二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.449 )
日時: 2010/08/11 22:49
名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
参照: “スキ” 一言で壊れてしまう。 大切なこの関係が、一瞬で。






いつもいつも、アンタの笑う姿が世界に映る。

幸せそうに、誰よりも楽しそうに、微笑ましく美しく。
見ている此方も、ついつい、吊られてしまう様な。


だけど、本当は。




あの人の隣で笑うアンタなんか、大嫌いだ。




得意の強がりで、そんな感情を呑み込んでいく、噛み砕いていく。






ほんのすこしでも、アンタの世界の中に俺はいるんですか?







「あぁ———————!!!!」

大きな声が、四天宝寺中学校の廊下に響く。

「ど、どした、美耶ちゃん」
「おった、おったよ!」
「誰が?」

弥が呆れたように尋ねると、美耶と呼ばれた少女は指を指す。


「光くん!!!」


弥は全てを理解したように、「あぁ、」と呟いた。




———財前光。

黒く、さらりと垂らした長い前髪と幾つものピアスが印象的な、2年生。
とても2年生には見えないような、大人びた顔立ち。
その整った外見のせいか、何処へいても目立ってしまう。
テニスの腕前も評価が高く、周囲からは“天才”とまで呼ばれるほどだ。
四天宝寺の“天才”。
そんな次期部長の彼に、3年生女テニ部員達は夢中になっている。

当の本人は——————————————、

そのことに気がついているのかいないのか、特に興味も示さない。
今この時、思い切り指を指されているのにも関わらず、見向きもしない。




———あ、


光は少しだけ、眼球を動かす。
決して表情は変えず、首の向きも変えないが、自分をみている3年女子の姿を確認した。

——また、おるなぁ。 先輩ら。

明らかに自分を見て騒いでいる、1人の女子。
「きゃぁ、こっち見たかも!!」、なんて声が聞こえてきた。

——そら、見えますわ。 そないに騒いどるんやから。

呆れたように、ココロの中でツッコミを入れながら、再び2人の女子生徒を見た。
今度は、目だけでなく、少しだけ振り返って。

——海神先輩と、

光の鼓動は、少しだけ早くなる。
愛らしいその姿が、光の視線を釘付けにする。





——越智、先輩。





光の視界にいる彼女は、
「こっち見たで、どうしよう!!」と、騒ぎ困惑している美耶とは対照的に、
特に興味がある素振りも見せず、美弥を宥めるコトに専念している。

「うるさいで、美耶ちゃん。 財前くん困ってるかもしれへんで」
「えぇ?! 光くん、ウザいと思たかな、ウザかったかな?!」
「あはは、某文庫の彼よりかはウザくないから大丈夫」
「何それ?!」

他愛のない会話。
その中に出てきた、2つの自分を指す“単語”。

——呼べば、ええやん。

光は心中で呟く。
表情は、珍しく露骨に傷ついたカオ。

“光くん”と“財前くん”

