二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.338 )
日時: 2010/07/17 16:51
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: たくさんの願いと引き替えに、キミを。






しっかりと手を繋ごう?



はぐれないように、離れないように。



しっかりと、しっかりと。



お互いの“素直な愛”を探りながら。







しっかりと、ココロも繋ごう?







手を繋ごう、手を繋ごう。
迷子になんか、ならないように。
真っ直ぐに、彼方の元へと歩めるように。




騒がしい休日の遊園地。
見渡す限り、ヒト、人、ヒト。
黒髪で、珍しくパーカーものではない女の子らしい私服に身を纏った少女が、不満そうに振り向く。

「ね、どうもこの服、気にくわないんだけど」

ヒラヒラとしたスカートの端っこを掴んで、頬を膨らませながら呟く。
言われた男は、あくまでも笑顔を保ったまま、言葉を返した。

「そうかな? 俺の趣味に、問題はないと思うけれど」
「・・・・・・“服をプレゼントしてあげる”、なんて可笑しいと思ったのよ」
「いいじゃないか。 “遊園地”はキミの希望。 “服装”は俺の希望で。 ね、輪廻?」

輪廻と呼ばれた少女は、尚も不満そうに、でも何処か楽しそうに。
微笑む。
そして、大きく深呼吸した。


「さ、行こうか。 今日はちょっとくらいハメはずさなきゃね!」(輪廻)


心底楽しそうな輪廻の後ろで、幸村は珍しく優しく微笑み、隣を歩き出す。

「あー、駄目駄目!」(輪廻)

輪廻はそれまで幸村の1歩前を歩いていたのだが、突然振り向き、ニヤリと笑う。

「今日は、“特別”なんだから」(輪廻)

刹那、幸村の手のひらに、暖かいモノが触れる。
輪廻は自分の指を幸村の指に絡ませた。

「手、繋がなきゃ? ね?」(輪廻)

それは、小悪魔のようで。
それでいて、美しい天使のようで。
そんな彼女に、幸村は一瞬、ココロを奪われる。


「へぇ・・・、良い度胸じゃないか」(幸村)


何が“良い度胸”なのか、幸村は先刻とは180°違う“黒い微笑み”を浮かべる。

「え、」(輪廻)
「こうなったら、もう離れられないコトを覚悟すると良いよ」(幸村)
「えぇ?!」(輪廻)



そんな2人の他愛のない会話を聞いていたのは、——————5人。



「おい、押すなよ赤也!」
「よく見えないんスよ、こっからじゃ! って、丸井先輩! バレますよ、そんな前いたら!」
「幸村くんが今黒い微笑みで輪廻を見てるぞぃ」
「輪廻もまんざらじゃなさそうじゃの」

「僕の輪廻に触れるなんて、あの人良い度胸だね」

「お前ッ 幸村部長に向かってなんてこと! ・・・てか、いつからいんだよ?!」
「だいぶ前からいるけど。 君たちが来るよりずっと前から」
「つーか、先に触れたのは輪廻のほうだろぃ」
「!」



輪廻は、振り返る。
何故だか、“彼”の声が聞こえた気がした。

「・・・?」(輪廻)
「どうかした? 輪廻」(幸村)

不思議そうな顔をしている輪廻に、幸村は覗き込むようにして問いかける。
輪廻は、慌てて首を振った。

「何でもない」(輪廻)

———唖、李栖? ・・・なワケ、ないか。

「始めに、何に乗ろうか?」(幸村)
「んっと〜 やっぱ、ジェットコースター、かな」(輪廻)
「キミの怖がる顔を見るのも、楽しいかもね」(幸村)
「・・・・・・。 そんな顔、しないけど。 アンタのほうが、怖いんじゃないの?」(輪廻)

そんな、半分口喧嘩のような会話を、不快反面楽しさ反面に交わす2人。
それも、いつもの日常。
そうしながら、ジェットコースターへと向かった。



「あ、移動した! 行きますよ、先輩たち!」
「仁王ー、金貸してくれぃ。 ドーナツ買う」
「俺も金欠じゃき。 借りるならジャッカルじゃ」
「俺かよ?!」
「まだ手、繋いでる! ありえない!」
「尾行する気あるんスか?! 先輩もお前も!」



ジェットコースター周辺は、更に人通りが多く、列に並ぶのも一苦労だ。
輪廻たちは、人混みへと消える。

「ふー、やっと列の最後尾見つけたねー」(輪廻)
「そうだね。 どうしてこんなに俺の前に人が多つんだろう・・・」(幸村)
「真顔で笑えない冗談言わないで」(輪廻)

“冗談じゃないんだけど”、と幸村はあくまで微笑んだ。
ここで呆れた表情をしては負けだ、と輪廻は苦笑する。
背の高い幸村は、看板を見て待ち時間を確認する。

「・・・あと10分、みたいだね」(幸村)
「長いねー」(輪廻)

