二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.31 )
- 日時: 2010/02/26 23:52
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その5
「彼は一体何者なんだ?
なんか茶を飲んでるんだが……」
「なんか……妖怪的な何か」
「ん、このウーロンという茶も美味いな」
寺子屋。
遠巻きに生徒達から見つめられつつ、カジは湯のみを突き付ける。
おかわり、だ。
知り合いの名は「上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)」といった。
人里で子供達に教鞭を振るう傍ら、『この世界』の歴史を編集している。
遥かな時を生きる妖怪に比べて、人間の一生は非常に短い。
昔の事を知ろうとすれば、自然と書物に頼らざるを得ないだろう。
だが、それらは必ずしも正しい歴史とは限らない。
「私の仕事は、それらを正しくまとめ直す事だ。
人が、間違った指針にしないようにな」
「……壮大な仕事だが……おい、毛を引っ張るな……
なかなか……う、好感が持てるな」
「君、嘘言ってる顔だよ」
私はふうと溜め息を吐く。
既に子供達からちょっかいを受けているのを見ると、カジに慧音の長話を聞く余裕は無い。
先程までの警戒はどこへやら、子供達は笑いながら攻撃を仕掛けていた。
……異形の物に対して、ここの子供達は無防備すぎるのでは?
少し不安になるが、戯れているカジを見ていると馬鹿馬鹿しくなってくる。
何故か、奴にはその姿がよく似合った。
「いじめられてる姿がか?」
「そうじゃなくて、子供と遊んでるのが」
一段落して三人で昼飯をとる。
既に、日は真上に上がっていた。
「元々子供のお守りみたいなもんだからな……」
「いやいや、かなりの人気ぶりだったぞ。
ここで現役続行してくれても構わんくらいだ」
「冗談よせ」
その口調はまんざらでも無さそうに聞こえる。
それににやりとしたのを、慧音に咎められた。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.32 )
- 日時: 2010/02/27 13:16
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その6
これからどうするのか訪ねると、カジは里をうろつきたいと言い出した。
「できれば一人で」
「あ〜……それはダメ」
「だろうな。
喧嘩でも起こして殺される、かもしれないし」
「……妹紅、彼は危ない奴なのか?」
「見た目に比例していると思っていい」
私はカジの言葉に吹き出す。
奴の容姿に、発育過剰なにわとりが重なった。
「おい……」
「あはは! 危ないからね!
最近のチャボは火ぃ吹くからね!」
「も、妹紅大丈夫か?」
日が沈んだら慧音宅に戻る。
とりあえずの約束を付けて、私たちは街をぶらつく事になった。
靴を履いている所、慧音が思い出したように口を開く。
「最近ここらで、見慣れない男が彷徨っているらしいんだ。
誰も危害は加えられていないが……一応注意してくれ」
私もカジも生返事をして外へ出る。
だが、歩き出す直前カジが気になるように慧音を振り返るのを見た。
男、いや主か。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.33 )
- 日時: 2010/02/27 18:41
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その7
何年も昔のことになる。
初めて出会った時、「そいつ」は笑顔だった。
『よお、初めましてだな』
随分前の話だ。
成長した姿を見た時、「そいつ」は困惑していた。
『えと……は、初めまして?』
かなり前。来る所まで来た、と思ったら、「そいつ」はいきなり怒り始めた。
『お前誰だ! カジをどこにやりやがった!』
喋れないのを不自由だと思った。
言葉が話せたら、思う存分「甲斐性無しが」と叫んでやれた。
言葉が通じれば、「今日限りでお暇を」と交渉できた。
言葉が伝われば、「これからもよろしく」と言えた。
一番先に波に呑まれたのは「そいつ」だった。
よく知らぬ男の肩を掴んで、海際に立っていた。
声が枯れるほど叫んだ。
少しして、声ではなく鳴き声だ、と気付いた時には、
俺も呑まれていた。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.34 )
- 日時: 2010/02/28 00:25
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その8
「へ〜、結構酷いね」
「……それはどっちに言ってるんだ?
