二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師 *あむの旅* ( No.54 )
- 日時: 2010/01/05 13:58
- 名前: 瑠美可 ◆rbfwpZl7v6 (ID: 2zWb1M7c)
それから、あむたちは神殿前の広場に来ていた。
昼とは打って変わって、人はあむたち四人を除き誰も居ない。そのせいか異様に静か過ぎて、あむは寂しくなってきた。神殿は陽光に照らされ、オレンジ色になっている。神殿の像の影が、町の方向へ長く伸びていた。
それを加速させるように、空は赤と黄色のグラデーションに彩られ、真っ赤な火の玉が砂漠の向こうへと沈んでいこうとしている。
「もう夕方かぁ……」
あむは肩をすくめてみる。今日はとても疲れたからだ。
レト教信者に襲われそうになる、捕まりそうになる、挙句の果てには殺されそうになる——死なないことだけを考えて走っていたから、安全になると身体の力が一気に抜けてしまう。
だるさから、あむは広場から神殿内へと入る階段に力なく座り込んだ。
石で出来ているのか、ひんやりとした感覚がした。けれどその冷たさは、身体にじわじわと広がっていく。だるい気分も吹き飛びそうだ。
その時、後ろの扉が開く音がした。金属製なので、黒板を爪で引っかいたような非常に嫌な音がする。あむは思わず耳を塞いだ。
「よ! 戻ったぜ!」
扉を開いたのは、エドだった。
笑顔で片手を挙げ、アルに手を振っている。そして数段階段を下りると、あむの横に腰を下ろした。
「あむ、大丈夫だったか?」
「あ、うん……」
エドに顔をまじまじと見られ、あむはボーっとした。頬から若干湯気が立っている。
「あむちゃん〜? 顔赤いよ?」
「な! 夕日のせいに決まってんじゃん!」
ランに茶化され、あむはぷいっと横に向いた。そこでは本当に夕日が輝いている。
だが実際はちょっとエドにドキドキしていたのだ。
(あたしって……本当に気が多いなぁ)
そう悩んでいると、慰めるかのように風がそよそよとあむの間を通り抜けていった。
あむは振り返り、風が去っていく方角を見やる。そこにはレト神殿が。
このまま風に乗って、元の世界に戻りたかった。この風がどこに続いているかはわからないけれど。
乗れないが、代わりにあむは両手を組み、風に祈る。『あたしは無事だから……どうかみんなに伝えてください』と。
「あむ、何お祈りしているの?」
アルに声をかけられ、あむは顔を上げた。
「なんだろ……この町が無事でいられますように、かな」
適当な嘘をついた。異世界に思いを届けてくれと祈った、なんて言っても、この二人が信じてくれそうにないからだ。『
錬金術師は科学者』——『異世界』みたいなファンタジー要素はあっさり切り捨てるに違いない。
TVの科学者は、オカルトを否定する人も多い。エドとアルもきっとあんな感じなんだろうな、とあむは考えていた。
「そっか……ところで兄さん、賢者の石は?」
「だめだ。偽者だった」
エドは肩をがっくりと落として、首を横に振った。あの放送どおり、『偽者』だったらしい。
「やっとお前の身体を元に戻してやれると思ったのにな」
「でも諦めないで行こう。次の町では見つかるかもしれないよ」
うな垂れるエドを、アルは明るく励ます。かなり仲のいい兄弟で、羨ましいなぁとあむはうっとりと見つめていた。
「あんたたち! なんてことしてくれたのよ!」
怒声にびっくりして3人が振り向くと、ロゼが瞳に涙を溜めながら立っていた。さっきまで黙っていたのだが、一体どうしたのだろう。
「これから、私は何にすがって生きて行けばいいのよ!? 教えてよっ! ねぇっ……」
ロゼの瞳から油のような涙がボタボタと垂れる。その涙は、色を混ぜすぎた絵の具の様だった。色は真珠のようだけど、込められた思いが混ざりすぎている。
「よっと」
エドは何も答えずに立ち上がった。その表情はどこか落ち着いているようにも、悩んでいるようにも見える。
階段を完全に下りると、アルと共にロゼの横を通り過ぎていく。
「立って歩け、前に進め。あんたには、立派な足がついているじゃないか」
言葉を残して。
「……」
ロゼの両足が崩れた。ガクン、と地に両膝をつけ焦点の定まらない瞳で、ただ空を見つめていた。涙はもう止まっていた。
「立って歩け、前に進め」
あむはエドの言葉を反復した。
それが自分への言葉だと、も思ったからだ。本来はロゼへ向けられたものかもしれない。けれど、今の自分に最も必要なもの——行動することを思い出させてくれた。
「元の世界に帰るには、行動するしかないよね。このリオールで待っていても、元の世界には帰れないし。それこそ立って歩け。前に進め、だよ」
「あむちゃん、何となくだけど『賢者の石』があれば元の世界に戻れそうじゃない?」
