二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [テニプリ]いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.468 )
- 日時: 2010/08/22 13:53
- 名前: 亮 (ID: TtH9.zpr)
- 参照: 言わないで、言わないで。 守ってきたモノ全部、壊れちゃうよ。
その瞳は、いつもとは違っていて。
その表情は、厳しくて寂しくて、冷たかった。
思わず、見ないで、と叫びそうになった。
思わず、笑って、と泣きそうになった。
でもそれは、当たり前と言えば当たり前のことで。
この事実を前に、そのままでいてくれとは、言わないから。
せめて、
せめて。
キミの言葉で、“運命”を告げないで。
「運命? あると思うよ、私」
授業が終わったことに気がつき、眠たい目をこすりながら身体を起こす。
すると、ふいに女子の会話が耳に入ってきた。
なんじゃそりゃ、そんなふうに思ったがしばし、耳を傾けた。
「絶対、あるよ」
彼女は頬を紅潮させながら呟く。
向かいに座っているもう1人が、「だよねだよね!!」、と彼女の手を取る。
「やっぱり、弥は解ってくれると思ったんだ。 香澄なんてね、そんなの在るはずないって言うの」
「香澄は現実主義者じゃん」
彼女は、穏やかな笑顔を崩さず、ショートの髪を耳に掛けながら言った。
それに、見取れている自分に、初めて気がつく。
可愛い、その一言で片づくほど、彼女は安っぽいモノではない。
儚げで、綺麗で、それでいて何処か強いモノを感じる。
芯が通っている、というのだろうか。
——あぁ、長太郎と同じ、カンジだな。
後輩の名と顔を思い出し、1人で納得する。
——アイツは——、越智は、なんだか凄く、大人な気がする。
そう想ったのは、一体何時のことだろうか。
もう、正確には思い出せない。
太陽が傾き、海が赤色に照らされる。
隣にはキミが——、なんて、そんな甘い世界ではない。
此処は、一歩間違えば、夕日に染まった海も、血に染まる。
事は、1時間ほど前に起こった。
バトルロワイアルに、巻き込まれた。
殺し合い、仲間を、大切なヤツを、この手で殺めて。
そうしなければ、自分が、死。
「・・・・・・、畜生」
小さく、呟いてみる。
いっそのこと、此処から泳いで島の外へ出てしまいたい。
——無理、か。
この首輪の赤い点滅が、消えることがない限り、島の外へ出れば爆死。
「ありえねぇっての、ったく」
青い帽子を脱ぎ、顔に被せ居眠りの体勢を作る。
軽く命の危機に直面しているというのに、いつも通りを装うことは意外と簡単らしい。
このままうっかり寝てしまったら、そこを誰かに見つかって殺されるかも知れない。
今の彼は、それでも良い、と想っていた。
生き残って、その後。
学校へ行って、その後。
彼女が居ないのでは何も意味がない。
——————
肌寒い。
海辺に寝転がっていては、潮風で肌寒かった。
「・・・・・・、悪運強ぇな、俺」
どれほど寝ていたのだろうか。
寝ていたにも関わらず、宍戸は自分が全くの無傷なことに驚いた。
「喜んで良いのか悪いのか、分かんねぇけどな」
自虐的に微笑み、少しだけ寂しさを感じる。
——会いたい。
彼女が言っていた“運命”というモノが。
彼女と俺の運命が、もし重なっているならば。
此処でも、巡り会えるのだろうか————————??
「しし、ど」
消え入るような、小さな声。
ふいに名を呼ばれ、宍戸は慌てて振り返ってた。
「誰だ?!」
宍戸の力のこもったその声とは裏腹に、声の主は力のない声で言葉を紡ぐ。
「私、越智、だよ」
「な、なんだ、お前かよ・・・・・・」
彼女を想っていた矢先の出来事。
宍戸は未だ、目の前に彼女が居ることを、信じられずにいた。
「座っても、良い?」
「あ、おぅ」
ぎこちなく、隣に腰を下ろす弥。
——こんな状況じゃなければ、きっと会話も弾むんだろうけどよ。
宍戸じゃ心中でこのBRを呪いながら、それでも彼女が隣にいるということを素直に喜んだ。
彼女は、きっと、綺麗なままだ。
彼女は、きっと、変わりなく微笑んでくれるだろう。
彼女は、きっと、強いだろう。
きっと、
きっと、きっと、
きっと。
そんな淡い期待は、音を立てて崩れる。
「ね、宍戸」
自分が崖に立たされようとしていることも知らず、宍戸はいつも通り答えた。
「何だよ」
「宍戸はさ、どうするの?」
弥は、綺麗に微笑む。
それだけ見れば、いつもの彼女だ。
なのに、
「宍戸は、このゲームに乗るの?」
言っていることは、別人だった。
「はぁ?」
「黙って殺されるか、殺して生き残るか。 どっち?」
「待て、待てよ越智」
「待たないよ、待てない。 こうしてるうちにも、色んな人が決めてる」
「おい!!」
彼女は話すのをやめない。
今此処で、決めろと言うのか。
「皆、死んでる」
「越、智・・・・・・!!」
気がつけば、弥の両肩を掴んで居た。
目頭が熱くなるのを感じた。
「何で、だよ! そんなこと、どうして今、決めなきゃならねぇんだよ!!」
彼女は目は、死んでいる。
「死ぬよ」
絶望という、崖の下へ。
俺は足を滑らせる。
本当は分かっていた認めたくなかった、自分たちの“運命”を淡々と話す。
「死ぬの、私たちは、死ぬんだ。 殺らなきゃ死ぬ」
その瞳は、いつもとは違っていて。
その表情は、厳しくて寂しくて、冷たかった。
「どうするの?ここで死んじゃう?それとも、生きてみる?」
思わず、見ないで、と叫びそうになった。
思わず、笑って、と泣きそうになった。
「俺は・・・・・・、」
言葉を、つまらせる。
その言葉の裏が、読めてしまったから。
彼女は、俺の答えが知りたい訳ではない。
彼女は、自分の答えが見つからない訳ではない。
ただ、
生きたい、だけ。
「殺せよ、」
宍戸は、笑う。
「!」
「お前は、生きろ」
彼女の瞳が光っているのは、出てきた月の明かりのせいだろうか。
「1つ、頼んでも良いか」
彼女の答えを待たず、宍戸は言った。
刹那。
赤い血が、飛ぶ。
赤く染まる。
海は、夕日の赤が消え、血に染まった。
“1つ、頼んで良いか”
弥の手には、青い帽子。
“俺、お前のことスキだったんだよ”
“だから、これ、持っててくれるか”
“一緒に、生きたかったから”
「さよなら」
私も、と言う暇もなく。
彼は死んだ。
彼を殺した。
「さよなら」
誓いの口づけ。
それは、血の味がした。