俺か、主人か」
「両方」
「だよな」
人里。
私とカジはのろのろと歩き回っていた。
途中晩飯の食料やら買ったのだが、これと言って変なことは起きない。
仕方ないので過去の話を聞いたら、やたら主の悪口を言い始めた。
言う事は辛辣だが、何となく愛着のような物も見え隠れする。
ちょっと微笑ましい。
「でもそっか、旅ねぇ……
私は嫌々だったから、気楽な旅は羨ましい」
「した事は有るのか?」
「……ん、嫌々」
気分を察してか、カジはそれ以上聞かなかった。
確かに、このまま続けると私の過去を暴露する事になる。
ありがたい配慮に、よくできたチャボだね、と喉でつっかえた。
「でも、なんかしら情報欲しいよね。
やっぱり聞き込みするかぁ……」
「嫌そうだな」
「君、自分の体見てみ?」
「あぁ、変な男ね。前に一度見た事あるわ」
目の前の少女が、お茶を飲みながらそう言う。
稗田阿求(ひえだの あきゅう)という彼女は、カジを見ても驚かなかった。
「……俺を見ても不思議に思わないのか?」
「だって妹紅が連れてるもの。悪いものじゃないわ」
ちらと、カジが私を見た。
はいはい、と謝る仕草をしてみせる。
阿求は笑ってお茶を置いた。
ちょっと一息付いてから、彼女は回想する。
「昨日よ。暗がりの中だったからよく見えなかったけどね……
背は高くて細身、服は足も腕も長かったわ」
カジの様子に変化は無い。
「私はちょうど慧音に、資料を貰った帰りだったの。
少し離れた所ですれ違った……あ」
思い出したように阿求が人差し指を立てる。
「男は頭に布を巻いていたわ。
青色の、ね」
カジがゆっくりと目を閉じるのが見えた。
表情は変えなかったが、何かを思考するように腕を組む。
どうやら当たり、らしい。
私は阿求に、手で礼を言った。
にこっと笑って、彼女は私達の分のお茶を用意する。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.35 )
- 日時: 2010/02/28 12:05
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その9
阿求は人里に住む人間で、慧音と付き合いがある普通の少女だ。
ただ、特殊な体質で普通の人の道は歩めないのだが……
「特殊な体質」
「ええ……私は1200年ほど生きてるの」
「ん、君は人間だろ?」
「こら、そういう事言うのは失礼」
机の下からカジの足を蹴る。
奴は、飲んでいた緑茶を吹き出しかけた。
「私は遥か昔から、『転生』を繰り返してるの」
「……転生」
「生まれ変わる事。
阿求はずっと昔から、幻想郷のあらゆることを纏めた本を作ってる」
私の説明で、カジは興味深そうに阿求のことを見た。
話を聞かせて欲しいと、身を乗り出している。
不躾だと咎めたが、阿求本人は微笑みながら話始めた。
転生についての一通りの説明が終わると、カジは大きく溜め息を吐く。
「ごめんね、つまらなかった?」
「馬鹿言うな。そんなことができるなんて、頭が沸騰しそうだよ」
「彼女にしかできない事だよ」
「わかってる」
頭を掻いて、カジが向き直る。
言葉とは別に、奴の関心は他にあるらしかった。
お茶を置いて、私もカジを観察する。
「何度も死ぬってどんな気分だ」
「え」
「……!」
馬鹿、と声に出す代わりに、カジの足を強く蹴った。
だが、今度はビクともしない。
「本を作るためだけに、人生を棒に振るのか?
本を作るためだけに、出会った人間と決別するのか?」
「……そうね、それは初めての質問だわ」
「阿求、気分を悪くしたら答えなくても」
「苦じゃないのか?」
「カジ!」
イライラとカジの顔を見る。
無表情なのが、余計に腹立たしかった。
「苦じゃないわ」
不意に、阿求が答える。
その顔は笑っていて、私は不意打ちを食らった気分になった。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.36 )
- 日時: 2010/02/28 22:22
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その10
「私はつらくないの。
その質問、『死ぬのは嫌じゃないのか』って聞こえるけど?」
「……」
横目でカジを見た。
口を閉じ、目を細くしている。
「……そうだな」
「じゃ、反対にあなたにも質問するわ。
あなたは、何故死ぬのが嫌なの?」
沈黙があった。
カジは完全に目を閉じ、少ししてからそのまま口を開く。
「忘れる」
「わすれる?」
これは私だ。
自分でも驚くほど口が滑った。
「死ねば、忘れる。
大切な物も、人も、仲間も、全て。
そして最後に、別れの言葉も感謝の言葉も出なくなる」
じっと、その言葉に耳を傾ける。
阿求も私も、いつの間にか真顔になっていた。
「旅の記憶も、闘いの記憶も、忘れたい事も、忘れたくない事も。
みんな消える。
それは……俺にとって……」
そこから先は聞けなかった。
なぜなら、阿求が吹き出したから。
「あははは!
