二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.39 )
- 日時: 2010/03/02 17:11
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
マシロ その2
恐怖や畏敬の念は無い。
だが、単純に焦っていた。
「ちょっと……ヌルすぎなんだけど」
目の前にいる白黒の獣は、そう言いながらあくびをする。
既に十分は攻撃を仕掛けているのだが……
「それは何なんですか!?」
「……コレ?」
獣の周りの空気が、徐々に密度を帯びてくる。
首が勢いよく、振られた。
「せぇぁッ!!」
「ん、いい動き」
空気が地面を抉るのと同時、背後に飛び退く。
そのまま地面を蹴り、勢い良く掌を放った。
……のだが、相手に当たるどころか顔面の一歩手前で阻まれた。
やはり見えない壁、いや空気の壁か。
止まった腕を衝撃が襲う。
「くっ……」
「惜しいね。惜しいけど、まだまだ」
どっちだよ。
とは言え、突破口は見つからない。
「……どうなんですか、そろそろあなたも攻撃してくれば」
「あ、そうだね。手応えあるから忘れてた」
獣にあなた、と言うのは正しいのか
手応えあった、とは褒められているのか
判断がつかなかったが、先程から一度も獣は攻撃してこない。
自信が無いわけではなさそうだが、恐らく私なら捉えられるだろう。
距離を置き、構える。
「あ〜……じゃ、行くよ」
背後で、足音。
ぎょっとして振り向くと、同じ姿の獣が襲いかかってくる所だった。
すかさず右手で正拳突きを放つ。
ぶん、と姿が揺らいだ。
「悪いね、ガチだとやっぱしんどいしさぁ」
「ふがっ!」
背後の声に反応する前に、背中を衝撃が襲う。
分身、罠か……
「それに勝負になってないし。
顔洗って出直して来てよ」
「……ッ!」
気を失う瞬間、そんな言葉が聞こえた。
なにくそ、卑怯者め。
怒りの声は出なかった。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.40 )
- 日時: 2010/03/02 23:28
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
マシロ その3
目が覚めると、小悪魔がおろおろと私を見ていた。
「う……ん……」
「あぁああ門番さん!
アレ何ですかぁ!?」
起き抜けに体を揺すぶられる。
殴られた背中から腹が痛い。
気持ち悪い。
「ちょ、ちょ、まっ待って」
「うぅぅ……しっかりしてくださいよぉ……」
「泣くんじゃないの。 ……ん、アレ?」
直後、目の前の本棚がどすん、と振動した。
はっとして起き上がったところ、見慣れた少女が上から落ちて来た。
「『パチュリー』さま!?」
「ううう……何よアレ……
中国、あんた門番でしょ……」
「中国じゃありませんってば!」
それどころじゃないの、と少女が指を指す。
本棚の影から、白黒の四肢が見えた。
「……へぇ、その人パチュリーって言うんだ」
「パチュリー・ノーレッジよ」
「ふぅん。私はマシロ、よろしく」
「あ、よろしく」
「何をのほほんと会話してるんですか」
小悪魔を引き離し、パチュリーの前に出る。
マシロと名乗った獣は、にやりとして前足を上げた。
「へぇ、もう立てるんだ。
思ったよりタフだね。人間とは思えない」
「私は妖怪です」
「そうなの!? ……全然そうは見えないけど」
「それともう一つ」
「?」
ぐっと、手に力を入れる。
さっき立ち上がるとき、本を拾っておいた。
「私の名前は紅美鈴(ほん めいりん)。
『紅魔館』の門番です」
驚きの声を聞いて駆け出す。
投げた本は、正確にマシロの頭を狙っていた。
顔面スレスレで止まっている
風が、本を阻む。
本が、風を阻む。
「あ」
「これでダウンです!!」
本に向かって蹴りを繰り出す。
影分身を使う暇はない。取った……!
