二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.2 )
日時: 2010/01/19 13:14
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: XHLJtWbQ)

「……むちゃん」

 遠くで誰かの声がした。だが目の前はまっくらで何も見えない。まだ夢を見ているのか。どこか暖かく、心地よい感じがする。あったかい毛布にくるまれているかのようだ。

「あむちゃん! あむちゃんったら!」

 今度ははっきりと声が聞こえた。高い少女の声。
そして肩を大きく揺すられる。そこで自分が眉を閉じていることに気づく。

(あ……あたし寝てるんだ)

 あむと呼ばれた少女は、内心ほっとしていた。さっきまでのあれは、夢だったのだ。従って世界を救うとか、ゲームのような話は現実ではないのだ。

(しっかし。変な夢だったな)

 あむは目を開かずそのまま寝返りを打った。何となくもう少し眠っていたかったのだ。するとザラっとした嫌な感覚が手首あたりにした。

(な、何か砂みたいな感覚が。まさか砂の上に寝ているとか?)

 ふざけ半分に考え、あむはうっすらと目を開けた。
きれいな青空が広がっていた。驚いて目をぱっちり開くと夏のように強い日ざしが襲ってきた。眩しいので、あむは目を細める。

「ど、どこ!?」

 あむは身体を起こし、キョロキョロしながら言う。

 「あ! あむちゃん!」

 あむの顔を覗き込む少女の姿があった。
大きさは人間の拳ほど。濃いピンクの髪をサイドテールにし、頭には大きなハート形の飾りがついたサンバイザーを被る。
そして赤形のチア・リーダーを連想させるような服を着ている。

「ラ、ラン・・・・・・」

 ランは見てわかる通り人間ではない。
『しゅごキャラ』と言う不思議な生き物だ。
某モンスターではないので注意。
 『しゅごキャラ』は、一言で言えばなりたい自分が形になったものである。
 人間ならば性格を変えたいと思ったことがあると思う。例えば運動が得意になりたい、明るくなりたい、もっとかわいくなりたい・・・・・・等々思いつかないくらいある。『しゅごキャラ』はその願いが目に見えるような形で現れたものなのだ。

「ここどこ?」

 あむは身体を起こす。
ザーと身体中から砂が落ちる音が聞こえた。
どうやら本当に砂の上に寝ていたらしい。
 辺りを見渡すと、見渡す限り灰褐色の砂ばかり。ぐるりと頭を回転させても、どこまでも砂は広がっていた。

「砂漠じゃない?」
「いや、それはわかるけど」

 問題なのはどうして自分が砂漠にいるかだ。あむは、頭の中でいままで起きたことを思い出していた。
 変な夢を見て、それから、それから・・・・・・

 ”「たすけて。あのせかいを。じゅんびはしてあげるから」”

 夢の言葉が脳裏に蘇る。あむははっとした。

「そうだ。あいつよ! 夢の声のやつ」

 砂漠に放り出したのは、夢の声の主に違いない。あむはそいつを探そうと考え、砂漠の中に一歩踏み出した。

「ちょ、ちょっと」

 ランが慌ててあむの前に回り込む。するとあむは思い切り怒鳴った。

「ラン!」

 一瞬ひるんだように見えたランだったが、負けじと言葉を継ぎ返す。

「お、落ち着いてあむちゃん! この砂漠の中をどうやって探すの!?」

「えっと」

 あむは顔を伏せた。そしてうんうん唸り始める。

「ほら。やっぱり」

 ランが呆れの成分が混じったため息を吐き出す。ランの言葉にあむは、返す言葉が見つからない。そのまま黙り込んでしまった。

「あ」

 黙り込んで下を見ていたあむは、砂の中に何かが埋もれているのを見つけた。埋もれている物体の黒い部分が、少しだけ砂から顔を出している。

 「これって……」

 あむは地面にしゃがみこんだ。そしてまさかと思いつつ黒い物体の上にある砂を手で払っていく。日光に長く当たっている砂はとても熱く、焼けたフライパンに手を突っ込んでいる気分だ。しかし熱さに耐えながら、あむは砂をはたいて行った。

「あむちゃん! これって学校の鞄だよね?」

 砂まみれになっているのは、あむが通学用に使っている鞄であった。中学生が通学に使うような、スクールバッグである。
 ある程度の砂が取れた所で、あむは鞄を持ちあげて見る。昨日何も入れていないはずなのに、ずっしりとした重い感触がする。

「なんで重いんだろ」

 鞄を地面にいったん下ろし、開けてみる。と、そこには様々なものが収められていた。水が入ったペットボトルが数本とそれと同じ大きさの銀の缶。外には”携帯食料”とプリントされたラベルが貼られている。それらが鞄の中に入るだけ入れられていた。隙間なくびっちりときれいに揃えられていた。

「え? こんなのあたし入れてない。もしかしてこれが夢で言っていた準備ってやつかな?」

 タダの夢はいよいよ現実味を帯びてきた。どうやら立ち止まっていることは許されないようだ。

「たすけて、あの世界を……」

 あむは夢の言葉をなんとなく呟いてみた。その言葉の主の真意はまだわからない。でも、何か理由があって助けを求めてきたのだ。どっちにしろそいつを捕まえないとモトの世界に戻ることも出来ないことは目に見えている。

「ラン、いこっか」
「どこに?」
「あそこ」

 あむが砂漠の向こう側をまっすぐ指差した。そこには小さく、黒い四角の集まりがうっすらと見えている。
「すっご〜い! 町だ!」

 町に砂交じりの風が吹き抜けていく。そんな中で、ランは声を上げてキャキャっとはしゃぐ。本当に能天気なしゅごキャラだ。
 あむとランは砂漠から見えた町へと来ていた。そこは全く知らない町だった。道路はレンガで舗装され、立ち並ぶ家々もレンガ造り。まるでアフリカの国に来てしまったかのようだ。道行く人々の服装は、長いシャツに長いズボン。多分強い日差しを防ぐ為なのだろう。
 今歩いているのは円形状の広場だ。中央には噴水があり、多くの人々が行きかっている。

「う〜……砂漠の中歩いたから、靴の中が砂だらけだし」

 あむは立ち止まると建物の壁に片手をつき、片方の学生靴を脱いだ。ひっくり返すとジャーと砂が、蛇口をひねった水道のように出てきた。同じ要領で反対側も砂を靴から追い出す。

「うわぁ! あむちゃんは砂だらけだね」

 しゅごキャラは地面に足をついていない。いつもあむの肩の辺りを飛んで——いや浮いているのだ。だから砂などは無縁のようだ。

「あんたは浮いてるからでしょ」
「えへへ」

 ランに不満をぶつけながら、あむは靴を履きなおす。町の中に砂漠の砂はさすがにない。それで不快感から開放されると思うと、あむはほっとした。

「でも暑いな〜シャワーとかないのかな」

 あむは汗をぬぐいながら言った。
 砂漠の中で強い日差しを受けてきたあむの全身は、すっかり汗でびっしょりになってしまっている。額に桜色の髪がべっとりと張り付いてる。

「しっかし服もなんで制服になるかな」

 さっき気づいた。自分の制服はパジャマではなく、制服であると言うことに。
 白いワイシャツの上に、黒いジャケット。スカートは赤と黒のタータン柄で、膝上まである。そこに学生靴…・・・といつもと変わらない格好。でもこの町の人々にとっては珍しい格好らしい。ごくたまにだが、すれ違いざまに視線を感じることがある。その視線にたじろぎながら、あむは歩いているのだ。

「シャワーはないけど食べ物屋ならあるよ?」

 ふいに前方にスタンドが見えてきた。木彫りのカウンターの前に人々が座れるように、小さな円形の椅子が数十個近く置かれている。今は昼時ではないのか、ポツポツ見える程度だ。

「あ〜そういえば朝ごはんまだじゃん」

 その時タイミングよくあむのお腹が音を立てた。ランが声を立てて笑い出す。

「あむちゃんのお腹って素直だね!」
「う……」

 いつもなら怒鳴り返すところだが、空腹でやるきが起きない。朝……と言っても今何時かわからないが——目が覚めてからあむは何も食べていない。いい加減食べないと餓死してしまうだろう。

「食べないと死ぬし……あそこで何か食べよっか」

 あむは脱兎のごとく店へと駆け出していた。

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.3 )
日時: 2010/01/19 17:37
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

「いらっしゃい」

 店に着くなり、エプロンをした男が笑顔で出迎えてくれた。ここの地方は日差しが強いからか、肌の色があむよりも黒っぽい。

「そこに座ってくれよ」

 男に指示された場所は中央よりの場所だった。あむはそこに腰かけ、体を伸ばしながら一気に息を吐く。

「あ〜疲れた……」
「お疲れ様だな。何にするかい?」
「えっと……これ何ですか?」

 あむは、ロープで垂れているものを指して尋ねる。
 見た目は川魚に似ている。しかしそこからは手と足が生え、全身は墨のように黒い。そして身体全体の皮膚は水分が失われてしまっている。

「お嬢ちゃん『スナイモリ』を知らんのかい。このリオールの名物だよ」
「イ、イモリ」

 イモリのような爬虫類が大嫌いなあむは、その姿を想像をしただけで吐き気が起こってきた。そしてそのそれを払うかのようにブンブン、と首を数回大きく振った。聞かなきゃよかった、と心の中で後悔する。

「じゃあ普通のものをください。後飲み物は水で」
「あいよ」

 そう言うと男はカウンターの下で作業を始めた。かなり手早く食べ物を皿に乗せ、あむの目の前に置いた。変なものが出てくるかと思ったが、普通に食べられそうなものが出てきてあむはほっとした。

「いっただきま……」

 両手を合わせいただきます、と言いかけた時だった。ドスンと物が当たる音がして、続いてガシャンと何かが割れる音。親父があー! と非難の声を上げながら、カウンターから乗り出す。客たちもどよめいている。振り返ると、ラジオがきれいに割れていた。
 その近くに青銅色の鎧が立っていて、申し訳なそうにしているから、こいつが壊したに違いない。どうやら席から立ち上げる時に上のひさしにぶつかり、落としてしまったようだ。

「お客さん! 困るな〜だいたいそんな格好で歩いているから……」

 文句を続けようとする店の男を、少年の手がさえぎった。金髪を三つ編みにし、赤いコートをまとっている少年。小柄でその顔つきは結構生意気そうだ。金の瞳は全然反省の色を浮かべていない。

「まあ待ってって。すぐに直すから」
「直すって?」

 店の男が腕を組んで言う。
 その横で鎧はどこからかチョークを取り出し、壊れたラジオの周りに複雑な図形を描き始めた。やがて完成すると、一声。

「じゃいっきま〜す!」

 その瞬間空気が震えた。稲妻に似た白い光がバチバチっと発生し、皆の視界を白に染めていく。やがて光が収まった時には、ラジオが元に戻っていた。コードを挿したままなので、なにやら声が聞こえてくる。

「驚いた! あんた奇跡の術が使えるのかい!?」
「う、うそ…・・・」

 あむは目の前の光景を呆然と見つめていた。何でラジオが直ったのだろう? 変な図形を描くだけで直るなんて聞いたことがない。やっぱりここは異世界なのか……と改めて痛感させられる。

「奇跡の術? これ錬金術ですよ?」
「エルリック兄弟って言えば、結構名が通っているんだけどね」

 その瞬間客の一人が声を発した。

「エルリック兄弟? 確か兄が国家錬金術師の」

 そして別の客がその言葉を継ぐ。

「『鋼の錬金術師』! エドワード・エルリック!」

 その言葉を合図にしたかのように、客たちは一斉に鎧を円状に取り囲む。あむは何のことか分からず、店の男に尋ねる。

「国家錬金術師って何ですか・・・・・・」
「国家錬金術師は、国の試験を通った錬金術師のことさ。その試験ってのが難しくてね。全国でも200人位しかいないって聞くよ」

