二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.189 )
日時: 2010/06/09 16:40
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)






すぐに終わるよ。
こんな腐ったゲームも、苦しみも、痛みも、全部。
夢なんだよ。
悪夢なんだよ。



だけど。



感じる、キミの温もりは確かなモノ。







こんな状況なのに、キミといられるコトが幸せだって思ってしまうんだ。







こんな血と憎悪と悲しみで染まった世界で、キミは幸せな夢のような存在だった。





逢いたい、人が居る。
守りたい、人が居る。
もう、その願いは叶わないかも知れないけれど。
例え、夢の中でだって良い。
もし、叶うなら。
腕いっぱいに、キミを抱きしめよう。


「・・・ッ」

傷が、痛くて、痛くて、どうしようもなくて。
もう、ワケが分からなくて。
なんで、俺が。 なんで、アンタが。 どうして、こんな。
なんで、なんで、なんで、どうして、どうして。

「・・・ま、だま、だ、だね、」

いつもは、相手に向かって言うセリフを、今回は自分に向かって言ってみる。
自虐的に微笑んでみせるが、それも長くは続かない。
傷の痛みは、次第に強まっていく。
胸に広がる、暗い疑問と一緒に。

「なんで、だよ、」(リョーマ)

この問いに答える者はいない、そう言えたならどんなに楽だろう。
目の前には、不敵に微笑む少年がいる。

「愚問だよ、ボウヤ」

一撃でのダメージを見て、もう攻撃は必要ないと判断したのか、持っていたアイスピックをおろした。
そして辛うじて微笑んではいるモノの、冷たく悲しい瞳で、リョーマを見る。
リョーマはただ、身動きも取れずに睨み返すだけ。

「愚問?」(リョーマ)
「ああ。 答える必要なんて無い」(幸村)
「ふーん。 そ、んなこと、言って、ホントは、答えが無いだけ、じゃないの?」(リョーマ)

息を切らせながらも尚、いつもと変わらぬ生意気な調子で幸村を挑発する。
幸村からは、今までの微笑みは消えていた。

ずっと、訊きたかった。
だけど、誰にも訊けなかったコトがある。

なんでこうなった?
どうして殺し合う?
この腐ったゲームが始まってから、何度も見てきた。
人を殺すことに何も罪悪感を感じないヤツ。
ヤツら、どうして殺し合うことを選んだ?

この地獄のような、血生臭くて寂しい暗い世界。

皆、何を求めている?
皆、何を守りたい?





「アンタも、な、にか、守りたいモノ、が、あるんじゃ、ないの?」(リョーマ)





「!」(幸村)

幸村の表情は、一層険しくなる。

「ボウヤ、愚問だと言っているだろう?」(幸村)
「図星?」(リョーマ)


誰に逢いたい?


「逢いたいヒトも、いるんで、しょ?」(リョーマ)
「・・・」(幸村)


何を望む?


「アンタは、何が、欲しい?」(リョーマ)
「・・・」(幸村)


幸村は、しばらく黙ったままだった。
リョーマの問いを考える様子もなく、ただ、冷たい目でリョーマを見つめる。
だけど、それまでとは少し違った。

「じゃぁ、俺からも訊かせて貰う」(幸村)
「?」(リョーマ)

血に染まったその姿には似合わない、穏やかな声で幸村は言った。



「ボウヤはどうなんだ? 守りたいヒトや、逢いたいヒト、望むモノがあるのかい?」(幸村)




リョーマの瞳に、“彼女”の姿が蘇る。
もう、逢えないかも知れないな。
怒るとうるさくてさ、素直じゃなくてさ。
ま、ヒトのこと言えないけど。
可愛げないヤツ。

でも。

アイツの歌と笑顔は、何故か誰より心地良かった。




————————————————大咲・・・


「・・・るよ、」(リョーマ)
「?」(幸村)


「当たり、前じゃん。 俺には、いる、よ」(リョーマ)


幸村が、一瞬だけ綺麗に微笑んだように見えたのは、気のせいだろうか。

その言葉を言い終えたリョーマは、気を失ってしまった。



歌が聞こえる。
綺麗な、綺麗な、澄み切った歌声で。
心地良く、心地良く、ココロに響く。


まるで、夢のように。



「良かった、起きた」

“彼女”が、目の前にいた。

「もう、起きないかと思ってたよ」

これは、夢の続き?

「お、お、さき」(リョーマ)
「ああ、無理にしゃべんなくて良いよ、止血中だし」(麻由)
「・・・」(リョーマ)

寝ころんでいるリョーマの隣に、いつになく静かに座る麻由。
それに、リョーマは少しの違和感を感じていた。

———夢だし、仕方ないか。


「ねェ、いつも、みたいに、騒げば?」(リョーマ)


騒いで、いつもどおりになって、安心させて。

「はぁ?! ウチがいっつもうるさいみたいな言い方すんなよ!」(麻由)

うるさく叫んでくれなきゃ、キミといるっていう実感が湧かない。

「いっつも、うるさいじゃん」(リョーマ)
「場合によっては怪我人だからって容赦しねェぞ?」(麻由)
「そういう、大咲じゃないと、らしくない、よ」(リョーマ)

リョーマの言葉に、麻由は顔を赤らめた。

「リョーマも、らしくねェよ」(麻由)

小さな声で、呟いた。




「大咲、歌って?」(リョーマ)



「え?」(麻由)
「だから、いつもみたいに、歌、歌って」(リョーマ)
「リョーマ?」(麻由)

リョーマの視界が、霞みだす。


「お願い」(リョーマ)


何かを、悟った。
ああ、もうリョーマは長くない。
青い顔と、その弱々しい声が、それを語る。


「しょーがねェなぁ」(麻由)


それなら、それならせめて。
キミの望む、自分でいよう。
いつもどおり騒いで、いつもどおり怒って、いつもどおり歌って、いつもどおり、いつもどおり。







素直になれなくて、かわいげのない。
彼方がスキだと言ってくれた、ありのままの自分で。







歌が、響く。

俺はきっと、夢の続きを見ているんだ。
それなら、どうか。
神様が何処にいるかなんて、分からないけれど、どうか神様。



この夢を永遠に。



麻由との時間を、永遠に。










夢なら覚めないで。










「ごめん、“麻由”—————————・・・」(リョーマ)


守れなくて。


「リョーマ?」


それから、リョーマは一言も話さなかった。








瞳を閉じれば。
俺は、いつでもそこにいるよ。
キミの夢となって、いつでもキミの側にいるから。









永遠に、俺はキミの夢となる。