二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.207 )
日時: 2010/06/16 16:50
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)






———————————あれ?





キミが私で、私がキミ?
私がキミで、キミは私?



ああ、もうワケ分かんなくなっちゃう。



だけど。



キミの隣に居られることに、キミの隣で笑えるコトに。
変わりがないのなら。







ワケ分かんなくても、良いのかも知れないなぁ。







「ちょい待ち。 おかしいやろ! どー考えても!」


いつも騒がしく、平和な四天宝寺中テニス部室。
そこに、大きな怒声が響き渡る。

「声大きいよ、白石ぃ」
「せや、うるさいでェ」

呑気に耳を塞ぎながら困り顔をする2人。

「これが黙っとられるか!」(白石)

後ろで、他のレギュラーたちも頷く。
同意しないのは、問題を起こした本人たちのみだ。

「取りあえず、状況を説明しや。 詳しくな、分かるようにやで! あ、金ちゃんやなくて蒼がな」(白石)

あえて金太郎ではなく、蒼を選ぶ白石。
“蒼”は“金太郎の顔”でニコリと微笑む。
隣には“蒼の顔”で“金太郎の顔をした蒼”を見つめる“金太郎”がいる。

「あー・・・ もう、ワケ分からんッスわ」(財前)
「せやな」(謙也)
「私も金ちゃんも、変わらへんと思うけどなぁ」(蒼)

声は確かに、“金太郎の声”だが口調は“蒼”。

「せや! ワイがぜーんぶ説明したるでェ!」(金太郎)

“蒼の声”がしたかと思えば、それは“金太郎”で。

「もう、どっちでもええわ! 話してみぃ」(オサム)

後ろで呆れたように見ていた、顧問のオサムも大きな声を出す。
すると“蒼の顔”は“金太郎のような笑顔”で笑った。

「ほな、よー聞ぃとってや!」(金太郎)

「えーっとな、まず、
 ワイがバァ————————ッと走っとってな、蒼もドタドタやっとてな、ゴッツーンて、なってもうたんや」(金太郎)

「そうそう」(蒼)

返す言葉もなく、白石は“金太郎”な“蒼”のほうを見た。

「蒼、もっかい説明しぃや」(白石)
「しゃーないなァ ———えーと」(蒼)



遡ること、10分前。



「金ちゃーん、ヒマやなぁ」(蒼)
「せやなぁ、まだ腹も減らんし」(金太郎)

いつもより、少し早めに部活に来た2人。
早すぎたようで、まだ他には誰も来ていない。

「白石が来ればおもろいのになぁ」(蒼)

白石をどうするつもりなのか、2人以外には想像出来ない。
金太郎は蒼の言葉に「せや」と同意した後、何か思いついたように寝そべっていた身体を跳ね起こした。
隣で、驚いた蒼は目を見開く。

「な、何やの、金ちゃん」(蒼)

金太郎は、いつもの無邪気な笑顔をしてみせる。
蒼は依然、キョトンとしたままで。


「皆が来るまで、2人でテニスするでぇ!!!」(金太郎)


大声でそう言ったかと思うと、金太郎はさっそくコートのほうへ走る。
蒼はと言うと、「その手があった」と両手をパンと合わせた。


「行くでぇ! 蒼ぉ!」(金太郎)
「おぉーッ 来い!」(蒼)


しばらく、ボールを打ち合う。
デタラメにボールを打ちまくる金太郎に、蒼は当然のように着いていく。
蒼の運動神経は、並みのモノでは無かった。
———もし、蒼の運動神経が並みか、もしくはそれ以下だったなら。
この後のハプニングは無かったかもしれない。


「なんか、めっちゃノって来たぁ!」(金太郎)


金太郎が楽しそうに叫ぶ。
蒼も同意のようだ。

「せやな!」(蒼)

無意識に、金太郎はマネージャーの蒼を、自分と同レベルのテニスプレイヤーと見なした。
それが、始まり。
金太郎は、何の悪気もなく何の躊躇もなく、それを繰り出した。


高く、高く、金太郎はジャンプする。





「超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ィィィ!!!」(金太郎)





人並みはずれた金太郎の懇親のパワーが、そのボールに込められる。
剛速球となったそのボールは、コート全体をジグザグに巡る。

「!」(蒼)

普通の人間ならは、ボールを恐れコートから逃げ出すだろう。
しかし、蒼は違う。


「すっごいねー! 金太郎!」(蒼)


目を輝かせ、そのボールへと突っ込んだ。
何故、彼女はただのマネージャーなんだ?
今の蒼を見れば、誰もが抱くだろう疑問だ。
金太郎もその光景を見て、微笑む。

「今すぐ、打ち返してあげる!」(蒼)
「返り討ちにしたるわぁ!」(金太郎)