 でも錬金術がわからないあむは、質問をさらに続ける。

「錬金術って」
「錬金術は物質を理解し、分解し、再構築する科学技術さ」

 少年があむの方に歩み寄りながら言ってくれた。しかし辞書のような解説にあむはさらにこんがらがるだけであった。少年は苦笑いを浮かべる。

「わかりずらかったか? まあ物質を変化させる術っていえばわかるか? 例えば水を錬金術を使うと氷にできるんだぜ」
「うん。それならなんとなく……」

 すると少年はにっこりと笑い、広場の方に駆け出してしまった。それを客に囲まれていた鎧が慌てて追いかけていく。

「兄さん! まってよ!」

 その姿を目で追いながら、あむは自分の足に何かが当たったのを感じた。目をやると、銀の時計が落ちていた。

「あれ」

 あむはしゃがみ込み、足に当たった時計を拾い上げた。それからまじまじと見つめてみる。
 中々しゃれた懐中時計だ。銀色で日の光を浴びて、静かに輝く様子はどこか月を思わせる。
表の蓋の部分には細かい細工が施されている。ライオンを思わせる生き物が中央に大きく浮き彫りされ、その後ろには、五亡星。そして下半分はハートの形がいくつもつながり、鎖のようになっている模様が半円にそりながら描かれている。

「それ銀時計じゃないか……!」

 あむの左横の客が裏返った声で言った。そんな声で言われるのであむは少しびっくりした調子で返す。

「ぎ、銀時計?」
「ああ」

 今度はあむの右横の客が話し込んでくる。

「国家錬金術師の証『銀時計』……まあ国家錬金術師だということを示してくれる身分証のようなものだ」
「へぇ〜」

 改めて覗き込むが、あむにとってはただの時計だ。しかし、ん?と思う。

「えぇぇえええええ!?」

 突如あむの黄色い声が辺りに響く。カウンターの後ろのビンが軋む。

「こ、これあのエドワードって人の大切なものなんじゃ」
「確かに」

 周りの客たちが一斉にどよめき始め、あむの手の中にある銀時計へと視線を向ける。あむは自分が見つめられているようで何だか恥ずかしくなった。頬が紅潮する。

「これどうすればいいんでしょう?」
「お嬢ちゃんが届けてあげればいいんだよ」

 客たちが笑顔で言う。

「へ? なんであたしが届けるんですか?」

 あむが問いかけると客たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に、四方八方へ逃げ始めた。仕事が、これから用事が等と適当な言い訳をしながら。

「昼代タダにしてあげるからさ? な、いいだろ?」

 しまいには店の親父まで。片目をウインクさせ、茶目っ気たっぷりに言った。しかしその顔には面倒なことには関りたくないとデカデカと書かれている。
 あむはしかめっ面をすると、黙々と遅い朝食にありつき始めた。騒動のうちにすっかり冷めてしまっていたが、それはあむのお腹を確実に満たして行った。

「いたた」

 強い日差しの中、あむは顔を擦った。
 午後になり日差しはますます強くなった。おかげで日光に攻撃された肌は赤くなり、ひりひりとして痛む。今は日陰を歩いているので幾分かましだが、照りつける日差しは容赦ない。

「大丈夫? あむちゃん?」

 そう言うランは、早くも真っ黒だ。泥人形がそのまま動いたらこんな感じになるだろう。肌の色はすっかり日焼けしてしまい、この町の人々と変わらないくらい。だが当の本人はそのことに気づいていないらしく、平然としたままである。肌が焼ける痛みも感じないらしい。

「ここは日陰だからね」

 あむとランが歩いているのは住宅街だ。石造りの家々が並木のように左右に広がる。ただどこからも人の気配がしない。風が通り抜ける音だけがする。

「それにしてもエドワードさんとアルフォンスさん……こっちに本当に来たのかな?」

 店の親父に言われたとおりに来たのだが、二人の姿は見当たらない。

「もしかしてこの先かな?」



 それは突然目の前に現れた。白く大きな神殿。支える四つの柱は、天に届きそうなほど高い。まるで空を支えているかのよう。そして神殿を守るかのように、大きな杖を持った男の石造が柱にくっつくように配置されている。何だか成金趣味だと思うのは、あむが田舎ものだからだろうか。
 神殿の前は広場になっていて、そこは多くの群集で埋め尽くされていた。住宅街に人がいなかったのは、ここに来ていたからだろう。

「この地に生ける神の子らよ。祈り信じよ、されば救われん」

 遠くから老人のしわがれた声がする。それを人々は静かに聞いている。

「太陽神レトは汝らの足元を照らす。見よ。主はその御座から降って来られ、汝らをその諸々の罪から救う。私は太陽神の代理人にして、汝らが父」
「あ〜もうっ」

 あむは人々を強引に押しのけながら、エルリック兄弟を探していた。弟のほうは鎧だからすぐに見つかるだろうと高をくくっていたが、中々見つからない。
 そして教主様の有難いお言葉は、かえってあむをイライラさせている。何となくだが好きになれないのだ。
 どうしてみんなここまで信じるんだろう、とあむは口に出さずに思う。

「あむちゃん、もしかして建物の中なんじゃない?」
「あ、そうかも」

 あむは人の輪を抜けると、神殿の中へと入る道を探す。
 すぐに『入り口はこちら』と書かれているプレートが見つかった。そして中へと足を踏み入れる。
 ——中で何が起きているのかもわからずに。

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.4 )
日時: 2010/01/19 18:06
名前: rumika ◆GU/3ByX.m. (ID: 9FUTKoq7)

神殿の中はかなり涼しかった。薄暗い廊下が続いている、さっき階段を下ったから、どうやら地下に来たようだ。あむは足元がスースーして思わず身震いをした。
 普段人は通らないのか、明かりは天井につけられた裸電球だけだ。それでもきちんと整備はされているらしく、明かりが切れている電球はない。

「しっかし……本当にこっちでいいのかな」

 あむは立ち止まり、遠くを見ながら言った。
 今歩いている場所は、どこかへ続く通路だ。地下だから窓などない。あるのは観光用のプレートだけ。コ—ネロ教主様の絵と、赤い矢印が描かれている、相当悪趣味なものだ。誰があんなじいさんを見たがるのだろう。
 プレートは矢印で直進しろ、と言っている。従ってそれの方向に歩いているのだ。

「大丈夫だよ! あ、ほらほら! 扉が見えてきたよ」

 ランがあむの袖を引っ張りながら叫んだ。
 廊下の先に何かが見える。とたんさっきまでだらだらと歩いていたあむの足が、徐々に加速し、やがて走り始めた。
 何かとの距離が縮むたび、それは鉄製の扉だということがわかってきた。かなり大きく、装飾がほどかされている。何か大切な部屋への入り口のような気がする。

「よっと」

 あむは扉の前に立つと、取っ手を掴んだ。そして前に押す。キィイイイと金属がこすれあう音がした。あむは耳が敏感だから、嫌な音だった。

 中は教会のような場所だった。横長いの木製のベンチが左右対象に何個も置かれ、その奥には神殿の入り口にあった石造のミニチュア版が置かれている。それを守るように左右にろうそくが点され、不思議な空間を作り出している。

「あ!」

 中に目をやったあむは声を上げた。探していたエルリック兄弟が、一番前の席に座っていたからだ。
 しかし今は誰かと話しこんでいるようだ。あむよりも少し年上に見える女の子だ。この町の住人なのか肌は色黒。前髪はピンク色で、腰まである後ろ髪は茶色という風変わりな髪の色をしている。
 
「あら! あなたもレト教に興味がおありですか?」

 あむに気が付いたらしく、少女があむを見ながら声をかけた。エルリック兄弟も一斉にあむを見やる。

「へ? い、いやそういうわけじゃなくて」

 あむはしどろもどろに答える。
 しかしそんな曖昧な答え方をしたのが悪かったらしい。少女は演説口調であむにぐいぐい詰め寄る。

「いけませんね それは神を信じ、敬い、感謝と希望に生きる。なんとすばらしい事でしょう! 信ずれば…あの小さい方の身長だって伸びますし、あなただって……」

「おい! 誰が豆粒ドチビかぁ〜〜〜〜〜〜〜!」

 弟のアルフォンスは。いや鎧はあの時この少年を兄さんと呼んでいたから、こっちが兄のエドワードだろう——は両手を振り上げた。
 慌ててアルフォンスが押さえにかかる。

「兄さん、悪気はないんだから」

 キーキーと猿のような声を上げながら、エドワードは鎧の腕の中で暴れる。やがて気が済んだのか、かなり乱暴に椅子に座る。


「けっ!“死するものには復活を”本気で信じているのか!?」
「えぇ」

 少女は自信満々気に頷いた。かなりレト教を信じきって、悪く言えば洗脳されているようだ。

 エドワードはため息をついてみせる。そしてコートに手を突っ込み、手帳を取り出した。
 皮製の表紙だが、かなり長いこと使われているらしく、表紙はボロボロだし、手帳の間からはたくさんの付箋が顔を出している。

「水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g
、硝石100g、その他もろもろ——」

 手帳を顔の前に広げながら、エドワードは難しい単語を並べていく。

「なにそれ」

 あむは絶句する。明らかに化学の分野。でも小学生レベルでないことは確かだ。

「大人1人分として計算した人体構成成分だ。今の科学ではここまで分かっているのに、実際に人体練成を成功した例は報告されていない。科学でもできないことを祈ったらできるのかよ!」

(人体練成?)
 
 その言葉が妙に引っかかった。錬金術は物質を変化させる技術だというから、今の化学物質を使って人間を作ることなのだろうか。
 しかし聞くまもなく、話は進んでいく。

「“祈り信じよ。さすれば汝が願い成就せり”です。コーネロ様の教えに間違いはありません」
「ちなみに構成分材料な。市場に行けば子供の小遣いでも、ぜーんぶ買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「人はものではありません! そんな言葉創造主への冒讀です。天罰が下りますよ!」

 怒声をあげてから少女は、あむに向き直る。表情はまだちょっと怒り気味だ。

「あなたもそう思いません?」
「そうかもしれませんね……」

 急に話を振られたあむは、適当に相槌を打つ。すると少女は満足げに笑った。

「ほら。この方だってそうおっしゃっているではないですか」
「でも人がよみがえっていいのは、ファンタジーの中だけだと思う。あたしたちの人生は、消しゴムじゃ消せない……例えて言うなら、ボールペンで文字が書かれた紙。修正液を使っても、後は完全には消えない……」

 エドワードはちらりとあむを見た。そして肩をすくめ、石造を見上げる。

「錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神さまとか信じちゃいないのさ。この世の創造原理を説き明かし、真理を追い求める。神を必要としていないオレたち科学者が、ある意味神に一番近い所にいるってのは、皮肉なもんだ」
「ご自分が神と同列とでも!? 傲慢ですね!」

 少女が再び反発する。しかしエドワードは続けた。

「傲慢ねぇ。そういやどっかの神話にあったっけな。『“太陽に近付きすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ
地に落とされる”』……ってな」

(イカロス……)

 確かギリシア神話と言う、大昔の神話の物語だ。
そのギリシアにかつてイカロスという人間がいて、空を飛びたがっていた。だから蝋(ろう)で鳥の羽を固め、翼を作った。そして大空へと舞い上がる。
 彼の父は、「太陽に近づくのは、危険だからやめなさい」と忠告していたが、イカロスは調子に乗り太陽まで飛んだ。すると太陽の熱で蝋は溶け出し、イカロスは海に落ちて亡くなった。……まあこんな話だったか。

一方。
 先ほどあむをイライラさせたコーネロ教主は、いつものスピーチを終えた。そしてゆっくりと神殿の中へと足を進める。人々が拍手でそれを送っていった。
 そんな時、一人のレト教信者がやってきた。黒い制服を着ている彼の表情は、かなり青ざめている。コーネロに近づくと、何か耳打ちした。コーネロの細い目が、わずかに見開かれる。