あむはそうか! とでも言うように指を鳴らした。
「確かに! エドも『原則などを無視して錬成が可能になる幻の石』って言ってたじゃん。なんかよくわからないけど、すごそうじゃない!?」
今のところ元に戻れそうな手がかりは『賢者の石』だけだ。あむはとにかく戻りたい一心で、早く行動に移そうとする。
「よし。じゃあ、次の町に行こうか」
と言ってあむは、思い出した。とても大切なことを忘れていた。あむの顔は見る見るうちに青ざめていき、左に走ったら、今度は右に走る……と言う謎の行動を繰り返し始める。
「エドに銀時計返すの忘れてたあ! ど、どどどどど、どうしよう!?」
慌ててエドが去った方向を見やるが、もう影も形も見えない。見えるのは、町と、ますますオレンジが濃くなった町。夕日が半分だけ顔を出している風景だけ。
「あ、あむちゃん落ち着いて! きっとまたすぐに
会えるから!」
「会えるっていつよ〜〜!」
あむは腹の底から声を張り上げた。
ますますオレンジ色が濃くなった空に、その声は吸収されていった。
*
同時刻。神殿前とは真逆の方向に、人々が殺到していた。我先に、と押し合い少しでも前に進もうとしている。
そこは教主の部屋に最も近い関係者用の出入り口だ。かなり狭い扉の前に、5人ほどの信者が立ち、必死に民衆を押さえ込んだり、なだめたりしている。
しかしそれは銃などの武器があるからで、武器がなければあっという間に入られてしまうだろう。
「ちっ! エルリック兄弟め・・・・・・」
扉の向こうで、コーネロは悔しそうに舌打ちをした。
たった一人の子供ごときに、秘密を暴かれてしまったのだ。悔しくてたまらない。
「久しぶりに来て見たら。この騒ぎは何かしら?」
さっきまで人がいなかった通路の階段の上に、二人の人間が立っていた。
一人はまだ若そうな女。真っ赤な血の様な瞳が不気味に輝き、ゆるくウェーブした漆黒の髪を背中まで伸ばしている。
胸を少しだけだすという危ないルックスの真っ黒なドレスを身にまとい、両方の手にはやはり黒い皮製の手袋をしている。
もう一人は5歳から6歳ほどに見える非常に幼い少女。だが、その肌の色は死人のように青ざめている。
髪の色は白く、耳にかかる程度。そして日本で死人が切るような、何もない無地の着物を羽織っている。
胸には茶色で、赤い瞳を持つうさぎのぬいぐるみがしっかりと抱かれている。
「くっ……お前たちが「賢者の石があれば天下を取れる」と言ったのではないか!」
「条件があったはずよ。もうじきここに来る少女を捕らえるって」
「そ、それは」
コーネロは急にだんまりしてしまう。
その様子を見て、女は鼻でふふんと笑った。
「あなたはもう用済みなのよ。ちょっと混乱を起こすだけでよかったのに、簡単に終わっちゃうなんてがっかりだわ」
「……」
少女は、仏頂面でコーネロを見つめる。
その瞳は感情がない、ロボットのような冷たい瞳だった。
「どいつもこいつも、わしをバカにしよって……!」
コーネロが片手を挙げ、拳を作る。
そのまま女と少女に殴りかかろうとする。
「まったく……人間は愚かね。フィ、ちょっとこらしめてあげなさい」
「……」
少女は何も言わず、頷かず。コーネロの前に立ち塞がった。
コーネロはそのまま『フィ』と呼ばれた少女を殴ろうとする。
「しっぱいしたばつ」
フィは短く、あっさりと言い放った。全く感情が感じられない、冷たい言葉だった。
そして胸に抱いていたうさぎのぬいぐるみを、コーネロに向かって突き出す。
途端、うさぎの双眸がカッと赤く、短く光った。それとほぼ同時に、コーネロの動きは止まった。そのまま前にうつ伏せの状態で倒れる。
女はコーネロに歩み寄る。コツコツ、と部屋内に靴音が反響した。
コーネロの顔を持ち上げると、彼は白目を向いたままだった。女は満足そうに笑うと、コーネロを元の体制に戻した。
「コーネロは死んだわ。フィ、よくやったわね。お父様がまた褒めてくれるわよ」
「……」
フィは何も言わず、ただコーネロをじーっと見つめていた。
「今回はちょっと失敗だったけど……そういえば、『ルク』の町はどうなっているのかしら。向こうもそろそろ見に行かないと行けないわね」
「ラスト、あむがいってくれる」
そこで初めてフィは再び口を開く。
『ラスト』と呼ばれた女は、ああと納得したような声を出した。
「そうね。『ルク』はリオールから近い。あんたがお気に入りのあむって子の実力、試させてもらうわよ」
ラストは静かに言った。
彼女の胸で、ヘビが自分の尾を噛んでいて、輪上になっている痣が不気味に存在していた。
〜一章完〜
あけましておめでとう(おそい)です。
ようやくリオール編完結です。実に長かった!
次は『ルク』の町・・・…あむ単独冒険のストーリーです。前に投稿していただいた、オリキャラも出すのでお楽しみに!