二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.10 )
日時: 2009/12/31 20:02
名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)

Memory3 キセキの探検隊

「ヘイヘイへーイ! おめえら、おいらの邪魔するんじゃねーぞ」

 剣風の森の入り口付近で、ヘイガニがはさみをカチカチ鳴らしながら言った。そんなヘイガニの言葉にミニリュウがむっとして言い返す。

「邪魔はしないよっ。それに、この仕事はヘイガニのものじゃなくて、私たちの仕事なんだからね」

 そうしている間にも、切れるような冷たい風が過ぎていく。私はモコモコした綿飴のような体だから風がいくら打ち付けてきても大して寒くない。メリープになって、やっと長所が見つかったような気がする。

 でも、まだ技の出し方は曖昧だ。ちょっと体に力をいれると、<でんきショック>を繰り出してしまう。いっしょにいるのが水タイプのヘイガニだから、なおさら気をつけなくては。しかも、ヘイガニのこの性格……。ちょっとでも足を引っ張るようなことをしたら、本気で怒ってきそうだ。

「ヘイヘイ、落し物探しなんて、さっさと終わらして帰ろうぜ。おお、寒いっ」

 ヘイガニは言うと、ズカズカと進みだした。私たちもヘイガニの後をちょこまかとついて行く。

 森はザワザワと騒がしかった。抹茶色や黄緑色、深緑色のクリスマスツリーに似た針葉樹がずーっと続いている。その針葉樹の枝にとまっている鳥ポケモンたちが、私たちをじっと見つめていて何だか居心地が悪い。

 ザアアアアアア————ッ…………。

 風が木々を強く揺らし葉がつねに空を舞っている。地面の砂も風が舞い上げ、空は何色かわからないくらいだ。また、不思議のダンジョンと言われるだけあって、分かれ道が多かった。それでもダンジョンに慣れているヘイガニは迷うことなく進む。

「あっ、これ、オレンの実じゃない?」

 ミニリュウがはっとして小さな草の茂みのそばに置いてあったオレンの実を拾ってきた。もしかして、もう依頼完了?
 ヘイガニがほっと息を吐く。

「簡単な仕事だったな、ヘイヘイ」

 誰もが安心したその瞬間……!

「スピ———!! それは、おいらたちの物だー!」

 木々の間から、大量のスピアーが羽をブンブン鳴らしてミニリュウに技で襲ってきた。体が黄色と黒のしましまで、大きな蜂の姿をしていた。スピアーたちのトゲの先のような手から、ロケットのように尖った光が幾つも放射される。<ダブルニードル>の技だ。

「スピスピー! オレンの実を返せ!」

 スピアーは怒りに任せてミニリュウを襲う。スピアーたちの攻撃を避けながら、ミニリュウはきゃっきゃっと叫んだ。

「ヘイヘーイ! <バブルこうせん>をくらえっ!」

 ヘイガニの<バブルこうせん>が、宙を舞っているスピアーたちに向かっていった。しかし、大量の泡の<バブルこうせん>はあっけなくスピアーたちのトゲに弾かれてパチンッという音と共に跡形もなく消える。

「ヘイヘイ? おいらの技がきかねー!」

 ヘイガニが騒ぎながら<バブルこうせん>をスピアーたちに連発したので、スピアーたちの攻撃が私まであたった。あまりの痛さに私は全身に力を入れる。

 バチバチバチ———————ッッ!!

 私は体に熱い何かがこみ上げてきて、思わずグッと体を丸めた。すると、私を中心に電気が輪のように放たれて、スピアーたちが次々に逃げていく。

「スピ———ッ!」

 電気が消えた頃には、スピアーたちは一匹もいなくなっていた。
 私は、荒い息を吐きながら縮こまっていたミニリュウに駆け寄る。

「ミニリュウ、大丈夫?」

 私が声をかけると、ミニリュウは軽く笑いながら立ち上がった。どこにも怪我らしきものはないらしい。よかった。

「大丈夫だよ、ミーシャ。助けてくれてありがとう。ミーシャの<でんきショック>、すごかったね」

 <でんきショック>……? あれが、技を出す時のコツなんだって思った。何かを助けたいって思うと、全身に力が入って技が繰り出される。
 そういえば、ヘイガニは……?

