二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: しゅごキャラ×鋼の錬金術師〜あむの旅〜 ( No.9 )
日時: 2010/01/20 17:55
名前: ルミカ ◆rbfwpZl7v6 (ID: 9FUTKoq7)

「はぁぁあ〜・・・・・・気持ちいい〜」

 あむはうっとりとしながら、言った。
 顔は完全に緩み、とろけたはちみつのようだ。

「あったか〜い! しあわせ〜」

 思わず両手を組み、神様に感謝してしまう。
 だってこの温かいシャワーを浴びせてくれたのだから!

 リオールで、エルリック兄弟を見失ったあむとランは、あれからリオール中を懸命に探した。が、それどころではなくなってしまった。
 
 理由はリオールで『暴動』が起こったからだ。
 コーネロにだまされた、と気づいた信者たちが、武器——特に拳銃で町の人間・旅行者を撃ち殺したり、建物に火をつける・・・・・・等の行動に出始めたのだ。
 当然町はパニック状態に陥ってしまった。揺らぐ炎の中、人々が悲鳴・寄生を発しながら逃げ惑う姿。紅い海の中に倒れる人々の姿——地獄絵図そのものだった。

 そんな光景を見たことがないあむは、耐え切れずにリオールを飛び出したのだ。
 それから砂漠をさまよっていたところ、運よく教会を見つけることが出来た。そこでこうしてシャワーを借りている。

「えへへ〜気持ちいいなぁ!」

 シャワーから溢れてくるお湯はとても温かい。全身を毛布でくるまれているようだ。
 今日一日、いろいろあったけれど、嫌なことも全部流してしまえそうだ。
 あむはスポンジを手に持つと、石鹸をつけて泡立たせた。それからスポンジで身体をなめるように洗っていく。首から下は、あっという間に泡だらけだ。

 そこに再びシャワーのお湯。
 小川のように静かに流れるお湯が、あむの身体から泡を持ち去っていく。垢(あか)とともに、穢れもはらわれたはず、とあむは決め付ける。
 完全に泡を落とすと、あむはタオルで身体を拭き始めた。



 あむが泊まっている教会は、旅人・巡礼者のための宿もかねている。入り口から入って正面が教会本体。左手が宿になっている。
 そのせいか教会自体リオールの半分ほどの広さしかない。長いすも左右で二つずつ、計4つしかない。
 それでも一番奥にはリオールで見たような神の像が置かれ、天上はステンドグラスになっている。月明かりが、花の模様を教会に映し出していた。
失礼だが、リオールと違って神々しさを感じられる。



「お湯加減はいかがでしたか?」

 まだ乾ききらない髪をタオルで拭いていると、教会のシスターに声をかけられた。シスターは、『修道女』と言う。神を信じ、信仰的——要は世間から離れて、教会で暮らす女性のことだ。男性だと『修道士』になる。
 黒い布のようなもので頭をすっぽりと覆い隠し、額からは白い布が現れている。髪の毛はその中に全て閉まわれているのか、伺うことが出来ない。
 首には、銀の十字架がついたネックレスをし、長袖の青いワンピースをまとっている。

「とても気持ちよかったです! ありがとうございました」

 あむはシスターの前で立ち止まり、ぺこりとお辞儀をした。
それはよかったわ、と文字通り天使のような微笑で彼女は返してくれた。

「ところであむさん『賢者の石』のことですが・・・・・・」

 お風呂に入る前に、賢者の石のことを尋ねた。
 あれから調べてくれたらしい。あむは内心シスターに感謝しつつ、問う。

「はい! どうなっているんですか?」

 しかし、シスターの表情には困惑の色が見えた。言ってもいいかと迷っているのか、視線を中に泳がせている。
 が、決心がついたらしくあむをまっすぐと見据えた。

「この教会から一時間程歩くと、”ルク”という町があるのですが・・・・・・その町には、なんでも不思議な力を持つ石があるそうですよ。その石の力で、病気や怪我が治ったり、水をワインに変えたりしたりできる。まさに『奇跡の石』なのです」
「奇跡・・・・・・」

 あむは脳裏にコーネロを思い浮かべていた。
 偽の『賢者の石』ならば、そのようなことができるのではないか。ルクの町にも、コーネロのような人間がいるのかもしれない。
 だがここで立ち止まるわけには行かない。必死に「立って歩け、前へ進め」と言い聞かし、疑う自分の心を騙す。

「ラン。明日ルクの町に行こう」
「そうだね」

 ランとあむは、希望に満ちた瞳でしっかり頷きあう。
 夜空では二人を指し示すかのように、星が輝いていた。

砂漠の朝はとても肌寒い。日本で言うと、北海道辺りに来た気分。違うのはそこが、一面の砂の海であると言うこと。
 太陽はまだ昇ったばかりで、空は下半分だけが淡いオレンジ色に染まっていた。上側はうっすらと白い色で、まだ夜が明けたばかりだと言うことを表している。
 砂も朝日に照らされ、キラキラと光っているように見えてきた。まるで黄金色の海のよう。

