二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.273 )
日時: 2011/01/22 15:25
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: TV9sr51/)



第十三訓  初対面の相手の名前は一番初めに聞いとけ


「やたら面倒臭い連呼してたシケた面した真選組参謀!!」
「銀メダルみたいな頭した帯刀女!!」

其の直後の沈黙。しかし其れも瞬き程にも満たない一瞬で。

「……ンだとこの野郎」

和月と寥、二人同時にお互いの胸ぐらを掴み合った。和月の方が少し背が低いので、爪先立ちの形になる。
寥の隣でアリスが「ちょ、野郎は男を指す言葉だよ! てか止めてェェ!!」と叫んでいるが二人の耳には一切入っていない。

「ごめんあたし最近耳悪くなっててさァ、よく聞こえんかったんだよ。も一回言ってや」

「あ、そーなんだ。気付かなくてごめんねぇ。じゃ何回でも言ってやるよ此の銀メダルが」

「は? 何羨ましいんだ? 羨ましいんだ此の髪が!! ギャハハ残念アンタには真似出来ないですよーだ」

「何其れ自意識過剰なんじゃね? ちょ、大丈夫? 病院行けば脳神経外科!!」

「ちょちょちょ二人とも止めなってェェ!!」

アリスが静止の声を繰り返し繰り返し掛けるも、二人は聞く耳持たず。最初は軽い(?)口喧嘩だったと言うのに、次第に手が出、足が出、やがて取っ組み合いにまで発展してしまう始末。足で蹴り上げお互いの頬をつねる其の姿には、女のおの字も無い。
と——その時。

——ドガァッ!!

何かを殴る音がし、二人はピタリと其の動きを止め、音のした方向を凝視した。

「止めてって言ってるの、聞こえなかったのかなぁ?」

黒い笑み。そう称するに相応しい笑みを浮かべ、壁に手を突き出しているのはアリスだった。壁は稲妻の様な亀裂が走りひびわれ、破片がパラパラと虚しく落ちて行く。
和月と寥の額に青筋が立つ。寥にいたっては口の端が歪に吊り上がり、ヒクヒクと痙攣してしまっている。

「もう一度言うよ? 止めて♪」

言うと、アリスは更に口角を吊り上げた。顔は笑っているのに眼は笑っていない。

「すいまっせんしたァァァァ!!」

「解れば良いんだよ、解れば♪」

アリスは壁に突き出していた右手を引っ込めると、にこりと笑った。

————

「ただいまぁ」

ガラガラと音の鳴る万事屋の扉を開けると、もう嗅ぎ慣れた酢昆布の匂いが漂ってくる。大方神楽が食べている酢昆布の匂いだろう。

「お帰りなさいヨー」

眠っている定春に寄り掛かっていた神楽の右手には、案の定酢昆布。其の隣には同じく定春に寄り掛かる朱音が居た。
朱音はちらと和月を見やり、とてとてと歩み寄る。すると、和月に右手を差し出してきた。

(あー、もしかして)

買って来た食材を片付けるから寄こせ、という意味なのだろう。
依頼した上置いてもらっているのだから、少しは手伝いをしなければと考えているらしい。

「良いよ、別に冷蔵庫に直ぐ入れる物入って無いし」

「……そーなん?」

「うん」

朱音は些か納得していない様子ではあったが、大人しく神楽の隣に戻り、すとんと腰を下ろす。
和月は其れを見届け、ソファーに腰を下ろした。

「……あのさ、あたし真選組の隊士二人に少し話聞いてきたんだ」

「え、和月ちゃん大丈夫だったんですか!? だって其れ、刀……」

一つしか歳の差は無いのに敬語を使う新八に苦笑し、更に言葉を紡ぐ。
ジャンプと読んでいた銀時も神楽も朱音も顔を上げ、此方を凝視していた。

「大丈夫だよーぱっつぁん。屯所に行った訳じゃないし、多串君に話した訳でも無いし。昨日会った寥って奴と、あと一人は茶髪でね。名前聞き忘れたんやけど……買い物ついでに聞いたんだ、朱音の兄貴とお父さんの事」

「何て言うとった!?」

急に朱音が和月の腕にしがみ付き、バランスを崩しかけた。
やはり朱音が居ない、もしくは寝ている時に話せば良かったと、内心舌打する。
落ち着いてと言いながら、朱音の髪をさらりと撫でた。

「江戸に来て三日目。其の日から先の情報が、密偵総動員で探しても見つからんって。だから其の日に行方不明になったって見てるらしい」

「……で、其の日付は?」

相も変わらぬ銀時の死んだ魚の様な眼。其れをじっと見つめる。

「三ヶ月前の、一月二十八日」

「三ヶ月前ねぇ。……そりゃァ少しおかしくねェか? 朱音の話じゃ江戸に発ったのは半年前なんだろ。天人が来る前じゃねェんだし、普通半日もありゃ直ぐ着くぜ」

「あたしもそう思ったけど、其処は真選組も調査中だって言ってた。まるで誰かが意図的に、江戸に着くまでの足取りを消したみたいだって」

あの後。名前を聞き忘れた茶髪の少女は、何か分かれば教えるねと言ってくれた。既に帰った桂と夢幻も情報を集めておくと言う。
早く見つけてやりたい。不安げに自分を見上げる、此の幼い少女の家族を。
兄と父を探す朱音に、かつて一人だった頃の自分が重なって見えた。