二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編—【特別編up】 ( No.149 )
- 日時: 2010/11/10 18:51
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: MQ1NqBYl)
- 参照: 参照800突破有難う御座います^^♪
〈特別編〉
居待月(後編)
ぱぁんと戸を開けた高杉の眼に、一番最初に飛び込んで来たもの。
其れは少しのしわも寄っていない空の布団だった。一度も、誰も寝転がっていない様な布団。
其処に居る筈の和月の姿が無い。
(何処に行きやがったあの餓鬼)
きょろきょろと部屋の中を見回していると、視界の隅に小さな銀色が映った様な気がした。見ると、丁度高杉の死角になっている壁、其の隅に寄り掛かる様にして和月が眠っていた。腕には大事そうに刀を抱えて。
(一晩中、こうやって寝てたってェのか?)
昨晩は雨が降っていて、少し肌寒い夜だった。
なのにこの幼い少女は、布団で寝る事をしなかった。
其の時、高杉の視線に気付いたのだろうか、和月が眼を開けた。
「あり? えーと高杉兄ィ、お早う」
まだ眠り足りないと言う様に、和月は右手で眼を擦りながら言った。左手は、しかと刀を握ったままだ。癖になっているのだろう、刀を握っている事が。
「……あァ」
短く答える高杉の脳裏に、ふと幼い頃の記憶が蘇る。
今は亡き師、吉田松陽の村塾に通っていた頃の記憶。
そういえば、銀時も、初めのうちはこんな風に刀を離さなかった。あまり刀を持ち歩かなくなったのは、出会って半年が経った頃の事だ。
当たり前だ。
産まれた時から身剥ぎをして生きていたのだから、銀時は。
和月は10の頃から一人だったと言う。
「……何で布団で寝なかった?」
其の問いに、和月はえへへと笑いながら答える。
「うん、今までずっと座ったまま寝てたから、転がると眠れないんだぁ」
相変わらず笑顔のままだが、言い終えた瞬間に和月の顔が少し変わったのを、高杉は見逃さなかった。
憎悪と悲しみの入り混じった様な、そんな表情。
しかし其れも瞬き程の一瞬の事で、直ぐに顔に満面の笑みを浮かべる。
(こいつは……)
その内に修羅を抱えて生きている。これ程幼いのに、自分達と同等の悲しみと、そして憎悪を持って生きている。
これ程幼いのに、其の感情を笑顔の仮面の下に隠して生きている。
其れが高杉には哀れで、愛おしく思えた。
誰が好きとかの愛おしさでは無い。其れが何なのかはまだ分からない。
「わっ!」
無意識だった。
無意識の内、高杉はしゃがみこみ、和月の銀色の髪にぽんと手を載せていた。そのまま髪をぐしゃりとなでる。
和月は一瞬驚いたものの、目線を明後日の方向に向けたままの高杉の横顔にふっと笑う。
「お早う、高杉兄ィ!」
「……あァ」
其れを物陰から見る影が3つ。
「何かわかんねーけど腹立つゥゥゥ!! 高杉にィィィ!! 胸ん中になんっか黒いモンが巣食ってるゥゥゥ!!」
「同感だ銀時。高杉もとい低杉、後で呼び出しだ」
「アッハッハ、仲が良いのは良い事じゃき!」
相変わらず能天気な坂本の頭を桂がパカンと叩いた。
銀時は何やらぶつぶつ言いながらも空を仰ぐ。
東の空には白い三日月が昇っていた。
月満ちるまで後幾日?
〈完〉