよ」

 ランがあむの袖を引っ張りながら叫んだ。
 廊下の先に何かが見える。とたんさっきまでだらだらと歩いていたあむの足が、徐々に加速し、やがて走り始めた。
 何かとの距離が縮むたび、それは鉄製の扉だということがわかってきた。かなり大きく、何か大切な部屋への入り口のような気がする。

「よっと」

 あむは扉の前に立つと、取っ手を掴んだ。そして前に押す。キィイイイと金属がこすれあう音がした。

 中は教会のような場所だった。横に長い木製のベンチが左右対象に何個も置かれ、その奥には神殿の入り口にあった石造のミニチュア版が置かれている。それを守るように左右にろうそくが点され、不思議な空間を作り出している。

「あ!」

 中に目をやったあむは声を上げた。探していたエルリック兄弟が、一番前の席に座っていたからだ。
 しかし今は誰かと話しこんでいるようだ。あむよりも少し年上に見える女の子だ。この町の住人なのか肌は色黒。前髪はピンク色で、腰まである後ろ髪は茶色という風変わりな髪の色をしている。
 
「あら! あなたもレト教に興味がおありですか?」

 あむに気が付いたらしく、少女があむを見ながら声をかけた。エルリック兄弟も一斉にあむを見やる。

「へ? い、いやそういうわけじゃなくて」

 あむはしどろもどろに答える。
 しかしそんな曖昧な答え方をしたのが悪かったらしい。少女は演説口調であむにぐいぐい詰め寄る。

「いけませんね それは神を信じ、敬い、感謝と希望に生きる。なんとすばらしい事でしょう! 信ずれば...あの小さい方の身長だって伸びますし、あなただって……」

「おい! 誰が豆粒ドチビかぁ〜〜〜〜〜〜〜!」

 弟のアルフォンスは。いや鎧はあの時この少年を兄さんと呼んでいたから、こっちが兄のエドワードだろう——は両手を振り上げた。
 慌ててアルフォンスが押さえにかかる。

「兄さん、悪気はないんだから」

 キーキーと猿のような声を上げながら、エドワードは鎧の腕の中で暴れる。やがて気が済んだのか、かなり乱暴に椅子に座る。


「けっ!“死するものには復活を”本気で信じているのか!?」

「えぇ」

 少女は自信満々気に頷いた。かなりレト教を信じきって、悪く言えば洗脳されているようだ。

 エドワードはため息をついてみせる。そしてコートに手を突っ込み、手帳を取り出した。
 皮製の表紙だが、かなり長いこと使われているらしく、表紙はボロボロだし、手帳の間からはたくさんの付箋が顔を出している。

「水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g
、硝石100g、その他もろもろ...」

 手帳を顔の前に広げながら、エドワードは難しい単語を並べていく。

「なにそれ」

 あむは絶句する。明らかに化学の分野。でも小学生レベルでないことは確かだ。

「大人1人分として計算した人体構成成分だ。今の科学ではここまで分かっているのに、実際に人体練成を成功した例は報告されていない。科学でもできないことを祈ったらできるのかよ!」

(人体練成?)
 
 その言葉が妙に引っかかった。錬金術は物質を変化させる技術だというから、今の化学物質を使って人間を作ることなのだろうか。
 しかし聞くまもなく、話は進んでいく。

「“祈り信じよ。さすれば汝が願い成就せり”です。コーネロ様の教えに間違いはありません」
「ちなみに構成分材料な。市場に行けば子供の小遣いでも、ぜーんぶ買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「人はものではありません! そんな言葉創造主への冒讀です。天罰が下りますよ!」

 怒声をあげてから少女は、あむに向き直る。表情はまだちょっと怒り気味だ。

「あなたもそう思いません?」
「そうかもしれませんね……」

 急に話を振られたあむは、適当に相槌を打つ。すると少女は満足げに笑った。

「ほら。この方だってそうおっしゃっているではないですか」

 エドワードは肩をすくめて、石造を見上げる。

「錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神さまとか信じちゃいないのさ。この世の創造原理を説き明かし、真理を追い求める。神を必要としていないオレたち科学者が、ある意味神に一番近い所にいるってのは、皮肉なもんだ」
「ご自分が神と同列とでも!? 傲慢ですね!」

 少女が再び反発する。しかしエドワードは続ける。

「傲慢ねぇ。そういやどっかの神話にあったっけな。『“太陽に近付きすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ
地に落とされる”』……ってな」

(イカロス……)

 確かギリシア神話と言う、大昔の神話の物語だ。
そのギリシアにかつてイカロスという人間がいて、空を飛びたがっていた。だから蝋(ろう)で鳥の羽を固め、翼を作った。そして大空へと舞い上がる。
 彼の父は、「太陽に近づくのは、危険だからやめなさい」と忠告していたが、イカロスは調子に乗り太陽まで飛んだ。すると太陽の熱で蝋は溶け出し、イカロスは海に落ちて亡くなった。……まあこんな話だったか。

〜つづく〜