「何? 国家錬金術師が来ているだと?」
「はい。エルリック兄弟と、日奈森 亜夢(ひなもり あむ)と申すものたちです」

 コーネロは顎に手を当てて、考え込み始めた。顔中に冷や汗が浮かび、尋常ではない状態であることが伺える。

「まずいな」

 コーネロが口を開く。

「鋼の錬金術師エドワード・エルリック。最年少で国家資格を取ったとは聞いていたが……なぜこの町に?」
「鋼の錬金術師がなぜここに? まさか我々の計画が……」
「軍の狗め。よほど鼻が良いとみえる」



「教主様はお忙しいので、なかなか時間が取れないのですが。あなた方は運がいい」

 あむたちは、男に案内され、コーネロに会うことになった。この部屋に、もうすぐコーネロが来るらしい。
 エドワードが「改心したから」と言って、少女——ロゼに対し、コーネロに会わせてくれ、と頼んだのであった。無論、改心したなんて嘘であろう。
アルフォンスが、兄さん演技下手すぎ、とぼやくのをあむはばっちり聞いていたから。

「悪いねぇ。なるべく長話しないようにするからさ」
「そうですね」

 その時、男の口元に笑みが浮かんだ。穏やかな笑いではなく、上手くいった。と喜ぶようなニヤリとした不気味な笑み。そして続く言葉は。

「早く終わらせましょう」

 扉が閉められ、ガチャと施錠される音が聞こえたと思った。あむは振り向こうとする。
 と、背中に何かが押し当てられた。冷たいものだ。恐る恐る視線を向けると、白い服を着た男が、あむの背中に銃口を押し当てていた。
 横を見ると、アルフォンスとエドワードも、全く同じことをされていた。

「やっ!」

 男の強い力があむの身体を宙に浮かせた。そして軽いものを持ち上げるかのように、あむはお姫様だっこされてしまった。
 逃げようと足をばたつかせるが、男には全然効果がないようだ。

「ちょっ、離してよ! お姫様抱っこは初恋の人にやってもらうんだから!」

「副教主さま? 何をなさるんですか?」

 ロゼがあんぐりと口を開けて言う。
 すると黒い服の男は、真面目な顔で、言葉を吐き捨てた。


「ロゼ。あのあむと言う少女以外は、教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ」
「は?」

 自分はエドワードに銀時計を届けに来ただけで、レト教を信じる気など全くない。まったくおかしい奴らだ。

「まずは……お前からだ」

 黒い服の男が持つ銃口が火を噴いた。そしてそれはしっかりと、アルフォンスの鎧の頭を撃ちぬいた。頭部は空中に舞い、やがて地に落ちる。鎧の下部分が、ガクリ、と前のめりに倒れた。

「アルフォンスさん! ちょっとあんた、何すんのよ!」
「ふはははは……やった! やったぞ!」

 副教祖が、勝利に満ちた表情で笑った。あむは許せない気持ちになり、飛び掛ろうとした——時。

「信者にひどい事させるんだなぁ……」


 鎧が起き上がった。何もないはずの鎧が動き、辺りの人間は銃を捨てて逃げ始める。どさくさであむも自分の力で、男の身体を脱出した。
 鎧は自分を撃った男にゆっくりと近づくと、思い切り殴りつけた。男は、地に叩きつけられ、そのまま動かなくなってしまった。

「ど、どうなっているの?」

 ロゼが必死に声を振り絞って出す。それはあむにとっても同じ疑問であった。

「どうもこうも」
「こう言う事で」
 
 エドワードはアルフォンスに近づき、鎧を叩いて見せた。中身は空洞らしく、コツコツと言う音が中で響いていた。一体全体どうなっているのだろう。

「これはね。『禁忌』って言うんだよ。僕も、兄さんもね」

 アルフォンスは、自分の頭を拾い、元の場所にはめながら言った。

「エドワードさんも?」

 あむはちらりとエドワードに視線を向ける。
 彼は背が低いこと意外、普通の少年に見えるが。何か考え事をしているらしく、彼の表情は硬い。

「ロゼ、あむ。あんたたちは真実を見る勇気があるか?」

 ロゼがごくり、と唾を飲む。
あむは、あたし信者じゃないんですけど。と内心で呟いた。

廊下に3人分の足音が反響する。地下から上がってきたとはいえ、相変わらず肌寒い。
 あむはエドワードたちと共に、ロゼから聞いたコーネロ教主様の部屋へと向かっているところだ。
 途中レト教信者に何度か襲われたが、その度エドワードとアルフォンスが戦ってくれた。二人はかなり強いらしい。

「二人って強いんだね〜」

 ランが感心した。だがしゅごキャラはエドワードたちには見えないはずだ。
 しゅごキャラは、しゅごキャラを持つ人間——キャラもちでなければ見えないからだ。

「ところで……」

 エドワードは急に立ち止まり、あむに向き直った。金の瞳が、じっとあむを見つめる。見つめられたあむは少しドキドキしてしまう。心臓の鼓動がワンテンポ位速くなった。

(や、やだ! あたしエドワードさんに見られてる?)

「そいつ」

 白い手袋が指し示す。——ランを。

「さっきから気になってんだけど、そのチ……いやその赤いの、何だ?」
「エドワードさん、ランが見えるんですか!?」

 見えると思っていなかっただけに、あむの声はかなり裏返った。
 エドワードは、アルフォンスにランが見えるか? と尋ねる。うんと言い、鎧の頭が軋んだ。

「ほらな。……で、そのランって言うのはなんだ?」
「えっと。しゅごキャラって言うんです」
「「しゅごキャラ?」」

 二人とも聞いたことがない単語のようだ。揃いもそろって、お笑いコンビみたいに首をかしげた。それがおかしくてあむはクスリと笑ってしまう。

「しゅごキャラは『なりたい自分』なんだよ!」

 笑っているあむの代わりに、ランが解説をする。

「なりたい自分なんだ?」
「うん。それがこーして、目で見えるようになったのがあたしたち!」

 ランは手に赤いボンボンを持つ。どこから出したのかは謎だ。ボンボンにはところどころ、赤いハートのマークが描かれている。と、応援するようにそれを上下に揺らした。 

「それがしゅごキャラ……か」

 納得しているような、していないような声でエドワードが呟く。
 あむですら初めはよくわからなかったのだから、仕方がないだろう。



「さあて」

 エドワードがコホン、と咳払いをする。
 わきあいあいとしていた雰囲気が、一気に緊張していく。

「教主様とご対面と行きますか!」

 目の前には、こっちに来いとでも言うように開け放たれた扉が、口を開けていた。

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.5 )
日時: 2010/01/20 16:51
名前: rumika ◆GU/3ByX.m. (ID: XHLJtWbQ)

誘いに乗るように足を踏み入れると、中は他に比べてかなり薄暗かった。
左には四角い石が等間隔で並べられ、何か文字が掘り込まれている。見ると人の名前と月日が刻まれていた。それも真新しいものばかりだ。
そして正面には階段が設けられ、その上は小さなベランダが出来ている。
そこに目的の男——コーネロがいる。
 コーネロはわりかし小柄で太り気味な老人である。
頭に髪はなく、頭上には光が生み出されている。そして信者と同じ黒い制服をまとっている。

「神聖なる我が教会へようこそ、鋼の錬金術師殿」

 恭しく(うやうやしく)お辞儀をしているが、その顔は悪意に満ちたものだ。
さっきの信者たちのように襲ってくる気なのだろうか。

「教義を受けにきたのかね?」
「単刀直入に言う。ぜひとも、教えてもらいたいもんだな。せこい錬金術で、信者を騙す方法とか」

 するとコーネロの目が少し見開かれた。

「嘘でしょう!? コーネロ様!?」

 後から入ってきたロゼがお腹から声を出して、コーネロに問いかける。
コーネロは優しく——かりそめの笑顔でロゼに笑いかける。

「当たり前だ。さあ、ロゼ。それに日奈森殿……こっちに来るんだ。君たちはこちら側の人間のはずだ。こんな異教徒と一緒にいてはならない」

 コーネロは二人を手招きする。
ロゼは誘われるようにふらふらとコーネロの方へと歩き出す。

「ロゼ! 行っちゃダメだ!」
「……ごめんなさい」

 ロゼは一瞬立ち止まり、3人のほうを見やる。
その顔は変な笑いで引きつっていた。仕方がないのよ、と自分に言い聞かせるように言う。

「私にはこれにすがるしかないのよ! 去年恋人を事故で亡くし、不幸のドン底にいたの。その私を救ったのは……他でもない教主様なのよ。そして、約束して下さった」

 ロゼは俯きながら、階段へと足を進める。そして嫌なことを吹き飛ばすかのように、一気に階段を上り、コーネロによりそった。
コーネロは勝ち誇った笑みを浮かべ、石造りの壁に指をかけた。壁が紙のようにめくれる。その下にはレバーが隠されていた。

「日奈森殿……早くこちらに来なされ」

 コーネロが手でおいでおいでをする。だが。あむは首を横に振る。

「あんた……なんであたしのこと知ってんのか知らないけど、あたしはあんたのとこに、行く気ないから」
「仕方がない。あなたには捕まってもらいますよ」

 ガクっとレバーが下がる音がした。
 途端、動物園で嗅ぐ様な獣の臭いがした。あむは耐えられずに鼻をつまむ。墓石がある方向で、赤い二つの斑点が光ったと思った。それは低いうなり声を上げながら、ゆっくりと近づいてくる。
 姿を現したのはライオン……のようなものだ。上はライオンなのだが、胴体から下は濃い緑色。鱗もある。ライオンにないはずの鱗が光を反射して鈍く輝く。一言で言えばワニだ。
ライオンの上半身とワニの下半身を持つ生物——それこそ神話に出てきそうなやつだ。

「合成獣(キメラ)を見るのは初めてかね? 動物と動物を練成した新たな存在。賢者の石はこのようなものまで作れるのだよ」

 コーネロは指輪を見せびらかしながら、自慢げに話した。
 金のリングの上に楕円状に加工された血の色をした石がついている。どす黒い色で、見ていると気持ち悪くなる。

「賢者の石」

 エドワードが獲物をしとめた狩人のように笑う。

「探したぜ……原則などを無視して錬成が可能になる幻の石」

 パンっと両手を合わせるエドワード。そして手を離すと、そのまま地面に手をついた。
花火のような白い火花が飛び散りながら、地面から何かが生えてくる。——槍だ。趣味が悪い装飾が施された槍。

「練成陣なしに!? 国家錬金術師の名は伊達ではないということか!? だが!」

 キメラは速かった。前足の爪でエドワードが作り出した槍を引っかいた。槍はきれいに切断されてしまった。
だがキメラの猛攻はまだ続く。槍を切断した後、今度はエドワードの左足を引っかいたではないか!

「エド!?」

 黒いズボンが破け、そこから血が出るかと思いきや。血が流れるどころか、エドワードは余裕そうに言い放った。

「なんちってね。あいにく特別製でね」

 あむはひとまずほっとした。
 エドワードは再び襲い掛かろうとするキメラを、左足で蹴り上げた。コーネロがあたふたする。

「何をしている! 噛み殺せ!」

 キメラは受身を取ると、再びエドワードに突進する。大きな口を開け、今度はエドワードの右腕に噛み付いた。

「あっ……」

 エドワードの腕から血が流れるさまを想像して、あむは顔を手で覆った。
しかしランがあれっ!? と言うのに気づき、あむは恐る恐るエドワードに目を向ける。
 血は流れていない。腕ももげ落ちていない。いったい何が……?