「へ、ヘイヘーイ!! ミーシャ。おめぇ、技の向きを考えろよ! スピアーだけじゃなくて、おいらにまで電気が飛んできたじゃないか」

 ヘイガニは痺れる体をさすりながら、私たちのそばにいた。私は安心して息をはくと、はっとする。

「ミニリュウ! オレンの実は?」

「スピアーに持って行かれちゃった。でも、仕方が無いよ、あのオレンの実はスピアーたちの物だったみたいだもん」

「そっかあ。じゃあ、もっと森の奥にいかないとだね」

 少しがっかりしながら私は森の奥を見る。あんまり奥に行くとナゾノクサやぺラップが言っていた森の主に会うかもしれないから出来るだけ行きたくなかったが、仕方が無い。

「ヘイヘイ、暗くなってきたぜ。早く行こう」

 ヘイガニの声に誘われるようにして、私たちは歩き出した。
 確かに、私とミニリュウが会ったのが夕日がきれいな海……つまり夕方だったから、夜はいつ来てもおかしくない。暗くなれば、オレンの実は見つけにくくなる。空は、燃えるような赤が薄くなり紫が濃くなってきている。急がなくては。

 ビ———ンビ———ン……。

 森の奥のほうで、淡い緑色の光が外に溢れるように広がった。かすかな音も聞こえる。その後、森全体がその光に共鳴するように薄く光りだした。雑草も、針葉樹も、地面も。すべてのものが波動を発しているかのように光っている。暗くなりかけていた森は、一瞬で明るくなった。

「森の奥で、何かが起こっているよ! ミーシャ、ヘイガニ、行こう!」

 ミニリュウは言うと、足早に森の奥へと進んだ。私はミニリュウを追いかけながら空を見上げる。すでに星が瞬き始めていた。

〜つづく〜

Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.11 )
日時: 2009/12/31 20:03
名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)

「ねえ、ヘイガニ。この剣風の森では、よくこんな風に周囲が光るの?」

 私は、緑に光る森全体を見渡しながら言った。光はさっきより強くなっていて、私は目をかすかに細める。ミニリュウも眩しそうだ。
 ヘイガニも目を細め、怒ったように首を振る。

「ヘイヘイ! そんなわけねぇだろ。森がこんな風に光るなんて、尋常じゃないって。もしかしたら森の奥にあるお宝が光っているのかもしれないぜ! 急ぐぞ、ヘイヘーイ!」

「もうっ、お宝探しに来たんじゃなくて、オレンの実を探しに来たんでしょ」

 私はため息をつきながら言った。まったく、ヘイガニって何なの? こんなやつといっしょに初の依頼なんて……。初めての依頼は良い思い出になりそうに無い。
 そんな事を言っている間に光は薄くなっていって、しまいには元どうりになる。

「へ、ヘイ!?」

 先頭を走っていたヘイガニが急に立ち止まった。急に止まられたので、私とミニリュウは止まれなくてヘイガニに突っ込む。突進してしまったからヘイガニはすぐに怒るかと思ったら、ヘイガニは呆然と前を見ている。

「ヘイガニ、急に止まらないでよ! って……」

 言いながら、私はヘイガニの見ている先を見つめて言葉を失った。ヘイガニが止まった理由。それは、前に進めなくなったからだ。
 どうして進めなくなったのか? 
 その理由は私が見ている“それ”が邪魔しているからだ。地面から突き出た、太くて大きないばら。どす黒い緑色をしていて、いかにも怪しい。それが雑草のようにあちこちに生えていて通行止めをしてしまっている。

「こ、こんな大きないばら……。よほど力のあるポケモンの技なのかな……森の主とか……」

 ミニリュウは、地面から突き出たいばらを見上げながら口をあんぐりと開けて言う。
 いばらの高さは背の高い木と同じくらい。それが、みっしりと隙間一つなく地面から生えている。最初は危険を承知の上でいばらといばらの隙間を通ろうとしたが、隙間そのものがないので難しそうだ。

