二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.301 )
- 日時: 2010/07/10 11:15
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
よく、見えない。
キミが、よく見えない。
もう少しで良い。
だから、よく見せて。
キミの笑顔、キミの泣き顔、なんでも良いから。
キミを見せて。
霞む景色に君を1人、残して逝かなくてはならないから。
どうして。
気がつけば。
30人以上いたクラス仲間は、たったの3人になっていた。
「はっ、ありえねぇだろ、こんなの」
そう呟いては見るものの、“ありえる”から今この状況なのだ。
頭では解っているが、何故かココロでは、皆生きているような気さえした。
「3、人か」
自分と、他の誰かと、彼女。
脳裏に浮かぶのは、無邪気に、天真爛漫に、悩みの欠片も見せず笑う彼女。
誰よりも優しく、誰よりも穏やかな、ココロを持った彼女。
きっと、此の世界で1番美しい——————————————筈、だった。
「蘭」
どうして。
俺はこんなに息苦しいのだろう。
息苦しさを振り払うように、跡部は己の拳を握った。強く、強く、強く。
その拳に、決意を刻み込むように。
やがて手に巻いていた包帯が、赤く染まる。
キズが開いたのだろうか。
———この紅に汚れたこの手で、紅に染まったお前を、止める。
このキズに、誓う。
「絶対に止めてやるよ、俺様の手で」(跡部)
此の世界で1番、醜くなったお前のココロを。
——————
「放送をする。 残り時間はあと3時間、生存者3人。 このままでは皆、首輪を爆破するぞ」
少女は、妖しく嗤う。
「るっさいなぁ」
そこに、美しさはなく。
そこに、優しさはなく。
「ちょっとは黙ってくれないのかな」
「私が、今すぐにお終いにするからさ。 ちょっと黙っててよ」
美しくない、優しさもない。
その筈なのに、少女の嗤みは、妖しく不気味に、———————————————————輝いていた。
——————
「蘭、蘭!!!」(跡部)
最愛の彼女の名を叫ぶ。
柄にもなく、必死に枯れそうな声で、何度も。
———いつもなら、いつものお前なら、お前がこうやって闇雲に走ってたんだろうな。 俺の名前を呼びながら。
跡部は、思い返す。
氷帝学園での日々を、美しかった彼女を。
「縁起でもねぇ、馬鹿か、俺は」(跡部)
———そんなの思い出したら、もう本当に蘭が“駄目”みたいじゃねぇか。
———止めるんだろ、戻すんだろ!
「蘭!!!!」(跡部)
再び、声を上げた。
———死にたいのかな、跡部。
最愛だった彼氏の叫びを聞き、尚も妖しく嗤う少女。
狂おしくも、見入ってしまうような綺麗な“嗤い”。
———お望み通り。
そう思い、少女は跡部に銃口を向ける。
たぶん、此のゲームで1番使える“武器”であろう、ピストル。
引き金に、人差し指を掛ける。
———これで、残りはあと1人だね。
自分の勝利を確信した、その時だった。
「?! 蘭!」(跡部)
背に、殺気を感じた。
「?!」(蘭)
「ク、ソ!」(跡部)
跡部は自分の武器である“木刀”を、蘭を後ろから斬りかかろうとしたクラスメイトの頭部へ振り下ろす。
そのクラスメイトは——————、歴とした刃物、“サバイバルナイフ”を跡部の腹部へ差し込む。
その全てを、蘭は見た。
殺そうとした。
何もかも忘れて、殺そうとした。
自分を必死になって探してくれていた彼氏を、殺そうとした。
そのターゲットが、自分を庇った。
知っていた筈だ。
自分が多くのクラスメイトを殺したコト。
このゲームに乗っているコト。
知っていた筈なのに、跡部は、跡部は、こんな自分を庇って。
蘭は、一気に“いつもの自分”に戻される。
狂おしくも、妖しく綺麗に輝いていた瞳。
その面影は消え失せ、優しく美しい瞳に戻る。
そしてその瞳は、綺麗に涙を流していた。
「・・・、テ、メェ」(跡部)
精一杯の憎しみと怒りを込めて睨んだその男は、既に死んでいた。
気を抜いたその途端、痛みが全身に走る。
跡部は、自分の死も確信した。
その時。
涙を流す蘭の姿が、視界に写る。
———ああ、戻った、のか。
痛みと絶望とが入り交じるココロの中に、どうしようもない幸せが浮かんだ。
よく見えねェ、お前の顔、よく見えねェよ。
跡部は、蘭の腕の中で、静かに目を開く。
だが、その視界は霞んでいた。
何故だが流れる涙と、迫り来る“死”によって。
「跡、部」(蘭)
綺麗な顔、してるじゃねェか。
お前はやっぱり、そのほうがいい。
優しく美しい、お前がいい。
よく見せてくれ、その、美しいお前を。
よく見えねェよ、見せてくれ、お前を。
蘭の涙が跡部の頬に零れる。
それを最期に、跡部は瞼を下ろした。
霞む景色に君を残して。
此の世界は美しいお前を受け入れ、引き替えに、俺の全てを拒絶した。