二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【BLEACH】黒猫綺譚——onigoto—— ( No.8 )
- 日時: 2010/01/30 16:36
- 名前: 鬼姫 ◆GG1SfzBGbU (ID: Ee54ZFC1)
【第四話】戯れの記憶・下
最初は初めて出会う同年代の少女を目の前にして気分が高揚していた二人も
やはり元はお互い共に人見知りが強いので一旦落ち着いてしまうと中々会話が続かずにいた
庭園の中にある池の周りを囲む岩に並んで座って、足を水に浸しながら暫く沈黙が続いた
迷った末に口を開いたのは
やはりまだ緊張よりも好奇心が先立つ黒猫の方
「えーと…ルキア、様」
さすがに何年か階級社会で生きるうちに貴族に対しての礼儀は多少わきまえたようで
本当は名字で呼びたいのだが兄がいる以上それはできないと思っての名前呼びだった
声をかけられてボーっと池の波紋を眺めていたルキアはハッと我にかえって黒猫の方を見る
苦笑を浮かべて眉を下げると自分を指さして口を開いた
「私のことは様付けなどしなくてよい、普通に"ルキア"と呼んでくれ」
その言葉に戸惑って黒猫は向かいにいるルキアと同じくらいかそれ以上に眉を下げた
それを見たルキアは更に苦笑の色を濃くして黒猫から視線を外すと
遠くに目をやりながら呟いた
「私は、兄様の実の妹ではない…元は琉魂街の孤児だ」
その言葉に目を見開いた黒猫は下がりかけていた視線をルキアへと戻す
「へ?元から朽木家の出身じゃないんですか」
てっきりその清楚な振る舞いから貴族であることを疑わなかった黒猫は素直な驚きを口にする
その言葉に頷いて、ふと思いついた様に首を傾げた
「そういえば…お前は市丸ギンの妹何かなのか?」
一瞬きょとんとした顔をして
黒猫はすぐに笑顔になるとゆっくりと首を振った
「ギン隊長から名字は貰いました、名前もつけてもらったし…居場所もくれました」
心底市丸を尊敬しているように瞳をキラキラさせながら
さっきの戸惑い顔など面影もないほどの満面の笑みになって黒猫は自分の名の訳を教える
親族などではないけれど名前を貰ったから勝手に親のように、兄のように慕っている市丸は黒猫にとって光そのもの
言わずともそう感じるもの言いにルキアは自然と笑みを浮かべた
自分は元は琉魂街の者ではないけれど今はその出身として生きている
相手は元は琉魂街の者で、今は貴族として生きている
正反対の境遇のルキアに何故か早くも親しみを感じ始めていた黒猫は改めて彼女の名を呼んでみることにした
自分なりに考えた精一杯の尊敬をこめて
「えっと、ルキア姉様」
「は?」
照れ笑いを浮かべながらの黒猫の呼び方に
慣れないルキアは間抜け面で疑問符を浮かべる
その顔を見た黒猫は首を傾げて頭を掻きながらルキアを見上げた
「って、呼んじゃだめですか?」
その言葉にルキアは照れ笑いを浮かべて黒猫の頭に手を乗せた
そのまま小さな頭をポンッと叩いて柔らかく頷く
「うむ、それならいいが…私が姉でいいのか?」
僅かな戸惑いを含めてそう言うと黒猫は了解された嬉しさからルキアに抱き付いた
「ルキア姉様がお姉ちゃんだったら、俺は幸せです」
包み隠さない真っ直ぐな言葉にルキアは慣れず、照れてしまって言葉を返せなかった
今まで数人しか自分を個人と見てくれなかったから
更にそれに加えて姉と慕ってくれる黒猫が可愛くて仕方がなかった
「お前は、相当市丸ギンを慕っているな」
抱きついたままの黒猫を見下ろしながらそんな言葉がふと出てきた
自分はただ怖くて仕方がない蛇のような彼を迷いなく追いかけている黒猫が少し心配で
けれどそんなルキアの心情は知らず
黒猫は満面の笑みで見上げた
「はい!ギン隊長はルキア姉様より大好きです、ごめんなさい」
言ってしまってから失礼なことを言ったと気づき、慌てて謝り眉を下げる
何故かルキアは市丸のことを呼び捨てにしていたが
それに違和感を覚えることもなかった
黒猫にとっては二人とも大好きな人だから
市丸は付き合いが長い分好きだという違いしかない
黒猫にとって人とは"好き"か"嫌い"かの違いしかなかったから
市丸の方が好きだと素直に黒猫に言われても
ルキアは特に嫌な気はしなかった
ただ不安が残っただけで
自分の中にある警戒心は自分だけのものだろうと思うことでその不安も片付けた
そのまま完全に緊張が解けた二人は池に入って水をかけて遊び
庭をかけて鬼事を楽しんだ
暫くして市丸が迎えに来ると残念そうにしながら黒猫はその傍に並んだ
ルキアに笑顔で手を振ってまた来ると約束し
その言葉に笑顔を浮かべてルキアも手を振った
ルキアは迎えに来てくれる人がいることが少し羨ましくて
門から帰る途中に白哉が歩いてくるのを見て緊張した
ただ黙って立っている彼の隣に並ぶといつものように感情の浮かばない瞳で見下ろされる
それが少し怖くて瞳を逸らしかけると白哉が口を開いた
「あの娘とは仲良くなれたか」
抑揚のない問いかけでも珍しくて眼を見開く
ただ見返してくる兄にルキアは笑顔で答えた
「はい、姉と慕っていただきました」
「…そうか」
ルキアの言葉にただ頷いて白哉はそのまま歩き出す
その後ろについて歩きながら
ルキアは今日できた妹を思い出して微笑んでいた
これが市丸黒猫と朽木ルキアの出会いの話