二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 銀魂—白銀の鬼姫— ( No.5 )
日時: 2010/05/16 10:43
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: z52uP7fi)
参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_t/view.html?75385

第零訓   灰色の雲、銀の雫【前編】


暗い。
何もかも真っ暗だ。

回りにはたくさんの侍や天人の亡骸があって、夕暮れの迫る空には雨雲が立ち込めてた。今にもどしゃぶりの雨が降ってきそうな、そんな空。
あたしは、大石の上に座っていた。足元には、ついさっき集めたばっかの沢山の刀。日が暮れ、攘夷戦が一時的に収まったら、主を無くした刀を取りに来る。
—売って、金にするために。
——生きる為に。
両親は、家族はどうしたって?
いないよ。もう、どこを探してもいない。
その日一日をどうにかして生きる。何をしてでも生き抜く。そうやって今まで生きてきた。

「お腹、空いた……」

そーいえば、朝から何も食べてない。真っ白なご飯を最後に食べたのは、いつだったっけ。
あたしは、両手に抱えていた刀をぐっと握り締めた。あたしの背丈ほどはあるその刀の鍔は、かすかに金色に輝いてた。
刀、売りに行こう。そんでもって、何か食べてから寝よう。
そう思って、足元においておいた刀の束に手を伸ばした。

「何だァ、この餓鬼」

低い声がして、後ろを振り向く。そこには、恐らく攘夷戦の生き残りの天人がいた。牛みたいな体つきをしているくせに、全身緑色。
ああ、ボーっとしてたせいだ。なんで近付いてくる音に気付けなかったの。

「こんな戦場にチビっこい餓鬼が一人で危ねェよ。攘夷戦場に近付くなって、習わなかったのか」

それには答えず、あたしはただそいつを睨み付けた。
その行為がムカついたのかも。
そいつはいきなり声を荒げて、

「親に習わなかったのか。戦場には……」

その瞬間、そいつは大きな斧を振り上げた。普通のやつの何倍もある、大きくて太い斧。

「俺みたいな奴がいるってよォ!」

斧は空を鳴らして、あたしの頭目がけて落ちてくる。それに気付いた瞬間、あたしの体は勝手に動いてたんだ。
はっとした時にはすでに、あたしは持っていた刀でそいつの左胸を貫いてた。白銀に煌く刀身を、赤い血が伝う。何でか分かんないけど、その時初めて、何か綺麗だなって思った。
あたしが刀を抜くと、そいつは少しだけ呻き声を上げて、その場に倒れた。あたしの髪に、額に、ほんの少し血飛沫が飛ぶ。

これで……あたしは何人の人を(こいつは天人だけど)殺した事になるんだろう。もう……数えてもいないけど。

「いっ、たぁ……」

あいつの懐に飛び込むときにやられたのかな。
右の肩が切られてる。いや、そんなモンじゃない。かなり深くやられてる。
痛い。冗談抜きで痛い。
こんな時にまた天人が来たら、あたしは間違い無く殺される。
でも、悪い事って、続くものなんだよね。あたしは痛みに耐えながら、刀に付いた血を、そこらへんに落ちてた手ぬぐいで拭った。

「オイ」

声がした。男の人の声。
天人だったらどうしよう。振り向きざまに斬っちゃおうか。
そんなこと考えながら、首だけ動かして後ろを見る。
そこにいたのは、天人でも、近くの村人でもなく。
白っぽい銀髪天然パーマで、白い羽織を着て、腰に刀を下げた男と、紫っぽい黒髪で、これまた腰に刀下げた男だった。

——攘夷志士、だ。

瞬間、あたしはまた刀の切っ先を二人の男に向けた。
絶対今の見られてた。二人の目がそう言ってる。驚いてる。
切っ先を向けてから気付いた。勝てるわけない。今も右肩が痛い。気を抜いたら倒れちゃいそうなぐらい。

「お前……怪我してるじゃねェか」

天パが口を開く。それでもずっと、あたしは睨み付けていた。紫の奴は、じっとあたしを見ているだけ。

「おい——」

「近寄るなっ!!」

天パが一歩歩み寄ろうとした瞬間、口を点いて出た。大声出した瞬間、ズキンって、肩の傷が痛む。

「……高杉ィ、お前先帰っとけ。俺ァ後から来るからよ」

「銀時ィ、てめェそいつを連れて来るつもりか? てめェのやる事は昔っからよく分からねェ」

天パは銀時、紫は高杉って言うらしい。二人ともどっか行ってくれないかな。もう目が霞んでてよく見えないんだけど。

「お前に言われたかねェっつ—の」

「フン、じゃ—先行っとくぜ。天人に殺されねーようにな」

「誰が殺されるかァァァァ!!」

そう言って、高杉とかゆーのは走って行ってしまった。銀時とかゆー天パは、あたしの目線になるようにしゃがみこむ。

「オイ、いい加減刀納めろよ。別に取って喰やしねーって」

「五月蝿い、あたしの事なんてほっといてよ! あっち行け!」

「ほっとけねえって……おめェまだ10歳くらいじゃねェか」

「あっち行け——ッ!!」

叫んだ瞬間、グラって来た。痛い。傷口が真っ赤に染まってる。死んじゃうのかな。
皆の分まで生きるって、そう誓ったのに。
天パが何か言ってるみたいだけど、それっきり何も聞こえなくなった。