「……そろそろ町についふぁ?」

 眠いのか欠伸をしつつ、ランがあむに尋ねる。欠伸をしたせいで最後の「た」の部分が、変に伸びた。

「もうすぐだよ。ってかラン、あんたどうして眠いの?」

 翌日、あむは日が昇らないうちに起きた。
 シスターに砂漠は日が昇ると熱くなるから、早めに行けと教わったからだ。
 朝食を教会で食べ終えると、ランを叩き起こして教会を出、こうしてルクに向かって歩いているわけだ。

「だって〜あむちゃんが、早く起きすぎるんだもん」
「起きすぎるって……! 昨日シスターさんに、早く行った方がいいって言われたじゃん」

 あむは昨晩のことを思い出す。
 シスターさんと話した後、ランは確かに早起きする! とはりきっていた。あの元気はどこに行ってしまったのやら。

 一言言ってやろうと思い、あむがランに近づいた。——時。ぴし、と何かにひびが入るような音がする。音源は、腰につけられた赤い下地に黒い数本の斜め線が入ったポーチの中からだ。

「あれ? なんだろ」

 あむは言いながら、ポーチの蓋を開けた。ポーチの蓋の部分には黒いハート型のワッペンがつけられ、女の子らしさを表している。

 ポーチの中にはぎゅうぎゅうに卵が3つ押し込まれていた。
 これはしゅごキャラが入った卵——『しゅごたま』と言う。
 しゅごキャラたちは生まれる時、こうして『しゅごたま』に入ったまま生まれてくる。これが割れると、しゅごキャラが誕生するのだ。何だかひよこっぽい。
 もちろん柄は、人によってしゅごキャラが違うように柄も全く違う。
 
 しゅごキャラが、孵ってからは、夜眠る場所として使うのだ。

 3つとも柄はよく似ている。
 チェック柄で、一つは赤いチェック柄。真ん中には黒い線が卵の横に向かって一周分引かれ、等間隔でハートマークが描かれていた。これはランの『しゅごたま』で、普段彼女はここで寝ている。
 もう一つは緑色のチェックの卵。赤と同じく、中央には黒い線が通っている。ただ線の中の模様は、緑色をしたトランプのクローバーの模様だ。

 そして最後は青いチェックをした卵。黒い線の中の模様は、青いトランプのスペードマークだ——が縦に割れ、中で一人のしゅごキャラが身体を伸ばしていた。

 大きさはランほど。
 頭には、スペード型の飾りがついた青いキャスケットを被っている。
 青い髪を耳までのショートカットにし、服装も青系のシャツに、やはり青いハーフパンツと言う男の子のような格好をしていた。

「あむちゃん、どうしたの?」

 しゅごキャラの青い瞳が、あむをじ〜っと覗き込む。そしてゆっくりと宙に浮きながらポーチから出て、

「うわぁ! きれいだ! スケッチしよっと」

 砂漠の美しさに歓声を上げた。
 続いて肩にかけたうすい水色の袋から、緑色のスケッチブックと赤い鉛筆を取り出した。そしてスケッチブックに何かを描いていく。

「ミ、ミキ……いきなり絵に走った……」

 あむはげんなりとして言った。

 絵を一心不乱に描いているしゅごキャラの名は、『ミキ』。
 明るいランと違い、クールで落ち着いた性格をしている。

「よし出来た!」

 ミキは満足そうに笑うと、スケッチブックを天に掲げた。
 スケッチブックには、それこそ写真のように、砂漠の風景が忠実に描かれていた。

「ってあれ? 何でボク砂漠にいるんだ……?」

 ようやく気づいたのか、ミキは呆然とした。一人称は「ボク」であるが、立派な女の子である。
 あっけに取られる二人であったが、すぐにミキに事情を説明しに声をかける。

「ミキ!」



 無駄だと思えることも含め、今までのいきさつを手短に説明した。
 昨日の朝起きたら砂漠にいたこと、リオールでの一件。そしてルクの町に向かっていることなど。
 黙って聞いていたミキは話が終わると、顔をしかめ腕組みをした。

「要するに……ボクたちトリップしたってことだね?」
「ミキ、とりっぷって? 唇に塗るやつ?」
「それはリップ」

 ランの意味不明なボケに、ミキはびしっと片手でツッコミを入れた。

「異世界トリップ——簡単に言えば、ボクたち3人は別の世界に来てしまったってだよ。本とかでよくあるよ」
「そうだね。だからルクの町に行って、賢者の石を探すんじゃん!」

