二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編—【第八訓up】 ( No.135 )
日時: 2010/10/31 17:17
名前: 李逗 ◆Dy9pHDxQUs (ID: MQ1NqBYl)

〈特別編〉
      遠く遠く。


夕暮れの、田舎と都会の両面を併せ持った様な温かな町。
其の町の橙色に染まった川辺に、一人の少女が座り込んでいた。銀髪をポニーテールに結わえた、7,8歳程の幼い少女。
其の少女の周りを、二匹の赤蜻蛉がつうい、つういと飛び回っていた。
何を考えているのか、時折川の冷たい水に手を突っ込んでは、また直ぐに引っ込める。
其れを何度か繰り返した時、少女の耳に聞き慣れた或る声が飛び込んで来た。

「かぁーづぅーきぃーっ!!」

和月、と名前を呼ばれ、少女の顔がぱっと輝く。
直ぐに立ち上がり、声のした背後の土手の方を振り向き、走り出した。

「日向!」

土手の上に居たのは少女——和月と同じ年頃の少女。和月と同じ銀髪をショートカットにしている。姿形は鏡に映した様にそっくりだった。
只一つ違う事と言えば、瞳の色だろうか。和月の瞳は黄色、日向の瞳は紫だ。
日向はにこりと笑い、ピースサインを作る。

「今日ね、晩御飯あたし達の好きな物してくれるって!」

「やったぁ、じゃあ早く帰ろう!」

和月と日向はお互いに手を取り合う。小さな、小さな手だ。
きゃあきゃあと何か言いながら、二人は長い土手を走り出した。少し走った頃、

「かぁーらぁすー何故鳴くのー」

と二人で童謡を口ずさむ声が辺りに響く。
周りの山々も、遠く見える赤い夕日も、全ての物が其の二人の幼い少女を優しく包み込んでいる様だった。
東の空は闇に沈み、既にまぁるい月が昇り始めている。

ほら、もう少し。
お父さんもお母さんもいる、あの家まで。
早くお母さんの温かいご飯が食べたいから。
早くお父さんに抱きつきたいから。

二人は角を曲がり、やがて見えなくなる。
何時の間にか辺りには鈴虫や松虫の声が響いていた。
後に残るは赤蜻蛉のみ。

(この幸せがいつまでも続くと疑いもしなかった)

遠い或る秋の日の物語。