「どうした猫野郎。しっかり味わえよ」

 ギリギリとかむ力を強めるキメラ。だが、二つの歯が噛み合うことはない。まるで噛み砕けないようなものを噛んでいるかのようだ、と思いあむは気づいた。エドワードの右腕に重々しい輝きがあることに。
人の腕ではない。鉱物のようなものだ。
 エドワードがキメラを蹴り飛ばす。キメラが再び宙に舞う。

「……その腕そうか。そういうことか。こんなガキが何故、鋼などと言ういかつい称号を持つのか不思議に思っていたが」

 コーネロは舌打ちをした。エドワードが赤いコートに手をかけながら、低い声で言う。

「よく見ろ。あむ、ロゼ。これが神様の…神さまとやらの領域を侵した咎人の姿だ!」

 赤いコートが投げ捨てられる。その下には、鍛えられた男らしい身体つき。そして血の通っていない鋼鉄の右腕があった。色からして鋼製か。
よく見ると左足も、だ。


「降りて来いよド三流! 格の違いってのを見せてやるぜ」
「なに……どうなってんの」

 あむが呆然と言う。するとあむに答えるようにコーネロが声を発した。

「二人とも。錬金術師最大の禁忌、人体練成を行なったのだ。死んだ人間を甦らせようとしたのだよ」
「ロゼ……こうなる覚悟があるのか!?」

 ロゼは現実から逃げ出すかのように、視線をそらす。それでも私は……とおびえる様に言っていた。

「神の領域に踏み込んだ愚か者め! 今度こそ神の元へ送り届けてやろう!」

 指輪の赤い石が輝き、コーネロの腕が銃へと変形する。連続的に、弾丸が飛び出してくる。

「いや、オレって神さまに嫌われてるだろうからさ。
行っても追い返されると思うぜ……おい、あむ! 俺の後ろに下がってろ!」

 あむは言われたとおり、エドワードの背後に回る。エドワードは再び両の手を合わせ、地面に当てる。練成の光が弾け、大きな壁がせり上がってきた。
 銃弾は壁にはじき返され、辺りに散らばる。火薬の臭いがあむの鼻を突いた。

「ちっ!」

 するとコーネロはエドワードたちにくるりと背を向けた。
よく見ると、小さな木製の扉があるではないか! コーネロは外に出ると、扉を閉めた。

「ラン、キャラチェンジ!」

 あむは素早くランに指示を出す。ランは了解! と敬礼をした。

「ほっぷ・すてっぷ」

 その声であむの×マークの髪飾りが、大きな赤いハートの飾りへと変化した。

「じゃーんぷ!」

 あむは地面を思い切り蹴り、跳びあがった。風圧でスカートが舞い上がった。
その身体は一気にロゼがいる場所まで跳ぶ。着地すると、ロゼが顔を青ざめさせながら言った。

「な、なんですか! どうしてそんなに……」

 下ではエドワードとアルフォンスが、口をあんぐりと開けている。

「よっと」

 ロゼの横を通り過ぎると、あむは扉に手をかけた。

 今のは『キャラチェンジ』と言う。一言で言えば、
しゅごキャラの力を借りてパワーアップすることだ。今はランの力を借りて、人を超えたジャンプ力を手に入れたわけだ。ただキャラチェンジするしゅごキャラによって、上がる能力は全く違うのだ。

「あれ?」

 扉に手をかけるが全く開かない。押しても、引いても固いのだ。

「錬金術で何かしたのかな……」

 あむが横で考え込んでいると、バチバチと言う音がした。

「よし。開けるぞ」

 いつのまにか鉄の扉が作られていた。それをエドワードは、蹴破ると言う乱暴な手法で開けた。
その途端銃やら、槍やらを持った信者が雪崩のように入ってきた。
 エドワードはにっこりと微笑むと、両手を合わせる。鋼で出来ている腕の先がとがり、剣のようになった。そして突っ込んでいく。
 あちこちで、悲鳴が上がり、続けて殴りつける音が聞こえてくる。

「さあ。僕たちも行こうか」

 ひょいっとアルフォンスはロゼを抱きかかえ、あむについて来て。と言った。
 信者の屍(死んでません)を避けながら、あむはアルフォンスについていった。



 アルフォンスにつれてこられた場所は、教会の鐘がある屋上であった。リオールの町が一望できる、とても美しい場所である。

 例によって信者共をダウンさせ、あむは鐘に近づく。鐘は少し高い、塔の上にあった。かなり小さめだが、銅製で中々立派な細工がされている。

「よっと」

 ランとのキャラチェンジで、金がある塔へ飛び乗る。そして鐘をつっているロープをアルフォンスが練成した、ナイフでゆっくりと切っていく。

「ねえあむちゃん。銀時計はどうするの?」
「この騒動が終わったら、ちゃーんとエドワードさんに返すよ」

 あむは作業をしながら言った。ロープはかなり古いものらしく、力が弱いあむでも楽々と切ることができる。あっという間にロープはすべて切れた。支えを失った鐘が地面に転がる。
 持ち上げてみると、かなりずっすりと来た。持てない訳ではないが、長くは持てない。
さっと持ち上げると、キャラチェンジをしながらアルフォンスの元に飛び降りた。

「あむ、有難う」

 アルフォンスに鐘を渡すと、あむは伸びをした。

「いいえ。アルフォンスさんの役に立てたなら」

 あむは恐縮する。するとアルフォンスは優しく話しかけてきた。

「アルフォンスさん? そんな堅苦しくならないでよ。僕も兄さんも、普通に「アル」、「エド」って呼んでくれていいと思う」
「じゃあ。よろしくね、アル」

 アルフォンスは片手を挙げる。と、ロゼがしもどもどろに話しかけてきた。

「さっきの話、ほんとうなの?」
「ボク達はただ……もう一度母さんの笑顔が見たかっただけなんだよ。練成の過程で僕は全身を、兄さんは左足を持っていかれた」
「何それ」

 あむは言葉を失う。錬金術は身体を犠牲にするようなものではないはずだ。

「リバウンド。錬金術が失敗して、僕と兄さんの身体を奪っていたんだ。『何が』『どこ』に持って言ったのかはわからないけどね」

「でもそこまで犠牲を払ったのなら、お母さんは」

 アルは首を横に振る。

「でも練成は失敗した……人の形をしていなかった」
「そんな……」
「だからロゼ、あむ。君たちはこっちに来ちゃいけない」

 風が強く吹き、あむの髪を引っ張っていった。

それからアルは、逃げるときからずっと持っていた『あるもの』をようやく地面に置いた。
 『あるもの』は黒い、コードのようなものだ。直径5cm程の黒い線でかなり細い。長さこそ、かなり細いものの、長さはかなりあり、屋上の出入り口から線はさらに下に続いている。アルに言わせると、これは一階下の部屋から持ってきたものらしい。
 普段、何に使っているのか全くナゾだ。

「あむ、ラン。下がっててくれるかな?」
「あ、ごめん」

 興味深くコードを覗き込んでいたあむとランは、アルに注意され、数歩後ろに下がる。
 二人が完全に下がったことを確認したアルは、腰にある小さなポーチに手をかけた。白く、何かの皮で出来ているのか中々頑丈そうである。
 ポーチのふたを開くと、真っ白なチョークが隙間がないくらいぎゅうぎゅうに押し込まれていた。長さは不揃いで、短いものもあれば、長いものもある。

「よし」

 アルはその中から使い込んでいるらしい、短めのチョークを取り出した。それで鐘とコードの周りに、スタンドで見た同じ図形を手早く描いていく。コツコツ、と言う黒板に文字を書くのと同じ音が響く。

「これって錬金術に使うの?」
「うん。『練成陣』と言って、力の循環と時間の循環を表す……なんて言ってもわかりずらいか。そうだね。錬金術に必要なものだよ。この陣にエネルギーを流して、初めて術が発動するんだ」

 アルは練成陣を描きながら言った。
 あむはわかったような、わからないような中途半端な感覚だ。大体のことは理解してきたつもりだが、『錬金術』は本当に難しい。

 やがて練成陣が完成し、いつもの光が飛び散る。するとそこには、鐘とコードが一体化したものが出来上がっていた。
 アルは、鐘の中が外を向くような形で持ち上げた。その体制のまま数歩歩く。コードが地面にすれる音がした。町がよく見渡せる場所に来ると、鐘の中を町に向けるような姿勢で止まった。
 なにやっているんだろう、とあむが思うと。
 ザーとテレビが映らないときに聞こえるような音が、鐘の中から流れ込んできた。下にいた町の人々が、次々と足を止めるのが見える。天から何か降ってきたような表情で、呆然と上を見つめている。

「……、しろ!」

 今度は、途切れ途切れに誰かの声がした。聞きとりにくいが、コーネロの声であることがわかる。心なしかかなり焦っている様だ。

「おっさん、いい加減にしろよ。お前の嘘は全部お見通しだ」

 続けてはっきりとエドの声が聞こえた。随分と余裕そうな言い方だ。コーネロとかなり違う様子。

「エ、エド? この鐘、もしかしてラジオになってる!?」

 アルが正解、とでも言うように軽く頷く。

「よく聞いていてね。コーネロさんが自白してくれるから」

 そこでようやくエルリック兄弟の考えが見えた。
 コーネロの悪事を、信者たちに暴露するつもりなのだ。しかし、コーネロとてバカな奴ではない。本当に成功するのか不安だ。

「賢者の石で何しようってんだ? それがあれば陳家の教団なんていらないだろ」
「くくく……国家錬金術師にはお見通しと言うわけだかね」

 黙って聞いていると、コーネロが追い詰められた悪者のように笑っているではないか。本当に、この二人の策に気づいてはいないらしい。

「そうだ! 教団は私のためなら、喜んで命を捨てる信者を生み出してくれる、死を恐れぬ最強の軍団だ! 見ているがいい」

 横にいたロゼの顔から、血の色が一気に引いていく。それは町の人々も同じだ。
 放心して鞄を落とす者、泣き崩れる者、怒りに顔を染める者……実にさまざまだ。が。

「あと数年のうちに私は、この国をテリトリーにかかるぞ。賢者の石と、錬金術と奇跡の術の見分けもつかないようなバカ信者どもを使ってな!」

 皆の心は同じ——コーネロへの怒り、悲しみ、憎しみ。それを増長させるかのように、彼は高らかに笑う。
 町の人々は、皆神殿の方へと走り始めた。きっとコーネロを問いただす気なのだろう。

「ふははははっ!」

 その時だった。エドがゲラゲラと笑い出す。嘲笑、と言う言葉がお似合いだ。

「なにがおかしい!」
「だからあんたは三流だっつーんだよ。これ、なーんだ?」

 いたずらっ子のような口調で、エドが言った。一瞬間が流れる。恐らくタネを明かしたのだろう……
 案の定コーネロが狂ったように叫ぶ声がした。

「奇跡の技なんてない——みんな賢者の石の力。はい。自白ご苦労様」
「な! 足元にマイクだと!? 貴様、そのスイッチはいつ入れた!?」
「最初から」
「このガ……うわぁああああ!」

 錬金術の音がしたかと思うと、コーネロが絶叫する。多分、エドが何かやらかしたに違いない。とあむは半分思っていた。

「リバウンドだろうが! 腕の一本や、二本でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえ! それより、石は……な、砕けた?」
「な、なにが起こってんの?」

 ラジオの向こうで何が行われているのか……あむには全く検討がつかない。

「どう言う事だ? 完全な物質であるはずの賢者の石が何故壊れる……」

 エドの声はありえない、と言った感じだ。
 どうやら『賢者の石』が砕けてしまったらしい。

「しっ知らん! 私は何も聞いていない。たたたたた助けてくれ! 私が悪かった!」

 完全に無力とかしたコーネロはもはや、ネズミ以下の存在だろう。猫に助けを求めるが、いつ狩られてもおかしくないはずだ。

「偽物かよ……ここまで来てやっと元に戻れると思ったのに。…・・・偽物」

 かなり期待を持っていたのに、裏切られたのだろう。エドはすっかり元気をなくしてしまったようだ。なんだかかわいそうになってくる。

「ざけんな!」

 しかし猫が元気を取り戻すのは、早かった。……そして牙をむくのも。
 パンと両手を合わせる音がし刹那、教会が小さく横に揺れ始める。

「に、兄さん?」

 アルはさすがにもういいと思ったのか、鐘を地面に置いた。しかし電源は入っているから、音は絶えず流れてくる。

「神の鉄槌くらっとけ!」

 ハンマーを振り下ろしたような音がし、教会のゆれはようやく収まった。

それから、あむたちは神殿前の広場に来ていた。
 昼とは打って変わって、人はあむたち四人を除き誰も居ない。そのせいか異様に静か過ぎて、あむは寂しくなってきた。神殿は陽光に照らされ、オレンジ色になっている。神殿の像の影が、町の方向へ長く伸びていた。
 それを加速させるように、空は赤と黄色のグラデーションに彩られ、真っ赤な火の玉が砂漠の向こうへと沈んでいこうとしている。
 