突っ込む。 迷い無く、躊躇無く。
どんどん、どんどん、どんどん、どんどん。
走る。 砂埃の中を。 真っ直ぐ、真っ直ぐ。






「えいッ!」(蒼)





蒼の声と共に、砂埃は一層多くなる。
金太郎にも、前方が確認できない。

「うわぁ!」(蒼)

蒼の声が、今度はもっと近くで聞こえた。

「蒼?」(金太郎)










割れたボールと共に、少女が金太郎にぶつかった。










「そんなワケや。 分かった? 白石ィ」(蒼)

蒼が呑気に言う。

「おもろかったなぁ、金ちゃん。 金ちゃんのボール、すごいんやもん」(蒼)
「へへへ、蒼もごっつかったでぇ」(金太郎)

2人は2人の世界へ入っているようだ。
それを、白石はまたも怒声で崩す。


「金ちゃん! 蒼みたいな女の子の素人に、そないな危険なことしたんか!!!」(白石)


蒼はへらへら笑ったまま、金太郎はビクッと硬直したまま、白石の顔を見る。

「し、白石ィ」(金太郎)
「今度暴れたら、毒手やで?」(白石)
「いややぁ!!!」(金太郎)

そんな光景を、蒼はニコニコ眺める。
隣に経っている財前が、珍しく口を開いた。

「なぁ、呑気にしとるけど・・・ 不安やないんか?」(財前)

「ふぇ?」(蒼)

とぼけた声を出す蒼に、財前はため息。

「せやから、不安やないんか?」(財前)
「うん、全然」(蒼)

再び、大きくため息を付く。


「一生そないな姿やったら、やりたいコトも出来へんで? 蒼も金ちゃんも」(財前)


一生? このまま? やりたいコト? 出来ない? 

———そんなコト無い、そんなコト無いよ。
   だって、私のやりたいことは、隣にいること。
   隣で、笑い会うことだよ?
   だったら、今のままでも出来てるじゃん。

蒼は、財前に伝えようと口を開く。
その声は、白石の言葉にかき消された。



「戻る方法考えるで。 早よせな、テニスどころやないやろ」(白石)



テニスドコロジャナイ。

蒼の胸に深く、深く、響く。

気がつけば、“蒼になった金太郎の腕”を引っ張って、部室を出ようとしていた。


「ちょ、蒼、なんなん?」(金太郎)


金太郎は困ったように蒼に問う。
蒼は振り向かずに、走り出した。

「蒼?!」(金太郎)

後ろからは、皆が追ってくる。

「止まりや、蒼! 急にどないしたんや?」(金太郎)

蒼はピタ、と足を止める。
金太郎は肩を持って無知やり振り向かせた。

振り向いた蒼は、



何故だか、



泣いていた。


「あ、お?」(金太郎)

何故だか、分からない。 自分自身にも。
だけど、どうしようもなく、悲しくて。
どうしようもなく、情けない。

「ごめん、ごめんね、金ちゃん、」(蒼)
「蒼?」(金太郎)

———私、勝手だ。
   “このままでいい”なんて、勝手だ。

「すぐ、戻ろう。 無理矢理でも、戻らせよう?」
(蒼)
「何でや? 別に急がんでもええやん」(金太郎)





「だって! だってやだもん! 金ちゃんがテニス自由に出来ないなんて、やだもん!」(蒼)





やだ。 とてつもなく、やだ。
自由に動き回る、元気な金ちゃんがスキ。
テニスが大好きな、純粋な金ちゃんがスキ。
強い相手をどんどん倒す、かっこいい金ちゃんがスキ。
自分のせいで金ちゃんがダメになるなんて、絶対やだ。

蒼は泣く。
蹲って顔を見せないようにして。

「泣くことやないで?」(金太郎)

金太郎の声がやけに近くで聞こえて、顔を上げた。
そこには、蒼の目の高さまで屈んだ金太郎がいた。

「でも、」(蒼)





「ワイは、どんなカッコでもテニスするし、どんなカッコでも、蒼といられたらそれでええんやで?」(金太郎)





自分の顔を慰め、自分の顔で慰められるなんて、変な話。
だけど、ココロの奥がとてもあったかくて。

蒼は、強く頷いた。

「取りあえず、コートに行こう?」(蒼)



「行くでぇ! 蒼!」(金太郎)

“金太郎”が“蒼”の声で叫ぶ。
目の前には“金太郎の姿”の“蒼”が立つ。

「よっしゃ、来いッ」(蒼)

さっきと違うのは、皆が周りで見守っているということ。

どんな姿でも、どんなコトが起こっても。
テニスを楽しめる気持ちと、キミを好きな気持ちは、絶対絶対絶対、変わらない。









「超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐ィィ!!!!」










“金太郎”の声が響く。
砂埃が立った。
この砂埃が消えたとき、
白石が金太郎に、財前が蒼に、謙也が財前に、蒼が白石に、金太郎が謙也になっていたけれど、それはまた、別の話。