「へ、ヘイガニ。こういうときは先輩として何かいい案を出してよ」

 ミニリュウが苦笑いを浮かべた。ヘイガニははさみをカチカチ鳴らしながら汗をかく。

「こんなに大きないばらじゃあ、おいらのはさみでも切れないぜ、ヘイヘイ……」

 本当に、頼りない先輩だ。

「こんな事だろうと思ってましたわ。来て正解でしたわね」

 聞き覚えのある声がした。
 私たちがはっとして振り向くと、そこには赤いバンダナを首に巻いたキマワリがいる。キマワリはあきれた顔で私たちのそばまでやってきて、ヘイガニを厳しい目で見た。

「親方様が新米のキセキーズとヘイガニじゃあ心配だからって、わたくしをついて行かせたんですわ。ヘイガニの事だから何も準備せずに出かけたんじゃないかと思ってたら、やっぱり。こういうときは、これが一番! <はっぱカッター>ですわー!」

 キマワリは大きく葉のような手を広げると、刃物のように尖った葉をいくつもいばらに飛ばした。尖った葉はいばらを粉々に切り裂く。

「わー! キマワリはすごいや!」

 ミニリュウが瞳を輝かせた。ヘイガニがチェっと舌打ちをする。 キマワリはすべてのいばらを切り裂くと、私たちに青いスカーフを差し出した。

「わたくしの技がパワフルだったのは、この“パワーバンダナ”のおかげで攻撃力が上がったからですわ。さ、皆さんもどうぞ」

 そう言って、ミニリュウと私に青い“ぼうぎょスカーフ”をつけてくれた。これは、防御力を上げるためのものらしい。
 ヘイガニも悔しそうに、キマワリから乱暴にスカーフを受け取った。

「さあ、さっき森の奥が光ったのを私も見ていましたわ。早くオレンの実を見つけましょう。いばらが地面に転がっているから、足元に気をつけてね」

 こういうポケモンが先輩なんだ、と私は思った。
 キマワリは言うと、切り裂かれたいばらが散らばっている道を歩き出した。

〜つづく〜

Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.12 )
日時: 2009/12/31 20:04
名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)

「ヘイヘイ、おいらがキセキーズといっしょについて行くように親方様に命令されたのによ。キマワリがついて来るなんて……」

 歩きながら、ヘイガニがつまらなさそうに文句を言った。キマワリは、自信満々に胸をドーンと張る。

「ヘイガニがきちんと準備をしていかないのがいけないんですわ。それより、今はもめている場合ではないみたいですわよ。ほら、ここが森の一番奥……」

 しばらく針葉樹の並木道を歩いていると森の広場のような所へついた。そこだけ木がなく、丸い円状の広場だ。木がない代わりに雑草がボウボウで、中央に苔むした祠がある。祠は、元の色が隠れるほど抹茶色の苔で覆われていた。
 空を見ると、木々の隙間から星がチラチラと輝いていた。星は、燃えているオパールで出来ていると思った。

「おっ、雑草だらけじゃねーか。四葉のクローバーあるかな、ヘイヘイ?」

 ヘイガニがかがんで雑草をむしりだした。確かに、四葉のクローバーに似た雑草があちこちに生えている。歩くたびに、足元が雑草のためにサクッサクッと気持ちのよい音がした。
 私はそんなヘイガニを見、呆れて言葉も出ない。

「あっ! 今度こそオレンの実だ!」

 ミニリュウが祠のそばに転がっているオレンの実を拾い上げて、ニッコリ笑った。さきほどのようにオレンの実に別の持ち主がいて、その持ち主が襲ってくるようなことはない。どうやら依頼主の落とした、本当のオレンの実のようだ。今度こそ、依頼完了だ。ふーっ、疲れた。

「やったね、ミーシャ! 依頼成功だよ!」

「うん。ギルドへ戻ろう」

 嬉しそうにオレンの実を掲げるミニリュウを見て、私もつられて微笑んだ。よかった。森の主とやらに会うこともなく、無事にオレンの実を見つけることができて。とにかく、無事が一番! よかったよかった!
 そう思って、私たちが帰ろうとしたその時——。

 ビ——————ンビ——————ン……!!!!