「もう夕方かぁ……」

 あむは肩をすくめてみる。今日はとても疲れたからだ。
 レト教信者に襲われそうになる、捕まりそうになる、挙句の果てには殺されそうになる——死なないことだけを考えて走っていたから、安全になると身体の力が一気に抜けてしまう。
 
 だるさから、あむは広場から神殿内へと入る階段に力なく座り込んだ。
 石で出来ているのか、ひんやりとした感覚がした。けれどその冷たさは、身体にじわじわと広がっていく。だるい気分も吹き飛びそうだ。
 
 その時、後ろの扉が開く音がした。金属製なので、黒板を爪で引っかいたような非常に嫌な音がする。あむは思わず耳を塞いだ。

「よ! 戻ったぜ!」

 扉を開いたのは、エドだった。
 笑顔で片手を挙げ、アルに手を振っている。そして数段階段を下りると、あむの横に腰を下ろした。

「あむ、大丈夫だったか?」
「あ、うん……」

 エドに顔をまじまじと見られ、あむはボーっとした。頬から若干湯気が立っている。

「あむちゃん〜? 顔赤いよ?」
「な! 夕日のせいに決まってんじゃん!」

 ランに茶化され、あむはぷいっと横に向いた。そこでは本当に夕日が輝いている。
 だが実際はちょっとエドにドキドキしていたのだ。

(あたしって……本当に気が多いなぁ)

 そう悩んでいると、慰めるかのように風がそよそよとあむの間を通り抜けていった。
 あむは振り返り、風が去っていく方角を見やる。そこにはレト神殿が。
 このまま風に乗って、元の世界に戻りたかった。この風がどこに続いているかはわからないけれど。
 乗れないが、代わりにあむは両手を組み、風に祈る。『あたしは無事だから……どうかみんなに伝えてください』と。

「あむ、何お祈りしているの?」

 アルに声をかけられ、あむは顔を上げた。

「なんだろ……この町が無事でいられますように、かな」

 適当な嘘をついた。異世界に思いを届けてくれと祈った、なんて言っても、この二人が信じてくれそうにないからだ。『
 錬金術師は科学者』——『異世界』みたいなファンタジー要素はあっさり切り捨てるに違いない。
 TVの科学者は、オカルトを否定する人も多い。エドとアルもきっとあんな感じなんだろうな、とあむは考えていた。

「そっか……ところで兄さん、賢者の石は?」
「だめだ。偽者だった」

 エドは肩をがっくりと落として、首を横に振った。あの放送どおり、『偽者』だったらしい。

「やっとお前の身体を元に戻してやれると思ったのにな」
「でも諦めないで行こう。次の町では見つかるかもしれないよ」

 うな垂れるエドを、アルは明るく励ます。かなり仲のいい兄弟で、羨ましいなぁとあむはうっとりと見つめていた。

「あんたたち! なんてことしてくれたのよ!」

 怒声にびっくりして3人が振り向くと、ロゼが瞳に涙を溜めながら立っていた。さっきまで黙っていたのだが、一体どうしたのだろう。

「これから、私は何にすがって生きて行けばいいのよ!? 教えてよっ! ねぇっ……」

 ロゼの瞳から油のような涙がボタボタと垂れる。その涙は、色を混ぜすぎた絵の具の様だった。色は真珠のようだけど、込められた思いが混ざりすぎている。

「よっと」

 エドは何も答えずに立ち上がった。その表情はどこか落ち着いているようにも、悩んでいるようにも見える。
 階段を完全に下りると、アルと共にロゼの横を通り過ぎていく。

「立って歩け、前に進め。あんたには、立派な足がついているじゃないか」

 言葉を残して。

「……」

 ロゼの両足が崩れた。ガクン、と地に両膝をつけ焦点の定まらない瞳で、ただ空を見つめていた。涙はもう止まっていた。

「立って歩け、前に進め」

 あむはエドの言葉を反復した。
 それが自分への言葉だと、も思ったからだ。本来はロゼへ向けられたものかもしれない。けれど、今の自分に最も必要なもの——行動することを思い出させてくれた。

「元の世界に帰るには、行動するしかないよね。このリオールで待っていても、元の世界には帰れないし。それこそ立って歩け。前に進め、だよ」
「あむちゃん、何となくだけど『賢者の石』があれば元の世界に戻れそうじゃない?」

 あむはそうか! とでも言うように指を鳴らした。 
「確かに! エドも『原則などを無視して錬成が可能になる幻の石』って言ってたじゃん。なんかよくわからないけど、すごそうじゃない!?」

 今のところ元に戻れそうな手がかりは『賢者の石』だけだ。あむはとにかく戻りたい一心で、早く行動に移そうとする。

「よし。じゃあ、次の町に行こうか」

 と言ってあむは、思い出した。とても大切なことを忘れていた。あむの顔は見る見るうちに青ざめていき、左に走ったら、今度は右に走る……と言う謎の行動を繰り返し始める。

「エドに銀時計返すの忘れてたあ! ど、どどどどど、どうしよう!?」

 慌ててエドが去った方向を見やるが、もう影も形も見えない。見えるのは、町と、ますますオレンジが濃くなった町。夕日が半分だけ顔を出している風景だけ。

「あ、あむちゃん落ち着いて! きっとまたすぐに
会えるから!」
「会えるっていつよ〜〜!」

 あむは腹の底から声を張り上げた。
 ますますオレンジ色が濃くなった空に、その声は吸収されていった。



 同時刻。神殿前とは真逆の方向に、人々が殺到していた。我先に、と押し合い少しでも前に進もうとしている。
 そこは教主の部屋に最も近い関係者用の出入り口だ。かなり狭い扉の前に、5人ほどの信者が立ち、必死に民衆を押さえ込んだり、なだめたりしている。
 しかしそれは銃などの武器があるからで、武器がなければあっという間に入られてしまうだろう。

「ちっ! エルリック兄弟め・・・・・・」

 扉の向こうで、コーネロは悔しそうに舌打ちをした。
 たった一人の子供ごときに、秘密を暴かれてしまったのだ。悔しくてたまらない。

「久しぶりに来て見たら。この騒ぎは何かしら?」

 さっきまで人がいなかった通路の階段の上に、二人の人間が立っていた。
 
 一人はまだ若そうな女。真っ赤な血の様な瞳が不気味に輝き、ゆるくウェーブした漆黒の髪を背中まで伸ばしている。
 胸を少しだけだすという危ないルックスの真っ黒なドレスを身にまとい、両方の手にはやはり黒い皮製の手袋をしている。
 
 もう一人は5歳から6歳ほどに見える非常に幼い少女。だが、その肌の色は死人のように青ざめている。
髪の色は白く、耳にかかる程度。そして日本で死人が切るような、何もない無地の着物を羽織っている。
 胸には茶色で、赤い瞳を持つうさぎのぬいぐるみがしっかりと抱かれている。

「くっ……お前たちが「賢者の石があれば天下を取れる」と言ったのではないか!」
「条件があったはずよ。もうじきここに来る少女を捕らえるって」
「そ、それは」

 コーネロは急にだんまりしてしまう。
 その様子を見て、女は鼻でふふんと笑った。

「あなたはもう用済みなのよ。ちょっと混乱を起こすだけでよかったのに、簡単に終わっちゃうなんてがっかりだわ」
「……」

 少女は、仏頂面でコーネロを見つめる。
 その瞳は感情がない、ロボットのような冷たい瞳だった。

「どいつもこいつも、わしをバカにしよって……!」

 コーネロが片手を挙げ、拳を作る。
 そのまま女と少女に殴りかかろうとする。

「まったく……人間は愚かね。フィ、ちょっとこらしめてあげなさい」
「……」

 少女は何も言わず、頷かず。コーネロの前に立ち塞がった。
 コーネロはそのまま『フィ』と呼ばれた少女を殴ろうとする。

「しっぱいしたばつ」

 フィは短く、あっさりと言い放った。全く感情が感じられない、冷たい言葉だった。
 そして胸に抱いていたうさぎのぬいぐるみを、コーネロに向かって突き出す。
 途端、うさぎの双眸がカッと赤く、短く光った。それとほぼ同時に、コーネロの動きは止まった。そのまま前にうつ伏せの状態で倒れる。

 女はコーネロに歩み寄る。コツコツ、と部屋内に靴音が反響した。
 コーネロの顔を持ち上げると、彼は白目を向いたままだった。女は満足そうに笑うと、コーネロを元の体制に戻した。

「コーネロは死んだわ。フィ、よくやったわね。お父様がまた褒めてくれるわよ」
「……」

 フィは何も言わず、ただコーネロをじーっと見つめていた。

「今回はちょっと失敗だったけど……そういえば、『ルク』の町はどうなっているのかしら。向こうもそろそろ見に行かないと行けないわね」
「ラスト、あむがいってくれる」

 そこで初めてフィは再び口を開く。
 『ラスト』と呼ばれた女は、ああと納得したような声を出した。

「そうね。『ルク』はリオールから近い。あんたがお気に入りのあむって子の実力、試させてもらうわよ」

 ラストは静かに言った。
 彼女の胸で、ヘビが自分の尾を噛んでいて、輪上になっている痣が不気味に存在していた。

〜一章完〜

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.6 )
日時: 2010/01/20 16:57
名前: るみか ◆rbfwpZl7v6 (ID: XHLJtWbQ)

リオール編おまけ
(小説で4コマをやろうと言う無謀な企画。キャラ崩壊万歳)

銀時計

①あむ「うわぁ! 銀時計エドに届けてない!」

②ラン「あ! いいこと思いついた。売っちゃえばいいんだよ。旅資金も稼げるし、いいことづくしじゃない?」

あむ「あ、そうかも!」

③売ったら……

④二人とも監獄行き。旅が出来なくなりました。

終わって

あむ「ちょ。最悪! こんなの書くなぁ!」

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.7 )
日時: 2010/01/20 17:50
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

おまけ2

ハガレン世界名作劇!
フランダースの犬・ラスト

雪に覆われた白い教会。中はとても寒く、いたら凍りつきそうです。そこに、一人の少年(キャスト・誰か)と一匹の犬(キャスト・エド)がいました。
少年は犬に寄り添い、だるそうに上を見ます。
その視線の先には、ばっろく時代を代表する絵が。

「もう疲れたよエドラッシュ。ごらん、『最後のディナーだ』」
「最後の晩餐の間違いだろ」
「Look.ed.{LAST DIPPER]だよ。訳すると、僕は三年前鎌倉でUFOを見た。それが今、目の前にいる」
「いねえよ」
(身体を震わせながら)
「エドラッシュ、僕はもう疲れたよ」
「昨日深夜アニメ見ていたせいだろ。夜更かしはいかん」
「お前は人間じゃねえ」
「・・・番組違うぞ?」

〜終わり?〜

はい。原作ぶち壊しです。
今後もやっていこうと思います(自重しようか?)

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.8 )
日時: 2010/01/20 17:53
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

二章〜明けない日〜

あなたがしていることは正しいの?
・・・・・・それが例え望まれないことだとしても?

あなたがしていることは美しいの?
・・・・・・それが多くの人を苦しめることだとしても?

あなたが考えていることは
・・・・・・常識にとらわれたことでしかないのに

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.9 )
日時: 2010/01/20 17:55
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

「はぁぁあ〜・・・・・・気持ちいい〜」

 あむはうっとりとしながら、言った。
 顔は完全に緩み、とろけたはちみつのようだ。

「あったか〜い! しあわせ〜」

 思わず両手を組み、神様に感謝してしまう。
 だってこの温かいシャワーを浴びせてくれたのだから!

