二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.320 )
日時: 2010/07/07 23:06
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: たくさんの願いと引き替えに、キミを。






彦星は願う。
織姫は願う。


天の川の向こう岸にいるお互いを思い、願う。



どうか、彼方の身に何事もありませんように。
どうか、彼方のココロに何も変わりがありませんように。
どうか、この空が雲1つなく、星に囲まれますように。


天の川の東西に、15光年離れた2人。
今日、彼らは1日だけ会うことを許される。


天帝とカササギと、全ての星と空に、一夜だけの祝福を受け、再び結ばれる。



彦星は俺。
織姫はキミ。







俺たちは、この曇り空のした、この想いを結べるだろうか。







雨。
雨が降っている。
青い空は灰色の雲に包まれ、その姿を隠す。

「なんやねん」

1人で夕方の商店街を歩きながら、不満げに雨に向かって呟いた。

「なにも、今日降らんでもええやんか。 今日は織姫さんが彦星さんに逢いに行く日やで。これじゃ会われへんやろ」

長い長い独り言を、雨は受け流し、特に反応を示さない。
白石はため息をついた。

———憂鬱や。

別に七夕を楽しみにしていたワケではないし、天の川を見ようと思っていたわけでもない。
短冊を書くのも、あの日でもう止めた。

———雨やったら、逢われへんのかな。
———願いは、叶わへんのかな。

彦星と織姫。
2人が、自分たちのように思えて。
あの日短冊に託した願いが、永遠に叶わないような気がして。





“蔵、何書く?”
“決まっとるやないか、テニス部全国優勝や”
“それもそやね”
“お前は?”


“私は—————————————————”





“彼女”の声が、耳に木魂する。
もう、2年の前の話。
今日のように雨の降る、七夕の話。
彼女の願いは、叶ったのだろうか。
俺の願いは、叶うのだろうか。


「ねぇ、ねぇ! そこの彼!」


甲高い声が、白石の耳に届く。
物思いにふけっていた彼が顔を上げると、おそらく年上であろうギャル2,3人に囲まれていた。

「・・・俺ですか」(白石)

冷めた声で一言呟くと、ギャルたちは一斉に奇声を発する。
白石は驚いて1歩後ずさりをした。

「可愛いッ この子可愛いわッ」

そう言ったかと思うと、あろう事か、いきなり抱きつかれた。
———はぁ?!

「あぁ、狡いで! あたしもッ」

———“あたしも”やないわ! アホかぁぁぁあ!

「ちょ、何するんや! 離れぇ!」(白石)

内心では怒りながらも、相手が“女”というコトが白石の力を半減させる。
逃げようにも、まとわりつくのを振り払えないのではどうしようもない。

「ね、このままなんか食べに行かへん?」
「それええわッ 行こ行こ!」
「いや、ちょ、何ワケ分からんコト、」(白石)

進もうとする彼女たちをよそに、白石はそこへ留まろうとする。

「ええやん、どうせヒマやろ?」
「そーゆー問題じゃないわ、行きません」(白石)
「ええやん!」

———どないしたらええんや、コイツら。

困り果てた白石は、とりあえず捕まれた手を離そうと、腕を振る。





その時。





刹那、自分の手が他の“誰か”につかまれ、強引に引っ張られる。


Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.321 )
日時: 2010/07/07 23:19
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: たくさんの願いと引き替えに、キミを。



「え? ちょ、なんやの?!」
「横から何入ってんねん!」


ギャルたちの、驚き混じりの怒声が響く。
今の状況に1番驚いているのは、白石本人だった。

———何やこれ、2重逆ナン?!