 先ほどと同じように、森全体が淡く緑色に輝きだした。祠まで白く燃えているかのように光っている。きっと上空から見れば、山火事に見えるだろう。祠は光の渦の中心らしく、強く何かを訴えるように光っている。どうやら、光の原点はこの広場だったらしい。
 私たちは、眩しい光の中で目をギュッと瞑っているしかなかった。しかし、目を開けていなくても瞼に光の衝撃がくる。

「もうっ、だあれ? 私の邪魔をしたのは!」

 どこからともなく声が聞こえてきた。透き通ったよく響く声だ。少し機嫌が悪いらしい。
 声と共に、光っている針葉樹がザワザワと揺れた。鳥ポケモンたちも集まってくる。もう夜に近いので、ホーホーやヨルノズクの夜行性のポケモンたちが鳴き声をあげた。
 澄んだ声は、怒鳴り声に変わる。

「誰だか知らないけど、私の邪魔をした罪は大きいわよ! それっ、<マジカルリーフ>!」

 広場の中心近くにいる私たちに、周囲から尖ったカッターのような葉が襲ってきた。しかも、その葉はキマワリの<はっぱカッター>のようなものでなく、七色に光っている。力もかなり強力だ。

「ちょっと待ってよ! 私たち、何も邪魔なんかしていないよ!」

 私が必死に叫んでも、七色の尖った葉は容赦なく飛んでくる。本当に剣のように尖った葉だ。これでは剣風の森ではなくて、剣葉の森になってしまう。おまけに太くて大きいあのいばらまで地面から突き出てきた。

「キャー! このいばらはさっきのですわー」

 キマワリが地面から突き出てくるいばらを見て叫んだ。気に入らないことがあるとすぐに怒るヘイガニが、はさみを構える。

「ヘイヘイヘイへーイ! おまえさんが誰だか知ったこっちゃねえけど、いきなり攻撃はないぜ。そっちがその気ならおいらだって! <バブルこうせん>!」

「待って!」

 短気なヘイガニが技を繰り出そうとした時、ミニリュウが大声で止めた。ヘイガニは、はっと構えていたはさみをおろす。ミニリュウは勇気を振り絞って聞く。

「教えてよ。私たちが何の邪魔をしたの?」

「したじゃないの! 私の“ときわたり”の邪魔を!」

「ときわたり……? でも、違うよ。私たちは邪魔をしに来たんじゃなくて、オレンの実を捜しに来たの。もし、邪魔をしちゃったんだったら謝るから、お願い。攻撃をやめて」

 ミニリュウが言った後、攻撃が止まった。そして、沈黙が続く。聞こえるのは、風の音と木がザワザワと揺れる音、鳥ポケモンの声だけ。月は私たちを静かに青白く照らしている。

「わかったわ」

 ようやく沈黙が破られた。どうやら、相手は納得してくれたみたい。すると、祠の前に光が突如現れた。最初米粒ほどだった光は徐々に大きくなり、ポケモンの形を作っていく。ゆっくりと光はポケモンの形を作っていき光が粉のようになって散っていくと、可愛らしい妖精のようなポケモンがいた。
 薄い緑色の体に、青い透き通った瞳と羽。その羽はゆっくりと上下に動き、そのポケモンを宙に浮かばせている。失礼だけど、顔は黄緑色の玉ねぎの形をしている。

「私はセレビィ。まっ、この森の主って言われているのは私の事みたいね」

 セレビィは言うと、緑色の小さな手であちこちに生えたいばらに触れた。いばらは静かに光りながら溶けるように消えていく。

「あんたたち、何なのよ。私のときわたりを邪魔したりして。私が優しいから攻撃をやめてあげたけど、本当に怖いポケモンならただではすまなかったわよ」

「だから、邪魔をしに来たんじゃないってば。ところで、ときわたりって何なの?」

 私はむうっとして言いながら、ときわたりという謎の言葉の意味を聞いてみた。セレビィは飛びながら足を組む。

「ま、言ってみれば時を越えることね。過去に行ったり未来に行ったりする事をときわたりって言うの。さっき、森が光っていたでしょ? あれは、私が五分後にときわたりをしようとしてたのよ。あんたたちがスピアーと大騒ぎして森を荒らすから、失敗しちゃったけどね」

