二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ボーカロイド曲小説 ( No.2 )
- 日時: 2010/04/26 21:31
- 名前: 悪ノ娘 ◆Qd6XA/vkyQ (ID: F35/ckfZ)
-悪ノ娘- すれ違う運命
「レン、隣国へ出かけるわ。一緒に来てちょうだい」
「はい」
隣国…。緑の国か。緑の国には綺麗な歌い手さんがいたんだっけ?
馬車に乗って移動する。馬はやっぱりジョセフィーヌ。
「レン、この前頼んだティーセットはまだなの?」
「それが…。中々王女が気に入るようなのがないらしくて」
「そう、なるべく早くしてよね」
「はい、王女」
「…。二人の時くらいリンでいいわよ」
「ホント?やった!」
凄く嬉しそうに無邪気に笑う。
「何なのよ?たったそれだけでそんなに喜ぶなんて…」
「久々にリンって呼ぶなぁと思って!」
「そうね、レンに名前を言ってもらえるなんて久しぶり」
「あ、リン!着いたよ!」
先に降りてからリンの手を取って降ろす。
「…」
リンが馬車から下りてから、城下の雰囲気が変わった。張りつめた空気が流れる。
「あれが隣国の悪の娘ね…」
「イヤだわ…私達に何もしなければいいんだけど…」
わざと聞えるような声の大きさで喋る。
嫌味なババァね…。
「…」
「リン…」
「大丈夫よ、あんなの気にしてないわ」
とは言っていたけど、少し悲しそうな顔をしていた。
「あっ…」
視線を上げた先には青い髪をした背の高い男の人がいた。横顔が見えてから解った。あれは海の向こうの青の国の王子。
「ねぇ、レン…」
「…」
レンはぼーっとした目で青の王子の横にいる緑の女を見ていた。顔をほんのり朱に染めて…。
「…」
一瞬で解った。あの顔は…。あの緑の女に一目惚れしたということが…。
「ちょっとレン!聞いてるの?」
「あっ、ごめん…。で、何かな?」
「気が変わったの。ゆっくりするつもりだったけど、お買い物だけして帰るわ」
「そっか。どうしたの?何かあった?」
「別に。なんだか疲れてきちゃったから眠りたいの」
「じゃあ急ごうか」
「えぇ」
そして買い物を急いで済ませた。
「ねぇ…。青の王子って結婚してたかしら?」
「いいや、してないよ。どうしたの?まさか城下で会ったときに一目惚れとか?」
「ちょっ!!からかわないでよ!!」
一目惚れは…。レンも同じでしょ?
「動揺する所が怪し〜」
疑うような瞳で見てくる。
「もう!そんなのどうでもいいのよ!!」
「縁談、進めておくよ」
「…お願いね」
そして、翌日。青の王子自らが黄の国に出向いた。
「初めまして、私はリンです」
「リン王女ですか。僕はカイトです」
右手で握手を交わす。
「カイト王子…。素敵な名前ですわね」
「ありがとう。えっと、縁談のことだけど…」
「はい…」
少し顔を赤らめて年頃の少女のように。幸い、海の向こうに王女の悪逆ぶりは知れていなかった。
「ごめんね、僕…。好きな人がいて」
顔を朱に染め、照れ笑いを浮かべる。
「…聞いても、いいですか?」
少し顔が強張ったが、遠慮がちな声で聞いてみる。
「この国の隣国の緑の国の歌い手。ミクちゃんだよ」
「…そうですか。あの方の評判は私も聞いております。優しくて可愛い素晴らしい方だと…。どうかお幸せに」
嘘。こんな優しい言葉は嘘。心の中は『嫉妬』という醜い感情が渦巻いている。
「せっかくの縁談を断ったのに、なんて優しい人なんだろう。これからもいい友達でいよう」
王女の心の中には気づかず『いい人だ』と思い込んでいる青の王子。
「はい」
最後にはとびきりの笑顔でお見送りした。
そして、青の王子の足音が聞こえなくなると…。
ガッシャーァンッ!!!!!!
テーブルの上にあった真新しい黄色いティーセットを手でなぎ払って落とした。
「大臣っ!!!!」
その声は外にいる大臣にはっきり聞えた。
「王女、気を静めて下さい!」
「うるさいわね!!いい、命令よ!?絶対に聞きなさい!!」
「はい、王女。何でしょう?」
「…緑の国を、滅ぼしなさい」
「はい、王女」
幾多の家が焼き払われ、幾多の命が消えて逝く。
「酷い…!誰がこんなこと…!?」
燃えて消えて行く街を逃げて行く緑の髪の少女。
「ミクちゃん…。だよね?」
僕の初恋の人。初めて会ったときに一目で好きになった。
「っ!!」
目の前には黄色の鎧を身にまとった黄の国の兵士。
「王女の命令で…。貴女をこの世から消し去ります」
「ねぇ、お願い!少しだけ待って!!」
「何…?」
「昨日、この国に来たでしょ?」
「うん…」
これ以上会話するとつらい…。涙が出そうなんだ。彼女にとって僕は敵なんだから耐えなきゃ…。
「あのね、昨日…。一目見たときに好きになってた」
「!!」
思いもしない言葉。自分なんて目に入っていないと思っていたのに…。
「名前だけ聞かせて?」
「レン。鏡音レン…」
涙が目の淵まできている。瞬きしたら流れ落ちてしまう。
「レン君か…。ありがとう、短い間だったけど…。本当の恋ができたこと、ホントにありがとう…。レン君に殺されるなら後悔しないよ…」
ホントに大好きになってた。もっと知りたいと思ったのに…。なんでこんなこと…。こんなこと、シナリオになかったなぁ…。
「ミクちゃん…」
涙を流しながら笑うミクちゃんは、炎に照らされていて神秘的に美しかった。
「さ、殺して…」
「…」
ナイフを握り締めた手が震える。もう片方の手で握り締めても震えは止まらなかった。
「もう、男の子のくせに…。情けないなぁ…」
その手を包み込んで自分の胸元に当てる。
「!!」
「ありがとう…」
ナイフがその白い肌を貫き、そこからは真っ赤な鮮血が流れる。
「うわあぁぁぁっ!!!!!!!!」
誰かに見られたら大変なことになるのに、そんなこと気にせずに大声で泣き叫んだ。声がかれるくらいに。
「あら…。おやつの時間だわ」
レンはまだ帰ってこないのね。もう3時よ?昨日から出撃しているのに…。道にでも迷ったのかしら?