ごめんね、そんな本気にさせちゃっ……ぷ!」
唐突に笑い出した阿求の事を、私とカジは目を丸くして見つめた。
一段落するまで、声が出せない。
「えと……阿求?」
「あぅ……あ、ごめん、ね。
カジ君だっけ?」
「……なんで笑うか理解できない」
不機嫌に、というより呆気にとられて、カジが呟く。
阿求が、くすくす笑いを止めた。
「あのね、君の言ってる事はそんな大事じゃないの。
私は、そう思う」
カジが、今度こそむっとして阿求を見る。
私は横で、見ているだけだ。
「私は、転生の時に記憶を引き継ぐ。
でも、ほとんどゼロなの。分かる?
肝心の本の事だって、『作んなきゃ』ぐらいで曖昧だし」
「……だが、覚えてるんだろ?」
「違うの!
私が言いたいのは、それでも死ぬのは怖くないってこと!」
阿求が頬を膨らませて、カジに言う。
「さっきの質問に答えるわ」
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.37 )
- 日時: 2010/03/01 19:22
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その11
「まず、人生を本に費やすってこと。これはもう、意地ね。
何千年も前から書いてて、途中で放り出したら勿体無い」
「意地」
「もともと私の本は、人間が妖怪に勝つための秘伝書だから。
今じゃ必要無いけど、やっぱり誇りがあるもの」
これ、と私は傍にあった原稿をカジに渡す。
無言のまま、読み始めた。阿求に目配せすると、微笑みが帰って来て安心する。
カジが読むのを待つ。
表情は変わらないが、少しずつページをめくる手が遅くなる。
「……どう?」
「素晴らしいよ」
カジが、本当に感心した様子で原稿を返す。
「『誇り』の文字は、確かにここに現れてるな」
「でしょ?」
にっこりと笑って、阿求がお茶を飲む。
それを見て、私も顔が崩れた。
「二つ目の答えも聞かせて欲しい」
「……出会った人と分かれる事ね。
う、これは辛いわ」
僅かに、阿求の顔が渋くなる。
と思ったら、注ぎ足したお茶が渋かったらしい。
カジは美味そうに飲んでいて、気付かなかった。
「うぇ……酷いお茶」
「そうか、俺には丁度良い」
にやりと、カジが笑った。
ここに来て初めて笑顔を見て、私ははっとする。
目を細めた奴の顔は、なんとなく安心できた。
「……笑わない人かと思ったけど、違うのね。
いいわ、二つ目の答えは簡単よ」
そう言うと、阿求はいきなり私を指差した。
え、と驚くが気にした様子は無い。
「私には、彼女達みたいな友達が大勢いるもの」
それを聞いて、カジが目を見開いた。
ぎょっとしたが、すぐに柔らかい表情に戻る。
「……ああ、そうか」
カジはそう言うと、私の方を見た。
私はぽかんとしたまま、昨日語った自分の『寿命』のことを思い出す。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.38 )
- 日時: 2010/03/01 23:23
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
カジ その12
(私はね、実は不老不死なんだよ)
(いきなり、何の冗談だ)
(ホントだって)
(じゃあ本当だとして……辛くないのか?)
昨日の夜の会話だ。
そうか、と納得する。
あの時から、カジは考えていたのか。
(親しい人が死ぬのは……見飽きたよ。
外の世界に、何千年も生きれる人はいないから)
(ここでは幸せか?)
(……そろそろ寝ようよ)
あの時、答えは出さなかった。
指を指す阿求を見る。
「妹紅」
ゆっくりと彼女が微笑むのを見て、私は息を吸う。
「カジ、私はここにいて幸せだよ。
慧音とはしばらく離れる事は無いし、阿求だって……」
「生まれ変わっても、友達か」
カジが、残っているお茶を飲み干した。
私は阿求と顔を見合わせる。
「決別じゃなく、新たな出会い。
見習うべき物があるな」
そう小さく呟いて、カジはバツが悪そうに阿求を見た。
「変な質問して悪かった」
「……ちゃんと謝るとは思わなかったよ」
私の呆れ気味の言葉に、三人で笑う。
カジは苦笑いだったが、それが似合ってると思った。
日が沈んだ。
私達は阿求の屋敷を出る。
見送りが、遠目でも見えた。
「でも、よかったの?」
「ん」
「あれは彼女の答えで、君の『死』に対する答えじゃない」
振り向き様、隣に話しかけた。
カジは、ふいと首を振ってみせる。
「見習う事はあったし、納得した事もあった。
彼女は示してくれたから、今度は自分で決める」
そう言ってカジは瞬きをした。
……何、とは恐らく、言葉では言い表せない
指針や、思想や、願い。
あくまでも決定するのは自分なんだね。
私は声に出さず呟き、帰路を共に歩いた。