「未来!? 未来へ行けるの? じゃあさ、一年後に私を連れて行ってよ。私たちがどのくらいすごい探検隊になっているか見たい!」

 好奇心旺盛なミニリュウが首を突っ込んできた。やれやれ、とセレビィは祠を見る。

「無理よ。私だけの力では、一年後とか大きく時を越えることはできない。せいぜい、十五分後が限界ね。時の回廊に入っていけば、一年後やずっと先の未来へ行けるわ」

「時の回廊?」

「そうよ。この祠が時の回廊。二回目に森が光っていた時は、この祠が光っていたでしょ。私が今度は時の回廊を通って未来へ行こうとしていたの。未来がどうなっているか、見に行くためにね……」

 セレビィは言うと目を瞑り、祠に触れた。祠が強く光り、森もさきほどと同じように輝く。鳥ポケモンたちの声が大きくなった。

「セレビィ、何をするの?」

 眩しくて目を覆いながらミニリュウが聞く。セレビィはゆっくりと目を開くと、答えた。

「この祠を、時の回廊を使って未来へ行くの。未来には、ピンク色の私のお姉ちゃんもいるし。それに、未来がどうなっているかを見に行くために……」

 祠の真上の空をセレビィは飛ぶ。やがて、セレビィも祠といっしょに輝きだした。光が花火のように、飛び散っては消える。

 ビ————ンビ————ン……。

「じゃあね、私は未来へ行くわ。未来で私に会ったらよろしくね」

 最後にそう言うと、セレビィは光の中に消える。激しく輝く光の渦を前に、私たちは何も出来ない。その後、光をすべて祠が丸ごと飲み込み跡形もなくなってしまった。

〜つづく〜

Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.13 )
日時: 2009/12/31 20:04
名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)

「ふむふむ。じゃあ森の主と言うのはセレビィの事で、セレビィは“ときわたり”をすることができる。そして、時の回廊を通って未来へ行った……ということ!?」

 ギルド地下二階の親方様の部屋の前に戻った後、森での出来事を私たちは順々にぺラップに話した。探検を終えてのギルドは、なぜか懐かしい。まるで、久々に故郷(ふるさと)に帰った気分だ。
 ぺラップは話を聞き、興奮して羽をぱさぱさとバタつかせた。

「すごいよ! あの森にセレビィがいたとは! 大発見だよ!」

「うん。でも、セレビィはもう未来へ行ったからあの森にはいないよ」

 ミニリュウが褒められて嬉しそうに頬を赤く染めて言った。ぺラップは機嫌がよく、声が高い。なにより、目がにっこりとしている。

「セレビィが今はあの森にいなくても、セレビィのいた森って事ですごい森じゃないか。私も会ってみたいなあ。……ま、それはさておき、依頼主が来ているみたいだよ」

「依頼主? ナゾノクサだよね」

 ミニリュウが言うと、そばで「はい、私です」という声がした。振り向くと、嬉しそうにお礼の品を持っているナゾノクサがいる。頭から生えた草が嬉しさで揺れていた。
 ナゾノクサは、ミニリュウからオレンの実を受け取ると、私たちに小包を差し出した。開けてみると、金で出来たコインで「P」というマークが入っている。お金のようだ。コインは何枚かある。

「三千ポケです。お礼にどうぞ」

 “ポケ”というのは、ポケモンの世界で言うお金の単位らしい。なるほど。だから、「P」なのか。ということは、私たちは三千という大金を手にした……ということだ。

「わあ! 三千ポケなんて大金、貰っていいの!?」

 お金を受け取りながらミニリュウが、驚いて声を張り上げた。興奮で息が荒い。
 ナゾノクサは微笑みながら、うなずく。

「いいんですよ。本当にありがとうございました。では」

 そう言うと、ナゾノクサは去っていった。その手にしっかりとオレンの実を抱えて。
 ナゾノクサに感謝され、お金も貰え、喜びでミニリュウが体を震わせる。

「すごいよ、ミーシャ! 私たち、お金持ちだね」

「ちょっと待った。そのお金をよこしな♪」

 ぺラップが、ミニリュウの手の中にあるお金をさっとくちばしで奪った。奪われた拍子に、お金がキラリと光る。
 ミニリュウが、ムッとしてぺラップを見た。それもそうだ。頑張って手に入れたお金を奪われたんだから。

