二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.285 )
- 日時: 2010/07/04 13:37
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
久しぶりの彼の背中は、昔より遙かに大きくて———————誰かを守るコトを知っている、強い背中だった。
「ね、知ってた?」
目を見ては言えなかったけど、素直に真っ直ぐには伝えられなかったけど、このキモチに嘘はないから。
その背中で受け止めてね。
滑稽で間抜けで、でも一生懸命だった、このキモチを。
最近、宍戸に彼女ができたらしい。
テニス部の女の子。
テニス部にしては色が白く、華奢で、そのなのに実力は男顔負け。
その上、可愛くて優しくて、勉強もできて運動もお手の物。
世の中にこんなに神様に愛されて生まれてきたヒトがいるなんて。
「不公平だ」
弥が呟く。
「そんなん、しゃーないやろ?」
ネットリとした関西弁の男が、弥を宥めるように言った。
「ほらぁ! また話してる! ニコニコしてる! 忍足! 止めてきて!」(弥)
「んな無茶なコト言うのやめぇ」(侑士)
「だって、だってさ」(弥)
不公平だ。
「だって、なんやねん」(侑士)
「だって、」
「せやからなんや」(侑士)
「私は! もう5年もスキなんだよ?! 宍戸のコト!」
思えば、あれは幼稚舎にいた頃。
まだ5年生だった弥は、初めて宍戸と話した。
それからだ。
それからずっと、いつも、隣にいたくて追いかけた。
それが、中等部に入った途端、何故か立ち位置は大幅に変わっていた。
「そんなん、ゆうたかてしゃーないやん」(侑士)
「不公平だ! それにさ、聞いてよ!」(弥)
「今度はなんや・・・」(侑士)
弥は、自分の携帯を侑士に突き出す。
「?」(侑士)
「昨日も、返信来なかった!」(弥)
「ほんなら、直接話したらええやん」(侑士)
侑士の言葉に、頬を膨らませた。
「無理だからメールしてんのに! メールでしか話せないのに! アイツ返信してくれないの!」(弥)
「・・・メールめんどいってゆうてたで?」
「?! 私とのメールが?!」(弥)
「否、そうやなくてな、」(侑士)
侑士は、ふぅと、ため息を付いた。
「宍戸のヤツ、俺らとのメールもまくることあんで?」(侑士)
侑士の言葉に、弥は動きを止める。
「でもさ」(弥)
弥は、さっきまでの勢いは何処へやら、いきなり落ち込んでしまった。
「弥?」(侑士)
「忍足はさ、部活で話せるじゃん」(弥)
「ん? ああ、せやな」(侑士)
「メールでの返事も、次の日口で言えるじゃん」(弥)
「まぁ」(侑士)
弥はポケットに携帯をしまいながら、小さく呟いた。
「私とは・・・ 普通にしてたら、学校じゃ一言もしゃべらないもん」(弥)
「弥・・・」(侑士)
弥はそのまま、屋上の出口へと向かった。
「ごめんね、今日も愚痴聞いてくれてありがと。 もう、忍足くらいしかいないんだよね、聞いてくれるの」(弥)
「トモダチ、皆カレシいるから」と付け足して、弥は無邪気に笑った。
侑士は、その顔に、罪悪感すら感じてしまう。
無邪気さの裏に隠れた、寂しさを感じたから。
「何でや?」(侑士)
「え?」(弥)
引き留められ、弥は歩みを止めた。
「何で、話せんのや? 岳人やジローに聞いたら、お前らもっと仲良かったってゆうんやけど」(侑士)
弥は、薄く笑う。
「無理だよー。 だって、こんなに離れちゃったじゃん」(弥)
———だって、強豪テニス部レギュラーと、ただの帰宅部だよ?
距離は、すごくすごく、遠い。
弥は侑士に手を振りながら、1人屋上を出た。
廊下を歩いていると、宍戸と昼食を取った後なのか、楽しそうに教室で話している“彼女”を見た。
———やっぱり、可愛いなぁ
せめて、もっとブサイクだったなら。
せめて、もっと性格が悪かったなら。
もし、彼女がテニス部じゃなかったなら。
もし、自分がテニス部だったなら。
あそこで笑っていたのは、彼の隣で笑えたのは、自分だったんだろうか。
———不公平だ。
弥はそう思いながら、逸らしていた視線を“彼女”に戻す。
自分が、5年懸かってもできなかった、“宍戸の隣にいること”を、彼女はたったの2年でやってのけた。
それが、不公平だ。
———早いトコ、別れちゃえ。
冗談っぽく、でもほんの少し本気で、弥は“彼女”に向かって舌を出した。
「おいおい、何やってんだ? 越智」
「ひあぁぁあ?!」(弥)
奇声と共に、弥は飛び上がる。
「デカイ声出すんじゃねぇよ」
「あ、跡部、か。 な、なんだ」(弥)
「なんだとはなんだ。 俺様じゃ不満か?」(跡部)
「不満も糞もないっての」(弥)
弥の憎まれ口に跡部は多少機嫌を損ねながら、話題を変えた。
「なに、舌なんか出してんだよ。 馬鹿野郎」(跡部)
「うわ、見てた?!」(弥)
「キモチは分からなくもないけどよ。 さすがに目立つぞ」(跡部)
———キモチが、分かる?