此処で、2人は、



手を、離した。



「ジェットコースター、俺らも乗るか?」
「いいな、それ」
「プリッ」
「ちょ、そんなことしたら俺らがいることバレるっしょ!」

「・・・あ、手離した!」



心底嬉しそうに、彼は呟いた。



「もうちょっとだねー。 なんか、人増えた」(輪廻)
「ご覧? 俺の後ろにこんなに人がいるよ」(幸村)
「はいはい」(輪廻)

輪廻は油断していた。
というより、脳味噌の片隅にも無かったのだ。

“彼”に監視されている、ということが。


刹那———、輪廻の手は、幸村ではない“他の誰か”に捕まれる。
触れただけで分かる、その手の温もり。


———え?!

人混みは幸村から小柄な輪廻を隠し、人混みは輪廻の視界から幸村の姿を奪う。
どんどん、幸村は小さくなっていく。
次第に、見えなくなった。





———人混みで、人混みで・・・ —————はぐれた!!





声を上げるまもなく、人気の少ない場所へ掴んだその手は輪廻を引っ張る。
そして、止まった。

「輪廻!」

底なしの明るい声は、輪廻に飛び付いた。
輪廻は、嬉しいような困ったような顔を返し、“彼”の名を呟く。

「唖李栖」(輪廻)

呼ばれた唖李栖は、満面の笑み。

「まさかいるとは思わなかった。 誰と来たの?」(輪廻)

輪廻は半ば呆れ気味に冬。
唖李栖が尾行して来た、とは欠片も思わず、偶然誰かと来て会った、と思っている様子。
唖李栖はクスリ、と笑った。

「内緒ー」(唖李栖)

———立海のヒトと一緒にいたし、嘘は付いてない、よね?
———あ、きょとんとしてる。 こういうトコが可愛いんだよ。

「変なの・・・」(輪廻)

輪廻には多少の疑問は残るが、深く追求しなかった。
そうしているウチに混乱が解けていき、自分が何をしていたのか思い出す。



「あ! ・・・幸村置いて来ちゃった。 ていうか、此処何処?」(輪廻)



完全な、迷子と化してした。



魔王様はご立腹。

「偶然だね。 赤也、ジャッカル、ブン太と仁王も」(幸村)
「ははは、ほーんと偶然ッスね! 幸村部長ぉ!」(赤也)
「ホントホント、まさか此処にいるとはなぁ」(ブン太)
「プリッ」(仁王)
「こ、此処のジェットコースター、迫力あるんだよな、ははは」(ジャッカル)

何処かぎこちない会話。
黒い微笑みが、彼らを呑み込む。



「それで? 輪廻の居場所を探すの、手伝ってくれるよね?」(幸村)



全員が全員、意気を呑んだのは言うまでもなく。
全員が全員、輪廻を攫った“双子の弟”を恨んだのも言うまでもない。



日は、傾き始める。
幸村は小走りで連絡の取れた輪廻との待ち合わせ場所まで向かった。

「あ、」(幸村)

幸村の視界に、彼女が映る。

「・・・」(幸村)
「幸村ぁ! こっちこっち!」(輪廻)

明るく、笑顔で手を力一杯振る。
弟に攫われたなど、全く知らなかった幸村。
そこで、緊張の糸が切れた。


刹那。





輪廻を、包む、暖かいもの。





「ちょ、何の、冗談、な、の?!」(輪廻)

しっかりと抱きしめられて、上手く言葉を紡げない輪廻。
そんな輪廻とは裏腹に、あくまでも軽い調子で幸村は話す。

「ふふふ、俺に心配掛けるなんて、良い度胸だね?」(幸村)
「え?」(輪廻)
「やっぱり、こんなトコロで手を離すのは危険だなぁ」(幸村)
「何?」(輪廻)

輪廻の声が聞こえているのか、あえて無視しているのか、自分の言いたいことだけを言う。



「もう、離さないようにしよう。 決定」(幸村)



「勝手ね」(輪廻)

ようやく顔を出した輪廻は、幸村を見上げる。
そして、初めと同じような小悪魔のような微笑みを見せる。






「離れてなんて、あげないけどね」(輪廻)






小さな声で。
でもしっかりと。
そんな彼女の想定外の言葉に、少しだけ鼓動を早くする。


「乗ろうか? 観覧車」(輪廻)


———しっかりと、手を繋ごう。

輪廻は、幸村の手を取る。
誰にも邪魔させない。
隙間なんて作らない。
幸村も、輪廻の手を握り替えした。



「結局、全然乗れなかったね」(輪廻)
「とんだ邪魔が入ったしね」(幸村)
「?」(輪廻)



観覧車は揺れる。




















ワザと隣同士に座った2人は、お互いの素直な愛と言葉を探るように、手を繋いだままだった。