二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: いろんな愛のカタチ−スキだから、だからこそ− 【リク受付中】 ( No.148 )
- 日時: 2010/05/28 18:42
- 名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)
毎日、5時。
部活が終わってから、公園に寄り道。
お気に入りのブランコに揺られて、夕焼けに染まる真っ赤な空を見上げる。
いつの間にか、目当ては違うモノに。
いつの間にか、視界に入るのは。
名前以外、何も知らないけれど。
笑顔の優しい彼方。
「今日もキレーだなぁー」(弥)
空を眺めるのコトが、昔からスキだった。
晴れた日は暇さえあれば空を見上げる。
「数学、32点とったけど、気にしない」(弥)
そうすれば気分も晴れるから。
誰かに、気にしろよ、と突っ込まれそうなコトを1人ごとで呟く。
実際、同じくラスの英二にまで、
「ちょっとくらいは気にしなよ〜」などと言われてしまった。
そんな時は空を見る。
「次は、頑張らなきゃね」(弥)
元気をくれるから。
弥の日課。
それは、此処のブランコに揺られながら夕焼け空を見上げる。
それから、1日を振り返ること。
何気ないコトだが、弥にとって1番落ち着く時間。
「それと、部長の怪我が治りますようにー」(弥)
関東大会前。
自分の所属する男子テニス部部長は、肘に怪我を負っている。
無理をしないで欲しいが、諦めることもして欲しくない。
そんな矛盾したどうしようもないことも、ふと、空に願ってしまう。
「・・・治っちゃえば、問題ないよね」(弥)
手を合わせて、もう1度願う。
空に。
——手に、“32点”のテストを持っていることも忘れて。
ヒュッ
風が吹いた。
離してしまったテストは、風に乗って飛んでいく。
「あ、」(弥)
思ったより強かった風は、思ったより遠くまでテストを飛ばす。
「ちょ、ま、って!」(弥)
慌てて、紙切れに話しかける。
だって、“32点”だから。
「わッ!?」(弥)
追いかけることに夢中で、足下を見ていなかった。
石につまずいて前のめりになりながら、まだ宙に浮いているそれを、掴んだ。
同時に。
それが、出会いだった。
「大丈夫ですか?」
誰?
「あ、平気、です」(弥)
ニコリ、と笑う彼はとても優しそうで。
思わず見とれてしまった。
「そうですか。 あ、コレ・・・ ?」
「え?」
同時に掴んだ弥のテストを、少年は不思議そうに眺める。
弥のほうは、突然の出来事に、一部記憶が飛んでいる。
——あれ、この紙切れは、何だっけ?
「あ、わ、すす、すみません! テストとは知らずに!」
「そうだ、テスト! って、ウソ?!、見た?!」(弥)
「すみません! 見ました! 32点でした!!」
「言うなぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」(弥)
2人は、ひとまず、隣同士でブランコに座る。
弥の手には、くしゃくしゃになった“32点”。
ようやく、落ち着いてお互いの顔を見る。
沈黙は苦手なので、弥はまず名乗ることにした。
「私、越智弥、っていうの。 よろしくね」(弥)
「あ、俺は鳳長太郎って言います」(長太郎)
オオトリチョウタヨウ。
馬鹿な弥の脳みそは、すぐに漢字を思い浮かべられない。
「漢字、こう書くんです」(長太郎)
「ふえ?!」(弥)
「ん? どうかされました?」(長太郎)
エスパーか、チョウタロウくん。
弥はメモを見る。
“鳳長太郎”
「シャーペン、貸して?」(弥)
優しく微笑んだまま、長太郎は弥にそれを渡す。
そんな些細な仕草でも、弥は目が離せなかった。
「えと、私はね、こう書くの」(弥)
弥も、自分の名前を書いて見せた。
「良い名前、ですね。 3月生まれですか?」(長太郎)
「え、うん。 何で分かったの?」(弥)
「やっぱり、エスパーなんじゃ・・・」そう言いかけて、慌てて言葉を飲み込む。
「あ、“弥生”の“弥”が入ってたんで。 当たり、ですか?」(長太郎)
「すごいね、当たりだよ」(弥)
会話が、初対面とは思えないほど、進んだ。
どんな馬鹿な話しも、どんなアホな発言も、優しく穏やかに、彼は包み込む。
長太郎は、最近何度もこの公園を通っているらしい。
毎日のように此処に着ている弥だが、彼に会うのは初めてだった。
「知らなかったなぁ、鳳くんのコト」(弥)
弥は、小さく呟く。
長太郎は、そんな弥を見てまた、ニコリと笑った。
「俺は、知ってましたよ」(長太郎)
「え?」(弥)
予想外な発言に、弥は思わず聞き返す。
長太郎は、依然、あの笑顔のままだ。
「何でも無いです」(長太郎)
「え、そ、そう?」(弥)
「じゃ、そろそろ行きますね」(長太郎)
「あ、う、うん」(弥)
いつの間にか、時が経っていたようだ。
長太郎は、さっさと行ってしまう。
弥は、やはり混乱したままで。
「“知ってた”ってどーいうコト?」(弥)
誰も応えてくれない問いを、空に向かって投げかける。
空も、困ったように雲で自分を隠す。
「わっけ分かんない」(弥)
明日も、此処へ来よう。
そうすれば、きっとまた、彼に会えるはず。
そしたら、今度は、もっと、いろんな話を聞けるよね?
「明日は、部活の試合なんです」(長太郎)
丁度、一週間経った頃だろうか、長太郎は弥に告げた。
偶然、弥も明日は試合で、マネージャーとして付いていく。
「偶然だね。 私もだよ」(弥)
「あ、そうですか」(長太郎)
お互いについてたくさんの話しをして、随分仲良くなった。
だけど。
何故だか、弥は長太郎の部活について聞いたことがない。
長太郎も、聞いてこない。
——聞いて、みようかな?
「ね、長太郎、」(弥)
見事に、かき消される声。
唇には、暖かい、ナニカ。
目を開けばそこに、切なそうな、彼のカオ。
「ちょう、た、ろ・・・?」(弥)
一種の出来事に、混乱する。
でも、頭は理解していた。
キス、された。
「なん、で」(弥)
長太郎は、掴んでいた弥の腕を放した。
「すみません」(長太郎)
何故、そんなカオ。
そんな寂しいカオ、するの?
「それじゃ、」(長太郎)
その背中を、追いかけることは出来なくて。
腰が抜け、その場に座り込んだ。
カラダは、思うように動かず、去っていく姿を見つめるだけだった。
————翌日。
「頑張ってね! 皆!」(弥)
1回戦、青学対氷帝学園。
青学マネージャーの弥は、皆に檄を飛ばす。
手塚の声も響いて、選手一同はネットの前へ。
氷帝の選手達も、並んでいた。
——あれ?
見たことのある、彼。
見間違う、はずもない。
長太郎だ——
「まさ、か」(弥)
弥の馬鹿な脳みそが、初めてまともに働く。
「そんな……あなたが、敵…!?」(弥)
寂しい表情の意味も。
キスも。
全部。
「サヨナラ」ってことだったんだね?
そんな必要、どこにもないのに。
試合終了後、彼方を呼び止める。
「長太郎! 今日も、公園で待ってるよ!」(弥)
何も知らなかった、彼方のコト。
全部教えてよ。
彼方はきっと、知ってたんだね?
全部、全部。
私たちが、敵同士だってことも。
叫んだその声に振り返る。
その表情は、やっぱり優しい笑顔。
「はい・・・ッ」(長太郎)
今日も一緒に、ブランコで空を見よう。
敵も味方も、関係ない。
だって、彼方がスキだから。