心中でアホらしいことを思いながら、その少女に手を引かれその場を去る。
移動中、彼女は振り向くコトは無かったので、顔を確認出来ずにいた。

———何にせよ、さっきよりはマシや・・・



「ここまで来れば、大丈夫でしょ」
「お、おぉ、ありがとぉな」(白石)

標準語で話す少女は、初めて白石に顔を向けた。
ツヤのあるセミロングの黒髪、真っ白の肌、長い睫毛。
そして、その無邪気な笑顔。


その全てが、白石の記憶のトビラを叩く。





「蔵、大丈夫だった?」




その言葉が、決定打となる。


「——————————弥?!」(白石)


「えぇ?! 今更?!」(弥)

越智弥。
彼女は中学1年の七夕に、白石の前から姿を消した。
東京に、引っ越しになったのだ。
その彼女が、何故此処にいるのか———

「気がつかなかったの?! 酷いよ蔵!」(弥)
「いや、変わりすぎ、やろ。 お前、」(白石)
「そうかな? あぁ、髪の毛は短くなったけどね」(弥)

昔より大人びた彼女を、白石はまじまじと見る。
確かに、そう変わってはいない。
だけど、何故かすごく変わった気がしてならない。

「いやー、でも大変だったね。 さっき」(弥)

弥は公園のブランコに座りながら白石へ語り掛ける。

「蔵、ああゆうのニガテだもんね」(弥)
「あぁ、助かったわ」(白石)

白石は頭の端っこに僅かな違和感を感じながら、弥との会話を続ける。


「昔っから、よくお姉さんに囲まれてたけど、いい顔してなかったもん」(弥)


———そうや。 おかしいわ。

「そやった、かな」(白石)
「そうだよー。 今日ももろ嫌な顔してた」(弥)

違和感。 

———そうや。

弥は、変わった。 
昔は、こんなふうに笑ったりせぇへんかった。
こんなふうに作り笑い、せぇへんかったわ。

「弥・・・ 自分、なんで此処におるんや?」(白石)

白石は多少戸惑いながら問う。

「いちゃ、駄目かな?」(弥)
「そうやなくて、何で戻って来たんや?」(白石)

弥は、寂しそうに微笑んだ。
その横顔に、白石は懐かしさを感じてしまう。

———これや。 この表情カオや。よぉ、こんな表情しとったな。 コイツ。





「お母さんとお父さん、離婚したの。 だから、おばあちゃんの家に来たの」(弥)





白石の記憶のトビラが、1つ、また1つと開かれる。

「しょうがないよね。 大丈夫、今度はずっと此処にいられるから。 父さんとは、もう一緒にいないから」(弥)

白石は、その話を聞くだけ。

「もう、別れなくていいんだよ? 昔みたいに、一緒にいわれるよ? 喜んでよ」(弥)

笑っている。
だけど、声が震えている。
白石は、立ちつくす。
喜ぶなんて、そんなこと出来ない。











“私はね、蔵と一緒にいられますようにって、書くで!”












「あの日、短冊に書いたコト、覚えてるでしょ?」(弥)

もう、笑っているのか泣いているのか、判断できない。

「ねぇ、蔵。 喜んでよ!」(弥)

もう、見ていていられない。
知っている。
キミの“本当の願い”を。
知っている。
駅前の笹につるされた、小さく書かれた名のない短冊。
あれは、あの字は、きっと————





“両親が仲直りしますように”





「弥!!」(白石)

精一杯の力で。
精一杯の愛で。
キミを包み込む。

「蔵、」(弥)


———彦星さん、織姫さん。



俺の願いは叶ったで?
せやから、あの日の短冊はもうチャラにしてや。
俺は、この腕にコイツがおるだけで充分や。
書けへんかったけど、俺は、本当は。



“弥のそばにいたい”



叶えてくれて、ありがとう。



「辛ければ、泣けばええわ。 アホ」(白石)
「別、に、そんなこ、とないよ。 願いは、叶った、もん」(弥)
「もおええ」(白石)

弥は、静かに泣く。
その涙と引き替えに、空は明るさを取り戻す。



「今日は、天の川が見えるな」(白石)

















星へ願おう。
天候さえ変えるこの愛で、何度でも。