その違いは、大きくて。
何でもないコトのようで、とても重要だったりする。
光は、大きくため息をついた。

——考えても、しゃーないなぁ



「ひっかる!!!!」



背中への衝撃と共に、底抜けの間抜けで明るい声が聞こえた。
光は半ば呆れた表情をしながら、振り向く。

「・・・・・・、何ですか、謙也さん」

名前を呼ばれた謙也は、二カっ、と笑う。

「羨ましいなぁ、コイツ!」

笑ったかと思うと、いきなりこめかみに拳をぐりぐりと押し込まれる。

「ちょ、なんなんスか、謙也さん、ウザイんッスけど」
「なんや!! その言い草!! 先輩に向かって!!」
「ウザイっすわ」

そう言った瞬間、別の方向から別の声が聞こえてきた。



「後輩虐め。 何やってんねん、謙也ぁ」



目の前に現れたのは——、


紛れもない、彼女。



「あ、弥」



弥は謙也の肩を小突く。

「痛っ」
「ええ加減にしたりや、かわいそうやんか」
「コイツがモテるんが悪いんや」
「アンタがモテへんのが悪い」

そんな、痴話喧嘩。
誰が聞いても、2人の仲の良さがよく分かる。
光は、呆然とその声を聞いていた。

「そや、謙也。 白石が呼んでたで」
「そうか、行くわ。 ほなな、光」

謙也は軽く光に手を振る。
それまで目も合わせることもなかった弥も、光を見て微笑んだ。


「ごめんね、それじゃ」


短い、言葉。
それだけ告げると、弥は何事もなかったかのように、
・・・・・・否、弥にとっては本当に何でもないコトなのだ。
光のことを気にする様子などカケラもなく、ただ遠ざかっていく。


そのすんだ瞳に、謙也を映しながら。


「あぁ、弥、ニヤけちゃって」

美耶が口を尖らせながら言う。

「ねぇ、光くん?」

美耶には何も悪気はない、光も馬鹿ではないのでそんなコトは解っていた。
そして、
美耶にわざわざ言われなくとも、弥の表情も思いも瞳に映る人物も——、全部全部、解っていた。





「そう、ッスね」





あきらか強がり。
それは、どう見たって強がりでしかない言葉だったのだが——、
誰も、気がつくコトはなかった。



——————



「ええなぁ、光は」

謙也が、放課後部室で呟く。
光は靴ひもを結ぶのを止め、カオをあげた。

「この前からそればっか、言ってますけど。 何がッスか」

謙也はため息。
ため息を付きたいのは、こっちだと言うのに。


「海神とか言うてたでぇ、“光くんカッコええ”ーとかなんとか」


からかうような調子の謙也。

「うらやましいやっちゃなぁ」

白石も、笑っていた。

「やっぱ、ポイント高いねんなぁ、“次期部長”って」
「ツンデレや、ツンデレ」
「財ちゃん、アタシもスキやでぇ^^」

——アホっすわ。

光は、心中で周りの先輩に言う。

——先輩ら、アホっすわ。



「俺は、謙也さんに成りたいッスわ」



本音。
光の本音が、言葉となって現る。

「え、」

謙也の頭に、疑問符が浮かぶ。
どういうコトか尋ねようとしたときには、もう、光は部室から出ていた。

「なんや、アイツ」

そんな声、光には届く筈もなく。
彼は1人、いつものように美耶や他の女テニ部員たちの視線の中、練習を始める。
黄色い声が飛ぶ中、光は無い物ねだりをする。



——あの人らが、越智先輩やったらええのに。



そんなコト、有るはずないと分かっていながら。


「謙也!!」


だって彼女は、


「これ、白石に渡しといてくれる?」
「ええで、部室おったから」


あぁ、そんなに愛おしげに、その人を見るのを止めて。



「ありがとう」



そんなに可愛い笑顔で、声で、そんな言葉を紡がないで。



「あっ、」



ビュウッと、風が吹いた。
弥が謙也に渡した書類は、風に吹かれ空へ舞う。
それは、徐々に、光の方へ近づいてきた。

「あ、光! それとってや!」

光はその書類を少しの間見て、

「これッスか?」

そ大きな声で尋ねる。
そうすると、予想外なコトに弥が返事をした。

「そう! 今取りに行く!」
「え、」

トタトタ、と走ってくる1つ年上の彼女が、いつもは大人びて見える彼女が、可愛く見えた。

「助かったわ」





「ありがとう」





——あぁ、これや。

光の鼓動は、今までで1番、早く動く。


「これぐらい、別に」
「ううん、ホンマにありがと」


——この、笑顔に、







“キミ、新入生?”
“へ? そうッスけど・・・”
“あ、ボール、拾ってくれたんだ”
“あぁ・・・”










“ありがとう”










「それじゃ、」

弥は、今日廊下で会った時と同じように手を振り、光から遠ざかる。

「・・・・・・・・・・・・、」

その背中を見つめながら、謙也に向ける、笑顔を見つめながら。
光もまた、手を振ってみた。





あきらかな強がり。













「スキ、なんスわ」

きっと、彼女に伝えることはない。