「それは私たちが貰ったんだから返してよ」

「そうはいかないんだよ。この三千ポケは親方様の分。おまえたちの分は、三千ポケからゼロを一つとって三百ポケかな」

 ぺラップは、ジャラジャラと音を立てながらお金を分けると、ミニリュウに三百ポケを渡した。何枚かあったお金が、数枚に減っている。
 私もミニリュウも、「えーっ」と叫ぶ。

「ちょっと待ってよ。これしか貰えないの?」

 私が言うとぺラップは当然だ、というような顔をした。ひどい! あんなに頑張ったのに!
 ぺラップは不満そうな私たちを見て、いやみっぽく目を細める。

「これがギルドのしきたりだからな♪ 我慢しな♪」

「そ、そんなあ……」

 初めての仕事で結構頑張ったのにお礼の品がこれじゃあ、とミニリュウはがっくしとする。私もガッカリしたが、それよりも気になる事がある。さっきから、お腹がグウグウ鳴りっぱなしなのだ。うるさくて仕方が無い。

 チリ——ンチリ——ン!

 透き通った響きのよい澄んだ鈴の音がした。それとともに、チリーンの声がする。

「みなさーん! 夕食の準備ができましたよ!」

 その声を聞いて、この地下二階にギルドのメンバー達が集まってきた。そして、食堂へと入っていく。メンバーは、なにやら嬉しそうにはしゃいでいる。

「おまえたち、夕食だ♪」

 ぺラップも嬉しそうに言うと、食堂へ私たちを案内した。
 食堂は、地下二階の親方様の部屋の隣の洞穴にある。親方様の部屋の扉が豪華なので、私たちは気づかなかったが、確かに扉の隣に洞穴があったのだ。

 食堂は、とても賑やかで騒がしかった。
 木で作られた長いテーブルの上に、りんごやグミ、木の実や栄養ドリンクなどが積まれている。みんなはテーブルのそばに置かれている丸い椅子に座り、食べ物に噛り付いていた。その食べっぷりのよさに、ガツガツとかむしゃむしゃとか食べる音が聞こえてきそうだ。

 どうしてだろう。
 人間だった私が、木の実やただのりんごなどの物がおいしそうに見えてくる。ポケモンの本能なのだろうか。

「ミーシャ、食べようよ!」

 ミニリュウに言われて、私は椅子に座った。ミニリュウはテーブルの上に置いてある食料を適当に取って食べているが、私はどれを食べていいかわからなくて、なんとなくりんごを手にとった。そして、恐る恐るかじってみる。そのりんごのみずみずしさと新鮮さときたらなかった。齧ればシャワッというような音を立て、口の中に甘さが広がる。これも、ポケモンだから感じるものなのだろうか。

「ねえ、ミーシャ」

 ミニリュウが、グミを手にしながら話しかけてきた。私はりんごを口から話すと、ミニリュウの話に耳をかたむける。

「私ね、今日はすっごく楽しかったよ。そりゃあ、お金をとられちゃってガッカリもしたけど、何よりナゾノクサの嬉しそうな笑顔が忘れられないんだ」

「私もだよ。落し物を探してきただけなのに、すごく嬉しかった」

 私たちは笑いあいながら、しばらくの間、時間を忘れて食べることに夢中になった。

〜つづく〜

Re: ポケモン不思議のダンジョン 昼*夜の探検隊 ( No.14 )
日時: 2009/12/31 20:05
名前: 亜璃歌♪ ◆P2rg3ouW6M (ID: IoxwuTQj)

「ぷはー。いっぱい食べたね、ミーシャ!」

 ミニリュウがだるそうに机に寄りかかった。あんなに食べたのだから、無理はないだろう。ミニリュウの食べっぷりには私も驚かされた。そして、そんな私もお腹がいっぱいで動く気になれない。あの後、りんごのみずみずしさと甘さが堪らなくてりんごばかり食べてしまった。お腹の中は、きっとりんごだらけだろう。

「はい、では夕食終了! みんな一日ごくろうだったね♪ 各自のテントでゆっくり休むように♪」

 ぺラップが、大声で夕食終了を知らせた。ギルドのみんなは、お腹を抱えて食堂から出て行く。ついには、食堂には私とミニリュウ、ぺラップ、プクリンしかいなくなってしまった。
 ガラーンとした食堂。さっきまで賑やかだった事を考えると、なんだか切ない。

