二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—白銀の鬼姫— 【オリキャラ決定!】 ( No.108 )
- 日時: 2010/10/10 17:46
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: 7.F5HCJo)
【銀時誕生日特別編】
—陰中の陽
自分の名前なんて無ェ。
誕生日なんて、そんなの存在すら知らなかった。
俺は其の日一日を生き抜くのが精一杯で、自分が一分後に息をしているかさえ分からねェ。
其の日は朝から何も食ってなかった。
一日に近くの村から盗んで来た野菜一個食えればなんとかなるのに、朝盗みに行ったら見つかっちまった。
鬼の子だとか叫びながら追いかけてきた村の奴等をなんとか振り切って戻って来た。
……情けねえ。
鬼の子とか呼ばれるのは、この真っ白な頭と真っ赤な目のせいなんだろうか。別に俺だってなりたくてなったわけじゃ無ェのに。
俺が戻ってきたとき、山のふもとの広い野っ原では、攘夷の戦が終わったばっかりだった。
今度も天人共の方がずっと有利だったみてーで、足の踏み場も無い位人の屍で埋め尽くされ、血の臭いが辺りに充満してて気持ちわりぃ。
血の臭いにはどうしても慣れねェ。
俺が売れそうな兜や刀探して其処を歩き回ってたら、足元に転がってる侍の懐が目に入った。
襟元から笹の葉が覗いてる。
「……にぎり飯!」
何時振りの真っ白いご飯だったろう。
俺は夢中になって、侍の上に座ってそいつを食った。
塩が効いてる其のにぎり飯には梅干が入ってて、思いっ切り種を噛んじまった。鈍い音が鳴って、奥歯にじーんと来る。
「いってェ」
呟いた其の時だった。
行き成り俺の頭がズンと重くなった。驚いて後ろを振り向いたら、其処に居たのは大人の男。
腰には黒光りしてる刀を差していて、結構上等な羽織を着てやがる。
「屍を喰らう鬼が出ると聞いて来てみれば……君がそう?」
そこで男はふっと笑いを浮かべた。
身売りかと思ったけど、雰囲気が違う様な気がする。
「また随分と、可愛い鬼がいたものですね」
訳わからねェ。
何言ってんだこいつ、俺が可愛い訳無ェだろ。
俺はその男の手を叩いて、肩に乗せてた刀を抜いた。腰落として、いつでも斬れるようにする。
そしたらその男、俺に「たいしたもんじゃないですか」とか何とか言って、ヒョイと自分の刀を投げつけてきた。
ズッシリ重くて、足元がふらつく。
「その険の使い方を知りたきゃ付いてくると良い。これからはそいつを振るいなさい」
口調は丁寧だけど、何処か力強い。
「敵を斬るのでは無い、弱き己を斬る為に。己を守るのでは無い、己の魂を護る為に」
何でか判らねェ。
只そいつに付いて行けば、何か変わるかも知れないと思った。
只、其れだけ。
その男は、暫く歩いた頃、山に入った時に初めて俺の方を向いた。
行き成り振り向いて近寄ってくるもんだから、つい一歩後ろに退いちまった。
でもそいつはそんなの気にもしてねえ様で、俺の目線になってしゃがんだ。
「貴方の名前は何ですか?」
何でそんな事聞くんだ。
「……無い」
そしたらそいつはそうですか、と呟くと、ちょっと間を置いてまた聞いてきた。
「年は幾つですか?誕生日は何時?」
「知らねぇ、覚えてねぇ」
そんなのどうでもいいじゃねーか、訳わかんねぇ。
其の時、男はまた俺の頭にぽんと頭を置いた。
さっきは気付かなかったけど、其の手は柔らかくて温かくて。
「ではこうしましょう。貴方の名は今日から坂田銀時。私と会った今日、10月10日が、貴方の誕生日」
「ぎん、とき?」
銀時、って口に出して呼んでみる。何か唇がくすぐってぇ。
何回か繰り返す度に男はうんうんと頷いた。
「そうです。私は吉田松陽と言います。宜しくお願いしますね、銀時。」
そう言って笑った男の手を振り解こうとは、もう俺は思わなかった。
俺が頷くと、男……松陽、先生は、俺に乗れと言うように背中を見せた。
まるで自分じゃねぇみたいに、素直に俺はその背中に乗る。
恥ずかしいけど、それよりも。
護りたいと思った。ずっと一緒にいたいと思った。
温かくて、大きい手。
〈完〉