 あむは力強く言った。
 その言葉にランとミキは、同時に「うん」と大きく頷く。
 その3人を勇気付けるかのように、遠くに町影が見え始めた。

「え? ここって『ルク』だよね?」

 ルクの町に辿り着いたあむは、疑問符交じりの声を上げた。
 町から人の声が聞こえないからである。リオールの時もそうだったが、町に近づくと人の声が聞こえてくるものだ。他愛もない雑談だったり、物を売る商人の声だったり。色々だが、その声を聞くと人がいるのだと安心できる。
 が、それが全くないのだ。
低い風音が町のBGMのように聞こえてきて、かえって怖さを増長させる。

「え? あたしたち、道を間違えたの!?」
「そうじゃないと思う。ほら」

 ミキが何かを指差した。
 それは町の入り口にある門だ。木で出来ていて、アーチの形をしている。その上でキィキィと何か金属が擦れるような音がした。

「あ」

 揺れている物体は、町の名が刻まれた標識のようなもの。長方形をした鉄のプレートの上には確かに『ルク』と刻まれている。
 だがそのプレートはもはや取れかかっている。昔は四隅でとめていたらしく、4つの角の部分にはそれぞれ穴が開けられている。しかし止められているのは、右上のみ。残った留め金だけでプレートはぶら下がり、虚しい音を奏でていた。

「ここは確かに『ルク』なんだ……でも、なんか変じゃん?」
「中に入ってみよっか」

 ランの言葉で、三人は町へと足を踏み入れた。

 入り口から見たとおり、ルクの様子はおかしい。
 左右に密集したレンガ造りの家々は、壊れているものが多い。家の扉が壊され、中がまる見え状態だ。
興味半分、恐ろしさ半分で3人は覗き込んでみる。
 机や棚は倒れ、紙や割れた食器の欠片(かけら)が、床の中のあちこちにとび散っている。
 しかも大抵の家には——赤黒い染みが壁にある。水系の物らしく、垂れた跡が残っている。そして……陽光が家の中を照らした。

「ひっ……」

 あむは小さな悲鳴を上げ、息を呑んだ。
 紙や食器の上に、人間の骨が散乱していた。頭蓋骨(ずがいこつ)や大腿骨(だいたいこつ)が、子供がおもちゃを散らかしたかのように、四方八方に散らばっている。ところどころ、布の切れ端がついている骨もあった。
 赤黒い染み、散らばる人間の骨——どう考えてもルクは普通の村ではない。確実にここで何かあった。

「あむちゃん。行こう……」
「そうだよ。賢者の石を探そう」

 あむを気遣っているのだろう。ランとミキが、優しげな口調で言った。
 あむは何も言わず、骨に背を向け歩き出した。

「また骨だ……」

 あむは沈んだ声を出した。

 人間の適応力と言うものは恐ろしい。
 ルクの町は進むたびに、また新しい骨が出てくる。
家の中だけではなく、道路にも骨は散乱していた。今は踏まないよう、注意して歩いている。
 初めこそ骨にびくついていたあむだったが、もうすっかり慣れてしまい、骨を見ても平気で歩けるようになってしまった。

「あむちゃん……」
「この町、廃墟になってそんなにたってないと思う。早くて数ヶ月前か、長くても一年ってとこだね」

 ミキが周りを見渡しながら話した。
 この町で事件が起きたのは、割と最近の出来事らしい。

 そのまま進み続けると、村の広場のような場所に出た。そこだけ家がなく、円形の広場になっているのだ。
 そこには丸い石でせき止められた池があった。池、と言うにはおかしいかもしれない。その水の色が真っ赤だからだ。血を連想させる、どす黒い赤。見ているだけで気味が悪い。
 しかもよく見ると、泉を囲むようにして謎の図形が描かれている。これは……これは……!

「練成陣?」
 
 あむが言った。
 リオールでアルが描いていたものによく似ている。無論、似ているだけで描いてある図形や、文字は全く異なるものだが。

「あむちゃ〜ん!」

 ランの呼ぶ声に、あむは振り向く。
 ランとミキは、いつのまにか別の場所に移動していた。池のすぐ後ろ——牢獄の中に。

 牢獄と言っても、かなり簡素なものだ。
 動物を入れる檻(おり)のように、四角く切り取られた岩の入れ物。その前方に鉄の棒が5、6本刺さっている程度のものだ。
 その鉄の内二本は、途中なだらかな曲線を描いていた。誰かが無理やりねじ曲げたらしい。たいしたバカ力の持ち主だ。

「どうしたの? ってかちょ〜入りずらいんですけど……」

 ランとミキは小さいから、鉄格子を簡単にすり抜けられるが、あむはそう簡単にはいかない。
 ねじ曲げられた鉄が作り出す、わずかな空間に身体を横にして入る。大人一人がぎりぎり通れるスペースだった。
 