「テントってこのギルドの丘にあった、いろんなポケモンたちの絵が描いてあるテントかな。みんなそこで寝るのかな。私たちは、どうするのかな」

 質問攻めしてきたミニリュウに、私はどうしようもなくて曖昧(あいまい)に「うーん」と返事をする。そこへ、ぺラップが口を開いた。

「おまえたち! おまえたちのテントは、おまえたちが剣風の森へ行っていたときに、みんなで立てたんだからな。ギルドのみんなは、仕事をする時にこの親方様と私の絵の描かれたテントへ集まるんだ。そして、仕事が終わると、各自の絵の描かれたテントへ戻るってわけだ♪ わかったね。おまえたちのテントは、ミニリュウとメリープの絵が描いてやつだ。わかったら、さっさとお行き♪」

「うん、わかったよ」

 私とミニリュウは、しっかりと返事をすると食堂を出た。
 そして、梯子を上ってテントから外へ出る。丘にあるさまざまなポケモンたちのテントは、まだ起きていて明かりがついてあるテントもあれば、寝ていると思われて明かりがついていないテントもあった。それらのテントを含めて丘を見ると、丘全体が光を発しているかのように空からは見えるのだろう。

「ねえ、ミニリュウ。私たちの絵が描かれたテントはどれだろうね」

 暗闇で物を見るのが苦手な私は、目を凝らしながらミニリュウに言う。ミニリュウはいくつもあるテントをじっと見ると、明かりのついていない一つのテントを指差した。

「あれだよ! ミーシャと私の絵が描いてある。なんだか照れるなあ」

 言いながら、自然と私たちの足がテントへと動く。
 そのテントは、確かに私たちの絵が描いてあった。まん丸のビー玉のようなつぶらな瞳のミニリュウ、鈴のような笑い声を上げている顔をした私。テントの前には、小さな木で出来た看板があり、「チーム キセキーズテント」とペンキのピンク色で記されてあった。

「すごいね! 中へ入ろう」

 喜びの声を上げて、私たちはゆっくりと中へ入った。
 真っ暗で何も見えなかったので、置かれていたランプをつける。明るくなったテントの中はやはり狭かったが、なぜだかいると心が温まる不思議な所だった。地面にはわらが敷かれていて、私たちがその上に寝れるようになっている。テント内の隅には、バスケットが置いてあって食料が入っていた。そばに置手紙がある。置手紙には、こうかかれていた。

 <この食料は朝食です。毎日私が準備するんです。残さず食べて下さいね。じゃないと、次の日の朝食は用意しませんから♪ チリーン>

 さらに、バスケットのそばには大きめの石があり、真ん中が深くえぐられている。そのえぐられた所のふちいっぱいまで、水が湛えられていた。この水のことは、チリーンの手紙に追記として書かれている。

 <追記 石の中の水は、私が毎日チェックしてなくなっていたら入れておきます>

「すごい、すごいよ! ギルドって、とっても温かい!」

 ミニリュウが感嘆の声を上げた。

 私も驚きながらきちんと用意されたテント内を見る。そして、喉がカラカラなことに気づき、石の中の水を覗き込んだ。透明な水。ランプの光を浴びて、白く光っていた。その水を、私は手ですくって飲む……ことは、メリープの姿ではできないので、顔の口部分を水につっこんで飲んだ。驚くほどおいしい水で、体の隅々までおいしさが広がる。私の口から感嘆の声がもれた。

「おいしいっ。ミニリュウ。私、あの時ミニリュウと会ってよかった。ギルドに入ってよかった」

 改めて話す私にびっくりした様子のミニリュウ。すぐに笑みを浮かべる。

「私も。……そろそろ眠たくなってきたね。今日はがんばったし、もう寝ようよ」

 あくびをこらえるように言うミニリュウを見て、私も瞼が重たくなってきた。

「うん、寝よう。ランプを消すね」

 私はランプの明かりを消した。とたん、テント内が闇に支配される。

「おやすみ。ミニリュウ」

「おやすみ。ミーシャ」

 言い合うと、私たちはすぐに安らかな眠りについた。

〜Memory3終了〜