 リオールで、エルリック兄弟を見失ったあむとランは、あれからリオール中を懸命に探した。が、それどころではなくなってしまった。
 
 理由はリオールで『暴動』が起こったからだ。
 コーネロにだまされた、と気づいた信者たちが、武器——特に拳銃で町の人間・旅行者を撃ち殺したり、建物に火をつける・・・・・・等の行動に出始めたのだ。
 当然町はパニック状態に陥ってしまった。揺らぐ炎の中、人々が悲鳴・寄生を発しながら逃げ惑う姿。紅い海の中に倒れる人々の姿——地獄絵図そのものだった。

 そんな光景を見たことがないあむは、耐え切れずにリオールを飛び出したのだ。
 それから砂漠をさまよっていたところ、運よく教会を見つけることが出来た。そこでこうしてシャワーを借りている。

「えへへ〜気持ちいいなぁ!」

 シャワーから溢れてくるお湯はとても温かい。全身を毛布でくるまれているようだ。
 今日一日、いろいろあったけれど、嫌なことも全部流してしまえそうだ。
 あむはスポンジを手に持つと、石鹸をつけて泡立たせた。それからスポンジで身体をなめるように洗っていく。首から下は、あっという間に泡だらけだ。

 そこに再びシャワーのお湯。
 小川のように静かに流れるお湯が、あむの身体から泡を持ち去っていく。垢(あか)とともに、穢れもはらわれたはず、とあむは決め付ける。
 完全に泡を落とすと、あむはタオルで身体を拭き始めた。



 あむが泊まっている教会は、旅人・巡礼者のための宿もかねている。入り口から入って正面が教会本体。左手が宿になっている。
 そのせいか教会自体リオールの半分ほどの広さしかない。長いすも左右で二つずつ、計4つしかない。
 それでも一番奥にはリオールで見たような神の像が置かれ、天上はステンドグラスになっている。月明かりが、花の模様を教会に映し出していた。
失礼だが、リオールと違って神々しさを感じられる。



「お湯加減はいかがでしたか?」

 まだ乾ききらない髪をタオルで拭いていると、教会のシスターに声をかけられた。シスターは、『修道女』と言う。神を信じ、信仰的——要は世間から離れて、教会で暮らす女性のことだ。男性だと『修道士』になる。
 黒い布のようなもので頭をすっぽりと覆い隠し、額からは白い布が現れている。髪の毛はその中に全て閉まわれているのか、伺うことが出来ない。
 首には、銀の十字架がついたネックレスをし、長袖の青いワンピースをまとっている。

「とても気持ちよかったです! ありがとうございました」

 あむはシスターの前で立ち止まり、ぺこりとお辞儀をした。
それはよかったわ、と文字通り天使のような微笑で彼女は返してくれた。

「ところであむさん『賢者の石』のことですが・・・・・・」

 お風呂に入る前に、賢者の石のことを尋ねた。
 あれから調べてくれたらしい。あむは内心シスターに感謝しつつ、問う。

「はい! どうなっているんですか?」

 しかし、シスターの表情には困惑の色が見えた。言ってもいいかと迷っているのか、視線を中に泳がせている。
 が、決心がついたらしくあむをまっすぐと見据えた。

「この教会から一時間程歩くと、”ルク”という町があるのですが・・・・・・その町には、なんでも不思議な力を持つ石があるそうですよ。その石の力で、病気や怪我が治ったり、水をワインに変えたりしたりできる。まさに『奇跡の石』なのです」
「奇跡・・・・・・」

 あむは脳裏にコーネロを思い浮かべていた。
 偽の『賢者の石』ならば、そのようなことができるのではないか。ルクの町にも、コーネロのような人間がいるのかもしれない。
 だがここで立ち止まるわけには行かない。必死に「立って歩け、前へ進め」と言い聞かし、疑う自分の心を騙す。

「ラン。明日ルクの町に行こう」
「そうだね」

 ランとあむは、希望に満ちた瞳でしっかり頷きあう。
 夜空では二人を指し示すかのように、星が輝いていた。

砂漠の朝はとても肌寒い。日本で言うと、北海道辺りに来た気分。違うのはそこが、一面の砂の海であると言うこと。
 太陽はまだ昇ったばかりで、空は下半分だけが淡いオレンジ色に染まっていた。上側はうっすらと白い色で、まだ夜が明けたばかりだと言うことを表している。
 砂も朝日に照らされ、キラキラと光っているように見えてきた。まるで黄金色の海のよう。

「……そろそろ町についふぁ?」

 眠いのか欠伸をしつつ、ランがあむに尋ねる。欠伸をしたせいで最後の「た」の部分が、変に伸びた。

「もうすぐだよ。ってかラン、あんたどうして眠いの?」

 翌日、あむは日が昇らないうちに起きた。
 シスターに砂漠は日が昇ると熱くなるから、早めに行けと教わったからだ。
 朝食を教会で食べ終えると、ランを叩き起こして教会を出、こうしてルクに向かって歩いているわけだ。

「だって〜あむちゃんが、早く起きすぎるんだもん」
「起きすぎるって……! 昨日シスターさんに、早く行った方がいいって言われたじゃん」

 あむは昨晩のことを思い出す。
 シスターさんと話した後、ランは確かに早起きする! とはりきっていた。あの元気はどこに行ってしまったのやら。

 一言言ってやろうと思い、あむがランに近づいた。——時。ぴし、と何かにひびが入るような音がする。音源は、腰につけられた赤い下地に黒い数本の斜め線が入ったポーチの中からだ。

「あれ? なんだろ」

 あむは言いながら、ポーチの蓋を開けた。ポーチの蓋の部分には黒いハート型のワッペンがつけられ、女の子らしさを表している。

 ポーチの中にはぎゅうぎゅうに卵が3つ押し込まれていた。
 これはしゅごキャラが入った卵——『しゅごたま』と言う。
 しゅごキャラたちは生まれる時、こうして『しゅごたま』に入ったまま生まれてくる。これが割れると、しゅごキャラが誕生するのだ。何だかひよこっぽい。
 もちろん柄は、人によってしゅごキャラが違うように柄も全く違う。
 
 しゅごキャラが、孵ってからは、夜眠る場所として使うのだ。

 3つとも柄はよく似ている。
 チェック柄で、一つは赤いチェック柄。真ん中には黒い線が卵の横に向かって一周分引かれ、等間隔でハートマークが描かれていた。これはランの『しゅごたま』で、普段彼女はここで寝ている。
 もう一つは緑色のチェックの卵。赤と同じく、中央には黒い線が通っている。ただ線の中の模様は、緑色をしたトランプのクローバーの模様だ。

 そして最後は青いチェックをした卵。黒い線の中の模様は、青いトランプのスペードマークだ——が縦に割れ、中で一人のしゅごキャラが身体を伸ばしていた。

 大きさはランほど。
 頭には、スペード型の飾りがついた青いキャスケットを被っている。
 青い髪を耳までのショートカットにし、服装も青系のシャツに、やはり青いハーフパンツと言う男の子のような格好をしていた。

「あむちゃん、どうしたの?」

 しゅごキャラの青い瞳が、あむをじ〜っと覗き込む。そしてゆっくりと宙に浮きながらポーチから出て、

「うわぁ! きれいだ! スケッチしよっと」

 砂漠の美しさに歓声を上げた。
 続いて肩にかけたうすい水色の袋から、緑色のスケッチブックと赤い鉛筆を取り出した。そしてスケッチブックに何かを描いていく。

「ミ、ミキ……いきなり絵に走った……」

 あむはげんなりとして言った。

 絵を一心不乱に描いているしゅごキャラの名は、『ミキ』。
 明るいランと違い、クールで落ち着いた性格をしている。

「よし出来た!」

 ミキは満足そうに笑うと、スケッチブックを天に掲げた。
 スケッチブックには、それこそ写真のように、砂漠の風景が忠実に描かれていた。

「ってあれ? 何でボク砂漠にいるんだ……?」

 ようやく気づいたのか、ミキは呆然とした。一人称は「ボク」であるが、立派な女の子である。
 あっけに取られる二人であったが、すぐにミキに事情を説明しに声をかける。

「ミキ!」



 無駄だと思えることも含め、今までのいきさつを手短に説明した。
 昨日の朝起きたら砂漠にいたこと、リオールでの一件。そしてルクの町に向かっていることなど。
 黙って聞いていたミキは話が終わると、顔をしかめ腕組みをした。

「要するに……ボクたちトリップしたってことだね?」
「ミキ、とりっぷって? 唇に塗るやつ?」
「それはリップ」

 ランの意味不明なボケに、ミキはびしっと片手でツッコミを入れた。

「異世界トリップ——簡単に言えば、ボクたち3人は別の世界に来てしまったってだよ。本とかでよくあるよ」
「そうだね。だからルクの町に行って、賢者の石を探すんじゃん!」

 あむは力強く言った。
 その言葉にランとミキは、同時に「うん」と大きく頷く。
 その3人を勇気付けるかのように、遠くに町影が見え始めた。

「え? ここって『ルク』だよね?」

 ルクの町に辿り着いたあむは、疑問符交じりの声を上げた。
 町から人の声が聞こえないからである。リオールの時もそうだったが、町に近づくと人の声が聞こえてくるものだ。他愛もない雑談だったり、物を売る商人の声だったり。色々だが、その声を聞くと人がいるのだと安心できる。
 が、それが全くないのだ。
低い風音が町のBGMのように聞こえてきて、かえって怖さを増長させる。

「え? あたしたち、道を間違えたの!?」
「そうじゃないと思う。ほら」

 ミキが何かを指差した。
 それは町の入り口にある門だ。木で出来ていて、アーチの形をしている。その上でキィキィと何か金属が擦れるような音がした。

「あ」

 揺れている物体は、町の名が刻まれた標識のようなもの。長方形をした鉄のプレートの上には確かに『ルク』と刻まれている。
 だがそのプレートはもはや取れかかっている。昔は四隅でとめていたらしく、4つの角の部分にはそれぞれ穴が開けられている。しかし止められているのは、右上のみ。残った留め金だけでプレートはぶら下がり、虚しい音を奏でていた。

「ここは確かに『ルク』なんだ……でも、なんか変じゃん?」
「中に入ってみよっか」

 ランの言葉で、三人は町へと足を踏み入れた。

 入り口から見たとおり、ルクの様子はおかしい。
 左右に密集したレンガ造りの家々は、壊れているものが多い。家の扉が壊され、中がまる見え状態だ。
興味半分、恐ろしさ半分で3人は覗き込んでみる。
 机や棚は倒れ、紙や割れた食器の欠片(かけら)が、床の中のあちこちにとび散っている。
 しかも大抵の家には——赤黒い染みが壁にある。水系の物らしく、垂れた跡が残っている。そして……陽光が家の中を照らした。

「ひっ……」

 あむは小さな悲鳴を上げ、息を呑んだ。
 紙や食器の上に、人間の骨が散乱していた。頭蓋骨(ずがいこつ)や大腿骨(だいたいこつ)が、子供がおもちゃを散らかしたかのように、四方八方に散らばっている。ところどころ、布の切れ端がついている骨もあった。
 赤黒い染み、散らばる人間の骨——どう考えてもルクは普通の村ではない。確実にここで何かあった。

「あむちゃん。行こう……」
「そうだよ。賢者の石を探そう」

 あむを気遣っているのだろう。ランとミキが、優しげな口調で言った。
 あむは何も言わず、骨に背を向け歩き出した。

「また骨だ……」

 あむは沈んだ声を出した。

 人間の適応力と言うものは恐ろしい。
 ルクの町は進むたびに、また新しい骨が出てくる。
家の中だけではなく、道路にも骨は散乱していた。今は踏まないよう、注意して歩いている。
 初めこそ骨にびくついていたあむだったが、もうすっかり慣れてしまい、骨を見ても平気で歩けるようになってしまった。

「あむちゃん……」
「この町、廃墟になってそんなにたってないと思う。早くて数ヶ月前か、長くても一年ってとこだね」

 ミキが周りを見渡しながら話した。
 この町で事件が起きたのは、割と最近の出来事らしい。

 そのまま進み続けると、村の広場のような場所に出た。そこだけ家がなく、円形の広場になっているのだ。
 そこには丸い石でせき止められた池があった。池、と言うにはおかしいかもしれない。その水の色が真っ赤だからだ。血を連想させる、どす黒い赤。見ているだけで気味が悪い。
 しかもよく見ると、泉を囲むようにして謎の図形が描かれている。これは……これは……!