「ツメが甘いね」
自分の頬に、傷が入っていた。
目の前ではバラバラになった本が四散している。
いつのまにか、再びマシロとの距離は開いていた。
「これは……」
「防御だけじゃないんだよね、コレ」
ゆらりと、マシロの首が揺れる。
今度は自分の中に、恐怖もある事に気がついた。
どう考えても手遅れだろう。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.41 )
- 日時: 2010/03/03 19:54
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
マシロ その4
次に目覚めた時には、目の前に怒りの形相で女性が立っていた。
頭がズキズキと痛む。
1日に2度も気絶とは、よっぽどツイてないらしい。
辺りを見渡すと図書館だった。
先程の闘いから移動していない。
立ち上がる時に、涙目で本を拾っているパチュリーが見えた。
「お見苦しいところを見せちゃいました……」
「……美鈴。サボるのは問題だけど、負けるのはなお悪いわ」
怒っている。
あせあせと言い訳を考えるが、とっさには出てこない。
「あ! そういえばマシロは……」
「マシロ? ……あぁ、あの獣。
妹様のところよ」
「え」
誘導したの、と彼女は言った。
無表情のまま、十六夜咲夜(いざよい さくや)が語る。
よくもまぁ非人道的な。
当たり前だが、声には出さなかった。
私が気絶した直後、異変を聞きつけたメイド長がここへ訪れた。
『紅白』でも『白黒』でもない来訪者に、彼女は閃く。
『お嬢様』は今いない。
なら『妹様』の遊び相手には丁度良い。
ナイフを投げながら、地下に繋がる通路へ誘導した。
扉の前で『時を止めて』、開けて、入れて、閉める。
あとは扉に鍵をかけるだけ……
侵入者が死ぬまで。
「うわぁ……エグい事しますね」
「向こうが悪いわ。
……閉じ込めてからしばらく経つし、見に行くわよ。
その後で説教するから」
流暢に喋ると、彼女は踵を返して扉に向かう。
「流石ですね」
「何が?」
「全部」
思ってたより本心から出た言葉だった。
ふん、と一蹴される。
唖然とするのも、1日で2度目だ。
隣の咲夜も同じらしい。
扉の隙間から見ている限り……
血みどろの惨劇だとか、
泣き叫ぶ獣だとかは見えない。
むしろ、平穏そのもの。
年端も行かぬ「最凶」の少女は、白黒の獣に寄り添って寝ていた。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.42 )
- 日時: 2010/03/03 23:29
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
マシロ その5
「ほら、殴ってもいいよ? フランに言うけどね」
にやにやと、マシロが顎を突き出してくる。
風は無い。
ホントに殴ってやろうかと思った。
この屋敷には、吸血鬼の姉妹が住んでいる。
片方、姉の「レミリア・スカーレット」はどう見ても十歳代の少女だ。
が、妖怪などと同じく圧倒的な時を生きる吸血鬼であり、既に三桁の齢を超える。
屋敷の主でもあり、その力は『人の運命を狂わせる』程。
しかしもう片方、妹の「フランドール・スカーレット」に関して語れる事は少ない。
彼女は、少々気が触れている。
「気が触れる?」
「狂っているんです。ちょっとですけど」
マシロは嫌な顔をした。
実は優しいのかと、私に軽々勝ってしまう獣を凝視した。
続けるように促される。
「妹様は、お嬢様と同等の力を持ちながら制御が効かないんです。
遊ぶと壊すが一緒で……」
「……よくそんな子にぶつけてくれちゃって」
溜め息まじりのマシロの声は、それほど悲観してはいなかった。
やれやれと、首を振る。
「でも、生きてるとは思いませんでした」
「怒れる神には触れるな、ってね」
マシロはそう言って笑った。
鋭い。
放り込まれた時、妙な少女に話しかけられた。
敵かと思ったけど「遊ぼう」なんて言われたら気が抜けて……
疲れたから寝かせて、と言ったらあっさり了解した、との事。
「しょうがないから横になってたんだけど、いつの間にか寝ちゃってて」
「……」
じっと獣を見る。
フサフサの毛は、見るからに触り心地が良さそうだった。
うらやましい。
「まだ寝てると思うけど、起きたら遊んであげるつもりよ。
あ、でもナイフの人は?」
「……大丈夫ですから、遊んであげてください」
「ん、そっか」
にこっと、マシロが笑う。
結局、妹様に気に入られたから、と咲夜は無罪放免したらしい。
既に自分の仕事に戻っている。流石だ。
時計が鳴り、お茶の時間が告げられる。
- Re: 【東方】うちのメンバーが幻想入り【ポケモン】 ( No.43 )
- 日時: 2010/03/04 19:01
- 名前: かっぺい (ID: qrbmE5ew)
マシロ その6
「探し人、ですか?」
「そう。はぐれちゃった仲間と、あ〜……アホガキをね」
「あほがき?」
「言い方が悪かった。アホで殴りたい程ムカつく奴」
「殺したい程?」
「ちょ……妹様……」
「っていうか咲夜、だっけ? このケーキ臭いんだけど。
赤いのって、イチゴじゃないでしょ」
「さぁ、食べてみればよろしいのでは?」
マシロがぺろっと舐めた。
すぐに顔をしかめて皿を遠ざける。
咲夜のこめかみに、しわが見えた気がした。
門のところで、獣を見送る。
既に日は沈み、辺りの闇は濃さを増し始めていた。
ふと耳を澄ますと、後ろでフランの叫び声がする。
咲夜が押さえているはずだが……
暴れない事を祈る。
「何度も言いますけど、夜は危ないですよ」
「いいよ、あんまゆっくりしてらんないし。
修行にでもなるでしょ」
振り向きながらマシロが言った。
思えば、なんだかんだで自分に大怪我は無い。
正々堂々、やりすぎない。
奴の流儀は好きだ。
「次にあったら、負けませんよ」
「え、ホント?
……今のうちに再起不能にしておこうかな……」
一瞬、もの凄く黒い顔が見えた。
むっ、と思ったがすぐに笑顔に戻る。
はっとする程爽やかな笑顔だった。
「なんちて。楽しみにしてるよ」
「……死なないでくださいね」
皮肉を込めて言ったつもりが、顔は強張らない。
手を振って、マシロが別れを告げた。
振り向く横顔が、何となく寂しげに見えた気がした。
急に名残惜しくなって、私は声を上げようとする。
ごうと風が吹いて、木々が揺れた。
瞬きをすると、目の前には漆黒の闇があるだけだ。
私は半開きの口のまま、風が体に当たるのを感じていた。