二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.252 )
日時: 2010/06/20 19:31
名前: 亮 (ID: cX1qhkgn)






彼は、“永遠”を拒む。





彼は、永遠を信じない。


「人は、常に変わり続ける。 ずっと同じ状況だなんて、有りやしない」


いつだったか、彼は言った。

その通りだ。
人は成長する。 人は変貌する。
人を取り巻く状況は、変わり続ける。
変わらないモノなんて、無いのかもしれない。

だけど。





私は、“永遠”を信じたい。





今、まさにそれが、自分の知らない世界で、壊されようとも。

私は。





変わらない、彼方の微笑みと声、そして。
変わらない、彼方との毎日を。
信じたい。




いつも隣にいるハズのキミなのに、今日、私の隣は空席で。


「——————、幸村———、は合宿だったな」


教卓に立って出席を取る先生が、止まることなく動いていた口を一瞬だけ止め、持っている出席簿に何か印を付けた。

「テニス部はもう9月だってのに、3年も合宿に参加するんだなぁ」

誰に問いかけるわけではなく、先生は呟くと、次の名前を呼び始めた。
弥は、窓際の隣の席を見つめる。


———もう、楽しくテニスが出来るんだなぁ


ギラン・バレー症候群に酷似した病にかかっていた幸村。
「もうテニスは無理だろう」
そんなコトを医者に言われ、彼は絶望の淵へ陥った。
それが、たったの1ヶ月前。
奇跡の復活を遂げ、戦線に戻ってきた彼。
苦しそうに、悲しそうに、ただ責任感だけに身を任せるようにテニスをしていた幸村は、もういない。
優勝こそ逃したモノの、大切なモノを取り戻した。
彼は今———、楽しむこと、を思い出したのだ。


「何で俺は———、忘れていたんだろうね」


全国大会決勝の後、幼なじみの弥に彼は言った。

「何で俺は、楽しむことを忘れてしまったんだろうね」
「精一・・・」

掛ける言葉が見つからず、名前を呼ぶことしか出来ない。
そんな弥に、彼は微笑んでいった。

「人は常に変わり続ける」

黙って、話しを聞いていた。

「そして、戻らない。 だから」

自身と、嬉しさに満ちた、表情で。



「俺は二度と、忘れていたあの頃には戻らない。 ———テニスを、楽しむよ」



———そんなコト、言ってたなぁ

弥は、空を見つめた。

———精一は、きっと幸せ者だ。

再び、視線を幸村の席に戻す。
彼のコトを思い出しながら。


———あの日、私には、


全国大会、決勝。
あの日、見えた。



———私には、“永遠”が見えたよ



弥は微笑んだ。
彼が、テニスを楽しむトコロを、想像しながら。
彼のコトだから。
楽しむとは言っても、きっと、相手を絶望の淵へ追い込むような勝ち方をするんだろう。
下手すれば真田よりもずっと、彼のテニスは絶望を知っている。

———真田も、苦労するよ

弥の微笑みは、消えない。
彼らのコトを考えると、楽しくなる。


「——————、越智! 越智弥!」


気がつけば、弥の番だった。

「あ、はい!」

弥は慌てて返事をする。
クラスの仲間が、笑った。
もちろん、先生も。

「ボーッとしてるなぁ、そんなに、幸村が気になるか?」

若い先生は、にやつきながら軽い冗談を言う。
弥は慌てて否定した。
そんなこんなで、朝のホームルームが終了する。


———あ、このプリント、今日提出だ。


机の中から、1枚のプリントを取り出す。
弥はため息を付きながら、教室を出た。

———いつもなら、ジャッカルに頼むのになぁ
   アイツ、なんだかんだで、優しいから。
   そんなだから、赤也にまで扱き使われるんだよ。

彼らのコトを思いながら、廊下を歩く。
カウンセリング室の前を通り過ぎ、放送室の前を通り過ぎると、職員室が見えてくる。
会議中だとマズイので、極力足音を無くした。

———あれ、ドアが・・・

ドアが、空いていた。
中を、そっと見る。

———何、あの人。 ・・・自衛隊?じゃぁ、ない、よね?

自衛隊のような、どこかの国の軍人のような、そんな格好の人が、テニス部顧問と話している。

———あれ、先生、付いていったんじゃ—?



「ご理解いただけて、光栄です」
「いえ、政府のお考えであれば」
「どこの学校も、拒否するばかりで——、最終的には、無理矢理、というコトになりますからね」
「そうですか」
「そこを行くと、優秀な先生です」







「BR法について、こんなにご理解していただいて」






———B R 法

何、それ。
なんで。
なんで。
なんで。

BR。

つまりは。





殺 し 合 い





時計を見た。
まだ、バスに乗っている時間だ。

———間に合う! 今なら。

携帯を手に取る。
彼らを、止めたい。
今、死に向かおうとしている彼らを止めたい。
永遠を、あの日見えた永遠を、失いたくない。

出て、出てよ、ねぇ、精一。

「なん、で、」(弥)

どうして————?


『ピ————という音の後に、メッセージを—————・・・』





絶望。
その2文字が、弥の頭を巡る。
同時に、血まみれで倒れ伏す、大好きな彼も。



手が、滑った。





カシャン。


永遠が、見えたよ。
本当だよ。
笑わないで、ちゃんと話し聞いて。
本当に、見えたよ。
私にとってあの日は———










永遠が見えた日










「誰だ!?」

勢いよく、ドアが開いた。
もう、遅い。
瞬時に、悟る。

「・・・ッチ」

携帯を拾った男は、銃を構えていた。
何故だろう、人通りの多いはずの職員室前廊下は、誰もいなくて。
驚くほど、静かで。





ただ、乾いたピストルの音が、響くだけ。





———遅かったよ。 精一、皆。





皆、まだ知らないよね。
















「柳先輩ー、まだッスかぁ? その跡部の家の合宿所ってのは」
「まだ発射してから30分だぞ、赤也。 あと1時間程掛かる」
「そんなに時間掛かるんだったら、もっとお菓子持ってくればよかったぜ」
「それでも充分だと思うぞ・・・」
「ブン太! たるんどるぞ! お前は遠足にでも行くつもりか!」
「プリッ」
「真田くん、もう少し小さな声で話してはどうですか?」


「皆、楽しみだね。 存分に、テニスをしようね」
















永遠が、崩れることを。





嗚呼、精一は。
最初からそんなもの、信じてなんかいなかったね。