「練成陣?」
 
 あむが言った。
 リオールでアルが描いていたものによく似ている。無論、似ているだけで描いてある図形や、文字は全く異なるものだが。

「あむちゃ〜ん!」

 ランの呼ぶ声に、あむは振り向く。
 ランとミキは、いつのまにか別の場所に移動していた。池のすぐ後ろ——牢獄の中に。

 牢獄と言っても、かなり簡素なものだ。
 動物を入れる檻(おり)のように、四角く切り取られた岩の入れ物。その前方に鉄の棒が5、6本刺さっている程度のものだ。
 その鉄の内二本は、途中なだらかな曲線を描いていた。誰かが無理やりねじ曲げたらしい。たいしたバカ力の持ち主だ。

「どうしたの? ってかちょ〜入りずらいんですけど……」

 ランとミキは小さいから、鉄格子を簡単にすり抜けられるが、あむはそう簡単にはいかない。
 ねじ曲げられた鉄が作り出す、わずかな空間に身体を横にして入る。大人一人がぎりぎり通れるスペースだった。
 
 何とか入ると、あむは牢獄の中を見た。
 せいぜい二人を収容するのが限界なスペースに、人が背を壁に預けたままとまっていた。もちろん骨。ただ町の人々違い、その骨はきれいだ。バラバラにはなっていない。縦縞の囚人服も砂で茶色に汚れてはいるが、きれいに形を保っている。理科室にある標本が、そのまま抜け出してきたようだ。

「かわいそう……ここで死ぬなんて」

 あむは思わず両手を合わせ、ぺこりと頭を下げた。勝手に入ってごめんなさい……と声をかけた。
 しかし骨は話さない。この人の魂は、ここにはないのだから。

「あ〜むちゃん! これ見て」

 その時、ランが服を引っ張った。
 顔を上げると、骨の側に赤い文字が書かれていた。恐らく血でかかれたもの。指を使って書いたらしく、かなり太い。あむは目で文字を追っていきながら、読み上げていく。

「生きていたら、『石』を渡したかったのに。今、この文字を読む生きる者よ。夕刻に……」

 それで文字は終わっていた。
 正確には、無いのだ。そこの壁だけ、何かで剥ぎ取られているのだ。白から茶色にそこだけ壁の色が変わっている。

「石!? この人、賢者の石を持っていたの!? ……そうなんですか?」

 あむは骨に問いかける。
 しかし答えは無い。「死人にくちなし」なのだから。
 「ふふふ……それはどうかしら?」

 突如として、背後から声がした。若い、低めな女性の声。驚いて振り向くと、牢屋越しに一人の女が立っているのが見える。

 黒いフードを目深に被り、顔を見えなくしている。裾が地面につくほど、長いコートを着ていてやはり全身を覆い隠している。
 彼女を見ていると、あむは変な感じを覚えた。心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。体中の毛穴が開き、そこから一気に汗が濁流のようにこみ上げてきた。汗が流れる感じがし、全身が冷えていく。

「だ、誰あんた……」

 恐ろしさを感じながら、あむは低い声で女に問いかけた。ランとミキの表情も険しくなる。

「私? 知りたかったら、その牢獄から出ていらっしゃい。お姉さんと話をしましょう?」

 随分甘ったるい口調だ。まるでバーのホステスのようだ。
 からかわれたあむは、むっとしながらも身体を横にした。歪んだ鉄の棒の間を通り、女の前へと立った。 ランとミキも後から続くが、あむと違い楽々通り抜けた。

「あら、えらい」

 からかう様に、黒衣の女は拍手をした。
 何か企んでいるのか、フードの下から見える唇が不気味な程にやついている。

「じゃあご褒美に教えてあげる。この村では数ヶ月前に大量殺人事件があったのよ」

 言いながら、女は片手で何かをあむに投げた。
 それは新聞だった。この世界の言語は英語らしく、aやb等の文字がずらずらと並んでいる。新聞なので文字はかなり小さめだ。
 
 本来あむは英語は苦手なはずだが、この世界に来た途端、急に理解できるようになってしまった。何故かはわからない。ファンタジーのように、異世界に飛んだショックから、なのかもしれない。

「えっと本日未明、ルクの村にて殺人事件発生。村人31人全員が死亡……犯人は、ルクの村民 ジュリエット・ガーギャ氏(25)。後に自殺?」

 そこまで言ってあむは、新聞の顔写真に目をやった。
 黒い髪の女性だった。鼻が高い美人な顔立ちだ。しかし、目つきは鋭く、いかにも事件を起こしそうな顔をしている。
 待って……今。目の前にいる女は? フードから見える髪は黒。まさか!? あむがそう思ったとき。

「!」

 急にあむは口元にハンカチを当てられてしまった。
 抵抗を試みるが、もう片方の手で身体を押さえつけられ逃げられない。

「うふふ。ジュリエット・ガーギャって、誰のことだと思う?」

 いつのまにか黒衣の女がフードを取り払っている。そこにあった顔は……新聞に載っていたジュリエット・ガーギャその人だった。
 ジュリエットの血のような赤い瞳が、囚われたあむを映しこむ。

 ジュリエットはあむの口元を覆う手を、さらに上に動かした。ハンカチがとうとう鼻まで覆いつくす。
 息が出来ない。苦しい。あむは必死に身体をばたつかせた。だが。
 ハンカチから何か臭いがした。それを嗅いだら、景色が薄くなり始めた。ランとミキの声が、やけに遠く感じる。息が出来ない、苦しさもない。

(やばい……あたし、どうなるの……)

 そう思っていたら、視界が暗くなった。
 テレビの電源を切ったかのようだ。意識が遠くなってゆき——あむの目の前から光が消えた。

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.10 )
日時: 2010/01/20 18:04
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

 ——いったいどのくらい眠っただろうか。不意に感覚が蘇ってきた。手先が冷たい。足も冷え込んでいる。そしてどこか懐かしい匂いを感じる……あむはがばっと起き上がった。そしてはっとした。何故か椅子に座っていた。右横は教室の壁。そして真下には机。机の上には算数の教科書が広げられ、その横には宿題のプリントが置かれている。プリントは問題が解きかけのままで、その上にシャーペンが転がっていた。

「ここ……教室だ……」

 あむは辺りを見渡した。
 教室の中はあむ以外誰もいなく、廃墟のように静まり返っていた。それに電気が消されているので、かなり薄暗い。担任の二階堂先生が、消したのかもしれない。ただ差し込む夕日のおかげで、窓側だけはとても明るい。その光に誘われるように、あむはふらふらと窓辺へ歩いた。そして窓の前で立ち止まる。
 
 外は、もうすっかりオレンジ色の空になっていた。完全に寝過したのだ。そんなあむを馬鹿にするように、黒いカラスが鳴きながら飛び去って行った。
 窓の下では、クラブ活動が終わったらしい上級生たちが、楽しげに笑い合いながら門の方へとぞろぞろ歩いている。

「やっば! あたしも帰らなきゃ!」

 あむは慌てて帰りの支度にとりかかる。まずシャーペンを筆箱に仕舞い、鞄に入れる。続いて算数の教科書を鞄に入れ、最後にプリントをファイルに仕舞って終わりだ。
 席を立ち、椅子を机の中にきちんと仕舞い込む。それから鞄を持つと、大急ぎで出入り口に向かう。その時、教室の前を横切っていた生徒二人が足を止めた。そして順々にあむに声をかける。

「あ、あむちー!」
「日奈森さん! ちょうど今、起こしに行こうと思っていたんだよ」

 一人はあむより少し背が低い女の子だ。ちょぴり幼さを感じさせる顔立ちと、明るい茶色の髪を持っている。髪は、耳の上あたりから立派な赤いリボンでツインテールにしている。本来首から下はネクタイのはずだが、彼女は髪につけているのと同じリボンをしている。
 もう一人は女の子のように可愛らしい顔立ちをした子。ブロンドの前髪を右側に流し、後髪は首元で揃えられている。優しげな赤みが強い茶色の瞳が印象的だ。
上のシャツはあむと同じだが、下は青いチェックのズボンだ。
 この聖夜小学校では、女子の制服は赤いチェックのスカートだが、男子の制服は青いチェックのズボンなのだ。

「やや! それに……唯世(ただせ)くん!」

 女の子の方が『結城 やや(ゆいき やや)』。男の子は「ほとぼり(注・変換できなくてすいません) 唯世」と言う。二人ともあむの友達だ。

「もう! ガーディアン会議サボるなんてひど〜い!」

 ややが頬を膨らましながら言う。まるでわがままを言う子供のようだ。それを見た唯世は苦笑いをした。
 ちなみに「ガーディアン」と言うのは、聖夜小学校においての「生徒会」である。代々しゅごキャラを持つ人間——キャラもちの子供が受け継いでいく。
 行事を企画したり、書類にはんこうを押したり……とても小学生なのに、やることは多くて大変なのだ。その会議を、あむは寝過したわけで。


「日奈森さん、結構疲れていたみたいだから……ほら。最近、運動会の準備で大忙しだったからね。仕方がないと思うよ」
「そっかなぁ? 確かに昨日は色々大変だったけど……やっぱしずるい〜!」
「ご、ごめん……明日はちゃんと行くから!」

 あむは両手を合わせると、頭を前に下げた。
 その時、変な考えが頭に浮かんだ。
 ——本当に明日は来るのかな? あたし、何かを忘れている気がする……

「明日は来ない。あむは、夢を見ているんだかな。」

 あむの疑問に答えるように、ちょっと柄の悪い男の声が聞こえてきた。振り向くと声よりも幼そうに見える少年がいた。あむよりも小柄で、パッと見ると女子と名乗っても通じそうな程かわいらしい。小柄なことを気にしているのか、頭には黄色のアホ毛がピン、と電波を受信するかのように立っている。さらに靴も厚底のブーツ。……きっとせめてもの抵抗なのだろう。唯世よりも濃い金髪を、後ろで一つに三つ編みにしているのが何とも女の子らしい。ただ格好が黒いシャツに、黒いズボン。そして赤いコートと何だかド派手な格好をしている。何故か手には白い手袋をしているのが謎だ。

「えっと……あんた、誰? でも知っている気がする……」

 自分の名前を知っているようだが、当然あむに覚えはない。ただ、彼につい最近会ったばかりのような気がするのが不思議だ。何故だか心のそこから、懐かしさがこみ上げてくる。名前も知らないのに——
 
「ちょっと君〜! あむちーに変なこと言わないでよ!」

 ややは少年に近づくと、あむを指差しながら言った。唯世も顔に嫌そうな雰囲気を宿しつつ、少年に近づいていった。二人に囲まれても、少年はひるむ様子を全く見せない。それどこか、呆れるようにため息をついたのだ。

