二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.394 )
- 日時: 2011/05/21 15:41
- 名前: 李逗 ◆Dy9pHDxQUs (ID: .qxzdl5h)
- 参照: まさかの文字数オーバーorz②に続きます
第二十一訓 サブタイ考えるのと部室の掃除は同じ位面倒臭い
真っ白な壁に囲まれた、小さくも大きくも無い部屋の中。
「侵入者ぁ?」
「はい。六名、裏口から浸入しました」
黒い髪を団子二つに分けた少女は、己の部下である男の言葉を反復した。男ははい、と短く返事をすると、さらに言葉を紡ぐ。
「六名のうち四名は子供、しかも三人は女です。いかがしますか」
「いかがしますかぁ? そんなの潰せば良いだけでしょ」
男の言葉に、少女は呆れた様に声を返す。そんな事をいちいち聞きに来るな、とでも言いたげに。
男はそれに困ったような顔をすると、更に口を開く。
「しかし、鶯莉さん——、」
瞬間。
部屋に置かれていた二台のテレビに似た機械から、激しく何かがぶつかり合う音が響いた。
少女——鶯莉と男はそちらに視線を移す。
「……すでに何名かが向かっていますが、返り討ちにあっています」
長机に置かれた二台の機械。
それの右側のものには銀時、和月、新八が。左側のものには桂、夢幻、神楽が、それぞれ向かってくる敵を蹴散らし進んでくる姿が映し出されていた。
「いかがしますか」
男が言うのと、鶯莉の口の端に嫌な笑みが浮かぶのがほぼ同時だった。
「六師団の夜兎全員が行く必要は無いよ。今行った奴等だけにして、残りは指示待ちで」
はい、と答えると、男は部屋を出て行った。
部屋に残ったのは、鶯莉と無黯の二人のみ。二人共口を開かず、辺りはしんと静まり返っている。鶯莉と無黯の眼は、画面に映し出される六人の侵入者だけに向けられていた。
「鶯莉さん」
静寂を先に破ったのは無黯だった。無邪気に笑いながら、鶯莉の方を向く。
「私、こっちの人達の方に行っていいですか?」
そう言って、無黯は桂達の映った画面を指差した。
鶯莉は画面を一瞥し、こくりと頷く。その顔もまた、笑っていた。三日月みっつの顔で笑う少女が、真っ白な部屋に二人。傍から見れば異様な光景だった。もっとも、この部屋に二人以外の者が居れば、の話だが。
「行ってくれるの? そりゃあ有り難い話だよ。じゃあ——」
「その代わり、こっちの質問にも答えて下さいよ」
鶯莉の言葉は、無黯により中断された。
しかし全く動じていないのか、鶯莉はなおも笑みを崩さずに何、どしたのと問う。二人共笑ってはいたが、触れれば切れてしまいそうな、ぴんと張り詰めた空気が辺りに満ちていた。
「どういう目的で自分を呼んだんですか?」
何故敵対している第七師団の自分を、わざわざここに呼んだ。無黯はそう言った。
「さっきも言ったよ? 新しく引き継いだ仕事。あれのためだって」
新しく引き継いだ仕事。それは二人の侍が大暴れして以来滞っていた転生郷密輸の事。
勿論この事は、地球に着いてすぐに鶯莉本人の口から聞いていた。
「表向きは。本当はそうじゃ無い」
鶯莉の顔から笑顔が消えた。その両で色の違う瞳がちろりと光る。形容するとすれば、そう——爬虫類。
無黯はなおも続ける。
「春雨でももっぱら噂ですよ。貴女達第六師団は第七師団とは敵対している。だからって提督に従順かと言えばそれも違う。何だっけ……あぁ、キヘータイ? あいつらとも特に関わりは無い。何がしたんだ、って」
ふいに無黯が椅子から立ち上がる。鶯莉よりもかなり身長が低いのに、あまりその差を感じさせないのは、彼女の醸し出している雰囲気の所為だろう。幼くも危険なにおいを放つそれ。戦いの中生きる者が必ずもつもの。
一瞬の静寂の後、鶯莉が言った。
「別に? 私達団員は団長の言う通り動いてるだけ。来て貰っておいてこんな事言うのもあれだけどさ、第七師団の貴女には関係無い」
声色は静かだったが、その中には微かな苛立ちが見え隠れしている。それを感じ取っているのかいないのか、また無黯が口を開いた。
「そうですか。じゃあ最後に一つだけ、良いですか?」
「……何」
無黯が一歩、鶯莉に近付いた。
「第六師団の夜兎族、あれ——、」
言いかけた、その刹那。
「無黯ちゃん、黙れって言いたいの分かる?」
今度は鶯莉が無黯の言葉を遮った。
何時の間にか鶯莉の顔には満面の笑みが浮かべられている。いや、笑っている様に見えるだけだった。その色の違う両目は、けして笑ってなどいない。
「そぉんな怒らないで下さいよ。ただ自分だって頼まれてここに居るんですからね。 それ位聞く権利、あっても良いんじゃないですか? じゃ、行って来ます」
言うと、無黯は傍らに置いていた愛用の傘を取り、静かに部屋を出て行った。一人残された鶯莉は、すとんと椅子に腰を下ろす。
「何がやりたいのか、ねぇ……」
ぽつりと呟くその顔に、もう先ほどの笑みは浮かんでいない。
「そんなもの、私達が一番知りたいよ」
その独り言は誰にも聞かれない。知っているのは自分だけ。