二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.376 )
日時: 2011/04/29 10:51
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: .qxzdl5h)

第十九訓  押して駄目なら引いてみろ


「悪いけど地球に行ってくれない?」

其れは幾月か前の、宇宙海賊「春雨」での出来事。
二人の上司にそれを告げられたのは、あまりに突然の事だった。

「……は?」
「いや、だから地球に行ってくれって」

“地球に行け”
あまりにぶっとんだ話だった。それを言われた橙色の髪の少女、無黯は、元々大きな目を更に大きく見開く。右手に持っていた番傘を、危うく落としそうにもなった。

「本当は俺が行きたいんだけど、別の仕事があってね。よろしく、無黯」

二人のうち一人、少年が言った。名前を神威、という。
にこにこと笑ってはいるが、その表情はまるで能面の様で、“人間らしさ”というものが感じられない。いや、これには語弊がある。なぜなら彼等三人は、真実ヒトでは無いのだから。

宇宙三大傭兵部族、夜兎。

三人はそう呼ばれるものだった。

「……え、だって地球って……。何でまたそんな所? あんな辺境の星」
「第六師団の団長が頼んできたのさ」

無黯の質問に答えたのは、もう一人の男——阿伏兎だった。
彼は無黯よりもかなり背が高いので、ほぼ真上を見上げなくてはならない。

「第六師団?」

第六師団、という単語に無黯は眉を寄せた。
神威率いる第七師団に、彼女と阿伏兎は所属している。
その第七師団と第六師団は、あまり仲の良い訳では無い。いや、仲が悪い、と言った方が正しいだろう。
『春雨の雷槍』の異名を持つ、夜兎族擁する第七師団。それに勝るとも劣らずの、『春雨の龍神』と呼ばれる第六師団。僅かに別の種族も混ざってはいるものの、こちらも所属しているのは殆ど夜兎族だ。
それ故お互いをライバル視しているらしく、事あるごとに小さな争いを起こしていた。

「何でだか理由は言わねーが、とにかく一人貸してくれだとよ。なるべく腕のたつ奴を、てな」
「それで自分が行く事になっとって事?」
「かいつまんで言うとな」

第七師団の夜兎達は、第六師団を手伝うなど絶対にしない。しかし神威と阿伏兎は仕事がある。そこで選ばれたのが、特に第六師団に興味の無い無黯だったのだろう。
正直面倒だと思った。

「あぁ、そうだ」

ふいに神威はそう言うと、けらけらと笑い始めた。今迄浮かべていた能面笑顔とは明らかに違うそれに、無黯は思わずのけぞる。
少しして笑うのを止めた神威は、また顔に先ほどの様な能面の笑顔を浮かべた。

「地球に行ってもし銀髪の侍に会ったら、よろしく言っといてね」




それから数ヶ月。時は進み、元に戻る。


「扉開かねぇぇぇぇ!!!!」


そう叫んだのは、和月と神楽、銀時だった。
二人は頑丈そうな鉄製の扉を引っ張っては押し、押しては引っ張りを繰り返し続けていた。

万事屋と桂、夢幻一向は、町外れの港に来ていた。勿論朱音を探すためだある。
その港町で、一際目立つ建物を見つけ、取り合えず入ってみようということになったのだが。


「扉開かねぇぇぇぇ!!!!」


……という事になっていた。
はじめ夜兎の神楽が挑戦するも開かず、続いて和月、更に銀時が開けようとするも全て結果は同じ。
全くぴくりとも動かない。やがてしびれを切らした三人は、扉を蹴っては殴り、引っ張っては蹴りをし続けていた。

「何これ何で開かないの、開けやァァ!!」
「只の扉の癖に舐めてんじゃねーヨコラァァ!!」
「拗ねてんのか、拗ねてんのか!!」

つい先ほどまで差していた傘は地に落ち、三人はずぶ濡れ。新八はそれを諦めた様な冷めた眼で見つめていた。
と、新八の隣にいた桂が、おもむろに何かを取り出した。野球ボールよりも一回り大きい、鈍い光を放つそれ。
それが何か分かった時、新八の額からは汗が噴出してきた。

「かかかか桂さん、そ、それ」
「うむ」
「いや、うむ。じゃなくて——」

瞬間。
桂は思い切り、それを扉に向かって投げる。


雨音をかき消す爆音と悲鳴が響いたのは、その後直ぐの事だった。