二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.236 )
- 日時: 2010/12/26 19:33
- 名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: 5YaOdPeQ)
〈リリ様リク番外編〉
馬鹿は風邪引かないって言うけどもアレ本当の馬鹿は風邪引いた事に気付かないからね(前編)
ピピピピピッ
静まり返った万事屋に、小さな電子音が響く。
和月は、其の電子音を発した物を脇の間から抜き取ると、傍らの銀時に渡した。新八と神楽も其れを覗き込む。
「三九度五分」
「完全に風邪こじらせてますね」
小さな体温計の文字盤に映し出された数字を銀時が読み上げる。其れを聞くと、和月は「あ゛ーあ゛」、と小さな唸り声を上げた。
和月の額には冷えピタが張ってあり、寝ている布団の横には薬の入った袋が置いてある。銀時は体温計にカバーをつけると、其の袋の隣に置いた。
「和月ィ、大丈夫アルカ」
神楽の問いに、和月は力無く首を横に振って答える。声を出す気力も失せている様だ。
元々花粉症からの風邪を引いてた(らしい)和月は、裏向かいで花屋を営んでいる屁怒絽さんちに回覧板を届けに行った事で、其れを悪化させてしまったらしい。
「気持ち……わる、い」
直ぐ安静にさせたものの、一晩経って更に深刻化していた。
「銀ちゃーん、病院連れて行かなくて良いアルカ?」
「つってもよォ、今日日曜で病院開いてねーんだよ。明日連れて行きゃ良いだろ、多分」
「其れもそうですね。取り合えず今日はちゃんと風邪薬飲んで安静にしておきましょう」
言いながら、新八は薬の入った袋を手に取り中を確かめた。
しかし、新八の眼鏡に写った……間違った。眼に写った物は何も無く。
「銀さん銀さん、此れ薬切れてますよ。空です」
「あァ?」
其れを聞き、銀時はしゃーねーなと呟いた。
さも面倒臭そうに頭を掻きながら立ち上がる。
「丁度風呂の洗剤も切れてたろ? ついでに両方俺が買ってくるわ」
「あ、良いんですか? 宜しくお願いします」
「行ってらっしゃいませヨー」
「ゲホッ、ごめ、銀時兄ィ……宜しく」
三人の声に短くおうよ、と答えると、銀時は万事屋を出て行った。
—————
「……新八ィ」
「ん? どうしたの神楽ちゃん」
今までソファーに座り、今週号のジャンプを読んでいた神楽が、ふいに声を掛けて来た。
和月は和室で眠っている。
「銀ちゃん、遅いアルな」
神楽の言葉で気付いた。
そう言えば、銀時が出て行って二時間が経っている。薬局までそれ程距離が有る訳では無い。大人の足で僅か十分位だ。
「……大丈夫だよ、銀さんの事だから今頃パチンコ屋にでも……」
言いかけた新八の声を遮ったのは、神楽の言葉だった。
「今日は違うアル。だって和月あんなに熱高くて苦しいのに、銀ちゃん其れを忘れて寄り道したりする筈無いネ」
確かにそうだ。
あんな年中死んだ魚の様な目をしていても、社会生活不適応者でも、熱を出した和月を放っておく訳が無い。
真っ黒な不安が、むくむくと入道雲の様に膨れ上がって来た時。
———ジリリリリ!
突如、銀時のデスクの上に置いてある黒電話が鳴り響いた。
何事かと新八が受話器を取る。神楽も新八の隣に来、受話器に耳を近付けた。
「はい、万事屋ですけど」
『新八か? 俺だ俺、銀時だ。ちょっくら厄介事に巻き込まれちまって遅くなるかもしれねーが、心配すんな。必ず帰って来るからよ』
受話器の向こうの声の主は銀時だった。
厄介事、と言うフレーズを聞いて、二人は顔を見合わせる。
「ちょ、銀さん!? どう言う事ですか、ちゃんと説明してくださいよ!」
『いや、それが……。くそ、もう切らなきゃならねーらしい。町外れの工場だ、良いか、絶対来るなよ!!』
「銀さん!!」
「銀ちゃん!!」
二人同時に銀時の名を叫んだ途端、電話がプツリと切れてしまった。
万事屋は再び痛い程の静寂に包まれる。
其の静寂を最初に破ったのは神楽だった。
「……銀ちゃん助けに行くアル、新八」
握り締められた神楽の拳。
新八は少しの間俯いていたものの、行き成り顔を上げた。
「そうだね、行こう。和月ちゃんが動けない今、銀さんを助けられるのは僕達だけしか居ない」
脳裏に蘇る、銀時の切羽詰った声。
達人クラスの剣の腕を持つ銀時がそんな目に合っているのに、自分達が助けられるのか分からないけれど。
神楽はソファーの横に立て掛けていた傘を、新八は木刀を持つ。
「絶対、助けるからナ」
二人はきっ、と睨み付けるように前を見据えると、眠っている和月を残して万事屋を後にした。