「変? 俺はあむに真実を伝えたいだけだ」

 少年はあむの方に向き直った。金色の目が、あむの顔をじっと捉える。あむは魔法にかかったように、その少年の目を見つめる。

「あむ、思い出せ。お前のやるべきことを。お前の進むべき道を」
「あむちーの進む道はこっちだよ! 考えなくてい〜じゃん! そうでしょ?」

 少年は静かに、そして強く言い放った。それを邪魔するかのように、ややが強くあむに迫る。

「あたしのやるべきこと……」

 あむは少年の言葉を反復した。そして何かを考えるように、うな垂れた。
そうだ。あたしには、やるべきことがあったはずだ。とても、とても大切なこと。なんだっけ……とあむが悩んだ時だった。ポケットが急に輝き始めた。違う。ポケットの中にある何かが輝き、光がそこからもれているのだ。気になったあむは、ポケットに手を入れ、それを取り出した。出てきたのは、銀色の時計。ライオンのような紋章と、六芒星が彫刻された時計だ。何かを訴えるように一層輝きを増す。しかし今は金色に光っているので、金メダルを持っているような感じだ。あむは眩しさから、目を細めながら銀色の時計を強く握る。すると頭の中に不思議な映像が浮かんできた。自分が見知らぬ土地に立っている。その傍で少女が一人、泣き崩れている。その横を目の前にいる少年と大きな鎧が通り過ぎる。そして言う。

「立って歩け。前に進め。あんたには、立派な足が付いているじゃないか」

 少年が呟くのと同時に、あむもまたその言葉を唱えた。あむの声と少年の声が、互いに重なり合い美しい響きを持つ。それと同時に、頭の『記憶』と言う血液がようやく回り始めた。一気に今までの旅の記憶が、鳥が一斉に羽ばたくようにこみ上げてくる。そう、それは自分が唯一信じている魔法の言葉。

「あたしは進まなくちゃ行けない。ここは、ここは」

 あむは一度言葉を飲み込んだ。続けたくないからだ。認めたくない。でも……いつかは必ず帰れる場所だと信じて。あえて言おう。

「ここは夢の世界だから!」

「日奈森さん……」
「あむちー……」

 その言葉で唯世は残念そうで、そして今にも泣きそうな顔をし、ややに至ってはしゃくりあげて泣き始めてしまった。二人の意外な反応にあむは戸惑う。

「二人とも!? どうしちゃったの……」

 夢にしてはリアルすぎる演出だ。
 そういえばここは夢のはずなのに机の匂いも、手足の感覚も感じることができる。

(もしかして……あたし戻ってきたの?)

 あむの心に疑念がさした。
 すると目の前にいたエドが、あむに向かって片手を差し出してきた。まるで本当の紳士のようだ。あむは、はっとした表情でエドを見つめる。エドは何も言わず頷いた。それから、

「帰ろう、あむ。お前のいるべき世界はここじゃない。ここにはランもミキも、アルもいない」

 とあむをしっかり見据えながら言った。あむはその手をとろうと手を伸ばした——しかし唯世とややが悲しむ顔を一瞬でもと見てしまうと、途端に手を引っ込めてしまった。
 その光景を見ていた唯世が不意に口を開いた。

「日奈森さんのいる世界はここだよ。ここにランとミキはいないかもしれないけど……代りに僕たちがいる。さあ、ここに残って」
「!」

 そしてなんと唯世までもあむに手を出してきた。ややも泣きやみ、潤んだ目で唯世と同じことをする。
 あむはうつむいてしまった。悩んでいるのか、と誰もが思った。が、悔しそうに歯ぎしりをしているではないか。

「ふざけないでよ……本当の唯世くんとややだったら、絶対そんなこと言わない」

 顔を上げるとあむは、唯世とややをビシっと指差し、強く言い放った。

「二人とも偽物だ! 二人はしゅごキャラの大切さをわかってない! ランもミキも……まだ眠っているスゥもダイヤも。みんなあたしの大切な仲間よ。もちろん、唯世くんと、ややも。だから」

 そこから先が詰まった。あむの目から一筋の涙が頬をすべり、地面で弾けた。まるで花弁が舞い上がるように弾け、輝くボールがわずかに生まれる。廊下がわずかに濡れる。

「だから……だから」

 涙が狂ったようにあふれてくる。もう止められない。まるであむの目が雨を降らせる雲になってしまたよう。しかし。

「だから待ってて! いつか絶対みんなに会いに来るから! 唯世くん、りま、なぎひこ、やや、空海(くうかい)! それにイクト、歌唄(うたう)!」

 雨雲はいつか必ず晴れる。そしてその後に来るのは青い空——異世界に飛んでからまだ会っていない仲間。ガーディアンの顔を。知り合いの顔を。頭に浮かべながら、あむは声の限り叫んだ。何度も何度も。頭の中は、全て友達の顔と思い出で占拠されている。ただ仲間を呼ぶことしか考えられなくなっていた。
 
『そうよあむちゃん。いつかまた会えるわ……』

 脳裏に女の子の声が聞こえた。小鳥がさえずるような美しい声だった。この声は——

「ダイヤ……!?」

ダイヤの名前を呼んだ時だった。
 突然エドの身体が光りを発し始めた。そしてどんどん小さくなっていく。それと同時に、周りの景色が、唯世とややが、青く光る粒子となって溶けるように消えていく。一瞬ですべては消え、粒子がふわっと広がったかと思うと、目の前で弾けて消えてしまった。
 溶けた後は黒い闇が姿を露(あらわ)になる。


 あむはとっさに唯世とややに手を伸ばそうとした。だが、必死に理性で感情を抑え込んで何とか引っ込めることができた。消えていく二人を見ながら、呆然と立っていた。やがて二人が消え、辺りが暗くなると、力が抜けたように膝を地面に着いた。

『あむちゃん』

 エドの縮小が、あむの拳ほどの大きさで止まった。そしてパッと花が開くように、光が散った。

 そこにはエド……ではなく、しゅごキャラが光りながら浮いていた。
 オレンジがかかった髪を、頭の上からのツインテールにしている女の子だ。ツインテールは長く、毛の一番先っぽは彼女の白い靴の先まで来ている。
左耳にはステージ用のピンマイク。頭には白いカチューシャをしていて、その右はじには大小二つのダイヤ型の飾りがある。服は明るい黄色のワンピース。
 彼女の名はダイヤ。ランとミキと同じく、あむの『なりたい自分』の一人だ。
 

「ダ、ダイヤ! 何でエドがダイヤになっちゃうわけ!?」
『エドは私が作った幻想。……あむちゃん、早く夢から覚めて』

 ダイヤの言葉で、これが改めて夢だと知ったあむは、ダイヤに気になった疑問をぶつけてみる。

「幻想って? ここはただの夢じゃないの?」
『ここはジュリエットが作り出した、邪悪な世界。例えて言うなら、ここは檻。さっきの夢は甘い餌なの。甘い餌であむちゃんをおびき寄せて、捕まえる気だったの。でも間に合ってよかった。捕まったらもう終わり……元の世界にも、エドがいる世界にも帰れなくなるわ。』

 ダイヤは辺りを見渡しながら語った。
 周りは黒しかない。もしダイヤが光っていなければ、真っ暗闇だ。唯一の光で太陽のようだ。もし夜に太陽が照っていたら、こんな風景になるのではないだろうか。
 
「あたし幻を見せられていたってこと?」

 ダイヤは静かに首を縦に振った。

『そう。幻を見せられていたの。ちなみに今、あむちゃんの世界ではこんな感じになっているわ』

 ダイヤがある場所を指差した途端。また突然暗闇が、元の夕暮れ時の教室へと変わった。あむの目の前——窓側の一番後ろの席に、唯世とややがいた。
 二人とも表情が重苦しい。唯世は腕組みをし、肘を机に載せていて、ややは俯いている。二人とも、沈黙をまとっていた。


「ねえ、あむちーが行方不明になったって本当?」

 最初に切り出したのはややだった。でもいつもとは違う、真面目さがこもった口調だった。

「うん……日奈森さんのご両親が言っていたんだけど、朝起きたら突然いなくなったらしいんだ。制服もないし、学校の鞄もないから、学校に言ったと思っていたらしいんだけど……」
「あむちー来てなかったよね」
「そう。だから、日奈森さんは家出したってことになっているみたいだよ。警察の人も一生懸命に探しているけど、手掛かりがないって。お金は持っていかなかったらしいから、そう遠くへ行けないはずなのに……」
「あたし……やっぱり行方不明になっているんだ」

 あむはそう言うと、俯いてしまった。現実だとは分かっていても、事実を突きつけられると心が痛んでくる。
 同時に教室が、また暗闇の世界に戻ってしまった。

『そう。みんな、あむちゃんのことをとても心配しているわ』
「みんな……待ってって! 絶対に戻ってくるから!」

 誰もいない空間に向かって、あむは誓いを述べた。もちろん返事はない。その時、ダイヤの輝きが急に強くなった。眩しすぎて、目を開けていられない。

「ダイヤ!」
『これから先、色々とあると思うわ。きっと死にかけることだって、くじけることだってある。でも、何があっても諦めないで。希望を見失わないで——』

 ダイヤの輝きが一層強くなり、あむはその光に身を持ち上げられたが気がした。だが、それは急に落下する感覚へと変わっていく。
 あむはようやく目をあけた。ようやく光が弱まったのだ。ダイヤが遠ざかっていく。どんなに手を伸ばしても、空を切るだけ。掴めそうなのに、掴むことができない。掴めない代わりに、あむは何度もダイヤの名を呼んだ。叫びすぎて声がかれるまで呼び続けた。

『あむちゃん、私はあなたの傍にちゃんといるわ。いつもあなたを見守っているから』

 ダイヤのそんなこえを聞いた気がした。いよいよ米粒ほどたったダイヤが、とうとう見えなくなった。ただ、ただ落ちていくだけ。落ちていくだけ……



「ダイヤ!」

 あむは、腹筋を使いむくっと起き上がった。そして右手で何かを掴もうとする。握ったのは、夜の砂漠独特のひんやりとした空気だった。

「あ、あれ……」

 いつのまにか風景が変わっていた。外は暗く、星たちが自分たちの力を使って懸命に輝いている。
 目の前には鉄の格子。鉄の檻の向こうには、長い銃を持った男が立っている。そして通り過ぎていく人々。リオールで見たような格好をしている。それと、夜の色を移し、ますます気味が悪い血色の池。

「ここ、ルクの村……だ。あたし、帰ってきたんだ」

 しかしルクにしては様子がおかしい。昼間見た時と様子が全然違うのだ。
 鉄の格子はねじれていなく、まっすぐに。滅んだはずなのに人が。家々には明かりがともり、楽しげな笑い声が聞こえてくる。変わっていないのは、あの血の池だけだ。夜になったせいか、色が濃くなったように見える。

「よう、お嬢さん。ようやくお目覚めかい?」

 後ろから声がした。振り向くと、昼間骨があった位置に、人間がいた。あぐらをかき、退屈そうに両手を頭の後ろで組んでいる。
 縦じまの囚人服を着た、ひげが濃いおじさんだ。50代くらいだろうか。

「あ、あなたは?」
「俺? そうだな……シンとでも呼んでくれ」
「あたしは日奈森 亜夢って言います」
「ああ、知ってる。こいつらから話を聞いた」

 シンは自分の左横を指差した。
 そこにはランとミキがいて、あむを見るなり喜んで彼女のもとに飛んできた。

「あ〜むちゃ〜ん! 心配したよお!」
「よかった! 目が覚めんただね!」

 二人を順に見てから、あむは笑って言った。

「ただいま」
「おかえり!」

 ランとミキが同じく言った。
 その言葉であむは何となく安心した。あたしのいる場所は、ここなんだな。と改めて感じた。

〜つづく〜

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.11 )
日時: 2010/01/20 18:11
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

コピー終わりました;;
今日はポケモン小説を書くので、続きは明日か、金曜日になります。

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.12 )
日時: 2010/01/22 17:24
名前: アイシス (ID: 9FUTKoq7)

おもろい! 
早く続き書いて!

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.13 )
日時: 2010/01/22 19:00
名前: ラピスラズリ ◆P2rg3ouW6M (ID: ujtHIReP)

こんばんは〜!
あはは、今日はあと一時間で塾にいかなくてはいけません;
しかーも、数学がある・・・(あああ・・・
頑張りマース;
来週は、理科(月曜)と数学(水曜、木曜)と漢字検定(金曜)のテストがあり、最悪です><
まるで期末テストのように重なってますよねっ。ありえないですー。