二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【BLEACH】黒猫綺譚——onigoto—— ( No.16 )
日時: 2010/02/24 21:35
名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: E1WQRXsj)

【第七話】猫の瞳は橙色の影を追う


「旅禍の少年が卍解を得たそうだね」

「そうみたいですなぁ…まぁ大したことあらへんでしょう」

「そろそろ…あの子を使おうか」

「あの子?」

「キミの大事な部下に経験を積ませてやるといい」

「………はい、分かりました」

「とどめを刺せとは言わないよ、足止めをするだけだ」

「ちょっとだけ遊ばせてきますわ」




時は変わり
既に旅禍が瀞霊廷に侵入して数刻
早くも様々な所で被害の情報が入っていた

十一番隊の三席と五席の負傷
八番隊三席の敗北
十二番隊隊長の敗北
六番隊副隊長の敗北

十一番隊隊長、更木の敗北には流石の黒猫も言葉を無くした

市丸は何故か守りの位置には付かずどこかへ出かけている
何処にいるのかも分からなければ何故なのかも分からない
近くに信頼できる人がいない心細さに黒猫の精神は均衡を欠いていた

まだその姿を見たことはないが勝手に尊敬している更木
彼がただの人間であるはずの橙色の髪の死神に負けたことは黒猫にかなりの衝撃を与えた
しかし、同時にその死神への新たな憎悪にも似た闘志も生まれる
自分の大事なものをまるで次々に奪っていくように思えたから

一応三席とはいえまだ幼い黒猫は大した仕事を与えられることもなくただ巡回のため道を歩いていた
惨劇の残りで瓦礫が転がる道を歩きながら己の中の血が騒ぐのを確かに感じる
生まれ持った戦いへの執念が覚醒し始めていると悟る

これが憎しみなど持たない頃の黒猫なら恐れに我を恐怖したかもしれない
けれど憎むべき対象を持ってしまった今はその衝動に喜んでいた
血が覚醒すれば人間など自分に勝てないと確信していたから

「橙色の、死神…身の丈ほどもある大刀を背負っている」

市丸から聞いた情報を口に出して呟く
その口元は歪んだ笑みを湛えていて
瞳は獲物を探す獣のように爛々と輝いていた



「…黒」


道を歩き続けていると懐かしい声が聞こえる
振り返ればそこにいたのは大好きな隊長

「ギン隊長…今までどこに」

開口一番に文句を言おうとして市丸の言葉に遮られた


「黒…ルキアちゃん堕とした死神くんの相手してくれへん?」


市丸の言葉に言葉を無くす
さっきまであてもなく探していた死神の相手をしろというのか
叶いもしないと思っていた願いが達成されるのは目前
黒猫は確認するように慎重に口を開く

「何処にいるのか知っているんですか」

その言葉に頷く市丸の笑みはいつも通りで迷いなかった
黒猫に手を差し出して市丸は口を開く


「ほら、行くで…黒」


その大きな手を取りながら黒猫は今までにないほど嬉しそうに微笑んでいた

市丸はその表情を悲しげに見下ろした

黒猫を連れて歩きながら思い出したかのようにいきなり言葉を付け加える


「その子、殺したらあかんで…遊んだるだけや」


「はい、分かりました」

不満そうな様子も見せずに素直に頷いた黒猫を市丸は少しだけ恐いと感じていた
自分はもしかしたらとんでもない化け物の目を醒まさせてしまったのではないだろうかと
己に問いかけても答える声はなかった