「はぁぁぁあ〜」(弥)
弥は大きなため息を付いた。
「あーん? なんだ?」(跡部)
「跡部には、絶対、分かんないもん」(弥)
「あ?」(跡部)
「こんな惨めなキモチ、跡部に分かるわけないじゃん」(弥)
跡部は眉間に皺を寄せた。
怒ったかな、弥がそう思ったとき跡部は弥に背を向けた。
「・・・宍戸のヤツ、今日は自主練の後、1人で帰るっつてたぞ」(跡部)
「へ?」(弥)
跡部はさっさと廊下を歩いて、何処かへ消えていった。
取り残された弥は、ほんの少し、胸に期待を仄めかせる。
「今日、放課後」(弥)
もしかして。
3年ぶりに、話せるかも?
跡部は歩く、歩く、歩く、小走り、小走り、走る、走る、逃げる、走る、全力疾走。
「おいおい、跡部。 生徒会長がみっともないで?」(侑士)
「あーん? 黙れ忍足」(跡部)
「どいつおこいつも・・・」(侑士)
跡部は、屋上で舌打ちをした。
「そんなに嫌なら、何で教えたんや」(侑士)
侑士が、呆れたように呟く。
跡部は不機嫌そうに髪を弄りながら、小さな声で言う。
「ちょっとでも、アイツの気が晴れればいいんだよ」(跡部)
そう言って、屋上を後にする。
「素直やないなぁ」(侑士)
侑士も、それに続いた。
放課後。
弥はギリギリまで委員会の仕事を引っ張り、彼の練習終了時間に合わせた。
———ちょっとだけ、言葉を交わせれば、上出来。
彼と一瞬でも目と目を合わせられれば、それだけで。
2人だけなら、話せる気がする。
テニスコートの方から、壁にボールが当たる音が聞こえた。
———ホントに、1人でしてる。
こっそりと、部室棟の陰から彼を見る。
こっそりと、のハズだった。
「弥?」
声を駆けられれば、と思っていた。
声を掛けられるなんて、思いもしなかった。
「し、宍、戸」(弥)
「こんな時間まで、何やってんだ?」(宍戸)
「え、えと、委員、会」(弥)
しどろもどろな弥に少々疑問を感じながらも、宍戸は更に弥にとって予想外なコトを口にした。
「たっく、もうこんな時間だぞ」(宍戸)
「え、あ、そうだ、ね」(弥)
「俺のチャリ、乗ってくか?」
———久しぶりだ。
弥は宍戸の制服のシャツを掴む。
自転車で走る、風を感じながら。
「久しぶりだな、こうやってお前と話すの」(宍戸)
「そ、だね」(弥)
予想外の展開に、弥の胸の鼓動は止まらない。
昔は、こんなコト当たり前だったはずなのに。
今では言葉を交わすこともままならない。
「お前が中等部入った途端、避けまくるからよ」(宍戸)
宍戸が何気なく言う。
「さ、避けてなんかないよ?!」(弥)
「メールじゃ話すのに、お前、学校じゃ俺に近寄らねェし」(宍戸)
———それは、こっちのセリフだ。
「だって、彼女、いるじゃん。 宍戸は」(弥)
ああ、こんなセリフ、言いたくもなかった。
彼女の存在なんか、肯定したくなかった。
なのに。
「し、知ってたのか」(宍戸)
宍戸が、顔を赤らめながら呟いた。
そして、ちらりと見えたのその顔は、照れ隠しのように笑う。
弥の中で———ナニカがぷつん、と切れた。
———私は、否定して欲しかったのかな。
「可愛いよね、彼女ちゃん」(弥)
「そ、そうか?」(宍戸)
「人気者じゃん。 宍戸やるねェ」(弥)
「それ、滝にも言われた・・・」(宍戸)
弥は笑う。
色んな感情を己のココロに押し込んで。
宍戸の惚気話を、脳内に刻みながら。
「いつでも、応援してくれんだ。 アイツ」(宍戸)
———宍戸は、すっごく愛してるんだなぁ。
それで、すっごく、愛されてる。
「ラブラブ、だねー」(弥)
———また、赤くなった。
「からかうんじゃねェよ」(宍戸)
ふと、彼の背中を見上げる。
久しぶりの彼の背中は、昔より遙かに大きくて———————誰かを守るコトを知っている、強い背中だった。
———入り込む隙間も、そんな気力も、なくなっちゃった。
今なら、言える気がする。
ずっとずっと言えなかった、5年越しのこのキモチ。
今なら。
「ね、宍戸」(弥)
「なんだ?」(宍戸)
弥は小さく笑った。
「ね、知ってた? 私も——————」(弥)
「宍戸のコト、スキだったんだよ?」(弥)
本当のこと背中にを語る。
本当は目を見て、ちゃんと受け止めて貰いたかった。
「———————————————知ってたよ」(宍戸)
「!」(弥)
自虐的に微笑んだ。
「そっか」(弥)
諦められたのかどうかなんて、よく分からないけれど。
もう二度と、この背中に思いを告げることはないね。