 何とか入ると、あむは牢獄の中を見た。
 せいぜい二人を収容するのが限界なスペースに、人が背を壁に預けたままとまっていた。もちろん骨。ただ町の人々違い、その骨はきれいだ。バラバラにはなっていない。縦縞の囚人服も砂で茶色に汚れてはいるが、きれいに形を保っている。理科室にある標本が、そのまま抜け出してきたようだ。

「かわいそう……ここで死ぬなんて」

 あむは思わず両手を合わせ、ぺこりと頭を下げた。勝手に入ってごめんなさい……と声をかけた。
 しかし骨は話さない。この人の魂は、ここにはないのだから。

「あ〜むちゃん! これ見て」

 その時、ランが服を引っ張った。
 顔を上げると、骨の側に赤い文字が書かれていた。恐らく血でかかれたもの。指を使って書いたらしく、かなり太い。あむは目で文字を追っていきながら、読み上げていく。

「生きていたら、『石』を渡したかったのに。今、この文字を読む生きる者よ。夕刻に……」

 それで文字は終わっていた。
 正確には、無いのだ。そこの壁だけ、何かで剥ぎ取られているのだ。白から茶色にそこだけ壁の色が変わっている。

「石!? この人、賢者の石を持っていたの!? ……そうなんですか?」

 あむは骨に問いかける。
 しかし答えは無い。「死人にくちなし」なのだから。
 「ふふふ……それはどうかしら?」

 突如として、背後から声がした。若い、低めな女性の声。驚いて振り向くと、牢屋越しに一人の女が立っているのが見える。

 黒いフードを目深に被り、顔を見えなくしている。裾が地面につくほど、長いコートを着ていてやはり全身を覆い隠している。
 彼女を見ていると、あむは変な感じを覚えた。心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。体中の毛穴が開き、そこから一気に汗が濁流のようにこみ上げてきた。汗が流れる感じがし、全身が冷えていく。

「だ、誰あんた……」

 恐ろしさを感じながら、あむは低い声で女に問いかけた。ランとミキの表情も険しくなる。

「私? 知りたかったら、その牢獄から出ていらっしゃい。お姉さんと話をしましょう?」

 随分甘ったるい口調だ。まるでバーのホステスのようだ。
 からかわれたあむは、むっとしながらも身体を横にした。歪んだ鉄の棒の間を通り、女の前へと立った。 ランとミキも後から続くが、あむと違い楽々通り抜けた。

「あら、えらい」

 からかう様に、黒衣の女は拍手をした。
 何か企んでいるのか、フードの下から見える唇が不気味な程にやついている。

「じゃあご褒美に教えてあげる。この村では数ヶ月前に大量殺人事件があったのよ」

 言いながら、女は片手で何かをあむに投げた。
 それは新聞だった。この世界の言語は英語らしく、aやb等の文字がずらずらと並んでいる。新聞なので文字はかなり小さめだ。
 
 本来あむは英語は苦手なはずだが、この世界に来た途端、急に理解できるようになってしまった。何故かはわからない。ファンタジーのように、異世界に飛んだショックから、なのかもしれない。

「えっと本日未明、ルクの村にて殺人事件発生。村人31人全員が死亡……犯人は、ルクの村民 ジュリエット・ガーギャ氏(25)。後に自殺?」

 そこまで言ってあむは、新聞の顔写真に目をやった。
 黒い髪の女性だった。鼻が高い美人な顔立ちだ。しかし、目つきは鋭く、いかにも事件を起こしそうな顔をしている。
 待って……今。目の前にいる女は? フードから見える髪は黒。まさか!? あむがそう思ったとき。

「!」

 急にあむは口元にハンカチを当てられてしまった。
 抵抗を試みるが、もう片方の手で身体を押さえつけられ逃げられない。

「うふふ。ジュリエット・ガーギャって、誰のことだと思う?」

 いつのまにか黒衣の女がフードを取り払っている。そこにあった顔は……新聞に載っていたジュリエット・ガーギャその人だった。
 ジュリエットの血のような赤い瞳が、囚われたあむを映しこむ。

 ジュリエットはあむの口元を覆う手を、さらに上に動かした。ハンカチがとうとう鼻まで覆いつくす。
 息が出来ない。苦しい。あむは必死に身体をばたつかせた。だが。
 ハンカチから何か臭いがした。それを嗅いだら、景色が薄くなり始めた。ランとミキの声が、やけに遠く感じる。息が出来ない、苦しさもない。

(やばい……あたし、どうなるの……)

 そう思っていたら、視界が暗くなった。
 テレビの電源を切ったかのようだ。意識が遠くなってゆき——あむの目の前から光が消えた。